意図した感情が起きているかどうか。その答えは、遊んでいる人の表情の中にしかない
──会話をしてもらいたい、感情を想起させたい、というこだわりがすごく印象的でした。作り手として、そうした考えに至った背景はどこにあるんですか?
三宅氏:
ずっと考えていたのは、「新しいゲームって何なんだろうか」ということなんです。見た目を変えた新しいキャラクターゲームが、じゃあ新しいゲームなのかというと、そうとも限らない。新作を見たときに「新作なんだけど、中身はあのゲームに似ているな」と思ってしまうのは、なんなんだろうかと。
具体的なタイトルを出すなら、たとえば『UNDERTALE』なんかは「新しいゲームだな」と心から思いました。じゃあ、その違いはどこにあるのか。突き詰めていくと、やっぱり最後は「人間のもっと原始的な要素」だなと気づいたんです。
つまり、「そのゲームでしか味わえない感情」や「体験価値」をちゃんと言語化して説明できなければ、本当の意味で「新しい」とは言えないんじゃないかと。
自分が「新しいゲームを作りたい」と言うからには、その正体を明確にしたかった。考えて、考えて、煮詰めて、人間のプリミティブな要素をどんどん掘り下げていった結果、今の「感情を動かす」という答えに行き着いたんです。
島津氏:
三宅のその考えかたは、隣で見ていてすごくおもしろいです。彼は「その感情をどう動かしていくか」という点において、ゲーム内のあらゆる要素に絶対的な意味付けが必要だと言うんですよ。
『PICO PARK』をあのルックで遊んでいるとき、プレイヤーはまさか裏でそんなに緻密な計算がされているなんて思わないじゃないですか。「なんでこんなに落ちちゃうんだろう、たまたまかな?」なんて思いながら遊んでいる。
でも彼は常に、「これをやった瞬間にプレイヤーはこういう感情になる」というのをひとつひとつ設計しているんです。全部を計算して作ったうえで、「そこに意味のない要素があることのほうがおかしい」と主張するわけです。
三宅氏:
ただ、逆にユーザーテストをしていると、僕が想定していなかった会話やハプニングが起きることもあるんですよ。でも、プレイヤーたちのリアルな感情や会話を見て「あ、でもこの感情の動きもアリだな」と思ったら、それも積極的に仕様として採用するようにしています。
──そうやってプレイヤーの感情が実際に動いているのを確認できた瞬間こそが、ゲームとしての価値なんですね。
三宅氏:
そうですね。でも、そこはすごく機微な部分なんです。遊んだ後に感想を聞くというより、実際に遊んでいる最中の光景を見ないとキャッチアップできない部分があって。今日も午前中、ちょっと離れたところからみなさんのプレイをずっとジロジロ観察していました。
──遊んだ後ではなく、「まさに今、こういう反応をしているな」とプレイ中のリアルな姿を見ることが大事だと。
三宅氏:
その瞬間その瞬間で、「焦っているな」「びっくりしているな」というのはある程度伝わってきますから。僕が意図した感情が本当に起きているか、起きていないかを確認しています。
本作の1ステージが短く作られているのも、「いかに短距離で目的の感情まで行き着けるか」を重視しているからです。ステージごとに「ここではこういう感情になってほしい」と設計しています。
ただ、協力ゲームでいろいろな感情を揺さぶりすぎると、プレイヤーが疲れてしまう部分もあるんですよね。だから、一旦「ステージクリア」という区切りを入れることで感情をリセットし、「さあ、次はどんな感情かな」とテンポよく進められるようにしています。まあ、ユーザー側は「次はどんな感情かな」なんて考えながら遊んではいないと思いますけど。
島津氏:
イベントで試遊台を出すとき、周りが騒がしいから運営さんが「ヘッドホンをしてやりましょう」と提案してくださるんです。でも、三宅は「ヘッドホンをしてたら会話できなくなるからダメだ」と譲らないんですよ。常にプレイヤー同士のコミュニケーションのありかたを最優先で考えているんだなと、あらためて思いましたね。

『PICO PARK』にストーリーはない。だが、プレイヤーが生む会話そのものが、もうひとつのストーリーになる
──そうしたゲームデザインがカジュアル層に刺さるのはすごく納得できるのですが、今回はあえて「コアなゲームファン」に向けているというお話でした。彼らには本作をどう感じてほしいですか?
三宅氏:
じつは、感じてほしいことはこれまでと同じなんです。『PICO PARK』がヒットしたときに、このおもしろさは「万国共通だな」と思いました。
会話のおもしろさや感情って人と人とのコミュニケーションから生まれるものなので、言語や文化が違っても共通して笑いあったり、ツッコんだりできる。そこはカジュアル層でもコア層でも一緒なんです。
ただ、彼らに届けるための「見せかた(ガワ)」やプラットフォームの違いは大きいのかなと。だから今回、『ソニック』の力を借りてゲームファンのみなさんに一度でも触ってもらえれば、必ず同じ感情が生まれると思っています。
──触ってもらいさえすれば、おもしろさは伝わると。
三宅氏:
もちろん、ゲームファンの方々がしっかり楽しめるように、専用のギミックを用意したり難易度を調整したりする必要はあると思っています。
島津氏:
僕らとしては、「僕らが作ったこの体験を味わってほしい」と押し付けるつもりはないんです。プレイヤーが変わることで、そこから引き出される感情や生まれる会話自体が自然と変わっていく。そういうゲームなんですよ。
だから、僕らは「こうなるんじゃないかな」というプラットフォーム(遊び場)を用意したに過ぎません。そこに、今度はゲームファンという属性の人たちが集まってソニックたちをプレイすることで、どんな新しい感情が引き出されるのか。僕たち自身もすごく期待しています。
僕たちのスタンスは常に変わっていなくて、みんながおもしろおかしく遊びながら、友達が増えたり、大切な人との温かい時間が増えたりしたらいいな、と思っています。
三宅氏:
先ほどから「こういう感情を想定している」とお話ししてきましたが、一方で『PICO PARK』にはストーリーがありません。でも、僕は本作に強いナラティブ要素を感じているんです。ストーリーがないからこそ、このゲームの中で生まれるプレイヤーたちの会話、それ自体がもうひとつのストーリーなんですよね。
プレイヤー自身が「あんな会話が生まれたよね、良い思い出になったよね」と感じることも、ゲーム実況を見た人たちが「あの配信者たちがこんな会話をしていておもしろかった」と楽しむことも、すべてがストーリーなんです。
だから、遊んでいる側も見ている側も楽しい。僕はそのきっかけとなるプリミティブな要素を用意して、ある程度の想定はしますが、その上で紡がれるストーリーは、100%各プレイヤーのオリジナルだと思っています。
セガが初めて『ソニック』という世界的な看板をインディーへ貸し出した。「愛の溢れるパス」であり、大切なバトンをもらった感覚
──おふたりのお話からは、本作への並々ならぬ思い入れが伝わってきます。あらためて、この座組みだからこそ語れることがあれば。
島津氏:
最後にもうひとつ、今回どうしても伝えておきたい、すごく感謝していることがあります。じつは本作、座組みとしては「ライセンスド・バイ・セガ」なんです。つまり、セガさんが僕たちにライセンスを預けてくれる、「ライセンスアウト」の形を取らせていただきました。
よく見るとクレジットが「ライセンスド・バイ」になっているのですが、これはゲーム業界の歴史で見ても、初めて『ソニック』という世界的な看板をインディーに貸し出す日がきた、ということなんです。
外の会社に、しかも35周年という記念すべきタイミングで、ソニックをある種「嫁がせる」ようなものですからね。「あなたたちのロジックやルールで、おもしろいゲームを自由に作っていいよ」と言ってくださったのは、セガさんにとってもものすごい勇気と決断が必要だったと思うんです。
セガさんがその判断を下してくださった背景には、クリエイターと信頼関係を築きながら、原点である大切なIPをもっとおもしろく、もっと大きくしていきたい。その純粋な思いがあったのだと感じています。本当に「愛の溢れるパス」であり、大切なバトンをもらった感覚がすごくあるんです。
「ちゃんとやらなきゃいけない」「緊張感がある」と三宅が言っていたのですが、その感覚の正体は、「僕たちにそれを初めて預けてくれたんだ」という重みなんですよね。最高にエキサイティングであると同時に、とてつもなく背筋が正される。いま、そのふたつの熱い感情を同時に味わっています。

──ドラマチックな舞台裏ですね。
島津氏:
ましてや今回はセガですからね。この三宅が、もともといた古巣なわけですから。
三宅氏:
今回、試遊会場でもセガさんのスペースをお借りしているのですが、現地に入ったら「お久しぶりです」という会話がたくさん起きていました。
島津氏:
セガのみなさんから「三宅ー!」って声をかけられているんですよ。「お前、なんでいるんだよー!」って。
三宅氏:
「あれ、俺、セガを辞めたはずなんだけどな……」って思いました(笑)。でも、これは僕にとって、本当に本当の「恩返し」だなと思っています。こうして育ててもらった場所に、ちゃんと恩返しができることがうれしくて。
島津氏:
「恩返しになるといいな」って段階だけどね。
三宅氏:
そうだね。最高の恩返しになるように、ここからさらに、しっかり作らなきゃいけないなと身が引き締まる思いです。
──また別の視点から見ると、インディーゲームの文脈において、これはまさにドリームですよね。インディーの開発会社が、あの『ソニック』のライセンスをここまで自由に任せてもらえるなんて、すごいことだと思います。
島津氏:
これはなかなかないことですよ! ゲームファンの方ならわかるでしょう……この興奮を。単なる下請けとしてではなく、彼らの大切な看板を貸してくれて、「これでおもしろいもん作りなよ」と、言ってくれた。だから、心の底からうれしいんです。
三宅氏:
最近「インディー」という言葉の定義は広くなっていますけど、僕の中で「インディースピリット」って、やっぱり新しいこと、今までとは違うことをやる姿勢だと思うんですよ。
そういう意味で、セガさんが今回この決断をしてくれたのって、セガさん側の「新しいことに挑戦するスピリット」を僕らにパスしてくれたな、と思うんです。だから、インディーの文脈でやってきた人間としても、そのパスに応えて、みんなを驚かせたいなと。
島津氏:
ほかならぬ、『ソニック』ですからね。
三宅氏:
だからこそ、これを単なる「ライセンスアウト」だとか、ひと言で「コラボ」と言い切るのも、なんか違うなと思っていて。もっとそれ以上のものを預かったんだという気持ちで臨んでいます。
──なるほど。単なる「コラボ」という言葉には収まらないお話ですね。たくさんの熱い思いが詰まったタイトルなのだということがよくわかりました。
島津氏:
いやぁ、すいません。語りたいことが多すぎて長くなっちゃいました。
三宅氏:
でもね、僕らあーだこーだと言ってますけど、実際に遊んでみたらバカバカしくて軽い、新しいゲームなんですよ。
島津氏:
そうそう。ゲームのタッチとしては、決して重厚なものにしたいわけではないんです。ただ、「裏側には僕たちのこういう思いも詰まっているんだよ」ということが、遊んでくれるみなさんに、ほどよく伝わったらうれしいですね。
三宅氏:
別に、プレイしながら目が燃えてバーッと叫ぶような、暑苦しいゲームではないので。そこは安心して気軽に遊んでほしいです。
──おふたりの熱いお話が聞けて、実際に触るのがますます楽しみになりました。本日は本当にありがとうございました!
島津氏・三宅氏:
ありがとうございました!

「言い訳が立つ事故」「感情の設計」「ふたりでも8人でも崩れないバランスは狂っている」──今回語られた数々のエピソードには、“コラボ”のひと言では到底収まらない熱量が詰まっていた。
コミュニケーションを何より大切に作られたという『PICO PARK』。三宅氏の「プレイヤーが生む会話こそが、このゲームのストーリーになる」という視点には、作り手としての矜持がにじむ。
そして、セガが初めて『ソニック』をインディーに託したという事実の重みを、おふたりとも十分に受け止めている。だからこそ、言葉の端々から彼らの「本気度」が溢れ出ていたのだろう。
カジュアル層にもゲームファンにも、きっと伝わるはず……。確かな手触りでそう思わせてくれる、熱意のこもった取材であった。『SONIC PICO PARK』はSteam向けに現在開発中だ。
