「なんか、めちゃくちゃ変なゲームがあるな…」
それが、筆者の『ステューピッド・ネバー・ダイズ』に対する第一印象だった。その印象は作品を知るほどに強まり、同時に「いやでも、これ超カッコいいじゃん」という想いも湧き出した。
本作は、戦争によって人口の98%が死滅した、終末世界を舞台としている。主人公であるデイビィくんはゾンビだ。ある日、彼はひとりの女性の凍死体を見つけ、恋に落ちる。そして、「彼女を生き返らせる」ため、とてつもない困難へと身を投じていく……。
なんてバカげた設定だろうか。それでいて、なんてカッコいいビジュアルだろうか。
(画像はステューピッド・ネバー・ダイズ(Stupid Never Dies) | 1stトレーラー | YouTubeより)
ゾンビと死体の恋。どう転んでも“不気味”にしかならなさそうな題材なのに、その画はあまりにもポップだ。人類の98%が死んでいる世界なのに、雰囲気はどこまでも明るい。
このバカバカしくて、それでいてカッコいいゲームのことが、もっと知りたい。そう考えた筆者は、ドイツ・ケルンにて開催中のゲームイベント「gamescom」におもむき、本作の試遊と開発者へのインタビューを実施した。
インタビューに応じてくれたのは、本作のディレクターを務める佐々木栄一郎氏と、アートディレクターの田中現績氏。イベントのさなかで大変多忙ということもあり、試遊からインタビューまで含めて1時間弱という短い時間ではあったが、「これほどカッコいい世界観やアートワークをどのように実現したのか?」という本作へのおさえられぬ疑問をぶつけ、本作の魅力を直接自分の身で感じることができた。
世界へ“コラージュ”される、主人公の内面・主観。ゲームのルックを唯一無二のものとする見事なアートワークの根源は「パンクロックのCDジャケット」にあった
──本作のゲーム画面は3Dのモデルと「ラクガキ」や「シール」のような2Dの平べったい表現が見事に組み合わさっていますが、これらをデザインとして違和感なく組み合わせるために、どのようなプロセスがおこなわれたのでしょうか?
佐々木栄一郎氏(以下、佐々木氏):
本作の画面を整理する際には、レイヤーという考え方を用いました。主人公であるデイビィくんが活躍する世界そのものは3Dで描かれていますが、その上の階層に「ハット」と呼ばれる2Dの表示物が登場します。
これは、デイビィくんのポケットに入っていそうなものをイメージしています。たとえばピンバッジや缶バッジ、体温計などですね。「なんでお前そんなの持ち歩いてんだ」と突っ込みたくなるようなものも含まれていますが(笑)。

ともかく、そういった個人的なアイテムを、画面の上からコラージュするように配置しました。実は私、音楽ジャンルのパンクロックが好きでして、そのジャンルのアーティストがCDを出すと、よくジャケット上にコラージュ技法が用いられているんです。そういったものをイメージして、2Dのハットは表現されています。
田中現績氏(以下、田中氏):
本作の主人公であるデイビィくんはゾンビなので、彼の目線から見たとき、世界がどのように見えるだろうかということを意識しました。その部分を探っていくうちに、ステッカーであったり、ラクガキであったり、そういうものを一緒に混ぜたらこんな感じになってきました。
「勢いがある」と言いますか。反骨心や、下剋上と言うんですか。「最弱のやつが、いかに自分の世界を出しつつ戦っていくか」を、アートで一貫的にまとめた感じです。
佐々木氏:
デイビィくんの主観、というのは重要な要素ですね。実は、敵が出てきたときに「ラクガキ」のような形で表現されるんですが、これは「デイビィくんから見た世界」という表現なんですね。
ですので、3Dの世界と、デイビィくんの内面的なハットと、彼から見た世界としてのラクガキ。この3つのレイヤーで画面を構成したのが、本作ということになります。
田中氏:
実際、彼が見る世界はぐちゃぐちゃしてるんでしょうね。
でも本作ゲームなので、いかにうまくまとめて、見やすいものにするかが重要です。構図も整えながら、それでいて「ぐちゃぐちゃ」な印象を損なわないように、ということには気をつかいましたね。
──本作の世界観についてお聞きしたいです。「ゾンビが死体の女の子に恋をする」、「トイレに吸い込まれる形でダンジョンに潜る」など、陽気でポップでありつつ外連味も効いている、独特な雰囲気をしていますよね。
「うわ、それって超かっこいい」と思うアイディアがいくつもすごく詰め込まれてるように感じているのですが、本作の世界観を構築するにあたって、どこからそういったアイディアを集め、そして束ねていったのでしょうか。

佐々木氏:
強く意識したのは、自分たちの立ち位置でした。「他のゲームが、スタイリッシュだったりとかクールだったりとかするなかで、僕らは表現をすると唯一無二のものができるだろう」ということを考えたんです。
最終的には、本作のタイトル『ステューピッド・ネバー・ダイズ』を見たとき、「Stupid=バカ」という言葉が示すように、「バカでいこう」というところにまとまりました。
「バカ」表現の仕方として、画のインパクトであるとか、あるいは「トイレでダンジョンに潜る」という状況のインパクトであるとか、そういうアイデアをピックアップしながら固めていった感じですね。
田中氏:
さきほど“外連味”というワードが出ましたけど、それは、ものすごく重要なキーワードだと思ってます。
とにかく、「これをどうしたら面白くなるだろうか」「どうやったら興味を引くことができるか」とチームのみんなでひたすら考えましたね。例えばトイレだったら普通のトイレじゃなくて改造してみよう、とか。
そういう小さいところの、詰め合わせがこの作品だと思います。

佐々木氏:
「ホームにいるベイビィくんの頭の上でハエが飛び回ってる」とか、じつは結構細かく作ってあるので、よく見てもらえると嬉しいですね。
──細かい要素を積み重ねていったというお話にある通り、まさに「マキシマリズム的」と言いますか、どんどん積み重ねていくデザインが非常に印象的です。一方で、「ここまでかっこよくて、ここからは過剰になってしまう」というラインもあったかと思います。その線引きはどのように探っていきましたか?
佐々木氏:
本作はアクションゲームなので、「アクションを邪魔にするようなものはNG」。ここはかなり明確に決めていました。
ただ、「毎フレーム情報がわかりやすくある必要があるのか?」というと、そうではない。例えばダンジョンにこう降り立つシーンは、操作する必要がないですよね。
じゃあここは無茶してもいいから、「頭から降りて首の骨が折れる」演出があっても別にいいわけです。
ただ、敵と戦ってる最中はプレイヤーのコントロールを邪魔してはならないので、抑える必要があります。
「アクションゲームとしてどうか」というのが根本的な判断基準ですね。
田中氏:
アート的には、とにかくメリハリです。目立つところはものすごく目立たせる、出さないところはちょっと抑える、みたいな感じです。
──ゾンビというモチーフは、本来「怖いもの」だと思いますが、本作のゾンビはその真逆の「ポップで陽気」という印象で構成されています。本作のゾンビ像を形作るなかで、活かすことを選んだ要素と、手放すことを選んだ要素について、それぞれお聞かせください。
佐々木氏:
おっしゃる通り、ゾンビというモチーフは基本的にホラーだと思います。あえて言うならば、本作ではホラーはそぎ落としてますね。
ただ、「腕もげようが足取れようが、別に死なないよね、こいつ」とか。あるいは「何でも食べちゃう」みたいな、ゾンビらしい要素は活かしていこうと思いました。
その上で、「死なない」とか「食べる」とかの要素に、ゲームとしてどういう役割を持たせられるんだろう? というのは、開発中にずっと考えていた部分です。
自分で選択できる“永続的な”成長と、コントロールできない“その場限りの”成長。「制御できないものにどう対処するか」という体験が、繰り返しのゲームプレイをユニークなものに変える
──過去のインタビューでササキさんは「自分でコントロールできる成長とできない成長が混ざっているのが面白い」と発言されていました。コントロールできない、つまり“運に委ねる”部分と、プレイヤーの実力で報われる部分の配合は、本作ではどのようにおこなわれているのでしょうか。
佐々木氏:
本作における「コントロールできない部分」は、ダンジョンの出来事です。どの敵といつ会うかは分からないし、自分の行き先も、選択肢こそあれ基本的にはランダムです。いきなり10階まで降りられることもあれば、7階までしかいけないこともあるなど、アンコントローラブルな世界です。
そんなダンジョンを通じてプレイヤーに問いたいのは「このような事件がいくつも起きるんだけど、皆さんは対処できますか?」ということなんです。

一方でホームでの出来事は、コントロール可能な部分です。安全な場所でゆっくりと、「どの装備をつけていこうかな」「どの能力を強化しようかな」と考えられる場所になっています。
ホームで計画的に「こういうプレーをしたいからこの装備を付けてみようかな」みたいなことを考えられる永続的な成長と、ダンジョン内でその時々でフレキシブルに考えながら対処していく、ドキドキするようなその場限りの成長。このふたつが混ざってるのが、本作の面白いところだと思います。
──本作は敵を食べて戦い方の変化する「スタイルイート」が10種に、デイビィくん本人を含めて11種ものスタイルが存在します。ここにスキルやバフが組み合わさると、途轍もない物量を制御しながら調整していく必要があったかと思いますが、本作の戦闘スタイルはどのような着地点を目指して開発されたのでしょうか。
佐々木氏:
本作で目指したのは「プレイするたびに新しい最強に出会う」という体験です。そのために、それぞれのスタイルは、めちゃくちゃ極端な調整がおこなわれています。
例えばこん棒を持っている「サイクロップス」は、力は非常に強いものの、とてもゆっくり動くので、こいつ単体ではかなり使うのは難しいかもしれません。
ですが、ほかのスタイルに「ハーピー」というものがあります。これは空を飛ぶことができ、かなり機動力が高いスタイルです。そこで、ハーピーで敵の頭上から急襲して敵の直前でサイクロックスになれば、そのでかい一撃を与えることができます。逃げたければ、またすぐハーピーで逃げることも可能です。

こういったスタイルの組み合わせで、自分なりの攻略を生むことができるよう、あえて各スタイルはバランスが悪いというか、偏った能力にしています。その分、合わせた時のシナジーが広がるような調整ですね。
とにかく組み合わせが多いので、毎回遊ぶたびに自分の最強のキャラクターを発見して、「お、こんな組み合わせもいけるんだ」みたいなことを感じてもらえると思います。
田中氏:
まさにコラージュですね。
──最後に、本作の発売を心待ちにしているファンの皆様へメッセージをお願いします。
田中氏:
アートを楽しんでいただけたら、とてもありがたいです。
制作中のミーティングでも、ワイワイ盛り上がりながら、「面白いね~」とか話しながら案出しをしました。「自分たちが面白いと思うものを、みんなにもわかってもらおう」という感じで作ってるので、ぜひ楽しんでほしいです。
佐々木氏:
本作は制限時間のあるアクションゲームなんですけど、プレイヤーがいろんなこと考えて、その制限時間の壁を乗り越えていくところがものすごく面白いと思います。
先ほど言った通り、遊ぶたびにいろんな攻略を思いついてくれると思いますので、ぜひ自分なりの攻略を見つけて、いろんな組み合わせを楽しんでください。(了)


