『めっちゃカメレオン』のヒットの力学は「大航海時代の貿易」のようだった
──2020年代のプロモーションは、アルゴリズムの支配によって勝ち負けがはっきりしやすくなった、という側面もあるのではないかと思います。
たとえば最近では『めっちゃカメレオン』が大きくバズってヒットしましたが、あのヒットにはどういった力学がはたらいたのか、小沼さんはどう分析されていますか?

小沼氏:
前提として『めっちゃカメレオン』は、Steamのマーケティング的に正しいことをずっと淡々とやっていた、ということがあると思います。
SNSで話題になったあと、ユーザーを巻き込んだプレイテストを行ったり、その模様を公開OKにしたり、話題が尽きないうちに発売したりと掴んだチャンスを最大化する動きをされていました。また、大前提として素晴らしいゲームデザインであったことは疑いようがありません。
ただし、そこにはもう少し別のヒット術のようなものもあると理解しています。
というのも、『めっちゃカメレオン』的な遊びって、言ってしまうと「ロブロックス的」【※】なんですよね。

(画像は人気のRoblox ゲームより)
──『めっちゃカメレオン』もそうですが、いまはフレンドスロップ【※】というジャンルそのものが大きく流行っていますよね。
※フレンドスロップ
『R.E.P.O.』や『PEAK』のようなタイトルに代表される、友人同士でわいわい遊ぶことを主眼にした、近年流行のマルチプレイゲーム群を指す俗称。
小沼氏:
厳密には『めっちゃカメレオン』はフレンドスロップとは異なるものですが、友人とワイワイ短時間で遊ぶといったカテゴリーというのは、おそらくロブロックスやUEFNなどで多く生まれています。
それってSteamのような世界とは、また違った理(ことわり)で動いている「別の経済圏・別の文化圏」なんですよ。
つまり、誤解を恐れずに言えば『めっちゃカメレオン』はロブロックスという別の惑星から、その文化をSteamに持ってきた類のヒットだと思っているんです。
別の例をあげると、DLsiteって、RPGツクールで作られたアダルトゲームがたくさん出ていますよね。DLsiteのヒット作というのは「数万本」レベルなのですが、DLsiteで数万本売れたゲームをSteamで発売したら推定30万本以上売れたというケースがあるんですよ。
そのゲーム自体が、DLsiteのRPGツクール製ゲームの中でも評価が高いものであった、というところはありますが……。
とはいえそこまで一般的ではないものの、ある種DLsiteでは「当たり前」だったコンテンツを、Steamという別の惑星に持っていったら売れた。そういうケースだと思うんです。
なので実は『めっちゃカメレオン』も、いま話したDLsiteのツクール製ゲームも、あるところでは当たり前だったけど、それが当たり前じゃない所に持っていったことにより、新鮮さが注目されたんです。
──もともとのプラットフォームでは一般的なものであったのに、Steamという場ではそうでなかったから、新鮮に受け止められたと。
ロブロックスや、動画だとTikTokなどもそうですが、見ていると明らかに既存のプラットフォームとは文化圏が違う感じがします。その要因はなんだと思われますか?
小沼氏:
それは端的にプラットフォーム自体が違い、そのルールが違うからだと思います。たとえばPlayStationとNintendo Switch、Xboxのユーザー層は違うわけですし、それらとSteamのユーザー層も違います。それと同じことではないかと思います。
──そこまで深い理由があるわけではなく、単純に「場が違うから、文化も違う」ということですか?
小沼氏:
そうですね。そのうえで、その「場」というのは、実は地球上にたくさんあるんです。
ロブロックス自体も明確にSteamというプラットフォームとは隔絶された、全然文化の違う人たちがものを作っている場所だったわけです。
だから『めっちゃカメレオン』は、大航海時代の貿易のような感じというか。「インドで売っているものをヨーロッパに持って行ったら高く売れた」ということに近い現象だと思います。
たまたまDLsiteゲームのケースを見つけて、その直後に『めっちゃカメレオン』が発生したので「ヒットの桁は違うけど、これは同じ構造なんじゃないか」ということに気付いた、というわけです。
「地球人なら誰でもわかる」非言語コミュニケーションを使いこなした、アルゴリズム時代の成功例
──ここからは実際に、いまのアルゴリズム時代に対して小沼さんがどう向き合っているのか、もう少し具体例を交えながらお聞きしたいと思います。
そもそもの話になりますが、リュウズオフィスがこれまでどんな仕事をしてきて、いまはどんなことをしているのか、というところから教えてください。
小沼氏:
以前インタビューしていただいたときに紹介した、アトラスさんの『ペルソナ』シリーズや『真・女神転生』シリーズ、あるいは『Fate/Grand Order』のお仕事は、あれから8年経ったいまも、変わりなく続いています。
ここ数年で目立つのは、独立したデベロッパーやクリエイターがパブリッシャーになるというケースや、既存の大きな企業が新しくゲーム事業に参入するというケースです。
そのなかで、実際に彼らのパブリッシングやマーケティングのお手伝いをすることも非常に増えてきていますね。
たとえば最近ですと、『まじかる☆プリンセス』というタイトルや『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』、『ゆんゆん電波シンドローム』。
あとは『違う冬のぼくら』のような、講談社ゲームラボの作品などが、それにあたります。
以前と比べて、Steamやグローバルでの同時リリースを前提としたようなタイトルの仕事が新たに加わってきた感じですね。

──ほかにも、miHoYoのゲームのプロモーションにも携わられていますよね?
小沼氏:
miHoYoさんのタイトルでは、『原神』や『崩壊:スターレイル』などの国内プロモーションの協力をしています。
たとえば、渋谷のスクランブル交差点で放映された『崩壊:スターレイル』のOOH(屋外広告)は、うちでやりました。
ほかにもたくさんあるのですが、miHoYoさんがときおり実施する大型の生放送も弊社が制作しています。

(画像は【制作実績】株式会社リュウズオフィス リール動画 – YouTubeより)
──先ほどお話した、「アルゴリズムによる変化」にうまく乗った事例などはいかがですか?
小沼氏:
アルゴリズムを完全に意識して、かつそれが成功した事例で言うと、弊社がプロモーション協力している『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』というタイトルがあります。

正直に言ってしまうと、これは想定以上にうまくいって驚いたケースではあるのですが……。象徴的ではあるので、事例としてよく取り上げているものになります。
『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』は、ゲームの公式Xを「作中のヒロインのアカウント」というかたちで運用されています。

— ファム・スール (@pukeygoddess) May 21, 2026
それなりにフォローをいただいているのですが、それに比べても、投稿内容のインプレッションがものすごく出ているんです。
しかも、投稿したコンテンツが日本国内だけではなく、様々な言語圏に拡散しているんですよ。
──フォロワー数に対して、ものすごい拡散のされかたをしていますよね。その理由はどういったところにあるのでしょうか?
小沼氏:
まずひとつ、『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』では、アライアンス・アーツさんと共に「非言語的なコミュニケーション」をきわめて意識しています。
たとえば、ポストの画像には英語も使われていますが、だれでもわかるくらい簡単な言葉しか使っていませんよね。
あとはそもそもになりますが、このゲーム自体が「美少女と飲酒するバトル」という、ある種、この地球の人類であれば誰にでもわかりやすい題材を扱われているんです。
──万国共通のモチーフだから説明も最小限で済むうえ、その説明もなるべく簡単なものにする。結果として、国や言語を超えてリアクションしやすい投稿になっているわけですね。
小沼氏:
もうひとつは、これもX側のアルゴリズムの変化を利用したものになります。
最近、XのポストはAIのGrokによって自動で翻訳が行われるようになりましたよね。それによって、かつては海外に届くことがなかった日本語のツイートが、海を越えて拡散されうるようになったんですよ。
英語版の別アカウントを用意するのではなくて、ひとつのアカウントで海外まで拡散しうるコンテンツを投稿した。そうしたら実際に拡散した、ということですね。
ただ、その前提として『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』では、人類であればだれでも理解できる題材にしているし、外国の人でも理解できるネタにしているし、難しい言葉は一切使っていない。
拡散の背景にはそういったポイントがあるんです。
──日本語で投稿したものが、国境を飛び越えて海外にまで届くための条件などはあるのでしょうか。
小沼氏:
初速の反応の強さ、というのはあるかもしれません。
おそらくですが『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』の初速に関しては、日本のコンテンツを好んでチェックする外国の人たちも反応してくれたので、結果としてそれが雪だるま式に拡散されたのではないかと思います。
「話題の拡散を抑制する要素」を取り除くのが大切?
──現代では「拡散の初速=アルゴリズムからの評価」という図式があると思います。このあたりの実態はどうなんでしょうか。
小沼氏:
プラットフォームによって異なります。特に情報発信の場として用いられるXは時期によって仕様がコロコロ変わるのですが、それを踏まえたうえで現状を説明します。
まず、初速は大事ではあるのですが、その「初速」を定義する時間が、かつてといまでは異なります。
「人間の認知」によって話題が拡散されていたころは、それが数分から30分とされていたんですが、いまのアルゴリズムにとっては、たぶんもう少し長くなっていますね。
──アルゴリズムの方が処理が早い印象でしたが、逆にいまの方が長いんですね。
小沼氏:
そうですね。ただ、厄介な点がひとつあって、いまはひとつのテーマに対して拡散が起こりうるタイミングが48時間に限定されているんです。
最初のどこかのタイミングで「48時間中に拡散する量」が決められて、その分が「おすすめ欄」に露出する仕組みになっているんです。
──「おすすめに何を表示させるか」だけでなく、「その投稿をどれだけ拡散するか」も、いまはアルゴリズムが握っているということですね。
小沼氏:
ただ、いずれにせよ間違いないのは、「話題を出したタイミングで、どのような人たちが食いついたか」というのが、その後の拡散の大きなきっかけになっているということです。
そんななか、我々の仕事としては「拡散の広がりを抑制する要素」を慎重に削っていくということが大事になってきました。
──「拡散の広がりを抑制する要素」ですか……? ふつう、話題の拡散を狙うときには、「拡散したくなるような話題の切り口を見つける」という視点が重要だと言われますが、それとも違いますよね。
小沼氏:
もちろん、みんなが反応しやすい切り口を見つけるのは前提になります。
──そのうえで「広がりを抑制する要素を削る」というのは、どういうことなんでしょうか?
小沼氏:
これはプラットフォームによって異なる項目なのですが、現時点のXの仕様を例にとります。
たとえばいまのXでは、ひとつのポストをユーザーが開いた際の滞在時間が、アルゴリズム上で大きな加点項目になっています。
逆に、踏んでしまうと一発で評価がアウトになる「地雷」のような項目も設定されているんですよ。それを踏んでしまうと、そもそも「おすすめ欄」にほとんど載らなくなるといったものです。
どういったものが「地雷」に該当するかも公開されているのですが、たとえば、URLの文字列を短く変換した「短縮URL」や「計測用URL」などがそれにあたります。
これらはXにとって「品質の低いURL」とみなされているので、ポストに含めると一発でアルゴリズム評価が下がるんです。
──なるほど。アルゴリズムが拡散するかどうかを決めるうえで、その評価が下がる要因をひとつひとつ潰していくわけですね。
小沼氏:
そうですね。なので、ゲームの初報など、重要な情報をポストするときには、こうした仕様を踏まえたうえで、正しい形で打つ必要があるんです。

