最適化の土台にある「普遍」──すべてのコンテクストを、残さず同時に考える
──ここまでうかがったマーケティング戦略のお話は、昔であればSEOに通じるところもありますよね。言ってしまえば、時代ごとに最適化されたテクニックのようなものです。
一方で、小沼さん自身にはもっと普遍的な視点やノウハウがあるようにも感じます。それを瞬間ごとに切り取ると「最適化」なのかもしれませんが、もっと土台のようなものがあるというか。
小沼氏:
「最適化」という言葉を使うと、まさにSEOのようなものが連想されてしまいますが、先ほど言った通り、ゲームはジャンル・カテゴリーごとに最適解が異なります。
それはつまり、その先にいるユーザーさんの性質が違うということなんですよ。
なので「土台」という意味で言うのであれば、「まず、そのユーザーのことを徹底的に理解しよう」ということになります。その次に同じくらい、ゲームそのものを理解する必要がある。
ゲームジャンルやカテゴリーごとに最適解は違うし、実はタイトルごとにも最適解が違う。
単純化すると「プラットフォーム×カテゴリー」となるのですが、それを細分化していくと、タイトルやシリーズの性質があって、さらには、制作会社やクリエイターの性質、文脈のようなものもあるわけです。
それらをすべて同時に考える必要があるというのが「土台」なんだと思います。
──なるほど。最適化と言うと聞こえは簡単かもしれませんが、「この場合はこう」と単純な図式で表せるものではない。その背景にはゲームごとの膨大な文脈があるのだから、それらをすべて理解している必要があるわけですね。
小沼氏:
ですから、実は考えることがたくさんあるんです。
わかりやすい例としてアルゴリズムの話をしましたが、いまはアルゴリズムやテクノロジーが世の中を変えてしまう時代です。ということはつまり、世の中のコンテクストを理解するためには、Xのアルゴリズムのソースコードを読めなければいけない。
それが大前提としてありつつ、ほかにもSteamやYouTube、あとはNintendo StoreやPlayStation Store、Microsoft Storeでもそうですが、それぞれのプラットフォームにおけるルールを理解し続けないといけないわけです。
そして一方で、ゲームのジャンルやカテゴリといった、比較的大きな区分けの理解も必要です。RPGならRPG、マルチプレイアクションならマルチプレイアクションといった、ジャンルやカテゴリごとの「理(ことわり)」のようなものがあります。
もっと細分化すると、そのゲームタイトルごとの文脈の理、それを作っている人たちの理がある。そのゲームを出した開発会社やパブリッシャーといった、ブランドのコンテクストも当然無視できません。
──そう考えると、分岐の数は膨大になりますね。
小沼氏:
さらにもうひとつ厄介なものを挙げるとすれば、いまはSteamで年間2万くらいのタイトルが出る状況ですよね。ということは、365日、どの日にゲームをリリースしても、だいたいほかのタイトルとぶつかるんですよ。なので、競合タイトルのコンテクストも理解する必要があります。
あとは、いまはグローバルが前提の時代ですから、国ごとのカレンダーも気にする必要があります。時差もあれば、文化的な意味でのカレンダーも違いますし、お正月のタイミングも違えば、休暇のタイミングも違うわけですからね。
そうした消費者生活の文脈・地域分布のようなものまで、可能な限り要素としてとらえて、最適解を見つけよう。そういうスタンスなんです。
こうしたやり方を我々は当たり前だと思ってやっているんですが、実はあまり当たり前じゃないのかもしれませんね。
── ……少なくとも、当たり前ではないと思います(笑)。でもそれって、2010年代と今とで、やることが大きく変わったという感覚なんでしょうか?
小沼氏:
10年前の時点では、ある程度は日本にフォーカスして考えていればよかったのですが、いまでは考慮しなければならない国や市場の数も増えましたね。
先述したとおり、かつては「人間の知覚や認知能力に対してどう訴えかけるか」というところにフォーカスしていました。
それに対していまはプラットフォームがアルゴリズムに支配されてしまっていますから、それをファクターとして考えざるを得なくなりました。
考える段階が増えただけで、根本的には変わっていないと思いますが、難度は上がったかもしれませんね。
現状の市場の複雑さは、すでに人間の生来的な認知能力を超えていると思います。
熱狂している人がいるなら、サービス終了タイトルも生き返らせる
──「100人を熱狂させる話題の切り口を考え、それを実現する」というリュウズオフィスの考え方は、アルゴリズムの時代になって実現手法に変化はあったものの、根本では変わっていないということでした。
具体的に、その「リュウズオフィスのやり方」ではどういったことが行われていて、どういったところに面白さがあるのでしょうか?
小沼氏:
具体的に挙げると、『東方ダンマクカグラ』と、『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』の事例があります。

『東方ダンマクカグラ』はリュウズオフィスがプロモーション協力をしていたスマートフォンアプリで、非常に人気だったものの2022年10月にサービスが終了したタイトルなのですが、サービス終了のその日に、スタンドアローン版開発決定の発表と、それに伴うクラウドファンディングの発表をしました。
『東方ダンマクカグラ』は、サービス終了の時点でかなりのアクティブユーザーがいたんですよ。つまり、まだコミュニティが良好で、みなさんが楽しんで遊んでいるなか、サービス終了せざるを得なくなったんです。
そこで、リュウズオフィスとしてなんとか存続できないか、と働きかけたんです。
端的にいうと、その熱量が雲散霧消してしまうのはすごく残念なことだと思ったからです。
結果として、運営会社のDeNAさんにご協力いただいたこともあり、サービス終了の日にそうした発表を行うことができました。これには僕たちも驚いたのですが、クラファンでは2億円近くの支援金を集めることができたんです。
解散することが決定していた開発チームに関しては、複数の別の会社さんにも声をかけ、メンバーを引き取っていただきました。
リュウズオフィスとしての仕事も、プロジェクト自体が復活したことにより、クラファンも含めたプロモーション支援という形で継続することになったんです。そして、2024年2月にスタンドアローン版となる『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』が発売されるのですが、そのプロモーションも引き続きお手伝いいたしました。
──金額もすごいですが、それって普通、プロモーション協力の会社が主導する領域を超えているのでは……?
小沼氏:
たしかに以前の考え方では、プロモーション会社として普通こんなことはしないんです。でも僕は「これはもう、プロモーションの仕事だ」と思っていました。
熱狂している人たちがいたので、その人たちの気持ちを無駄にしないし、より熱狂させる。さらに言うと、それを作り続けている人たちの生活も壊さないし、自分たちの仕事もなくさない。
「三方よし」のやり方を考えて実行したのが、『東方ダンマクカグラ』のクラファンだったんです。
これがやはり、根本的には「1万人より100人」の考え方に近いと思っています。
当時は「おそらくプロジェクトは存続するだろう」と信じていて、そのように動いた結果、『東方ダンマクカグラ ファンタジア・ロスト』はいまだにDLCが出続けるコンテンツに育ちました。
ユーザーの熱量すら、徹底して「数字」で測る
──「1万人より100人」の話をもう少し深掘りしたいのですが、「100人の熱量」といったものは、表面的な数字では測れないような気もするんです。
小沼さんは、そうした「数字以外」の部分を、どういう視点や方法でとらえているのでしょうか?
小沼氏:
そういう意味で言うと、ちょっと期待されている答えとは違うと思うんですが──。数字です。数字を徹底的に把握しています。
──「熱量」のような一見計測しづらい指標も、数字を使った分析でとらえているということですか? ユーザーを理解するうえで、実際にはどういったことが行われているんでしょうか。
小沼氏:
フランスのブリア=サヴァランという美食家の名言に「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言い当ててみせよう」といった言葉があります。
つまり、「その人が何を食べているかが分かれば、どんな人かがわかる」ということです。
それに倣えば、「特定のゲームを遊んでいる人が、他にどんなゲームを遊んでいるのか」といったことはひとつの手がかりになりますよね。
結局のところ、消費者を知るためには、その消費者のパラメータを徹底的に集める。そうすると、その人が「食べているもの」がわかる。
そして食べているものがわかれば、だいたいどんな人かがわかる。そういう感じです。
──ことゲームの場合であれば、その人がどんなゲームを好きか・他に何をプレイしているかに、その人となりが表れてくると。
小沼氏:
代表的なところではそうですね。
──よくありがちなのは、表面的な数字を組み立てて、「ここに人がいる」「これをやれば当たる」といった予測から企画を立てるようなやり方だと思いますが、そういった手法は効きづらくなっている気もします。
小沼氏:
たぶん失敗する場合の数字の使い方って、「その瞬間の数字」しか見ていないんですよ。
それでは意味がなくて、時間の流れによって生まれる数字の「傾き」を見る必要があります。あとはもちろん、「濃さ」のような概念もありますね。
──現時点で「10万」という数字があったとして、「去年が1万で、今年が10万」という右肩上がりなのか、「去年は30万だったけど、今年は10万」という右肩下がりなのかで、全然意味は違ってくるということですね。
小沼氏:
それと把握できる数字やデータには当然限度がありますから、「把握できない数字」というのも存在しますし、そこに関しては、想像したり推定したりするしかありません。
でもそういったことを徹底していくと、「表面的な数字を見るとダメなんだけど、数字では見えていないところにこれだけの人がいる」というのがわかるんです。
ロブロックスの例でいうと、たとえばSteamやコンシューマー、スマホの市場だけを見ている人は、おそらくロブロックスの数字を見ていないじゃないですか。それってそもそも観測対象に入っていないんですよ。
──そもそも観測対象から外れた領域にも、チャンスが転がっている可能性もあると。
小沼氏:
そうですね。そうした「傾き」や、「見えていない数字」に気づくことというのはつまり、徹底的に数字と向き合うということなんです。
AIがあらゆるデータを見つける時代、人間の仕事は「見えないデータを見つける」こと
──余談ですが、最近小沼さんはAIでいろいろなツールを作って活用しているという話をうかがいました。どのような使い方をされているのでしょう?
小沼氏:
昔と違い、いまは考えなくてはいけないファクターが膨大になった、という話をしましたよね。おそらくそれって、もう人間の仕事ではないと思うんですよ。
領域も広すぎるし、データが多すぎて、時間も限られている。人間の知覚や認知能力だと処理しきれないんです。
たとえば海外の動きを調べようにも、別に自分が現地に住んでるわけでもないですから、現地の人に聞こうとしても時間がかかります。
なので、そういった手がかりを集めるツールを作っています。いまでは僕が寝ている間でもデータを集め続けられるようになっていますよ。
当然、すべてのデータが可視化できるわけではないし、手に入るわけではない。欠けているものはあるのですが、それでも理論上、手に入るデータをすべて集めるためにAIを使っています。
──マーケティング上の変数が膨大になったから、AIを駆使してそれに対抗しているわけですね。AIの登場と今後の発展に伴って、「宣伝はこう変わっていくだろう」という見立てはありますか?
小沼氏:
正直なところ、AIの進化のスピードが速すぎるのでなんとも言えませんが、さまざまな使い方があると思っています。
まず、根本的なところは変わらないと思います。なぜなら、「人間自身が欲しいものを決める」ということ自体は、AIが発展しても変わらないからです。
ただし、とにかく市場が複雑化していて、ひとりのマーケターが把握しなければならないデータの量や種類が多すぎる。
なので僕はAIを「自分自身の認知能力の拡張」に使っています。イメージとしては『ガンダム』のモビルスーツというか。自分が行けないところに行くための拡張装置という感じです。
今後はたぶん、ほとんどの人が似たようなことをやり始めると思いますね。
──先ほどの「見えないデータを見る」という話にも通じますね。
小沼氏:
とはいえ、人間が見えていないものについては、AIも外から視点を与えられない限り見ることができません。
どれだけその視点を見つけられるか、普段見ているところから見えないもの、つまり、さっき言ったロブロックス的なものに気づけるかどうか。
AIを使って自分の能力を拡張し、徹底的に調べたうえで、AIに見えないものをどう見つけるかというところに、我々の仕事はシフトしていくと思いますね。
まとめると、AIが登場しても、宣伝そのものの仕事自体はまだそんなに変わらないのだと思います。なぜかというと、人間の認知能力はそこまで変わらないからです。


