リュウズオフィスの仕事は「人間と向き合う仕事」
──ここからはもう少し、小沼さん自身のことについてもお聞きします。
変化の大きいゲームのプロモーション業界で、小沼さんがこの仕事をずっと続けている理由や、面白いと思い続けられていることは何になるのでしょうか?ご自身のモチベーションも含め、「なぜずっとやれているのか」ということが気になります。
小沼氏:
この仕事も気づけば20年以上やっていて、よく考えることではあるのですが、根本的にはリュウズオフィスの仕事は「人間と向き合う仕事」なんです。
もちろん、「タイトルの販売を成功させた」「アルゴリズムに載って、うまくやったぞ」ということは、小さな喜びとしては存在します。
ただ結局、クリエイターやプロデューサー、企業の社長さんたちと向き合って、彼らの役に立ったり、喜んだりしてもらう。それがシンプルな喜びであって、突き詰めるとそこになるのかなと思います。
やっぱりプロモーションって、他人のためにやる仕事なので。
ちなみに、ドワンゴ創業者の川上量生さんに同じことを聞かれたときに、同じ答えを言ったら「それはなんか、ずるいよ。逃げだよ」と言われたことがあります。
「人のために良いことをするのが気持ちいいなんて、当然じゃない」とか、「その答えは『君の本当にやりたいこと』という質問に対して逃げてるよ」と、なんだかよく分からない怒られ方をしたんですよ。
──でも、人間には二通りいるんじゃないかと思います。クリエイターのように、「自分自身が起点」という人と、そうではなくて、人を喜ばせることが自分の喜びになる、「他人が起点」な人 。小沼さんは後者であって、クリエイターの方たちとはそこが違うのだと思います。
小沼氏:
そうなんでしょうね。
「人のため」のゴールは人によって全然違うから、面白いし難しい
──「誰かのために尽くす面白さ」って、言語化するとどのような感覚なのでしょうか?小沼さんのようなタイプの方にとっては当たり前かもしれませんが、人によってはピンとこないと思うんです。
小沼氏:
以前、2ちゃんねる創設者のひろゆきさん(西村博之氏)と食事をしたときに、似たような話をしたことがあります。
ひろゆきさんにも「誰かのためになることの面白さ」について話したら「それって賢いですよね」と言われたんですよ。
要するに、人に良いことをしてあげれば、それが自分に返ってくることは証明されている。だから、「それって生きる上で有利ですよね?」ということなんです。ひろゆきさんっぽいですよね(笑)。
──たしかに、ひろゆきさんっぽいですね(笑)。人間の仕組みとして「良いことをされたら、その分何かを返さなければいけない」という性質がありますから、そういう意味で小沼さんの考えは「合理的ですね」と。
ただ一方「人のためにやる」ということって、合理性を超えた楽しさや快感のようなものも間違いなくありますよね。
小沼氏:
でもやっぱり、人によって喜ぶポイントは違いますからね。
もちろん、ゲームが売れて喜ばない人はいないと思いますが、それが最上の喜びかというと、必ずしもそうではない。
これは『東方ダンマクカグラ』の話の続きになりますが、この縁があって、『東方紅魔郷:New Classic ~ the Embodiment of Scarlet Devil.』(以下、東方紅魔郷:New Classic)【※】という、東方Project原作の仕事に携われることになったんです。
ゲームクリエイターとしてのZUNさんと向き合うというなかなか珍しい経験になりますが、彼の場合も、大切にしていることが全然違うんですよ。
言ってしまえば、我々のような仕事の根っこには「売れればいいじゃん、知られればいいじゃん」という価値観がどうしてもあるんですが、彼の場合はそういうわけでもないんです。
※『東方紅魔郷:New Classic ~ the Embodiment of Scarlet Devil.』
2002年に制作された東方Projectのゲーム『東方紅魔郷 〜 the Embodiment of Scarlet Devil.』のリメイク作。
──ゲームが売れるだけがすべてではないと。
小沼氏:
クリエイターのなかには、当然ゲームが売れてほしいとは思っているけど、でも「カッコ悪いことはしたくないよね」という人も大勢います。
さらには、経営者の方でも、「利益がすべてではない」ということを言う方もいます。
だから、ひとくちに「人のためにやる」と言っても、実はそのゴールが人によって全然バラバラなんです。
宣伝をする立場としては、やっぱり「消費者に認知してほしい。好きになってほしい。売れてほしい」という気持ちが根底にあります。
一方で、そのように我々に刷り込まれたプログラムとは異なる結果を求められることもあります。
そういった矛盾や難しさも含めて、柔軟に頭を切り替えて、「おもしろい」と思わなければいけないんです。
だから、そういう意味でも「人のために尽くす」というのは、おもしろいけど、難しいんですよね。
「人の望みを理解すること」が人間に残された最後の仕事
──お話を聞く限り、リュウズオフィスではクリエイターと直接向き合うことをより重視しているような気がするのですが、実際のところ、そういう機会は多いのでしょうか。
小沼氏:
多いと思います。
──それって、一般的な広告会社の「商品が露出する枠を取る」といった考え方とは少し違うと思うのですが、根底にはどういった思想があるのでしょう?
小沼氏:
リュウズオフィスが向き合う相手は、大きく分けて三種類いると思っています。ひとつは、いわゆるマーケティング・宣伝部署の人たち。あとは、クリエイターさんご自身。そして、経営者。
もちろんひとくくりには言えないのですが、組織の中において最重要視している価値観というものが、こうした立場によって三者三様なんですよ。
その中で、ゲームというものはクリエイターの占める割合が非常に大きいですから、クリエイターと向き合うことは大前提です。
向き合ううえで必要なこと・気を付けていることとしては、「ゲームそのものを理解すること」はもちろんですが、それよりも「その人が重視する価値観を理解すること」を大切にしています。
──なるほど。 それについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
小沼氏:
たとえば、「ゲームのシナリオをすべて暗記する」とか「仕様をすべて暗記する」といったことはどうでもいいというか、クリエイターさんは求めていなくて。
少なくとも僕の感覚では、「自分が重視していることを汲み取ってもらえること」を喜ぶクリエイターさんが多いと思います。
あとは、もしクリエイターが喜ばないことをやったとして、それってだいたい良い結果にはなりませんからね。
──逆に言うと、クリエイターと向き合うことが、結果としてマーケティングの成果にもつながるということでしょうか。
小沼氏:
ゲームの場合、経営者であっても、クリエイターの言うことを聞かざるを得ない事態も発生します。「グー・チョキ・パー」の三すくみみたいなもので、じゃんけんをするとクリエイターさんが勝つんです。
「そうであるならば、クリエイターの気持ちは絶対に見極めたほうがいい」という打算的な側面もあります。
あとは結局のところ、ゲームに対して一番強い気持ちで向き合っているのがクリエイターさんですから、その気持ちを汲んだ方が、消費者に働きかけるうえでも圧倒的に有利です。経営者にとっても、クリエイターが満足して仕事をしてくれた方がうれしい。
結果として、それが数字やタイトルの利益につながることも多いと信じてやっていますし、そのほうが経営者も喜びますよね。
──AIもこれだけ発展してきていて、「人間に残る仕事とは?」といったトピックもよく見かけるようになりましたが、そこにも通じてくる話のような気もします。
小沼氏:
AIは近い将来、いわゆるマーケティングの仕事において、人間を完全に凌駕する、もしくは凌駕しつつあると思っています。……いや、もうしているかもしれません。
ただ、人間と向き合って、本当に望んでいることを聞き出したり、推定したり、決めたりするのは、結局のところ人間なんです。「人と向き合う仕事」の根底はそこだと思いますね。
だから、「人間に残された最後の仕事はなにか?」という問いの答えについては「人の望みを理解すること」になると思います。
そのために僕自身は、AIを自分の認知機能の拡張装置として使っている、ということです。
──すこし変な質問かもしれませんが、小沼さんはなぜ、そこまで人に関心が持てるんでしょうか? そこへの執着、興味のレベルというものが、普通の人のレベルを超えているように感じるのですが。
小沼氏:
……どうしてでしょうね?
執着があること自体の答えにはなっていませんが、僕は面倒くさがりやなので、そうしたことを知りたいと思っても、すごく時間もかかるし、やっぱり面倒くさいんですよ。
それがAIの発達によってすごく短縮できるようになったので、もういちどいまは「調べつくそう」という欲が湧いてきた段階ではあります。
──小沼さんからは「仕事の目的のために知る」というよりは、それよりも手前の根本的な部分で人を知りたがっている感じを受けます。
小沼氏:
おそらくそれには、僕の生い立ちが関係しているかもしれませんね。
僕がこの仕事を始めたタイミングがいわゆる就職氷河期で、景気が悪かった。
父親の仕事を継ぐ形で始めたのですが、目の前に差し迫る借金返済などもあったので、「生き残り、勝ち残らなければならない」というスタートだったんです。
そんななかで、当然自分には何の力もありませんから、差別化するためには「知る」しかありませんでした。当時から、少なくともゲームに関しては、とことん調べたり、マーケティング的な観点で研究する人って少なかったんですよ。
なので単純に生存本能として、他社との差別化や競争に勝つために、習慣として身につけた。それがそのまま続いてきたのだと思います。
宣伝仕事に向いている人──変化を楽しみ、「人の心に残る」ことを喜べるか
──ここまでゲームの「拡散の構造」の移り変わりから、時代性を踏まえた宣伝の仕事の変化、そしてその土台になる小沼さんの考えをうかがってきました。
なんでもいま、リュウズオフィスでは新規スタッフを募集しているとか。
小沼氏:
そうですね。いわゆる営業的なものから、マーケティング企画、具体的なクリエイティブや企画を考える人、デザインする人、映像を作る人、あるいはオフィス……職種を問わず募集しています。
──プロモーション・マーケティングの仕事、あるいはリュウズオフィスの仕事は、どういう人が向いていて、どういう人に来てほしい、ということはありますか?
小沼氏:
仕事の刺激という意味で言うと、本質は「人間の認知と向き合う仕事」なので、時代によって変わらないと思います。ただ今日説明をしたように、それをとりまく情報や条件は目まぐるしく変わります。
言ってしまえばそれは「小手先のレイヤー」にはなるのですが、それを突破しないと「認知のレイヤー」には至れません。
なのでまず一つ目は、ものごとを調べたり、好奇心を持つことも含めて、そういった「変化を楽しめること」でしょうか。
あと、この仕事は根本的には、人間の認知に働きかけて記憶してもらうための仕事です。「行動を変える」という言い方は好きではないのですが、控えめに言うと、やはり「覚えてもらう」こと。
すごくシンプルに言うと「人の心に残ること」に喜びを感じられること。
そして、リュウズオフィスの場合、これらの仕事で自分たちが主体に回るのではなくて、「他人の作品でそれを行う」ということになります。
つまり、プロデューサーやクリエイター、経営者のために尽くし、彼らに喜んでいただくことに、シンプルに喜びを感じられることですね。
この3つのうちのどれか、あるいはすべてに該当する人が楽しめると思いますし、伸びると思います。
消費者そのもののレイヤーと、アルゴリズムを含めたトレンドのレイヤー、あとは顧客のレイヤー。ひとつでもいいのですが、できればすべてに興味が持てると、楽しいと思います。
──ゲームメーカーの広報や一般的な広告代理店と、リュウズオフィスを比べたときに「リュウズはここが違う」というポイントについてもお聞かせください。
小沼氏:
リュウズオフィスも広告代理店という点では同じではありますが、まず「ゲームをメインに据えている」というところがあります。
当然のことながら、ゲームの理解や研究、ゲームを取り巻く環境の理解については、超真面目にやっています。
あとは、僕自身、ゲーム自体が「不要なもの」だと思っていて……。
──どういう意味合いでの「不要なもの」ですか?
小沼氏:
「必需品ではない」という意味の「不要」ですね。
ゲームって生活必需品ではありませんが、これほど執着されるものも珍しいと思っています。
不用品のくせに執着される、それゆえに、ユーザーの気持ちや消費者の熱量はすごく大きいものになるんですよ。
そういう意味で考えると、ゲームはすごく怖いもの、つまり「粗末に扱うべきではないもの」と信じているんです。
消費者の気持ちを粗末に扱うべきではないし、その裏には、クリエイターの気持ちがある。ゲームというものが「人の気持ちの結晶・集合体」というか、言ってしまえば「怨念」のようなものでもあるということですね。
リュウズオフィスも広告代理店ではあるのですが、自分たちの仕事をそういうものだと定義していることが、他社とは違うような気がしています。
「『東方』のファンが増えることが、平和につながる」ゲームの宣伝を頑張っていくことの価値
──最後に、小沼さん、そしてリュウズオフィスはどうしていきたいのか。あるいは、業界をどうしていきたいのか。今後の展望をお聞きできればと思います。
小沼氏:
たったひとりで始めた仕事が20年以上つづいて、リュウズオフィスの社員も40人くらいになりました。
「この仕事は必要な仕事である」と思って続けていますが、いまは、根本的に社員の教育というところに対して、改めて向き合う必要性を強く感じています。
なぜかというと、僕自身がそれなりに歳をとってきたこともありますし、たとえば自分が辞めたときに、「じゃあ、この仕事を代わりにやってくれる人っているんだっけ?」ということが、まだ見えていないんです。
そして、この仕事は日本にとって必要だと思っているので、それが続いていくような仕組みや組織を、けっこう真面目に考えないといけないなと思っています。
ただ、いまは本当に激変期だからこそ、そうしたこともやりやすいとは思っていて。そんな組織を作っていくためにも、今回は仲間を募集しているところがあります。
──「激変期だからやりやすい」というのは、どういうことですか?
小沼氏:
激変期だから、新しい形を作って定着させることができる、ということですね。
──なるほど、既存のフォーマットとは違った試みがしやすいということですね。
小沼氏:
そうですね。僕自身は、自分のやりかたを壊すのは全然嫌いではないんです。いまは毎日徹底的に、自分で自分のやり方を壊してますからね。
──「日本にとっては必要な仕事」とおっしゃいましたが、宣伝を通して人に貢献できるという感覚は、どういった規模感のお話なのでしょうか。ゲーム業界に対してなのか、それとももう少し広い、「日本全体」のような話なのか。
小沼氏:
感覚としてはもっと身近な「ご近所感覚」というか。向き合っている人、あるいはこれから向き合うかもしれない人の役に立てる、ということです。
そのうえで少し大げさなことを言うと、僕は「日本のゲームがより売れてほしい」と思っています。
これはZUNさんと酔っぱらった時に話したことなのですが……。「戦争って嫌だよね」という話をしたんです。
そして、「日本のゲームがたくさん売れたら、なんか、戦争から遠ざかるような気がするよね」と。
──たしかに、なんとなくですが、おっしゃることはわかります。
小沼氏:
そうですよね。
なので結構真面目に、日本のクリエイターのゲームを世界に広げることが、平和につながると信じてます。
──ゲームを広めることが、平和につながる。そうであってほしいですよね。本当に。
小沼氏:
そのうえで、僕はゲームに対して頑張ること自体の価値を感じています。
たとえば自動車産業だとか、そういった領域で頑張れる人はたくさんいると思うのですが、ゲームという分野で本当に頑張れる人って、そんなにいないと思うので。
だからこそ、この仕事に価値があるのではないかと思っています。(了)
「みんなで物語を共有する」時代から、「アルゴリズムがおすすめを決める」時代へ。
ゲームを取り巻く話題の構造は大きく変化し、「ゲームの宣伝」の仕事も、すでにAIを駆使せねば追いつけないほど、巨大で複雑なものへ姿を変えてきた。
ただ、それを紐解いていくうちに見えてきたのは、人間の肉体や認知の限界──だけではなく、根本から変わらない、「人間にしかできない仕事」の魅力だった。
小沼氏には、個人的にこんな質問をしてみたことがある。「ゲームに関する情報って、どれくらい調べているんですか?」と。
返ってきた答えは、「全部です」だった。
それがどれほどの「全部」なのか、というのは想像するしかないが──20年間「知ること」を続け、人間と向き合い続けてきた、同氏の取り組みの一端が見えてきたように思う。
本文でも触れたが、小沼氏は現在、これからの「ゲームの宣伝」を担う新規スタッフを募集中。
本稿を読み、なにか感じるものがあったなら、リュウズオフィスの門をたたいてみると良いかもしれない。




