キャラクター誕生秘話アレコレ。目が描かれないワケとは?
――そんな不審人物が徘徊する屋敷から脱出しようとする主人公は、アリサという日本人なんですよね。舞台は海外で、「エミリーの家にホームステイしている」という設定が、一捻りしていて面白いです。
国原氏:
そこもベースの段階から決めていましたね。一応、舞台はアメリカをイメージしているんですけど、ゲーム中では、アメリカという単語は出てこないんです。なので、森を描くときも、あえて西海岸なのか東海岸なのかわからないように描きました。プレイヤーには「ここ、どの辺なんだろう?」という疑問や不安を持ってもらうの面白いなと。
――アリサやエミリーなど、メインキャラクターの顔が影で隠れていて見えませんね。どのような意図が?
国原氏:
人間は目に特徴がありますし、あえて顔を隠すことで、雰囲気にもつながってきますからね。たぶん今後も、お披露目はないと思います。
大石誠之氏(以下、大石氏):
あとは、ニンテンドー3DSの解像度では、あまり目が綺麗に描けないというのも理由としてはありますね。目を描いてしまうと、プレイヤーの視線がどうしても目に行ってしまう。すると、変にキャラクターが立っちゃうんですよ。『クリーピング・テラー』では敵キャラクターや背景など、全部合わせて雰囲気が作れたらいいなと思っているので、多少キャラクター性は落としてでも、雰囲気を重視しています。
――あえて目を描かないことで、それが怖さにも繋がっている、と。あとこれはゲームの話ではないんですけど、ちょっと笑ったのが、公式Twitterで公開していたキャラクターのイラストにも目が描かれていないんですよね。けっこうアップなのに(笑)。
小林礼奈氏(以下、小林氏):
そのイラスト含め、キャラクターはすべて私が描きました(笑)。「イラストでもその考えを貫いている!」ってことをアピールしたかったので。
国原氏:
キャラクターのイメージをあえて固定していないのも『クリーピング・テラー』の魅力だと思うんですよね。最初は、悲鳴の部分だけでもボイスを入れようかという話があったんですけど、最終的にはすべてテキストになりました。
――メインキャラクターはアリサ含めて4人ですが、スタッフの間でイチバン人気は?
喜多村氏:
ボブですね。
星屋氏:
最初はもっと違うキャラクターでしたよね。どっちかというと、ジャイアン寄りというか。
国原氏:
そうそう、服装もジャイアンっぽい感じだったんですよ。服に横ラインが入ってたり(笑)。
――それは完全にジャイアンですよ(笑)!
喜多村氏:
ボブは最初、筋肉ムキムキのマッチョにする予定だったんですけど、開発から上がって来たデザインを見たらお腹が大きくなってたんです(笑)。
ちなみに、キャラクターの名前に関しては、英語の教科書の30ページ以内に出てくるようなポピュラーな名前を選んでいます。「ボブ」とか「エミリー」とか、どこかで聞いたことのある感じですよね。
――日本だと、「太郎」や「次郎」みたいな感じですか(笑)。でもそのおかげで、キャラクターにすぐ馴染めました。ところで、アリサ以外のメンバーは全員私服ですよね。なぜアリサだけ制服なのですか。一応、オープニングで理由は描かれてはいますが?
国原氏:
「JKといえば制服だろう!」というのがあったので、アリサにはぜひ制服を着せたいと思っていました。
でもよくよく考えたら、学校に行くわけでもないので制服姿はおかしいですモンね。そこで、ボブが自分のチャンネル「ボブch」でアリサをリポーターにするという案を思いついたんです。「視聴者受けするのは制服だよ!」っていう。今思うと、けっこう無理矢理な設定ですけどね。
――確かに。でも、プレイしているときは、妙に納得しちゃいましたけど。「チャンネルなら仕方ないか」って(笑)。あと、ステージを照らすアイテムが、懐中電灯ではなくスマホのライトなのもJKっぽいですよね(笑)。
国原氏:
やっぱり、JKといえばスマホだろうと(笑)。イマドキの女子高生なら、懐中電灯よりもスマホのライトの方がしっくりきますよね。
――スマホのバッテリーが徐々に減っていくのも、戦略に繋がっていますし。
国原氏:
バッテリーが徐々になくなっていくのも、最初から決めていました。ゲームではアイテムとして予備のバッテリーが登場しますけど、制作段階では、コンセントを差し込む場所があり、そこで充電させようという案もあったんです。でも、「廃屋の屋敷に電気なんて通っているの?」って話になってボツに(笑)。
――確かに、あの屋敷に電気が通っているとはとても思えませんしね(笑)。
追跡者の正体はエンディングで明らかに……?
――アリサたちを襲うスコップ男。「スコップが武器」っていう設定も面白いです。
国原氏:
最初はスコップの予定ではなくて、ヨロイ武者みたいな感じだったんですよ。
――和風な感じで?
国原氏:
です(笑)。「展示室のヨロイが急に動く」みたいな演出をやりたかったんですけど、展示室のオブジェクトがヨロイじゃなくなっちゃったんで、お蔵入りに(笑)。
小林氏:
ヨロイが動くと、背景の2Dと3Dの問題がイロイロ出てきちゃって、結局止めちゃったんですよね。
国原氏:
スコップに決まるまでは、一瞬チェーンソーも考えたんですけど、レザーフェイスのイメージが強すぎるなあ、とか(笑)。もしくは、1回目はスコップで、次に出てたときには武器が変わっているとか、そういうことも考えてましたね。ちなみに我々はスコップ男のことを「墓守(ハカモリ)」って呼んでいました。
――フードの人物や、犬とかコウモリも敵として登場しますよね。
国原氏:
“フード”の登場は最初から予定していました。ただ、さすがにスコップ男とフードの2人だけだとパターンが決まってしまいますし、毎回同じキャラクターだと面白くない。そこで、犬やコウモリを追加したんです。
星屋氏:
どっちかっていうと、ゲーム的な兼ね合いが大きいですね。途中でスコップ男が登場しない期間があるんですけど、その間、プレイヤーはただ歩き回るだけになっちゃいますよね。なので、動物系の敵も登場させて単調にならないようにしたんです。
大石氏:
でも最初は、「コウモリに石をぶつけて追い払えるのか?」って話もありましたよね(笑)。
国原氏:
あったね。あと、コウモリって、普通は上にぶら下がってるんじゃないの? とかね。
クリーピングテラーの体験版やってみたけど、しゃがみ歩きを延々と続けられる足腰の強さと、飛んでるコウモリだろうが追跡者だろうが石を当てるコントロール能力と、廃炭鉱に落ちてるカロリーメイト的な何かを迷わず食べる胃の強さを持つ女子高校生アリサが一番こわい…
— りでる (@AliCe66667) March 5, 2017
――スコップ男とフードは、追跡者でもまったくタイプが違いますよね。
国原氏:
スコップ男は大きくて怪力のキャラクターじゃないですか。もう一人同じタイプがいてもしょーがないので、フードは逆に弱々しい感じにしました。
――スコップ男とフードの正体が気になっている人も多いと思いますが、彼らの正体はエンディングで明らかになる?
国原氏:
フードのほうは、ちゃんと正体が判明するようになっています。本作にはエンディングがA、B、C、Dの4つあるのですが、プロットの時は、現在のBに相当するエンディング1つだけだったんですよ。
エンディングは、とある条件で変わるんですけど、ユーザーさんから「こんなのノーヒントじゃわからないよ!」っていわれましたね。でも、我々としてはノーヒントで解いてほしいという気持ちがあって……ごめんなさい!
体験版も配信決定! 未プレイの方はまずそちらを
――エンディングまでは、だいたい3時間くらいのプレイ時間ですし、何度でも遊んで、ぜひ全エンディングを見てほしいですね。ちなみに、ターゲットはどの辺りを想定されていたんですか?
国原氏:
ゲームがゲームですから、ある程度年齢層は高めに設定していますね。ただ実際は、全体の半分以上が30代オーバーで、残りが、10代の“ダウンロードゲームしか遊ばない層”なんです。意外ですよね。今はYouTubeなどで『クロックタワー』の実況プレイが出回っているので、若い方にも興味を持ってもらえたことが理由かなと思っています。
――10代が多いというのは、プラットフォームをニンテンドー3DSにした影響もあるんでしょうね。
喜多村氏:
『クリーピング・テラー』は最初から数を売りたいという話だったので、必然的に、インストールベース【※】の多いニンテンドー3DSになりました。あと3DSは、他のハードよりも特色が強いということも理由の1つですね。特に、立体視とホラーは相性が良いので、そこも決め手としては大きかったです。
※インストールベース
ソフトウェアをインストールできるハードウェアの潜在的な台数。ここでは「3DSを持っているユーザーが多かった」という意味合いで使われている。
――実際、ユーザーの反応はいかがでしたか?
喜多村氏:
30代から上の年齢層からは、あまり突っ込みがないんですよ。おそらく、さまざまなホラーコンテンツに慣れ親しんでいる層なので、「ああ、あるある」って感じで流せるんでしょうけど、若い層は逆で、細かいところを指摘してくださいます(笑)。
反響については、3DSの場合、SNSの他に、Miiverse【※】でも見られるのはウレシイですね。あと『クリーピング・テラー』に関しては、女性ユーザーが多いのも特徴です。
※Miiverse(ミーバース)
ニンテンドーネットワークID(NNID)をベースにしたソーシャルネットワークサービスの名称。「共感のコミュニケーションを促進すること」を目的として開発されたオンラインコミュニティである。
ホラーゲームの客層はちょっと特殊なので、イロイロ叩かれるかなと思ったんですけど、そういうことはなかったですね。ホッとしています(笑)。
――お値段もお手頃ですしね。
喜多村氏:
日活さんから、「価格は1000円以上がいいのでは」という話があったんです。ただ、ボクらの経験上、ダウンロードソフトは1000円以下のときがすごく初動が良かったので、990円に設定しました。
住田氏:
映画館で映画を1回観ると1500円くらいですが、『クリーピング・テラー』は、映画を1回観に行くだけの価値がある作品だと思ってもらえればウレシイです。
――少し気が早い話ですけど、続編を待っている方も多いと思います。すでに動いているなんてことは……?
喜多村氏:
資料にも続編のイメージイラストがあるくらいなので、構想はあります。ただ、実際に企画が動いているわけではなくて、今はまだ「作れたらいいな」くらいの段階ですね。まずは『クリーピング・テラー』を多くの人にプレイしてもらいたいと思っています。
――期待しています。ちなみに、海外のリリースはいつごろを予定されていますか?
喜多村氏:
販売元など、条件がまとまりしだい……といった感じでしょうか。今の段階では詳しいことはいえないんですけど、できるだけ早めにリリースしたいと思っています。国内では、体験版が3月1日にリリースされたので、ぜひプレイしてみてほしいですね。3DSのテーマ【※】も配信予定です。
※3DSのテーマ
ユーザーの好みに合わせてHOMEメニューを切り替える機能があり、「テーマ」はそれ用のプリセットを指す。
クリーピングテラー体験版出てたからやってみる pic.twitter.com/ug4hgLVGKs
— みかえら (@mika_gnhi) March 1, 2017
――まだ『クリーピング・テラー』をプレイしていない方には、ぜひ体験版を触ってみてほしいですね。
喜多村氏:
すでにプレイしていただいている方には「遊んでいただき、ありがとうございます!」といいたいです。要望もちゃんと届いていますし、もし実現すれば、次回作にも生かしますので、TwitterやMiiverseなどで『クリーピング・テラー』の魅力を発信していただけると嬉しいですね。
これからプレイしていただける方には、ぜひ立体視をオンにして遊んでみてください。
小林氏:
たまにはライトを消して、ステージの雰囲気も楽しんでほしいですね。これから、キャラクターのイラストもUPしていくと思うので、そういう部分も見ていただきたいです。
星屋氏:
プログラマーとしては、ライトの表現とか雰囲気作りを見てほしいですね。よろしくお願いします。
大石氏:
自分はグラフィック全般を担当したんですけど、作っていて大変だったのはモーションの多さです。イベントの最中でも、あまり棒立ちにならないように気を使っているので、細かい部分ですけど、そういうところも見てほしいですね。
国原氏:
買っていただいた方には、もう「ありがとうございます」という言葉しかないですね。この作品は誰にでも気軽に楽しんでほしいと思っているので、身構えずにプレイしてみてください。あと、小林もいいましたが、雰囲気を大事にしている作品でもあるので、ライトを消したり、ヘッドフォンを使ったり、立体視をオンにしてプレイしてみてください。『クリーピング・テラー』の魅力がより深く伝わると思います。
住田氏:
「SUSHI TYPHOON GAMES」は、メジャーではなくインディーズバンドのようなモノです。しかし、だからこそできることもある。さらに、日本人には日本人にしか作れない、もっといえば、日活にしか作れないゲームがあると思いますので、弊社が世界のゲーム市場で勝負できるとしたら、その部分を研ぎすませていくしかないと思っています。応援のほど、よろしくお願いいたします!
今回インタビューして強く感じたことは、住田氏が持つ純粋なゲーム愛だ。氏の根底にあるものは、いわゆる“ファミっ子”な少年時代から今も持ち続けている面白いゲームへの渇望感である。SUSHI TYPHOON GAMESの公式Twitter(@SUSHITGAMES、中の人は住田氏)を見てもらえれば分かると思うが、自社ゲームだけではなく、他社製のゲームのことまでフリーダムにつぶやいている点がスゴイ。もちろん、自社ゲームのプロモーションのため『刺青の国』や『クリーピング・テラー』のことが中心にはなるが、それでも、これまでの“公式Twitter”には見られなかった光景であることは間違いないだろう。
どれから片付けるか。な週末。 pic.twitter.com/8aH0IHcssg
— SUSHITYPHOONGAMES(公式 (@SUSHITGAMES) February 4, 2017
— SUSHITYPHOONGAMES(公式 (@SUSHITGAMES) January 15, 2017
今は小さいライブハウスで演奏している名も無きバンドだが、メジャーへの道を夢見て、日々の活動に心血を注ぐ。インタビュー中、彼の眼差しからは、溢れ出るほどの情熱を感じずにはいられなかった。映画畑からの挑戦者であるSUSHI TYPHOON GAMESが、これから先どこへ向かっていくのか、注目したい。
そして忘れてはいけないのが、『クリーピング・テラー』を開発したメビウスの面々だ。国原氏や喜多村氏を始め、インタビューの語り口は終始穏やかだったものの、根の部分に見えたのは、ストイックなゲーム職人の姿。設定、演出、キャラクターデザインなど、どの部分においても妥協を許さない。その精神を感じたからこそ、プレイヤーは『クリーピング・テラー』に魅力を感じ、SNSやMiiverseなどに感想を書き込んでいるのだろう。
3月には体験版が配信され、より多くの人が本作に触れる機会を得る。そのとき『クリーピング・テラー』を取り巻く状況が、より良いものになっていることを願う。そして願わくば、ネクストの展開にも期待したい。