日活のゲームレーベル「SUSHI TYPHOON GAMES(スシタイフーンゲームス)」をご存知だろうか。
『AVN/エイリアンVSニンジャ』や『極道兵器』といった、アクション&バイオレンス&ホラー&コメディ&LOVE!の「なんでもあり!」な映画を、“日本発”で北米向けに制作・配給していた日活の映画ブランド「SUSHI TYPHOON」のゲーム版レーベルだ。
この「SUSHI TYPHOON GAMES」が、レーベルのコンセプト通り「なんでもあり!」な展開を見せ始めた。
2016年9月30日に、PS Vitaで刺青をテーマにしたゲーム『刺青の国』度肝を抜き、続いて2017年1月18日にはB級ホラーのテイストをふんだんに盛り込んだ3DS用アクション・アドベンチャーゲーム『クリーピング・テラー』をリリースし、ホラーファンをニヤリとさせている。
さらに「SUSHI TYHOON GAMES」は『クリーピング・テラー』を、去る3月10日〜12日にボストンにて開催されたPAX EAST【※】に、出展したという。
※PAX EAST
北米最大級のゲームショウ。2004年から始まった本イベントは毎年規模を大きくしてゆき、現在では毎回数万人規模の動員を記録している。
アメリカ人の反応はどのようなものだったか、「SUSHI TYPHOON GAMES」の中心人物であり、タイトルプロデューサーを務める日活の住田陽一氏に聞いたところ……。
・「雰囲気は出ているぞ!」
・「『アムネシア』に似ている」
・「怖そうで少し敬遠していたけど、なかなか動きが良い!」
・「出たら買うから早く出してくれ」
・「発売されたら俺もゲーム実況する!」
・「いつ出るんだ? まだ(アメリカで)出てないのか?」
といった、好意的な反応が多かったとのことだ。
PAX EASTでも好感触だった『クリーピング・テラー』は、往年の名作ホラーゲーム『クロックタワー』【※】のスピリットを強く感じさせる精神的後継作ともいうべき作品だろう。スーパーファミコン時代のゲームを思い起こさせる横スクロールの画面レイアウトだったり、主人公がか弱い女性(女子高生)だったり、さらには“シザーマン”(「クロックタワー」シリーズに登場する殺人鬼)に勝るとも劣らない不気味さを纏う“スコップ男”の存在だったりと、本作のすべての要素が、当時プレイした者たちのハートに直撃するのではないだろうか?
※ クロックタワー
1995年に日本のゲーム制作会社「ヒューマン」から発売されたホラーゲーム。イタリアのホラー映画『フェノミナ』をモチーフとしている。監督・ゲームデザインは河野一二三氏。
かくいう筆者も、当時プレイした者のひとり。ホラーには目がなく、ホラーゲームの新作が発表されたら欠かさずチェックしているし、ホラー映画も新旧含めて月に数本は必ず観るくらいの熱量を持っている。
一方電ファミは、昨年大掛かりなホラーゲーム総力特集を行ったほど、ホラーゲーム好きが多く在籍している媒体だ。だからこそ筆者と電ファミは、この『クリーピング・テラー』を取り上げざるにはいられなかったのである(ちなみに他サイトの「Gamer」でインプレッションを寄稿しているので、ゲームの詳細はそちらを参考にしてほしい)。
以下は、ホラゲにうるさい筆者が、『クリーピング・テラー』の開発者の“思いの丈”を伺ってきた模様をお届けする。
話してくれたのは、前述の住田陽一氏と、近年『燃えろ!!プロ野球2016』や『メゾン・ド・魔王』といった異色作を数多く手掛ける、本作のデベロッパー「メビウス」のゼネラルプロデューサー喜多村明夫氏をはじめとするスタッフの皆さん。
住田氏には、「SUSHI TYPHOON GAMES」のコンセプトや今後の展開など、メビウスの開発陣には『クリーピング・テラー』の成り立ちから、他では語られていない制作秘話を語ってもらっている。
本稿から、同レーベル発の『クリーピング・テラー』の魅力を少しでも感じてもらえたら幸いだ。
取材・文/御簾納直彦
“日本発”といえるホラーゲームを作りたかった
――日活の「SUSHI TYPHOON」という映画レーベルといえば、スラッシャー系のエログロナンセンスな映画が数多くリリースされているので、昨年1月末の「SUSHI TYPHOON GAMES」というレーベルが立ち上がるという発表以降、ワクワクしていました。
住田陽一氏(以下、住田氏):
かつて日活は、ナムコさんやアトラスさんと同じグループにいた【※】こともあって、実はゲーム業界からそんなに遠くないトコロにいたんですよね。そんな日活の社内で数年前、「映画事業以外にもチャレンジしたいね」という話が持ち上がって、新規事業として、当時勢いのあったゲームに参入しようか、という流れになりました。ちょうどソーシャルゲームが出始めたくらいの頃ですね。
※日活は1996〜2005年の間ナムコの子会社に、2005年〜2009年の間インデックスの子会社になっていた。(編集部注)
――GREEやモバゲーが隆盛を誇っていた時期ですね。
住田氏:
いろんな媒体でソーシャルゲームの記事が盛り上がってくると、会社も「ソーシャルゲームってスゴいんだな」ってわかり始めてきて、「じゃあ(ゲーム事業の)検討を開始してみよう」と。
そこで、ゲームが好きなだけだったボクが、そのタイミングで異動になりました。その後はソーシャルゲームがとにかくリッチ化しスピードも速いので、事業をどう見直すかの話になりました。その頃からSteam【※】などが流行ってきて、社内でも「ダウンロード販売という形態で事業を検討していこう」という話になり、まずはダウンロード販売でタイトルをリリースしてみようということになりました。
※ Steam
アメリカのゲームメーカーValveが、2003年にサービス開始した、PCゲーム、PCソフトウェアおよびストリーミングビデオのダウンロード販売とハードウェアの通信販売、デジタル著作権管理、マルチプレイヤーゲームのサポート、ユーザの交流補助を目的としたプラットフォーム。
――現時点で『刺青の国』、『クリーピング・テラー』の2タイトルがリリースされています。まさに“SUSHI TYPHOON”らしいジャンルの作品が続いてるなーと。
住田氏:
立ち上げ当初から、“日本発で海外征服を目指す!”という「SUSHI TYPHOON」のテイストをゲームにも入れたいねと、スタッフ間で話していたんです。『刺青の国』【※】を作る前は、『艦これ』【※】が流行っていたので、擬人化の萌え系をやっていくのもアリだよねって話もありました。他には、日本映画の伝統ともいえるヤクザ映画みたいなエッセンスもほしいねとか、そういうアイデアが膨らんでいって、『刺青の国』が形作られていきました。
とはいえ「SUSHI TYPHOON GAMES」の第1弾に持ってきたことには、たいした理由はないんです。イチバン最初に企画のアウトラインができあがっていたから、というだけで(笑)。
※刺青の国
特殊な力を持つ「刺青」を背負った乙女たちが織り成す、都市制圧型シミュレーションゲーム。「仁義の世界」を体験できるミニゲームや抗争がアツい。
※艦これ
角川ゲームスが開発しDMM.comがブラウザゲームとして配信している育成シミュレーションゲーム、およびそのメディアミックス作品群「艦隊これくしょん」の略称。2013年にサービスを開始。
――では、『刺青の国』の企画を固めている一方、『クリーピング・テラー』の企画も動いていた?
喜多村明夫氏(以下、喜多村氏):
ウチ(メビウス)が住田さんとイロイロお話して意気投合して、「日活で1本作ってみよう」となった当初は、ミニゲーム集を作る予定だったんです。そこで、何本か制作ラインを走らせていたんですけど、それがいつの間にか1ラインになっていたんですよ(笑)。しかも作るタイトルも、少し大きめになっていて。それが『クリーピング・テラー』の原型です。2年前くらい前の話になります。
――Facebookにも書かれていましたが、『クリーピング・テラー』は、『クロックタワー』や『トワイライトシンドローム』【※】から影響を受けたと記されていますよね。オフィシャルで“他社さんのゲームの影響を受けている”って堂々と公言するのも珍しいですよね。
※トワイライトシンドローム
日本のゲームソフト開発会社「ヒューマン」およびコンピュータゲーム開発などを手懸ける日本の企業「スパイク」から発売されたプレイステーション用ゲームソフトのシリーズ。1996年に第一作目が発売された。横スクロール型のアドベンチャーゲーム。
住田氏:
リリースで「“クロックタワー”の影響を受けている」と書いたのは、映画を本業にしているからかもしれないですね。というのも、いろんな原作を映画化することが多いので、他の作品へのリスペクトをさらけ出すことに違和感がないんですよ。
――なるほど。やはり皆さん、『クロックタワー』とか『トワイライトシンドローム』がお好きなんですか?
住田氏:
自分は今年で40歳になりますが、元々、新興住宅地で育ったこともあり、周辺にゲーセンがありませんでした。なので、ゲームを知るのはファミコンから。ファミコン→スーパーファミコン、メガドライブ、PCエンジン→NINTENDO64、PS1、セガサターン→PS2→PS3と、ほぼ家庭用ゲーム機の進化をリアルタイムで見てきた世代です。
そんな、ゲームといえば「PCあるいは家庭用ゲーム機」という人間なので、どうしてもその辺の(自分が遊んできた)ゲームを意識はしてしまいます。ヒューマン作品の大ファンでしたし。
――『フォーメーションサッカー』とか『ファイプロ』とか?
住田氏:
『セプテントリオン』とか! まぁもちろん、トリプルAクラス【※】の作品を作れるような制作体制があるわけでもないので(笑)、限られた制作費の中で「ゲームらしいゲーム」という考えで、同じような生き方をしてきた世代と、そういう時代のゲームを好む若い世代を意識していると思います。
※トリプルAクラス
厳密な定義はないが、大ヒットしたゲームを指す言葉である。AAAタイトルともいう。
――その世代、電ファミ読者に割と多いかも。
住田氏:
企画を練っている最中に『P.T.』【※1】が発表されて、ああいうFPS【※2】タイプのホラーがいいなぁとは思ったのですが、同じようなタイプを開発する外国のデベロッパーには、予算的にとても太刀打ちできない。「SUSHI TYHOON」レーベルは“日本発で海外に打って出る”というコンセプトがあるので、「日本発といえるホラーゲームってなんだろ?」ということを立ち止まって考えたんです。
※1 P.T.
2014年に小島秀夫監督、小島プロダクション制作によりコナミにより配信された一人称視点のサバイバルホラー・ビデオゲーム。
※2 FPS
First Person Shooterの略。プレイヤーもしくは主人公の一人称視点でゲーム内の世界を任意で移動する3Dのアクションシューティングゲーム。
そこで、横スクロールの『クロックタワー』や『トワイライトシンドローム』みたいなものが日本発っぽいホラーゲームじゃないかな、となりました。
喜多村氏:
ボクやディレクターの国原は、両タイトルとも大好きですが、他のスタッフは『トワイライトシンドローム』は知らなかったですね。『クロックタワー』は知ってましたけど。なので、若いスタッフとの意思疎通が大変でした(笑)。
それでも『クロックタワー』や『トワイライトシンドローム』のような作品にしたかったのは、それだけあの2作品のパワーを感じたからだし、ホラーゲームとしてリスペクトしているからなんです。
――リスペクトしているからこそ、フォロワーを作りたかった、と。
喜多村氏:
2015年の年末に開催された、株式会社シティコネクション【※1】さんの『クロックタワー』のイベントに、ご縁があって招待してもらったんですよ。そこでは、『クロックタワー』のディレクターである河野一二三さん【※2】のトークや、ゲーム実況者のマーブル先生が『クロックタワー』を実況プレイするという企画があったんですけど、それがスゴく面白かったんですよね。
※1株式会社シティコネクション
1985年に日本のゲーム制作会社「ジャレコ」がリリースしたアーケードゲーム。15歳の少女・クラリスが理想の男性を捜し求め、迫りくるパトカーを撃退しながら愛車・クラリスカーで理想の男性を捜しに世界中を走り回る、横スクロールアクションゲーム。
※2 河野一二三
1969年生まれ。新潟県出身のゲームクリエイター、ディレクター・シナリオライター。現在ヌードメーカー代表取締役。「クロックタワー」シリーズを手掛けた、ホラーゲームの代名詞的存在。
もう20年くらい前のゲームなのにスゴイなと思いましたし、皆が盛り上がれるなら、こういうタイプのゲームを作ってみたいと思うようになりました。なので、そのイベントが転機になったのは間違いないです。
――こうして、日活とメビウスの目指すモノが合致したんですね。
ホラー映画のお約束的演出はバッチリ
喜多村氏:
「主人公をJKにする」というのも、なぜか初期の段階で決定していました。日活さんといえば“ロマンポルノ”のイメージが強いですが、その影響? でしょうか(笑)。
喜多村氏:
「海外の方は“JK好き”というデータがある」なんて意見がありましたので。もちろん、すべての海外の方が女子高生好きとは限りませんが(笑)。
というわけで、企画の初期から「主人公がJKであること」が決まっていました。ストーリーも、JKが屋敷の中ではぐれてしまった友人を捜す――みたいなベースの部分はできていましたね。企画の最初の頃は、少し服が破れるとか、セクシーな要素もあったんですけど(笑)。
国原博氏(以下、国原氏):
ゲーム性については、単純な横スクロールで行くのか、それとも『メトロイド』【※】のようにジャンプを取り入れたアクティブなアクションにするのかなど、イロイロな意見がありました。
※メトロイド
1986年に任天堂から発売されたファミリーコンピュータ ディスクシステム用ゲームソフト。任天堂としては初めてとなるハードなSFの世界観が話題となった、横スクロールアクションゲーム。
クリーピングテラー。殺人鬼来た来たー! この横向き視点ならではの追いかけっこの緊張感、たまらねええええ! pic.twitter.com/JzsJBAwfAK
— 鍵 (@ymknj) March 9, 2017
あと、『クリーピング・テラー』には主人公を含めて4人のメインキャラクターが登場するんですけど、最初は、「入っている部活によって能力が異なる」という設定もあったんですよ。「水泳部だと水の中に長く潜れる」とか。変わり種だと、「使い魔を使役できる」とか……けっこう迷走してましたね(笑)。
――使い魔を使役(笑)。もうそこまでいくと、今とはまったく違うゲームですね。ホラーのテイストも、当初はジャパニーズ・ホラーな感じだったり?
国原氏:
ですね。最初の頃はそんな意見もあったんですよ。「ジェイソンがいきなり出てきてビックリ!」みたいな演出ではなく、貞子が出てくるような、ジワリとくるような演出にしようと。……でも私、ジャパニーズ・ホラーが苦手なんですよ。怖すぎて観られないんです(笑)。海外のスプラッターなら大丈夫なんですけどね。そんなこんなで、結果、アメリカンなB級ホラーのテイストになりました。
――幽霊とかお化けじゃないホラーですね。
国原氏:
ゲームに登場する“スコップ男”は、ジェイソンとかレザーフェイスに近いですね。追いかけてくるときも幽霊のような感じではなく、物理的な雰囲気を強く出しています。
星屋吉希氏(以下、星屋氏):
あと、ステージを全体的に暗くして、不気味な感じが出るようにしましたね。歩いているだけで不安になってもらうことが狙いでもあります。
国原氏:
ジェイソンとかって、歩いて追いかけて来ているはずなのに、走って逃げている人間の目の前にいきなり現れたりするじゃないですか。ああいうのをやりたかったんですよね。
とあるシーンで、安心しているときに、いきなりスコップ男が上から落ちてきたりするんですけど、あそこは狙って作りました。スコップ男が登場するタイミングとか、絶対に壊れそうな橋が出てくるとか、ホラー映画のお約束はしっかり入れようと決めてましたね。