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【アニメ最終回】『幼女戦記』作者と人気ゲーム実況者グルッペン総統が対談。この歴史SLGオタクどもの濃厚トークの宴に呆れつつ放映時間を待て!?(司会:徳岡正肇)

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 小説投稿サイトであるアルカディアで生まれ、確固たるファンを掴んでKADOKAWAから書籍化された小説幼女戦記【※】

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(画像はアニメ版『幼女戦記』の公式サイトより)

※『幼女戦記
カルロ氏原作のライトノベル、オンライン小説。2011年から日本の小説投稿サイト「Arcadia」にて連載された。サウンドドラマ、漫画、テレビアニメなど、幅広く展開されている。作中の「協商連合」といった単語は第一次大戦、状況は第二次大戦の欧州戦線を思わせ、両者を混ぜ合わせた架空の世界線が舞台となっている。主人公は、幼女として生まれ変わった元日本人のサラリーマン。

 2016年6月からはコミック化、2017年1月からはアニメ化と急激にそのリーチを広げたこの作品は、タイトル通りに主人公こそ「幼女」(※中身は転生したオッサン)であるものの、作品全体としては政治・歴史・軍事に強く取材した重ためな展開がその魅力の一つといえる──ジャンルとしてはライトノベルの国境線のギリギリ内側くらいに存在しつつも、しばしばにしてファンからは「ヘビーノベル」と呼ばれているという現状は、作品のテイストをよく表現していると言えるだろう。

 さて、そんな『幼女戦記』の作者であるカルロ・ゼン先生が、こちらのインタビューに登場するグルッペン・フューラー氏の作る一連の『Hearts of Iron 2』プレイ動画が大好きだという情報を、編集部の偉い人がキャッチ。
 グルッペン・フューラー氏もカルロ・ゼン先生の作品は『幼女戦記』に限らず大好きという話を聞いていたこともあり、急遽お二人の対談をセッティングする運びとなった(ちなみにカルロ・ゼン先生は「お茶を頂けるのでしたら喜んで」というご快諾ぶりである)。

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なお要求されたお茶は「King of Green RIICHI premium 木箱入り」。カフェインを礼賛するカルロ・ゼン先生ならではの逸品。お値段を見た編集部の金庫番に「は?」と言わしめた逸品でもある。

 歴史や軍事といったテーマは、盛り上がる界隈では盛り上がるものの、何かと「マニアック」「コア」という印象とともに敬遠されがちなジャンルでもある。

 そんななか、グルッペン・フューラー氏の『【HoI2】第二次世界大戦の主役は我々だ!part1【ゆっくり実況】』は2011年9月にニコニコ動画に投稿されてから今現在(2017年3月末)に到るまで、実に130万再生。『幼女戦記』に劣らぬ、幅広い視聴者層を獲得している。

 果たして彼らは何を考え、どのような経験を踏まえ、何を目指してこのような作品を作り得たのだろうか。そしてまた、この先で何を生み出そうとしているのだろうか?

文・聞き手/徳岡正肇
企画・聞き手/斉藤大地透明ランナー


二人の歴史オタクの濃厚トーク、開戦…!

カルロ・ゼン氏(以下、カルロ氏):
 今回はお忙しい中、貴重な機会をありがとうございます!(頭を下げる)

グルッペン・フューラー氏(以下、グルッペン氏):
 いえいえ、こちらこそ大変にありがとうございます。Skypeでの参加ということで失礼しております。

徳岡正肇(以下、徳岡):
 カルロ先生、この対談はサウンドオンリーで進行していますので、そんなに頭を下げてもグルッペンさんには見えないかと。

カルロ氏:
 あれ、ダメですかね? 一応、ウラジオストク【※】の方角に頭を下げているつもりなんですが……。

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※ウラジオストク……ロシアの極東部に位置する都市。グルッペン総統はウラジオストク在住という設定(?)

グルッペン氏:
 ……なんというかカルロ先生って、Twitter(@sonzaix)で拝見させて頂いている、そのまんまの方ですね(笑)。

徳岡:
 Twitter上のテキストが人格を持った、みたいな雰囲気がありますね。

カルロ氏:
 なんだか過分なご評価を頂いている! ともあれ、特に意識することなく、いつもどおりの我々な感じで話を続けていけばいいんじゃないかなって思ってます!

『幼女戦記』に影響を与えたアルカディアでの体験

徳岡:
 ですね。じゃあ緊張をほぐすためにも、まずは世俗世界において絶賛大人気の『幼女戦記』の感想を皆で語ることからスタートしたいかと。

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(画像はTVアニメ『幼女戦記』PV第2弾(妖精ver.)より)
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(画像はTVアニメ『幼女戦記』PV第2弾(妖精ver.)より)

カルロ氏:
 ちょ……! やめてください! なんですかその羞恥プレイは! いきなりキツイ! キツイですよ!

グルッペン氏:
 あはは。ともあれ『幼女戦記』は素晴らしい作品だと思います。

 というか、とにかく最初はびっくりしましたね。第一次世界大戦【※1】と第二次世界大戦の良いところ取りをするっていう、その視点がすごいなと。しかも時代設定もいわゆる戦間期【※2】と、実に渋い。渋いんだけど、描いていくならば一番いい時代ですよね。

 人物もチョイスがめちゃくちゃいいです。第一次大戦ってまだ国家が比較的健全に機能していたというか、イデオロギーに染まりきっていなかったというか、そういう側面があったじゃないですか。その結果として「わかりやすい英雄」があまりいなかった戦争でもあったわけですよね。でもそこに二次大戦の要素を混ぜ込むことによって、完璧な第一次世界大戦ができるというのは、本当に偉大な発見だなと。

※1 第一次世界大戦
人類史上初の世界大戦として勃発し、地球規模で戦争が行われました。War to end warsというフレーズが付くほど、多くの犠牲を出したのち、人々は平和の貴重さを確認したのです。なおちゃんと終戦にせず、後始末を適当にした結果、20年後に停戦が破れて再戦する羽目になりました(Ce n’est pas une paix, c’est un armistice de vingt ans.)。
戦争の終わらせ方、とても大事。(by カルロ)

※2 戦間期
第一次世界大戦後、第二次世界大戦前の世界のこと。
戦争とかさ、もう、良くないよね。
平和ってさ、これ、何より大事だ。
ピュアーな思いで、みんな、戦後の構築をおこなってました!
不幸にも、ベルサイユは停戦に過ぎなかったんだな……。(by カルロ)

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(画像はTVアニメ『幼女戦記』PV第2弾(妖精ver.)より)

カルロ氏:
 完璧な第一次世界大戦――なんというかこう、欧州の天地が死屍累々になるしかない感が横溢したパワーワードですね……。

グルッペン氏:
 そうですねー、ドイツが空っぽになりそうです(笑)。 でもほら、コンピューターゲーム、特に『Hearts of Iron 2』(以下『HoI2』)【※】とかだと、結構そういう根こそぎ的な動員ってするじゃないですか。国内の人的資源が枯渇するような感じの総動員。

 あれってまさに『幼女戦記』で描かれている「人間を数で考えてしまっている」という状況そのものですよね。

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※Hearts of Iron 2……第二次世界大戦前夜から戦後しばらくまでの世界を舞台とした、Paradox Interactive製ストラテジーゲーム。原則として1936年からスタート。プレイヤーは当時存在したあらゆる国(ないし組織)いずれかの、第二次世界大戦という巨大な動乱を生き延びるべく策を練り、軍を動かす。(by 徳岡)
(画像はSteamより)

カルロ氏:
 そうなんですよね。冷静に考えると、とんでもないことが起きている。でも数字で表現されると、その「とんでもなさ」が一気に薄まるんですよ。

グルッペン氏:
 数メートル進むために数千人単位で死んでいく戦場ですからねえ……実情をリアルに考えると、ぞっとします。

カルロ氏:
 実際、第一次世界大戦ですとイギリスの将軍が「人が足りないぞ、もっと送れ!」と本国に言った、みたいな逸話が残っています。
 僕も昔は「なんでそんな非人道的な要求ができるんだ!」と思ってたんですが、ああいう要求をする気持ちって、ゲームを遊んでいるときだと、ちょっとだけ分かっちゃいますよね。

グルッペン氏:
 だんだん「人」じゃなく「モノ」に見えてくるんでしょうねえ。消耗の度合いも半端ないですし。

カルロ氏:
 カナダ軍が攻勢を命じられたとき【※】、「1万人以上の兵士が死ぬと予測されるが、それでもそれを命じるのか?」と反駁(はんばく)してるんですよね。でもそれに対する返答を流行り言葉で言うと「たった1万人で成功するの? すごーい!」なわけで。いろいろと、「何かが根本的におかしくなっている」感が強いですね。

※パッシェンデールの戦い
第一次大戦の西部戦線で重要な戦闘のひとつ。連合軍からパッシェンデール占領を命じられたカナダ軍は「壊滅的な被害を受ける」と抗弁したが作戦は実行され、結局多大な犠牲を出した。

グルッペン氏:
 途中で参戦したアメリカ軍も戦死者の桁数の異様さに驚愕してましたからねえ。ああいう異常な世界をどうやって現代の日本人に伝えるかっていうのは、とても難しい挑戦だと思います。

カルロ氏:
 そこなんですが、僕はそこで「理解して楽しんでもらう」のではなく、「まずは相手の口の中に突っ込んでしまえば勝ちだ」と考えてたんです。

グルッペン氏:
 ほう!

カルロ氏:
 僕はもともとアルカディア【※1】で連載してまして。で、アルカディアって、ちょっと特殊な空間なんですよ。
 「小説家になろう」【※2】ですと、感想欄にいろいろ書いてくださる方もいらっしゃいますけど、読者のマジョリティとしては「自分にあわない作品はパス」みたいな状態じゃないですか。

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※1 アルカディア……個人運営のインターネット小説投稿サイト。『ソードアート・オンライン』のさらに未来が舞台のAR&フルダイブVR格闘ゲームがテーマになった『アクセル・ワールド』(原題は『超絶加速バースト・リンカー』)などが連載されていた。掲示板的なサイト構造のため作者と読者の距離が近かった。
(画像はArcadiaより)

※2 小説家になろう
株式会社ヒナプロジェクトが提供するインターネット小説投稿サイト。『魔法科高校の劣等生』『オーバーロード』『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』などの有名作がここから生まれた。トラックに轢かれるなどして異世界に「転生」して、その際に特殊な能力を授かって活躍する、という形式の作品群が話題を呼んだ。

徳岡:
 確かに、口に合わないのに最後まで読む「小説家になろう」読者って、ゼロじゃないですが、極めてレアかもしれません。

カルロ氏:
 ところがアルカディアって、今はまたちょっと違う空気もありますが、僕が『幼女戦記』を書き始めた頃だと、読者さんとの間に「殺るか殺られるか」みたいなところがあったんです。
 なのであそこで戦ってると、お客さんの読みたいものと僕の書きたいものをすりあわせるというか……すりあわせ、というほど文明的じゃないな……衝突して癒着すると言いますか……。

徳岡:
 自然状態的な。

カルロ氏:
 まあそんな感じで、こちらが意図的に作ったところもあるけれど、お客さんの反応からいろいろ勉強しながらっていうところも結構あります。

徳岡:
 とはいえ「小説家になろう」でも、読者からの反応をもとに、長いときは1章まるまる書き直しちゃう、みたいなことはしばしば見受けられます。

カルロ氏:
 そうですねえ。あえて言えばアルカディアってそのあたり、中世ルネサンス期のイタリア【※】なんです。つまり、読者は自分の気に入らないものに対してボロッカス言いますし、言われた方はミケランジェロ並に激昂する。
 でも言われた方は内心で「あっそれって正しい指摘かもしれない」って思って、コッソリ修正したりする。で、修正したあとで「お前の言ってることとは関係ないけど、俺はここを修正したからな」みたいな感じで胸を張る。もちろん作る側が「お前の言うことはまるで論外だから無視する」とか、「お前の言うことはまったく正しい、全面降伏だ」みたいなところに落着することもありました。

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※ 中世ルネサンス期のイタリア……ルネサンスは14~16世紀のヨーロッパ社会、特にイタリアを中心に起こった、古典古代の文化を復興しようとする文化運動。人間の自由を称える自由闊達な文化が花開き、宗教の束縛から解き放たれ芸術を自由に批評しあう精神性が育まれた。画家・彫刻家のミケランジェロ・ブオナローティや万能芸術家のレオナルド・ダ・ヴィンチなどが生まれた。画像は、短気でかっとなりやすい性格だったと言われているミケランジェロ。
(画像はWikipediaより)
 

グルッペン氏:
 読者との関係性が非常に濃い感じですね。

カルロ氏:
 あと、今でこそWeb小説って「書籍化」みたいな形でプロになる登竜門的な観点で語られることも多いですけど、アルカディアの初期の頃ってそういう商売っ気のない、いわば好きモノが集まる場所だったんですね。
 そういうところで鍛えられていった結果として、「まずは相手の口の中に突っ込んでしまえば勝ち」「客が嫌がるなら、客の口に突っ込んで食わせろ」みたいな戦訓を得たのかな、とは思います。

グルッペン氏は「ハーメルンの笛吹き男」?

徳岡:
 商売っ気のないところに好きモノが集まって作品を作っていくという意味においては、グルッペンさんもまたニコ動という場でまさにそれを行い、そして幅広い支持を集めるに至っています。そしてまた、ニコ動もアルカディアなどと同様に「ユーザーからのコメント」があるわけですが、グルッペンさんはこれらのコメントを意識されるようなことはありましたか?

グルッペン氏:
 ある程度意識しています。意識してるんですが、個々のコメントそれぞれを見る、というのとはちょっと違う意識の仕方ですね。
 というのも、なにせニコ動のコメントって膨大じゃないですか。なのでコメント全体の分布というか、分類として、「現状でこんな傾向を持った視聴者さんが、こんな傾向の感想を持っている」っていうのが徐々に見えてくるんですよ。

 その分類をもとに、「一番面白いことを言っているグループ」の意見を取り入れるような方向で動画を作っていったんですね。その結果として、ゆっくり実況【※】よりも、生声実況&人物重視にしたほうがみんなが理解してくれやすい、というのが分かったというところがあります。

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※ゆっくり実況……フリーの合成音声ソフト『SofTalk』によってテキスト読み上げを行う動画群。“ゆっくり”は、前述の『東方』のキャラクターに“ゆっくりしていってね!”という台詞をしゃべらせた、2ちゃんねるのアスキーアートから派生。このとぼけたアスキーアートに『SofTalk』のとぼけた音声が合わさって人気を博し、これに実況や解説をさせるスタイルが確立。ひとつの界隈を成した。
(画像はWikipediaより)

徳岡:
 なるほど。ではそのあたりも踏まえて、今度はカルロ先生からグルッペンさんの動画作品に対する感想を伺いたいかと。

グルッペン氏:
 げげ(笑)。

カルロ氏:
 そうでなくちゃいけませんね、さっきのお返しをしないと!(笑)

 グルッペンさんの作品ですと「ゆっくり」の世界大戦が一番好きなんですが、実はあれを見ている間、失礼ながら、ずっと感じていた疑問がありまして。簡単に言うと、「これってなんでこんなに面白いんだろう?」っていう疑問なんです。

徳岡:
 確かにそれは失礼ですね!(笑)

カルロ氏:
 最後に気づいたのは、あれって「国家」がキャラクターになっているのが面白いんだ、というところでした。それに加えて、グルッペンさんが「歴史は最強のコンテンツ」と仰られているインタビューを見て、すべて得心がいった感じです。

“我々”グルッペン総統「最強のコンテンツは歴史。調べ尽くすということがない」──世界史、ニコニコ、ボードゲーム、ウォーシミュレーション……読むだけで何かに目覚める話

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グルッペン氏:
 そこはもう、その分析その通りですね。国家という組織や、その組織としての行動がどんなに面白いと言っても、結局、人間は人間しか見れないんですよ。組織ではなく。

カルロ氏:
 ですよね! なので僕としては、グルッペンさんは吟遊詩人【※1】というか、悪くいうと「ハーメルンの笛吹き男」【※2】みたいなイメージがすごく強いんです。

※1 吟遊詩人
詩曲を作り、各地を旅しながら歌ってまわる人。昔は遠く離れた各地の出来事を語る「語り部」の役割を果たしていた。

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※2 ハーメルンの笛吹き男……グリム童話における物語の一つ。笛でネズミを追い出した男が町の人々に報酬の約束を反故にされ、もう一度笛を吹き鳴らして町の子供たちをどこかに連れ去ってしまう話。歴史学者の阿部謹也によると、この話は1284年6月26日にドイツのハーメルンで実際に起こった事件であり、伝説として語り継がれていく過程で、当時のヨーロッパ中世の社会状況や民衆精神が色濃く反映されていった(参考:『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』)。
(画像はWikipediaより)

徳岡:
 と、言いますと?

カルロ氏:
 グルッペンさんって、国家間の関係性や闘争っていう難しい物語を、国家をキャラクターに擬することで、誰もが興味を持てる物語にして提供してるわけじゃないですか。そしてその結果、例えば中学生の女の子が熱心なファンになったりもしています。そういう意味で、まさに「実績ある吟遊詩人」だな、と。

「HoI2 AAR Wiki」からみる歴史の面白さ

グルッペン氏:
 なるほど……僕が「人間は人間しか見れない」という結論に至った根っこには、HoI2 AAR Wiki【※】があるんですよ。あのWikiもアルカディア同様、好きモノが集まる空間だったんですね。

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※HoI2 AAR Wiki……Paradox Interactiveが作った第二次世界大戦ストラテジーゲーム『Hearts of Iron 2』のAARを、好きモノたちが自発的に投稿する場。どちらかといえばゲーム的な攻略リプレイから、より物語性を重視したものまで、多彩な作品が投稿されている。AARというのはAfter Action Report(事後レポート)を意味する言葉で、ここでは「自分のプレイを遡って解説したもの」を意味している。
(画像はベネズエラ ~妄想の世紀~のページより)

カルロ氏:
 あそこって名作が多かったですよね……僕は『大英帝国騒乱期AAR』が大好きです。あと『大ルーマニア攻防記AAR』

徳岡:
 自分は『アイルランド交響曲 -An Irish Symphony-』の印象が強いですね……あの締め方はなまじの筆力では無理ですよ。

グルッペン氏:
 やっぱり皆さんいろいろ読まれてらっしゃる(笑)。実は僕の動画って、『ベネズエラ ~妄想の世紀~』の影響がめっちゃ強いんです。

 戦争というものを扱うにあたって、従来ですと、人名ってすごく重要だったじゃないですか。あのAARって、まずそこを足蹴にしてるんですよね(笑)。登場人物は全部写真でしか出てこなくて、人名がほぼ出てこないわけです。かつ、人名を出してくるときも、いやらしくない。あくまでサラっと、嫌味にならない範囲でネタとして使ってくるんですよ。

カルロ氏:
 確かに(苦笑)。

グルッペン氏:
 あと、HoI2 AAR Wiki全体を見ていて、もう1つ気づいたことがあります。『HoI2』はまさに国家の行動、つまり官僚組織が動いて、それに応じて暴力装置たる軍隊が駆動するという、組織の行動を扱ったゲームです。当然、そのリプレイも組織の行動や対立を扱ったものになるわけですよ。なのにあの膨大な数のAARのうち、最も人気があるのは「大英帝国騒乱期」――つまり当時の英国国王であるジョージ6世【※】のキャラクター性を最大限に発揮したAARなんですよ。

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※ジョージ6
イギリス連邦王国第8代国王。在位は、諸国が第二次世界大戦前の緊張感を漂わせる1936年から、戦後となる1952年まで。兄王の退位によって王位が転がり込み、スパルタ教育を受けたストレスで吃音を発症していたものの、国民の前でスピーチするために少しずつ克服していったことで知られる。彼を主人公にした映画『英国王のスピーチ』(2010年)はアカデミー賞4部門を受賞した。

(画像はWikipediaより)

カルロ氏:
 あのAARのジョージ6世、ほんと最高ですよね!

グルッペン氏:
 ですよね? あの強烈なキャラクター性が、「大英帝国騒乱期」というコンテンツの人気の根底にある、と僕は感じたんですね。さきほど「人間は人間を見ることしかできない」と言いましたが、その教訓は「大英帝国騒乱期」から得たと言っても過言ではないと思います。

カルロ氏:
 実際、「三国志」【※1】とか「水滸伝」【※2】とかも、組織の争いではなく、人間のドラマとして見られているからこんなに人気があるわけですしね。 

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『三国志』(画像左)と『水滸伝』(画像右)。どちらも横山光輝氏の著作。

※1 三国志
元来は2世紀末から3世紀末にかけて、中国大陸に魏・呉・蜀三国が鼎立する過程や滅亡した経緯を語る史書。ここで言う「三国志」は、明代に入ってから書かれた『三国志演義』と呼ばれる史実を踏まえた創作からの派生物を指す。
戦後の日本では吉川英治の著した『三国志』が人気を博し、それを下敷きにした横山光輝のコミック『三国志』も大ヒット。ほかにもNHKの『人形劇三国志』のようなテレビドラマ、光栄(当時)のヒットシリーズ『三國志』のようなゲーム、王欣太作画によるコミック『蒼天航路』などジャンルを問わず題材にされている。さらには登場する部将たちが闘う女子高生になったり(『一騎当千』)、乙女になってアダルトゲームに主演したり(『恋姫†無双 ~ドキッ☆乙女だらけの三国志演義~』)、頭身の下がったモビルスーツになったり(SDガンダム『BB戦士三国伝』)など、もうめちゃくちゃ。最近では日本経済新聞の広告が横山『三国志』のパロディだったりなど、“歴史モノ”という枠を超えたひとつのジャンルとして屹立している。

※2 水滸伝
腐敗した官吏を打ち破る108人の英雄たち(百八星)を描いた伝奇歴史小説。中国四大奇書のひとつ。もともとは12世紀の北宋での史実をもとに創作が多分に含まれ物語となり、明代に現在の形として成立。日本へは江戸時代に伝わり、勧善懲悪的な内容や、さまざまな英雄像から人気となり、広く知られるようになる。
百八星が拠点とした地名“梁山泊”は、転じて才気溢れる人々の集う場所としていまも使われており、近代においても吉川幸次郎を始め、さまざまな作家によって完訳本や派生作品が生み出されている。なかでもビデオゲームであれば、光栄(当時)『水滸伝 天命の誓い』や、コナミ(当時)の『幻想水滸伝』シリーズなどが挙げられる。

 ただ僕がグルッペンさんについて特に面白いなと感じているのは、いまのグルッペンさんって「グルッペンさん自身が面白い人間である」というところまで駆使して、ユーザーの興味を惹きつけているところなんですよね。「グルッペンさんが語るのを聞くのが一番面白い」という形で、「語り部」として人を惹きつけている。

グルッペン氏:
 そうですね、自分がピエロになるっていう(笑)。実を言うと、本当はこの道化師役は「ゆっくり」にやらせたかったんです。でもそれをしようとすると、動画を作るのにものすごく時間がかかってしまう。なので仕方なく自分自身が道化師役をしている、というところはありますね。

徳岡:
 クリエイター自身が自らをコンテンツ化するというのは、現代においてはわりと避けられない状況なのかな、という印象もあります。良い悪いはさておき。

グルッペン氏:
 そうですねえ。その結果、実態から剥離した表層的なところをなぞるだけの浅薄なコンテンツが乱造されていく、というところは間違いなくあるかなと(笑)。でもその一方で、より多くの人がある分野に対して興味をもってくれて、パイがそのもの広がっていく可能性もありますよね。ここは議論の余地があると思います。

カルロ氏:
 いやあ、そこはやっぱり裾野の広がりは重要だと思います。どんな良いものでも、「その真髄」だけぶつけているようでは、結局は自分たちの巣窟(すくつ)を掘り進めるだけになっちゃうってのを、僕らは散々やってきたし見てきたわけじゃないですか。

グルッペン氏:
 ある程度はちゃんと大衆化を進めないと、やはり死んでしまうんですよね。

 

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