2017年11月2日に正式サービスを開始した、スクウェア・エニックスのスマートフォン向けデジタルカードゲーム(以下、DCG)『ドラゴンクエストライバルズ』のダウンロード数が、1ヵ月足らずで1000万ダウンロードを突破した。
たとえば同じスマートフォン向けのDCGである『Shadowverse』の1000万ダウンロード突破が発表されたのは、リリースから約1年1ヵ月が経過した2017月7月であるため、その勢いはかなりのものだ。
「いったい何がそのスピードを生み出したのか?」
電ファミニコゲーマーでは、『ドラゴンクエストライバルズ』の魅力に迫る記事を、DCGに精通しており、さまざまな大会で功績を残しているゲームプレイヤーのちょもす氏に執筆を依頼。
DCGの歴史を振り返りつつ、『ドラゴンクエストライバルズ』の魅力を4つに分けて解説してもらった。
ちょもす氏の軽妙な語りの奥に横たわる、真理を突いたような突いていないような、たぶん突いている慧眼をぜひご覧いただきたい。
文/ちょもす
ちょもすです
はじめまして、ちょもすと申します。DCGの大会で運よく準優勝して賞金をいただいたり、デジタルカードゲームの大会で優勝して世間を騒がせてしまったりしています。あとはさまざまなところでふざけた記事を書かせていただいたりしています。どうぞよろしくお願いいたします。
今回は電ファミニコゲーマー様から、「DCG関連の記事がないのでぜひ書いてほしい」というお話をいただいたので、「はてブにしょっちゅう出てくるあのサイトに俺が記事を書いていいのか……?」と疑問を感じつつも、いまいちばん旬なDCGである『ドラゴンクエストライバルズ』(以下『DQR』)の話をさせていただきたいと思います。
近年のデジタルカードゲーム
『DQR』の話をする前に、少しDCGの歴史について振り返ってみましょう。アンラッキーなことに「DCGの歴史」でGoogle先生を問いただしてみても、ロクな情報が出てきませんでした。
僭越ながら僕の過去のDCG体験の話をさせていただきますと、『ポケモンカードGB』に始まり、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』、『トレード&バトル カードヒーロー』とプレイ。
インターネットが普及してからは『アルテイル』、『Shadow Era』、『CARTE』と遊んで、『Code of Joker』、『Hearthstone』、『Shadowverse』、『WAR OF BRAINS』など……さらに『アトム:時空の果て』や、ちょっと別系統の『三国志大戦』などまで書いてしまうともうキリがないのでこのへんにしておきますが、人並以上にはデジタルカードゲームらしきものに触れてきたと自負しています。
とくに『Hearthstone』【※】以前のDCGを遊んでいて感じていたのは、「デジタルカードゲームは対戦ゲームとしてマイナーなジャンルである」ということでした。
海外ではFPSやRTSが人気でしたし、国内も格闘ゲームの人気が高い。紙のトレーディングカードゲーム(以下TCG)やそれらをデジタル化した作品には人気がありましたが、デジタルでオリジナルのタイトルはまだまだ……といった状況は長く続いていたと思います。
しかし、『Hearthstone』はその環境を大きく変えました。
Blizzard社の自社キャラである謎のおっさんや、あまりかわいくないキャラクターが強く、独特な世界観を持って登場したことから、当初は日本人にさほど見向きされていませんでしたが、従来のDCGよりもプレイしやすかったことと、それでいて奥深いゲームシステムから、あれよあれよといううちに人口が増え、いまや世界中で7000万人以上が遊んだカードゲームに。
つまり気づけば世界一のDCGの座に君臨する、DCGというジャンルを世に知らしめたタイトルと言えると思います。
スマホ化の流れから日本人プレイヤーも増え、国内でもその地位は確かなものになっています。
そこに続いたのが『Shadowverse』【※】です。カードゲームオタクにこのゲームを語らせるとすぐにメガネをシュッとしながら「『シャドバ』はゲーム性が~」などという発言をしがちですが、これほどの規模で、国内で、デジタルのカードゲームを流行らせているのは本当に凄まじいことです。
電車内で『Shadow Era』【※】をプレイしている女子高生を見かけたことは僕の人生で一度もありませんが、『Shadowverse』をプレイしている女子高生はいくらでも見かけます。
※Shadow Era
カナダのWulven Game Studiosより配信されているスマートフォン・タブレット・PC向けカードゲームアプリ。2011年リリース。現在英語版のみ。
いままで正体不明の謎のオタクたちによって遊ばれていたものを、女子高生が遊んでいるんです。カードゲームというニッチなジャンルを、幅広い層に遊ばせ、認知させたその功績は計り知れません。
東京ビッグサイトで10代20代の若者たちがDCGのイベントに集まることのすごさは、古のカードゲーマーの方々はとくによくわかるのではないでしょうか。
そうしてDCGの環境がいい感じに温まってきたところで登場したのが、本稿で紹介する『ドラゴンクエストライバルズ』となります。
『ドラゴンクエストライバルズ』の魅力
さて本題の『ドラゴンクエストライバルズ』というゲームですが、果たしてどんなゲームなのでしょうか。
僕が100時間近く遊んできたなかで見つけた、このゲームの素晴らしい部分を4つに分けてお伝えしましょう。
1,「ドラゴンクエスト」であること
わざわざ言うまでもないことですが、「ドラゴンクエスト」であることはゲームとして非常に強力です。これからマラソンをしようというときにジェット機に乗るようなものです。スクウェア・エニックス、あまりに卑怯ですね。
『DQR』で初めて声が充てられる歴代のキャラクターは、往年のファンにとっては魅力的です。
「『ドラゴンクエスト』シリーズはどんなゲームであれ全部遊ぶ!」という人もいるでしょう。それだけでゲームをプレイする人がたくさん存在するんです。
それだけではありません。『DQR』は、“「ドラゴンクエスト」であること”がカードゲームとしても意味のある作りになっています。
たとえば、『DQR』にはユニットが攻撃できなくなる能力を持ったカードとして“ぱふぱふ”【※】があります。
ほかのDCG/TCGにも似たような効果のものはありますが、その多くはおっさんの能力によって攻撃不能になったり、謎の命令によって攻撃不能になったり、氷の魔法の力によって攻撃不能になったりするわけです。
しかし『DQR』ならどうでしょう。“ぱふぱふ”です。
おっさんに行動不能にされるよりも、ゼシカの“ぱふぱふ”によって攻撃不能になるほうが気分がいいですし、謎のおっさんの力によってゾーマ【※】が攻撃できなくなるよりも、“ぱふぱふ”によってゾーマが攻撃できなくなったほうが「ゾーマにも“ぱふぱふ”効くのかよ!」といった話題に繋がりやすいわけです。
カード自体に説明文がなくとも、その1枚1枚が物語をすでに持っている。
さまざまな動機で人が集まれる対戦ゲームというのは本当にすばらしいですし、対戦ゲームは人がたくさんいるだけで、それ自体が大きな魅力を持ちます。
人口が多ければ多いほどいっしょに遊ぶ身近なプレイヤーと出会う確率は上がりますし、身近なプレイヤーと出会えれば、対戦ゲームがコミュニケーションツールになります。
これだけさまざまな人を囲い込み得るカードゲームは、なかなかありません。
2,ルールが簡単かつ奥深い
「『DQR』は難しい」という意見をインターネットの海でよく見かけたり、実際に会った人々にもよく聞かされたりするのですが、僕の考えとしては、それは半分合っていて半分間違っています。というのも、基本ルール自体は決して難しくないからです。
ゲームルールを一行で説明するならば、「ユニットを出し合って相手のリーダーかユニットを殴り、相手リーダーのHPを0にしたら勝ち。たまに特技も使う」くらいのもので、そこまで理解しがたいものではありません。
じゃあそれがなぜ「難しい」と言われがちなのかと言えば、“ちゃんと”プレイしようとすると途端に難しくなるからです。
このゲームは縦3×横2の6マスの中にユニットを出していくというゲームシステムになっており、たとえば1体のスライムを場に出すだけでも6通りの選択肢があります。
“ただスライムを出すだけ”でも、最適解を求めるなら、いろいろなことを考慮して場に出さなければなりません。
『DQR』のシステムをひとつ紹介すると、“ブロック”というシステムが存在します。“ブロック”とは、マス目状の横一列にユニットが並んでいるとき、前列にあたるユニットを倒さなければ、後列にあたるユニットは攻撃できない、というものです。
大袈裟かと思うかもしれませんが、これだけでも本当に奥深く、面白いシステムです。
状況によってはスライムが簡単にやられてしまわないためにスライムを後列に配置し、別のユニットで守る必要がありますし、ある状況では強力なユニットへの集中砲火を避けるため、スライムを前列に配置して壁として使う必要があります。
いまスライムを守るべきか、スライムに守らせるべきか。それが刻一刻と変化します。誰がスライム1枚を場に出すのにこんなに頭を悩ませる日が来ると予想していたでしょうか。
3,成長を感じやすい
成長を感じやすいのもこのゲームのすばらしいところです。たとえばこのゲームには、縦一列に並んでいるユニットに対して一度にダメージを与えるカードがあります。
「よくわからないから適当に配置していたら、テリーにギガスラッシュをくらい全滅してしまった……」といった状況は、きっとこのゲームを始めた人の誰もが通る道でしょう。
ではどうすれば良かったか? テリーと対戦するときは、不用意に縦一列にユニットを並べなければいいのです。
カードゲームというのは運が絡む性質上、往々にして負けた原因がわかりづらいものです。カードの引きが悪かっただけなのか、自分が何かを間違えていたのか……。
その点『DQR』は、試合に負けたあと、「あのときああしていれば勝ったのに!」というのがわかりやすい。「縦一列に並べてしまったから損をしてしまった」とか、「前後の配置を間違えて損をしてしまった」とか、配置のミスは自分で気づきやすいからです。
ということは、ひとつひとつ負けた原因を改善していけば、プレイヤーとしての実力がうなぎのぼりに上がっていくということです。
対戦ゲームの楽しい瞬間のひとつは、自分がうまくなったことを実感できたときです。そういった意味で、この『DQR』は極めてそれを実感しやすい作りになっていると思いました。
4,“人のいるゲーム”を目指している
僕がβテストに参加して大きく感銘を受けたのが、デジタルカードゲームとしてはめずらしい「ギルド機能」でした。
「1対1の対戦ゲームで組織を作ってどうするんだ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、DCG、というか対戦ゲームは、いっしょに誰かとワイワイ言いながら遊ぶのが本当に楽しいものです。
紙のTCGからデジタルのDCGに移行したとき、デジタル最大のメリットは対戦相手を探さなくても家で気軽に対戦できるという点でした。
マイナーなカードゲームだと対戦相手を探すにもひと苦労ということもめずらしくありませんでしたから、DCGのランクマッチというシステムは本当に革命的なものでした。
しかしながら多くの人たちのDCGの遊びかたは、攻略サイトからデッキをコピーし、ランクマッチを回し、勝敗に一喜一憂する、そういったものに定着しつつあります。
紙からデジタルに移行したことによって、対戦ゲームなのにそこに知り合いはおらず、他人しか存在しない一人用の対戦ゲームができあがりつつあるのです。
紙のカードゲームやアーケードのカードゲームのときにありがちだった、知り合いとデッキを見せ合ったりデッキを教えてもらったりする機会、試合が終わったあとに感想戦をしたり、好きなカードについて語らう機会、店舗大会が終わったあとに参加者やスタッフでいっしょにご飯を食べに行くといった機会。
そういったものはみずからコミュニティを探して跳び込まない限り、自然には発生しないものになってしまいました。
これは裏を返せば面倒ごとがなくなったと言い換えることもできますが、しかしそれでも、対戦ゲームには人と半強制的に発生するやりとりから、起こるドラマや友情が少なくはなかったはずです。そしてそれ自体が、対戦ゲームの面白いところであるように僕は思うのです。
ギルド機能は、従来のDCG的な遊びかたを残しつつも、紙のTCG的な面白さも大事にしようとするひとつの試みだと思います。
ギルド内メンバーでデッキを貸し借りしたり、チャットで他愛もない話ができたり、試合を観戦しながらワイワイ言い合える。本来DCGには必要ないとされていた要素をあえて作っているところに、僕は胸を打たれました。
実際この試みがうまくいくのかどうかは定かではありません。でも僕は凄く好きです。ああやっぱりスクウェア・エニックスだ、と。そう感じました。
……これを執筆している時点では観戦機能はまだ解放されていないのでいい話が台無しですが、いいやそんなのは関係ない、「これはすばらしい試みなんだ!」と、僕は声を大にして言いたいのです。
もっといい加減に遊んでもいい?
「ドラクエ」オタクが「ドラクエ」についてカードゲームオタクに説教をし、カードゲームオタクがカードゲームについて「ドラクエ」オタクに説教をする――僕は『ドラゴンクエストライバルズ』で、そんな微笑ましい未来を夢見ました。
対戦ゲームをやるうえで最強を目指すのはひとつの目標ですが、ランクマッチがメインコンテンツになりがちで、しかも“すべてのプレイヤーが強く精進せねばならん”というような謎の意識の高さが業界に蔓延している気がしてならないDCG界隈において、最強を目指そうとすると途端に極寒の大地に立たされることになります。
とくに『ドラゴンクエストライバルズ』はめちゃめちゃに奥深いため、なおさらです。歴戦のカードゲーマーたちがゲーム配信中に「わからん!!」と発狂するくらい、奥深く難しいのです。それを追究していくことは、やりがいはありますが修羅の道です。
※公式による初心者向け動画も用意されている。
ですが、多くの人が目指すべきものではありません。僕はもっとカードゲームは適当に遊んでいいと言いたい。
「ドラクエ」ファンでカードゲーマーの独特な空気に初めて触れた人は、とくにそうです。もっと知り合いといい加減に遊んでもいいのです。
いっしょに対戦ゲームをやるような知り合いが少ない人は、ギルド機能を活かして活発なギルドに参加してみてみると、DCGの思わぬ面白さを発見できるかもしれません。
これだけさまざまな人と話題を共有し合えるゲームはなかなかありませんから、気楽に、勝敗を気にせずに、知り合いとも遊んでみてほしいと思うのです。
……いつになく真面目な話をさせて頂いた。ちょもすでした。
ありがとうライバルズ。ありがとうスクウェア・エニックス。それではまたどこかでお会いしましょう。
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