今後は“運営”の面白さでゲームが選ばれる時代になっていく?『逆転オセロニア』ヒットの裏には地道なコミュニティ作りと真摯な対応があった【CEDEC2020レポート】

 9月2日から9月4日まで開催された、CEDEC2020。その最終日に行われたセッションが、「運営がコンテンツ化する時代 〜2020年代 ポストソーシャルゲーム時代に向けて〜」だ。こちらでは、ソーシャルゲームの運営において、どのようにユーザーと関わり大きく数字を伸ばしていくことができたかについての講演が行われた。

 『逆転オセロニア』は、オセロをベースにしたスマートフォン向け対戦ゲームだ。2020年9月の時点で累計2800万ダウンロードを達成しており、国内でもトップクラスのソーシャルゲームである。こうした現在の数字だけを見ると順風満帆に思えるが、実はここにたどり着くまでにはいくつもの山や谷があった。

 本セッションでは、こうした人気ソーシャルゲームに育っていくまで、どのようにユーザーと向き合ってきたのかという話題を中心に、ポストソーシャルゲーム時代に向けて運営がどのような姿であるべきかについて、『逆転オセロニア』プロデューサーで“けいじぇい”の愛称で知られるディー・エヌ・エーの香城卓氏より紹介が行われた。こちらでは、その模様をレポートする。

取材・文/高島おしゃむ


鳴かず飛ばずの最初の11ヵ月間でファンコミュニティ形成に尽力

 2016年2月にリリースされ、運営5年目に入った『逆転オセロニア』。リリース直後は鳴かず飛ばずで、運営11ヵ月後より急成長を遂げている。しかし、この最初の部分にエッセンスが詰まっていると、けいじぇい氏は語る。

 この最初の11ヵ月にやってきたのが、ゲームを遊んでいるユーザーと直接触れあうリアルイベントだ。当然のことながら、当時は予算もなく会場も狭かった。場所によっては、ひとりしか来なかったところもあったという。それでありながら、なぜこうしたイベントを実施し続けていたのだろうか?

 その理由は、「同じゲームを遊んでいる人が他にもいる」ということを知ってもらうためだ。運営側は数字が見られるため、ユーザーの人数は把握できる。しかしユーザー側からすれば、5万人のユーザーがいたとしても、そのほかの4万9999人の存在を運営と同じように知ることはできない。だが、リアルイベントが開催されることで、自分の街にも同じゲームを遊んでいる人がいることを実感することができるというわけである。

 こうした地道なファンコミュニケーションへの注力と、2016年末に実施した大きなプロモーションの効果で、一気に人気に火が付いていった。ゲームではよく、「初動が勝負だ」と言われることが多い。
 だが、『逆転オセロニア』もオリジナルタイトルであったため、ファンがいないところからのスタートだった。そのため、ファンコミュニティを形成することに力を入れていったのだ。

ユーザーを繋げる「コミュニティマネジメント」が必須の時代に

 なぜ最初にコミュニティ作りからスタートしたのだろうか? それは、「数は多くなくとも、プロダクトのまわりにいる人たちを大事にしなければいけない時代になってきている」と考えたからだ。

 ツイッターなどで新しいゲームが登場したときなどに、「このゲームやった方がいい?」という投稿をよく見かける。これは、商品やプロダクト自体を見てゲームを遊ぶかどうか判断しているのではなく、その周りにいる人たちの意見や集合知を確認しているのだ。
 たとえばラーメンを食べに行くことになったときに、種類や歩いてどれぐらいかといった情報だけでは判断しにくい。しかし、そこにユーザーの評価が加わっただけで、一気に心が動く。この「★が付いただけで起きた心の中の変化」が時代の本質だと、けいじぇい氏はいう。人の意見は軽視されることもあるが、意外と重要なのだ。

 従来までは、ゲームの魅力が価値を決めていた。しかし現在は、プロダクトのまわりにいるコミュニティが「ゲームをどう評価しているか」ということが、価値を決める時代になっている。つまり、「コミュニティマネジメント」──ゲームのまわりにいる人たちを、いかに繋げていくかという技術が必須の時代になっているというわけだ。

知り合いにゲームを届けているという感覚になっていく

 オンラインイベントでは、テキストベースのやりとりだけになり、なかなか難しい部分が多い。しかし、『逆転オセロニア』では「メタバース」を、オンラインやゲームの中ではなくリアルグラフの中に作ると決めて実行していった。

 『逆転オセロニア』では、「オセロニアンの宴」という名前で全国ツアーを年間30本ほど実施している。これはショーを見に来てもらうことが目的ではなく、その街にいるオセロニアンたち同士でコミュニティを形成してもらうために行っているのだ。

 こうしたイベントを続けていると、運営側としても大事な知り合いにゲームを届けるという感覚になっていく。単純にアクティブユーザーの数値だけを見ていても、その中に誰が含まれているのかはわからない。しかし、地方にいるひとりのユーザーがゲームを辞めるという話を聞くと、かなり傷つく。
 これは数値的には数十万人のうちの「-1」にすぎないが、実際に近くでやりとりをしていることにより人間関係も見え、運営とユーザーという関係よりも、知り合いにゲームを届けているという感覚になっていくのだとけいじぇい氏は語る。

突出した能力を持ったキャラクターの登場がゲームバランスを破壊

 コミュニティ作りが上手くいき、波に乗ったかのように思われた『逆転オセロニア』だったが、2018年に突如暗雲が立ちこめる。そのきっかけとなったのが、2018年1月に実施した「正月ガチャ」で、環境から大きく突出した性能のキャラクターが登場したことだった。

 問題のキャラクターが登場してしばらくたってから、ユーザーから「このキャラ出せば勝ちじゃん」というような意見が目立ってきた。強いキャラクターを喜ぶユーザーもいるが、『逆転オセロニア』の本質はオセロを使った対戦ゲームだ。そのため、自分の実力が反映されなかったりデッキのレシピが活かされなくなってしまったりしたのである。

 運営側もこうした問題を重視しており、1年以上にわたって対策をしたが根本的な解決にはいたらなかった。その後、1年が過ぎた2019年2月の3周年をピークに、じりじりとアクティブユーザーの数が減少していってしまう。

 「これはまずい」ということで、2019年に実施する予定だったすべての計画を停止。この問題に向き合っていくことにした。2019年8月31日に、どのように問題に対処していくかユーザーに説明する「運営方針説明会」を実施している。ここで、4ヵ月後の2020年1月1日に問題を解消することを約束した。

 こちらでは、ぼんやりとした目標を語るのではなく、詳細なデータを提示してユーザーに問題を共有している。ゲームの対戦環境では、勝率が50パーセントに近づくほどいい状態だといえる。当然のことながら50パーセントから乖離していくほど体感も悪くなるのだが、問題のキャラクターは「先行先置きを4ターン以内」にできると、勝率が82.3パーセントにもなっていた。

ユーザーに約束した直後に過去最大の大炎上

 こうしたデータを包み隠さずユーザーに出し、問題を解決することを宣言。イベント終了後は、参加したユーザーから多くの声援が送られた。しかし、この翌日に起きたのが、『逆転オセロニア』の運営史上過去最大となる炎上だった。

 8月31日のイベント終了後の日付が変わり、9月1日に新たなキャラクターのプロモーションが公開された。そこで、前日のイベントで問題があると紹介していたキャラクターたちが、新たにガチャに登場したキャラクターと相乗効果があるという打ち出し方をしてしまったのである。結果的に実際の効果は違ったものの、意図した見せ方になっておらず大炎上となってしまった。

 ユーザーに約束した4ヵ月間という期間は、説明するもののどうにもならない部分もあった。しかし、けいじぇい氏は「逃げないことが大事」だと考えた。そこで、定期に様々なテストを実施。ユーザーの意見を聞きながら数値やシステムの機能を決めていった。
 また、毎月実施していたライブ配信では、ほとんどすべてのコメントにも答えていき、「お知らせ」で済まして逃げるということはしなかった。

 約束の4ヵ月後、2019年12月31日の夜からけいじぇい氏のデスクから生中継を実施。この4ヵ月間に実施してきたことと、1月1日から変わることを直接ユーザーに説明している。こうした努力を続けた結果、100点満点ではないにせよ再びユーザーに受け入れてもらうことができた。

 この間も、様々な意見をくれたコアコミュニティのユーザーたちがいたが、その人たちがこの新たな改善を多くのユーザーたちに発信してくれた。こうした意見を耳にして、すでにゲームを辞めてしまったユーザーも戻ってきてくれたのだ。

運営5年目でDAUが2.2倍に! しかしコロナ禍でリアルイベントの実施が中止に

 大きな波を越えて、今年の2月には4周年のイベントを実施している。記念日ということもあり、「オセロニアンでよかった」という声であふれていた。DAUベースでも、2020年1月から2月にかけて、なんと運営5年目にして2.2倍に増加している。運営がコンテンツ化する時代で、どんなスタイルでプレイヤーや課題に立ち向かっているかが、ユーザーの大きな評価軸になっていることの現れだとけいじぇい氏はいう。

 再び順風満帆に……といきたかったタイミングで起きたのが、今回のコロナ禍である。この影響で人が集まることが難しくなり、全国で開催していた『逆転オセロニア』のリアルイベントや大会も開催できなくなってしまった。

 先ほども少し触れたが、ゲームにおける「メタバース」はリアルな場所で展開している。リアルで会ったことのあるユーザーの姿は知っているが、その人の本名や職業まではわからない。
 その人のリアルな姿を見てアカウントを知り、環境を作っていくというゲームなのだ。そのため、リアルイベントで会えないことがもたらすモチベーションの低下も大きくなってしまう。

 このコロナ禍でも、アクティブユーザー自体はあまり減ってない。だが、そこはあまり注視しておらず、コアコミュニティのコンディションにすべてのフォーカスを合わせているため、痛みはあるという。

 そこで、このコロナ禍でしかできないオンライン大会「オセロニアンダブルス2020」を企画している。こちらは、2対2の大会をオンラインで実施するというものだ。リアルに会えない中で、どのように絆を深めることができるか検討した結果、Zoomの画面共有機能を活用して行われることになった。こちらも、コロナ禍というハンデを克服するための運営の挑戦でもあるのだ。

けいじぇい氏が考えるポストソーシャルゲーム時代の5大予想

 こちらのセッションでは、大きく分けてふたつのテーマが語られたが、ここまでが『逆転オセロニア』の運営がどのようにユーザーと関わってきたのかというストーリーだった。それとは別に、けいじぇい氏が考えるポストソーシャルゲーム時代の5大予想が紹介された。

 ひとつ目は、「『ファン』という言葉の定義が変わる」だ。いま「『逆転オセロニア』のファンなんですよね」と聞くと、「ゲームがすごく好きな人かな?」ぐらいの感覚だ。しかし、今後5年ぐらいで、ファンという言葉は「ゲームを遊んでいる人」ではなく、「運営が好きな人たち」を指す言葉に変わっていくとけいじぇい氏は考えている。

 ふたつ目は、「コミュニティがオープンから『クローズド』へ」だ。どんなゲームにも、コミュニティは存在する。ツイッターなど、オープンな形で薄くコミュニティが存在しているが、この時代から加速度的に変化していくのがクローズドなコミュニティへの変化だとけいじぇい氏は語る。

 コミュニティを語るときに重要となるのは世相の変化だが、なかでも重要となる問題は、ネットでの誹謗中傷だ。中には法的なことまで発展することがあるが、コミュニティを形成するときに誹謗中傷を見たくないという意見も増えてきている。そして、これこそが時代が傾きつつあるところでもある。

 自由になんでも言えるところから、自分たちが好きなスタンスの人たちと自分たちが好きなゲームの話ができるように細分化されていく。100万人のインフルエンサーが数人発信するよりも、1万人の配信者がいるゲームの方が強くなっていくというイメージだという。

 3つ目は、「会社でも個人でもなく『チーム』が業界の単位になる」である。以前は会社自体がブランドであり、ヒットタイトルを作ったクリエイターが注目を集めていた。しかし、けいじぇい氏が予想するこれから先の10年間ではチームが一番重要な単位になると考えている。

 ユーザーは遊んでいるゲームがどの会社が作っているのか、あまり意識していない。クリエイター個人へのファンもいるが、その層も薄くなりつつある。そこで、これから起きると予想されるのが「次に運営チームが挑戦するの何か」ということへの興味だ。実はすでに中国では、3年ほど前からチーム単位でのヘッドハンティングが行われている。日本でも、こうした流れが増えていくのではないかという。

 4つ目は、「『お金の使い方』が最大のマーケティング手法になる」だ。ネット上で簡単に配信ができるようになり、全体的なリテラシーが上がってきている。業界の裏側やビジネススキームなども、ユーザー側もある程度わかっている上で行われている。

 2010年代は、セールスランキングの10年間だった。しかし最近では、セールスランキングの数値が自分たちにとってどんな意味があるのかという乖離に、ユーザーが少しずつ気づき始めてきており、動画配信でも投げ銭などのギフティングが当たり前になってきた。
 これには「誰かを応援したい」というユーザーの思いが込められており、そうした応援する気持ちが、結果的にユーザー側の利益にも繋がるという風潮が広まりつつあるということだ。こうした流れが、ソーシャルゲームにも生まれてくるとけいじぇい氏は予想している。

 5つ目は「『運営』というストーリーの面白さでゲームが選ばれる」である。今回のセッションでは、ほぼゲーム画面を出さずゲーム内容についても触れてこなかった。それは、運営チームがどのようなストーリーでこれまで活動してきたか紹介したかったからであり、そのことに共感してもらいたいからだ。

 「過去に炎上したYouTuberが、今は普通に活動している」という情報だけ知っているというケースがよくあるが、それはまさしく運営が活動してきた軌跡がストーリーとして広まっているということだ。そうしたことは、ソーシャルゲームにも起きてくるという。そしてソーシャルゲームの面白さは、ゲームの面白さだけではなく、運営の面白さをくわえたふたつの軸によって決まっていく時代になると、けいじぇい氏は力説しセッションを締めくくった。

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