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ゲームの「キービジュアル」の歴史を振り返る。レコードジャケット調から技術革新アピール、そして現代へ【CEDEC2020レポート】

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ゲームの「キービジュアル」の歴史を振り返る。レコードジャケット調から技術革新アピール、そして現代へ【CEDEC2020レポート】_001

 新型コロナウイルスの影響で初のオンライン開催となったCEDECが、9月2日(水)から4日(金)までの日程で開催されている。初日となる2日には、バンダイナムコスタジオの指田稔氏によるセッション「オールドビデオゲームのキービジュアルを読み解く 歴史の中での役割とその価値の再発見」が行われた。
 過去、ゲームのキービジュアルとして使われた原画がどのような扱いを受けていたのか。そして今、どのような価値を持たせようと活動しているのか。非常に興味深い内容が語られた本セッションをレポートする。

取材・文/早川清一朗


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「えっ捨てた!?」キービジュアルのサルベージレポート

 冒頭、指田氏の口からは、「古いビデオゲームのキービジュアルの原画は捨てられてしまっていた」という衝撃的な発言が飛び出した。
 キービジュアルとはゲームのパッケージやポスターに使用されている、一目見ただけで作品の世界観を伝えるという重要な役割を果たす絵のことを指す。1970年代から80年代のナムコではイラストレーターや画家に発注されており、非常に精緻に描かれたキービジュアルは見た瞬間に極めて強いインパクトを与えるだけの存在感を持っている。ゲーム文化の一翼を担うにふさわしい存在だ。

 筆者も多くのビデオゲームに触れてきたが、1970年代から80年代にかけては今のようにゲームについての詳細な情報が発売前から公開されるわけではなく、ポスターやパッケージに使用されているイラストを見てなんとなく世界観を想像し、プレイないしは購入を決めたことはしばしばあったように記憶している。それだけキービジュアルが持つ力は大きかったのだ。

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 しかしながら、キービジュアルは写真撮影されてポジとして関係各所に配布される形で使われており、撮影が終わるとされるとその後は不要になってしまう。いわゆる中間素材的なポジションだったため、その後は倉庫にしまい込まれたり、関係者が保存しているケースが多かったそうだ。

 指田氏自身、日々の仕事の中で原画はたまに見かけることはあったものの、「会社のどこかに保管されているんだろうな」となんとなく思っていたというのだから、どれほど顧みられない存在だったのかが伺える。

 状況が変化したのは2010年ごろ。オールドナムコの復刻商品がいくつか発売されたとき、指田氏が耳にしたのは「原画がなかったため印刷物から複写して復刻した」という話だった。そこで担当者に確認したところ、「80年代の代表的作品の原画は行方不明だ。おそらく廃棄されたのではないか」と聞かされ、軽くショックを受けて原画の所在を探り始めたと語ってくれた。

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 そこで指田氏は「仕事というよりほぼ趣味」程度のノリで原画の追跡調査を開始し、これまで一元管理が行われていなかったことを突き止める。

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 原画はポスターを制作する販促の部署に預けられたのちに開発側に帰ってくることもあれば、そのまま戻ってこないこともあり、散逸の一因となっていた。仮に開発側に戻ってきても担当者が自分のロッカーに保管している場合もあり、退職などの理由により行方不明のままとなっているものも存在していたそうだ。
 さらには引っ越しや倉庫を引き払う際に捨てられてしまっているパターンもあり、特にナムコのような大きな会社では、規模拡大や大規模なフロア移動などもしばしば行われていたため、その際に紛失・廃棄してしまっていたという衝撃的な話が明かされた。

 ただ、コンシューマータイトルに関しては、社内のグラフィックデザイン部門で丁寧に保管されていることも判明している。そのため、アーケードからコンシューマーに移植されたタイトルの中には、アーケードの原画類がコンシューマーの販促で使用されたためにそちらの部署で保管されており、廃棄を逃れたタイトルも多かったのだそうだ。

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 そうしてヒアリングや調査を続ける中、ある倉庫に鍵が紛失して開かないままになっている保管ロッカーがあることを突き止めた指田氏。社内の有志を募り、ある日の夕方、バールやドリルを持って確認に向かい、無事にロッカーを開けることに成功したのだそうだ。

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 このときの倉庫調査により、非常に多くのポスターのサンプルと共に数十点の原画のサルベージに成功。見つかったのは80年代半ばから90年代半ばのアーケードタイトルの物。ただ、特に高い人気を持つ作品については、イベントの展示などに貸し出されたりするなどの理由で開発側が保管していたことが多く、倉庫引き払いの際に処分されて失われる結果を迎えていたのは皮肉というほかはない。

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 2015年の本社引っ越しの際には指田氏が音頭を取って関係部署に声をかけ、多くの原画の集約に成功している。それでも捨てられる直前にゴミ集積所に積まれていた物を保護するなどギリギリの状況での作業となり、指田氏も「思い入れがある人間が誰か声を出さないとゴミとして消えていく状況を思い知った」と、原画が置かれている危機的な状況を語ってくれた。

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 そもそもの疑問として、なぜ価値がありそうな原画が捨てられてしまうのか。指田氏はその理由を「用が済んだものだし、置いておく場所もない」というシンプルなものだと語り、「モノというのは持っているだけで場所を占有する。イコールお金がかかる。日々新製品を開発している現場において、中間成果物を無尽蔵に保管するのは物理的に難しい。日々前に進んでいる現場において、開発が終わったら捨てるという判断は、ある意味当たり前だと思います」と、開発現場ならではのジレンマがあることを指摘した。

データベース制作とデジタルデータ化

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『オーダイン』

 思い入れがあるだけでは保管する理由にならないと痛感した指田氏は、オールドIPの価値を新たに定義してアート・資産としての価値を高める施策に着手。
 手始めに行ったのはバンダイナムコスタジオ新社屋1階の壁面にキービジュアルの展示。原画は手描きのアートのためポスターなどの印刷物よりも絵としての情報量が圧倒的に多く、かなりの迫力があるそうだ。

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富士宏氏の手による『ワルキューレの伝説』
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 この展示により原画の存在がグループ会社にも周知され、「あるなら使わせてもらいたい」「原画を展示したい」というニーズが増加。2019年には集積した原画類の整理精査とデータベース化、保管環境の改善を行い、指田氏は「ここでようやく趣味ではなく仕事になりました」と少しほっとしたような様子で語った。

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 指田氏は原画類保存とデータベース化のために古美術や古文書の扱いに慣れた専門のスタッフを招き入れ、3か月かけて約400点の原画を該当商品名・年代・状態・作者などをリスト化。同時に古い原画のクリーニングもほどこし、良好な状態で保存できるようになった。ただ、いまだに詳細な内容が不明な原画もあり、それらについては社内の古参社員へのヒアリングを行うなど、現在も調査をおこなっているそうだ。

 原画のデジタルデータ化も進められており、スキャナーと写真撮影により600dpi相当の解像度で取り込みが行われたあと、ゴミ・ノイズ修正、色調補正が施されすぐに使用できる状態となっている。再現度については写真撮影の方が高いが、相応のコストと手間がかかるため、一部の原画のみで採用している。

 現在は140点ほどがデジタル化されており、内10数点が写真撮影で大型ポスターにも対応できるリマスター化が行われていると明かされた。

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(左)『ギャラクシアン3』 (右)『スターブレード』
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長岡 秀星先生の手による『ボスコニアン』のB1サイズ原画
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(左)PCエンジン版『ワンダーモモ』は漫画家・イラストレーターのときた洸一先生の手によるもの(右)アーケード版『ワンダーモモ』。両方ともセル画仕上げ。
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(左)『源平討魔伝』。(右)『超絶隣人ベラボーマン』作者は雨宮慶太氏
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『スプラッターハウス』。サイズはB2サイズ
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(左)富士宏先生による『ワルキューレの伝説』イラスト (右)『ワルキューレの冒険 時の鍵伝説』

リマスターデータの利用例

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『ゼビウス』の自機ソル・バルウの雄姿

 こうして保存・リマスターされたデータの活用も行われ始めている。惜しくも2020年8月で閉店してしまったが、VR体験施設「MAZARIA」の店舗からはSFモチーフのパネルを置きたいとオーダーがあり、10点ほどチョイスして大判のポスターとしてデザイン構成が行われたとのだそうだ。

 タイトルが発売された当時でもこれだけ大型のサイズで原画を使用したことはなく、「これだけでもリマスターした価値はあったかな」と指田氏は語ってくれた。

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ここで使用された原画はサルベージされたもの

 また、フランスのアートウォッチブランド「ラプス」とナムコの80年代キャラクターによるコラボレーションウォッチも発売されている。ここで使われた原画はサルベージにより発掘されたものがチョイスされており、ライセンス商品としては初めて世の中に出てくるものばかりだそうだ。

 このようにリマスター化、データベース化により利用しやすい環境を整え、サルベージされた原画に商品価値を生み出した指田氏の手腕には驚かされる。

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 ただ、今後の課題としては、90年代後半から00年代のデジタル作画によるキービジュアルのデータベース化が、難しい問題として浮かび上がってきているそうだ。
 所在を掴むのが紙以上に難しく、かつて使われていた保存媒体であるMO(光磁気ディスク)やDAT(デジタル・オーディオ・テープ)、あるいは誰かのPCにしか入っていない可能性もあり、サルベージは困難を極めると予想されるため、まだ手付かずの状態だ。また、古いデジタル画像は解像度が低いという問題も存在しているので、問題の根は深い。

キービジュアルの読み解き

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 キービジュアルとはそもそも、商品のコンセプトを的確にユーザーに伝えるものである。それによって、ユーザーの「面白そう!やってみたい」という意識を喚起させるものだ。コンシューマーで言えば、パッケージ買いを誘発するような魅力的なデザインであることが求められている。

ナムコ初のキービジュアルは『ギャラクシアン』

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 これは1979年にアーケードで発売された『ギャラクシアン』というタイトルで、ナムコにとって初めてキービジュアルを制作した記念碑的作品となる。『ギャラクシアン』以前はキャラクターを単独で描き起こすことはあったものの、こうした一枚絵としては初となる。

 しかしよくよく見ると、黎明期の作品らしい不慣れな部分も見受けられる。まずビジュアルには「文明への挑戦か 宇宙怪獣来襲! たて! 銀河戦士!!」と書かれているが、果たしてそれがどういう意味なのかよく分からない。絵に描かれた戦闘機らしき機体にはよく見るとふたりのパイロットが登場しているが、これが銀河戦士ということなのかもしれない。
 しかし機体のデザインはどちらかというと敵寄りで、世界観は提示されているが、ゲームとの整合性はまったくない。初期のゲームはハードウェアの表現力が低いため、キービジュアルには想像力を喚起する役割が求められていたのだと思われる。

 ただ、今でこそビデオゲームはアニメやコミックと近いレイヤーにカテゴライズされているが、1970年代後半のデザイナーは見ているレイヤーが異なっていたそうだ。まだビデオゲームの文脈が存在しない時代、当時最先端のグラフィックであるビデオアートにふさわしいビジュアルはどういったものなのか、手探りの状態で行われていた。

 世界観を咀嚼して一枚絵を作り上げる工程は、アニメやコミックよりもむしろレコードジャケットの制作に近く、『ギャラクシアン』についてはファンタジーとSFを融合させておきながら、当時流行していた『宇宙戦艦ヤマト』などのSFアニメ作品の影響を感じさせないアートに仕上がっている。これについて指田氏は当時のクリエイターに大きな影響を与えた画家・イラストレーターのロジャー・ディーンの影響が強いと指摘。初期のナムコ作品のいくつかは、同様に影響を受けていると語った。

『ゼビウス』の原画は書き換えられていた

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 1983年に発売された『ゼビウス』は当時の水準としてはかなりハイレベルなグラフィックを誇る縦スクロールシューティングゲームで、一世を風靡した名作だ。世界設定も丁寧に練られており、自機「ソル・バルウ」はもちろん敵や地上の構造物含めて事前にデザインが起こされており、ゲームのビジュアルに反映される形で開発が行われていた。現代では当たり前のことだが、当時としてはきちんと順序だてて制作が行われることは珍しかったのだそうだ。
 またバックストーリーや設定、世界の文化なども作りこまれており、ナスカの地上絵のようなユーザーが興味を持ちそうな仕掛けがあり、調べてみるとより深い世界観があるという要素が用意されていた。

 ゲームが何点のスコアを取ったという段階からステップアップして、世界観を楽しむ転換点となった作品だと、指田氏は『ゼビウス』がゲームの歴史を変えたと指摘した。

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 自機「ソル・バルウ」のイラストは精密なメカニックが書き込まれており、質感がアピールされている。ただ、この時代は原画に手を加えてしまうこともあったそうで、上のイラストと見比べてみると、背景の稲妻とエンジン炎が書き加えられている。これはナムコが独自に発行していたフリーペーパー「NG」の創刊号の表紙として使用するために、ポジを撮影した後の原画に直接描き込まれている。

失われた『ドラゴンバスター』

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 『ドラゴンバスター』のキービジュアルは一目見ただけでプレイしたくなるような壮大な世界観を、細緻なテイストで見事に表現している。しかしこの原画は失われたもののひとつだ。1984~85年ごろは『ザナドゥ』『ドラゴンスレイヤー』『ブラックオニキス』などファンタジーモチーフのゲームが多く、その影響を受けているのではないかと指田氏は指摘した。

ゲーム機の性能向上が手描きのビジュアルを追いやった

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 これはプレイステーションのローンチタイトルとして発売された『リッジレーサー』のキービジュアルだ。しかしジャケットには使われていない。その理由は、プレイステーションが家庭用ゲーム機として3Dを利用できるようになった歴史的に大きな意味を持つハードウェアだったため、ジャケットにもCGを使用してアピールしたいギリギリの判断が働いたと、指田氏は少し残念そうに語った。

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 こちらがCGを使用して作られた実際のジャケットとなる。次世代機戦争で知られる過去のハードとは隔絶した性能を持つプレイステーションとセガサターンが登場したことにより、ゲーム画面に多少手を加えるだけでパッケージイラストを作成できるほど、ゲームのグラフィックが向上したともいえる。

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 キービジュアルは最終的に、上の画像のように裏に使われている。このころから手描きは減り始め、キービジュアルはCGへと移行していく。

ゲームの内容よりも技術的革新が最優先

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 これは1995年にプレイステーションで発売された『JリーグサッカープライムゴールEX』だ。

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 こちらはスーパーファミコンで発売された『プライムゴール1~3』となる。Jリーグ公式であることや、楽しげなキャラクターたちがアピールされている。

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 改めて見てみると、スーパーファミコン版とは発想そのものが隔絶したデザインであることが理解できる。ゲームの楽しさや内容よりも、「今回はCD-ROMですよ」という技術的革新を最優先しているのだ。この時代のCD-ROMへの期待感が強かったことが読み取れる事例だろう。

現代のキービジュアルについて

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 90年代後半にはキービジュアルが手描きされることはほぼ無くなった。膨大な数のタイトルが発売されるようになり、ゲームにはよりユニークなコンセプトが求められるようになった。内容も複雑となり、キービジュアルにはより一層コンセプトを一瞬で理解できる機能が求められていった。

 そもそもゲームとは商品であり、ユーザーの満たされていないニーズ(ベネフィット)をさまざまなアイデアで叶える役割を持っている。

 そのため、キービジュアルは「商品コンセプトを、きちんと魅力を余すこと無く表現できているか」「その世界の持つ雰囲気がキャラクターやビジュアル要素を伴って魅力的に表現できているか」という要素が必須となっている。

ビジュアルに対する挑戦『エースコンバット7』

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 これは昨年発売された『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』のキービジュアルだ。「エースコンバット」シリーズは初期からニーズ、ベネフィットがしっかりと定められている。それは「プレイヤーはエースコンバットを遊ぶことで、最先端のリアルグラフィック感を360度自由に飛び回る爽快感と共に、自分の判断で敵を定めて次々と敵機を撃墜する快感を得ながら、難局を勝ち抜いていくエースパイロット体験ができる」というものだ。

 これをどのようなアイデアで実現するのかが「エースコンバット」シリーズの課題なのだそうだ。毎回ビジュアルに対する挑戦があり、それがコンセプトに直結していると指田氏は語ったが、そのコンセプト自体はかなり分量があり、今回は割愛となった。
 ただ、キーワードとしては「密度のある雲が空を埋め尽くす空間で、気流変化や乱気流による機体への影響や天候や時間帯などによる大きな変化」といったものが強調されているそうだ。

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 開発チームからはビジュアルのイメージとして「雲の中を突き抜けて現れる戦闘機と手前にいるキャラクターが向き合う瞬間」というコメントも届いており、空を飛ぶゲームであるとともに、物語性を表現しているのだそうだ。カメラはロングでとらえ、戦闘機は本来巨大な物であることを強調している。雲の中の建造物に人がおり、そのすぐそばを戦闘機が高速で通過しようとしている。様々な状況を想起できるよいビジュアルだと指田氏は褒めたたえた。

新作タイトル『テイルズ オブ アライズ』のキービジュアルも

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 これは現在制作中の「テイルズ オブ」シリーズ新作タイトル『テイルズ オブ アライズ』のキービジュアルとなる。指田氏いわく「見せてもらったときにかっこいいなーと思ったので、無理言って借りてきました」とお蔵だしの逸品であることが明かされた。

 作品のキーワードは「『テイルズ オブ』シリーズの新生をイメージする夜明けとしての「アライズ」というタイトル。伝統の継承や革新と進化が開発コンセプトであり、若いファン層、広いユーザー層に訴求していくために没入感の高い体験を目指しているそうだ。長く続く「テイルズ オブ」シリーズには多くのファンがおり、コンセプトの開発は毎回慎重かつ大変な苦労があると思われると指田氏は語った。

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 ビジュアルではキャラクターたちが過酷な環境に置かれており、かなりダークなイメージでまとめられている。焼けた鉄のような剣、荒廃した舞台、女の子の顔はチラ見せと、興味を引く内容となっている。

オールドIPには資産としての価値がある

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 指田氏はオールドIPの集積・整理の際に「常に新しいものを生み出し続ける開発会社が昔の物に固執するのは後ろ向きじゃないの?」という意見をもらったことを明かし、「読み取り方によって全然別の価値が出てくる。オールドIPは整理、デジタル化することで需要を促進できる。現代においても開発者の資産としての価値を持っている」と、過去の資産から現代に需要を生み出せることを確信したと語ってくれた。

 最後に指田氏は、今後はゲームのキービジュアルを広く一般に向けて、アートとしての見方や価値を広く提供していきたいと思っていると語り、セッションを締めくくった。

 今後、懐かしいビジュアルがどのような形でファンの前に姿を現すのか。かつてナムコの『メルヘンメイズ』『ワルキューレの伝説』『ドラゴンセイバー』などのタイトルを楽しんでいた一人のオールドゲーマーとして、指田氏の活動を応援するとともに、思い出深いあのキャラクターたちと新たに出会える日を楽しみにしようと思う。

ライター
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ゲーム&アニメ&シナリオ&eスポーツライターを名乗る謎の生物。それぞれのジャンルでインタビュー・イベント取材・コラム・レビューをこなす何でも屋。

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