フリーランスという働き方がある。
特定の組織や会社に属さず、個人の裁量で仕事をする働き方だ。その数は今や1000万人、働く人の5人に1人がフリーランスというデータもある。
ゲーム業界も決して例外ではなく、今やイラストレーターや筆者のようなゲームシナリオライターなど、多くのスタッフが直接的・間接的にフリーランスとしてゲーム開発に加わっている。
フリーランスは個人の裁量で自由に仕事ができる反面、クライアントの経営状況への依存度が高く、不況下では仕事が激減しやすい。
そして今、全世界がコロナ禍の脅威にさらされている。新型コロナウイルス感染者数の動向は未だ目が離せないし、外出自粛の影響で国内外の経済は大きく悪化している。今年、仕事が激減したフリーランスの例など枚挙に暇がないだろう。
記事の性質上、ここで私事を差し挟むことをご容赦頂きたいが、筆者もその一人だ。まず筆者の職業はライターであり、主な収入源はゲームシナリオライティングと本(小説や実用書)の執筆による原稿料や印税ということになる。
ここ数年は子育てのため仕事量を減らしていたが、その子供も今年から幼稚園に通う予定だったので、この春から仕事量を増やす予定だった。ところが、非常事態宣言に伴い幼稚園は休園。予定が大きく狂ってしまった。
また、以前こちらの記事でも書かせて頂いたが、幸いなことにゲームシナリオ業界は昨今隆盛であり、筆者もあるゲーム開発案件に一年以上前から参加させて頂いていた。世界観設定にシナリオ管理、ライター集めにイラストレーター推薦と、気合いを入れまくっていた案件だ。
この10年でゲームシナリオ業界に起こった5つの変化──それは『チェンクロ』『グラブル』『FGO』から始まった
ところがだ。ゲーム業界はコロナ禍にあっても比較的被害が小さいと言われているものの、世界規模での経済悪化による影響は避けられない。守秘義務があるのでフェイクを入れている点はご容赦頂きたいが、筆者が携わっていたその案件にはゲーム業界以外の資本が入っていたことが災いし、中止になってしまった。
筆者にとってもう一つの飯の種であった出版業界も怪しい。
出版業界もまた、コロナ禍の被害は比較的小さいと言われている。たとえば緊急事態宣言下にあって、子供用のドリルや絵本は売り上げを伸ばし、また一部ジャンルの電子書籍も好調だったからだ。
だがその一方で、大きな悪影響を受けている部門がある。詳しくは後述するが、小説の新作などはその影響が特に顕著だった。
幼稚園の休園、プロジェクトの消失、出版業界の異常。どれも筆者の収入に大きな悪影響を与えるものばかりである。
ところでフリーランスは、『個人事業主』と一括りにされることがある。フリーランスと個人事業主は同じ意味ではなく、フリーランスとはあくまで働き方の一形態をさす言葉だ。ただ税制面での優遇などがあるため、フリーランスのほとんどは個人事業主として確定申告をしているのが現実だ。
そして現在、国はコロナ禍対策として、フリーランスを含む個人事業主向けに多くの支援制度を用意している。そこで筆者もコロナ禍を乗り切るため、そういった多くの制度を最大限利用してみた。この記事は、その際に特に重要だったポイントの解説記事となる。
国の制度や法律というのは、ただ知っているか知らないかだけで享受できる利益に著しい差が生じる。一方で「この補助金は実はこういう状況でも適用できる」といった事例はなかなか周知されず、先日大きな話題となった「同人ゲーム開発が文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」として認められる」というニュースはその典型だろう。実際、筆者が申請した補助金にも日本初の事例とされるものがあった。
同人ゲーム開発が文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」として認められる。イベントに参加し作品を頒布するなど、活動実績があれば認可の可能性
また、個人事業主向け支援制度について解説したサイトはすでに無数にある。ただ個人事業主にも様々な業種があり、「店舗を持っている」「従業員を雇っている」「納付物の内容」などで状況は変わってくる。そうした個人事業主すべてを一括りにして解説すると、読む必要のない解説が増え、非常に分かり辛くなってしまう。
そこで本記事では、
・フリーランスの働き方をしている
・個人事業主として確定申告している
・成果物を納品する仕事をしている(基本的に業務委託契約を締結の上で)
・一時的に企業に雇用されることもある(常時雇用ではない)
・一時的に人を雇用することもある(常時雇用ではない。また青色専従者は除く)
・経費は計上するが仕入れはない
これを『クリエイター系フリーランス』と定義し、同職種に対し高い確率で有益となる制度に限って解説する。なお、必ずしも上記の条件にすべて合致していなければ参考にならないというわけではなく、フリーランス全般にもそれなりに参考になるとは思う。
特に、筆者が実際に申請した経験に基づいて「あまり知られてないがこの補助金・給付金はこういった使い方ができる」といった観点から解説することで、より実用的な記事になることを目指している。筆者と同様、コロナ禍の被害を受けている同業者諸氏に少しでも参考になれば幸いだ。
文/師走トオル
はじめに:「補助金」と「給付金」の違いについて
まず最初に、国が用意してくれている制度は色々とあるが、本記事で解説するのはフリーランスを含む個人事業主向けの『補助金』と『給付金(支援金含む)』の二種類に絞っていることをまず申し上げておきたい。
理由は明白で、単純に効果が非常に大きいからだ。
たとえば給付金とは、ようするに国から支給されるお金だ。特別定額給付金の10万円が国民全員に支給されたことは、記憶に新しいところだろう。
補助金は国からお金が出るという点では給付金に似ているが、用途が限定されている。具体的には「特定の事業や取組のため、一定の条件を満たした経費について、その3分の2を国が補助する」といった形だ。
言い換えれば、個人事業主としてなんらかの支出をしなければ一円ももらえないのだが、経費がゼロというフリーランスはおそらく存在しないだろう。そしてどうしても必要な経費の3分の2が支給されるとなれば、かなりの額になるという点はご理解いただけると思う。
余談ながらつい最近も、『菅内閣が少子化対策のため、新婚生活60万円補助へ』というニュースが話題になった。「結婚しただけで60万円も払うのか! 偽装結婚が増える!」といった批判的な論調を目にした人は少なくないと思うが、これも給付金ではなく補助金であることに注意が必要だ。
詳しい解説は避けるが、この制度を利用して本当に60万円をもらうためには、まず家賃や引っ越し代などの費用として120万円を支出しなければならない。通常の新婚家庭にとっては便利な補助になるだろうが、この制度で詐欺を行うのはなかなか難しいのではないだろうか。
国の支援制度としては、他にも『低金利の融資』や、保険料を安くする『減免』といった制度もある。ただいずれも個人の経済状況に依存するところが大きく、また誰もが受けられるわけではないという観点から、本記事では触れていない。
また、本記事は10月上旬に執筆されたものだ。各制度には頻繁に変更が加えられており、10月以降に変更があった制度については、本記事ではサポートしかねる点だけはご了承いただきたい。
1.最大100万円支給の持続化給付金
さて、最初に解説するのが『持続化給付金』だ。
ただこれについては、すでにご存じの方や、申請済みの方も多いだろう。その場合、当然ながら本項は読み飛ばして頂いて構わない。
この給付金は、「条件を満たしたフリーランスを含む個人事業主に、使途に制約のない資金を最大で100万円(法人の場合200万円)給付」するということで大きな話題になった。
ざっと条件に触れておくと、原則として2019年以前に開業している個人事業主の場合【※】、「2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月があること」が申請条件となる。
※後述しているが、現在条件が緩和され、2020年に開業した場合であっても対象になる場合がある。
つまり、たとえば2019年5月の収入が50万円だった場合、2020年5月の収入が25万円以下であれば申請可能となる。また、現時点で申請条件を満たした月(対象月)がなかったとしても、2020年11月や12月に条件を満たせれば問題ない。
具体的な給付額については、法人化していない個人事業主の場合、
「2019年の年間事業収入(売上) ― 『対象月』の月間事業収入(売上)× 12」
という計算式で額が決まる(上限100万円)。
2019年の年間事業収入次第では、支給額が100万円ではなく10万円や50万円になる場合もあり得る。だが半日の書類仕事の結果として10万円が支給されるなら、フリーランスの報酬相場から見れば上々だろう。
現時点で申請してない人向けの重要なポイントはふたつ。
ひとつめ。条件が段々と緩和されつつある点だ。
もちろん、「去年より今年の収入が多くて条件を満たせない」という人に対しては「コロナ禍の被害が少なくてよかったね」としか申し上げようがない。同様に、去年より年収が減ったものの、その原因がコロナ禍と関連づけられないとなればやはりどうしようもない。
ただ、たとえば当初は対象条件に入っていなかった「今年の1月から3月に創業した人」や、報酬を給与所得として申告していた場合であっても、条件を満たせば給付されるようになった。
申請は令和3年1月15日まで可能なので、もし「自分は対象外だった」という人も今一度条件を満たしているか検討してみる価値はあるだろう。
ふたつめ。
もし持続化給付金を申請したのなら、その申請用書類(電子データ含む)はしばらく残しておくことを検討すべきという点だ。
個人情報の塊である書類を残しておくことに抵抗がある人は多いだろう。実際、筆者は申請後すべての電子データを早々に破棄してしまったし、万が一情報が流出しても自己責任となる。
ところが、後述する多くの給付金でもまったく同じ書類が必要になることが多く、筆者は破棄したことを後悔している(ただし、2020年8月以降に持続化給付金を申請した場合は、申請サイトにアップしたデータが残っているはずだ)。
2.地獄の家賃支援給付金
『持続化給付金』と並ぶ中小企業支援策の柱の一つと言われていたにもかかわらず、今一つ活用されていないのが『家賃支援給付金』である。
まず書いておくと、これは普段住んでいる住居の家賃を支援してくれるというものではない。あくまで個人事業主または法人が業務で必要となる家賃について、国がサポートしてくれるというものだ。
飲食店が特に顕著だったが、緊急事態宣言や外出自粛の影響で、多くの店舗で売り上げが激減し、家賃の負担のみが重くのしかかるという事態が続いた。この給付金は、そういった新型コロナウイルスにより収入が減少した個人事業主を支援するという意味合いが強い給付金だ。
だが飲食店支援という面が強調されたせいか、自分が支給対象になっていることに気付かないフリーランスが散見される。仕事用にスタジオを借りている人はともかく、「自分は店舗なんて借りてないから対象外だ」と考えるフリーランスは少なくない。
言うまでもなくそれは間違いであり、この家賃支援給付金にはふたつの重要なポイントがある。
ひとつは、持続化給付金と同じように、新型コロナウイルスの影響で昨年より年収が減っているフリーランスであれば、かなりの確率で簡単に申請条件を満たせること。
ふたつめは、事務所も対象になるという点だ。
個人事業主は自宅の一部を『事務所』として経費計上することが許されている。家賃の10割を事務所にすることはできないが、家の広さや業務に利用している度合いによって、家賃の一定割合を事業用、残りを家事部分といった形で『按分』しているフリーランスは多いはずだ。
この事務所として経費計上している部分が、家賃支援給付金の対象となる。
具体的に計算してみよう。
まず原則として次の条件のどちらかを満たす必要がある。
・2020年5月~12月の売上高について、前年同月比で50%以上減少している月がある
・連続する三か月の合計で前年同期比30%以上減少している
持続化給付金と似ている部分が多いが、対象が2020年1月~12月ではなく、2020年5月~12月となっている点は注意が必要だ。だが逆に言うと、2020年5月~12月の範囲で持続化給付金を申請できた人なら、家賃支援給付金の支給条件を満たしていることになる。
では分かりやすく家賃10万円、うち5割=5万円分を事務所として経費計上しているとしよう。この場合、
5万円 × 6か月分 × 3分の2
つまり20万円が支給されることとなる(個人の場合、上限は50万円)。持続化給付金の100万円というインパクトには劣るだろうが、半日の書類仕事で数十万の給付となればやらない手はない。
ただ注意しておきたいポイントもふたつある。
まずひとつ。あくまで賃貸でなければならず、持ち家に住んでいるフリーランスの場合、一切申請はできない。
ふたつめ。申請と審査が非常に厄介な状況にある。
家賃支援給付金の申請には、持続化給付金とほぼ同じ書類が必要になる上、継続的に家賃を支払っていることを証明する賃貸契約書の写し等が要求される。これがかなり面倒臭い。もちろん、賃貸住宅に住んでいて書類さえしっかり残しているなら、半日とかからず準備できる程度のものではあったが。
問題はこの家賃支援給付金の審査状況だ。
この制度が開始した初期には「家賃支援給付金の採択率は10%以下」というニュースもあった。10人が申請して9人が落ちるという、まさに地獄の様相を呈している。幸い採択率は時間と共に上昇しつつあるが。
筆者も当然ながら申請済みだが、まず早々に書類の不備を指摘された。ところがこの不備の指摘というのが非常に曖昧なテンプレート文章で【※】、どこが問題か分からないという有様だ。
※「この箇所がAという問題、もしくはBという問題を引き起こしている可能性があります」といった機械的かつ複合的な指摘で、ピンポイントに問題を指摘してくれないのだ。
そこで問い合わせ窓口に電話したところ、丁寧に「ここをこうしてください」という指導を受けることができた。
それはいいのだが、話を聞いてるとどうもおかしい。「提出が任意になっている書類を削除してください。そうすれば審査が通る可能性があります」といった指摘はその最たるものだった。
提出が任意の書類を削除することで審査が通る可能性が出る。今思い出してもどういう理屈かよく分からない。とにかく言われた通り修正して再申請したのだが、恐ろしいことに間もなく前回とまったく同じテンプレートの文面で不備の指摘が来た。
言われた通り修正したのに不備があるとなると、もうお手上げである。再度電話して確認したところ「この相談窓口と書類審査する部署は別なのでそういうこともあります」という情報を頂いた。
なぜそのふたつの部署を別にしたのかという疑問はさておき、「それで今度はどこを直せばいいのでしょうか」と問い合わせたところ、「再調査してまた折り返し電話します」とのことだった。
あれから1ヶ月、折り返しの電話は未だきていない。
このように地獄の様相を呈している家賃支援給付金ではあるが、採択されている人がいるのは間違いなく、状況は改善しつつあるとも聞いている。
後述の『地方自治体による家賃支援給付金』にも繋がることがあるので、覚悟を決めて申請する価値はあるだろう。
3.新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金
本項はお子さんのいないフリーランスには関係がない可能性が高く、読み飛ばして頂いて構わない。
コロナ禍に伴い、我が家で少なからぬ被害を受けているのが、幼稚園の休業に伴う仕事時間の減少だ。
こればかりは本当に困った。緊急事態宣言の間など、子供はコロナ禍のせいで外にも遊びに行けず、誰かに預けることもできなかった。愛息子の相手をすることに異存はないが、ただでさえコロナ禍に伴う不況に備えなければならないこの状況で、営業を含めた仕事時間を減らすことは非常に痛い。
おまけにテレワークに関連してテレビなどでも散々報道されていたが、遊び盛りの子供が家にいる状況での仕事効率は格段に下がる。たとえ妻が面倒を見てくれている間であっても、「シンカリオンつくったー」と力作を持ってこられれば褒めないわけにはいかないし、「しっこもれたー」と言われれば仕事を中断して後処理をせざるを得ない。
ただ幸いなことに、少なくとも金銭的な国の支援はある。それが『新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金』だ。さすがに長いので、以下本項でのみ『支援金』と略させて頂きたい【※】。
※余談だが、企業向け施策として『新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応“助成金”』というのもある。『小学校休業等対応支援金』というワードで検索しても『小学校休業等対応助成金』の検索結果が出ることがあるので注意が必要だ。
まずこの支援金は、ざっくりと解説するならば「コロナウイルスや緊急事態宣言の影響による学校の臨時休業等、あるいは子供がコロナウイルスに感染した等の理由により、子供の世話をするため委託されていた業務ができなくなった場合、一日辺り4100円ないし7500円【※】を支給する」というものだ。ただし、学校の臨時休業等の開始日より前に、業務委託契約等を締結している必要がある。
※支給額は時期によって増減し、令和2年2月27日から同年3月31日までは4100円。令和2年4月1日から同年9月30日までが7500円。ただし対象期間が12月まで延長されることがすでに告知されています。
申請時期も今年(令和2年)12月28日まで受け付けているので、もしこの制度を知らなかった、あるいは申請をし忘れた期間などがあればまだ申請できる。また、9月30日~12月31日までの期間分については、令和3年3月31日まで申請可能だ。
この支援金についてもメディア等で幅広く触れられていたので知っている人は少なくないだろう。ただ、この支援金については重要なポイントが3つあることは是非覚えておくべきだ。
ひとつは対象範囲だ。『小学校等』と銘打たれているので間違いやすいが、支給要領によれば、『小学校等』とは『保育所、幼稚園、小学校、義務教育学校、特別支援学校』等も含む。非常に幅広いので、詳しくは後述の公式サイトを見て欲しい。
ふたつ目は、学校の開園状況だ。学校が臨時休業の場合はもちろん、時短や学校側の自粛要請のあった日も対象になる。
多くの学校では、再開してもしばらくは時短──午前授業のみといった授業形態が続いた。その日の分の請求も可能というわけだ。ただし、土日祝日等、もともと学校のない日は対象外となる(子どもがコロナウイルスに感染した場合など、例外はある)。
3つ目の重要なポイントは、夫婦二人分で受け取れる場合があることだ。
夫婦でフリーランスをしている場合はもちろんとして、筆者のような青色申告をしている個人事業主の場合、家族を従業員として雇うことができる。いわゆる青色専従者という制度で、夫婦のどちらかがこの青色専従者になることは珍しくない。
この青色専従者であっても『小学校休業等対応支援金』の支給対象になる。
業務内容次第だが、学校の休業が理由で仕事ができなかった場合、夫婦二人分の申請ができる可能性はある。虚偽申請は言語道断だが、適正な資格があるのなら申請を検討すべきだろう。
なお、申請にあたっては業務委託契約書やメールの写しなど、小学校休業による業務の中止、ないし遅延が生じたことを証明する書類が必要になる。
だが電話などでのやり取りがメインの場合、この証明は簡単ではない。その場合、クライアントに公式サイトにある「契約申立書」を書いてもらうことで対応可能となることも覚えておくべきだ。
4.給付金とはまったく別物!補助金とは?
さて、便利な給付金の話は前項で終わり、ここからは補助金の話となる。
まずおさらいしておこう。補助金とは給付金や支援金と違い、特定の事業や取組の促進をはかるために、国が一定の割合かつ上限アリで負担してくれるというものだ。
よくある補助金のケースが、上限100万円で補助率が3分の2というもの。
つまり条件を満たす経費を150万円計上した場合、100万円を国が補助してくれるということになる。持続化給付金も真っ青だ。
ただ言うまでもなく、給付金であればあなたの貯金にもなるが、補助金はあなたが経費として支出しない限り一円にもならない。経費を計上する余裕がない人にとっては無用の制度となってしまうし、補助金を利用したいがために無理に経費を計上するのも本末転倒だ。
またこの性質上、給付金に比べるといくつか面倒な点が生じる。
ひとつめ。あなたの事業が補助金の対象になるかどうかだ。
持続化給付金は一部の職業を除き、非常に幅広く支給された。対して補助金は、国が奨励する事業ないし取組を行っていなければ対象にならない。
ふたつめ。給付金より手間がかかる。
補助金を申請する際には、「自分がどういった事業を行っており、今後どういった事業・取組に補助金を使うのか」という事業計画書や経営計画書の提出を求められる場合がほとんだ。
また給付金はもらった時点ですべての作業が完了と言ってもいいが、補助金はあなたが支払った経費の一部を国が負担してくれるものだ。当然ながら適切な経費だったかどうかを審査してもらうため、領収書と一緒に実績報告書の提出が必要となる。数十万円の補助金が出ると思えば安いものではあるが。
このように面倒な点はあるが、これだけは是非覚えておいて欲しい。
現在、コロナ対策のためであれば補助金が出やすくなっているということを。
一例を挙げるなら飲食店だ。コロナ対策のためテイクアウト事業を始めようとした場合、その設備費や宣伝費などは補助金の対象となりやすくなっている。
また、コロナ対策のためであれば国の負担上限も上がり、補助率も3分の2ではなく4分の3になることが多い。100万円の必要な買い物をして75万円が返ってくるとなれば、その効果の凄まじさはご理解いただけると思う。
もちろん、この補助金という制度がどこまで便利だと感じられるかは個々の状況によるだろう。「経費を計上している余裕はない、今は耐えるべき」という人もいるだろうし、逆に「今だからこそ補助金を使って活発に活動したい」と判断する人も絶対にいるはずだ。後者の場合、次項は是非最後まで読んでいって欲しい。
5.個人事業主向け4つの補助金
日本には様々な補助金が存在する。その中で個人事業主が活用できる補助金は、おそらく以下の4つとなる。
・ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(以下『ものづくり補助金』)
・IT導入補助金
・小規模事業者持続化補助金
・文化芸術活動の継続支援事業
以上4種類は事業内容によって適用できるものとできないものもあるし、補助金の上限や国の負担率もそれぞれ異なる。
その上で、まず覚えておいた方がいいポイントが3つある。
ひとつめは、もらえる補助金の額に比例して面倒臭さが増えるという点。
ふたつめは「年内に2種類以上の補助金は同時に申請できないと考えた方がいい」という点だ。
これについては若干ややこしい。正しくは、「同一の事業内容について、年内に2種類以上の補助金は同時に申請できないことが多い」となる。
逆に言えば、たとえば「専門スキルを活かし、本業の他に講師業を始めました」といった場合はふたつの補助金を同時に受けられる場合もある。この辺り、補助金によって異なるので、ふたつ以上の補助金を申請したい場合は、個別に調べてもらうしかない。
3つめは、個人的見解ではあるが、クリエイター系フリーランスに限って言えば、オススメできる補助金は『小規模事業者持続化補助金』と『文化芸術活動の継続支援事業』の2種類だけという点だ(ただ前述通り両方の申請には制限がある)。
『ものづくり補助金』と『IT導入補助金』についてはクリエイター系フリーランスに限って言えばどうもオススメし辛い。以下はその理由となるが、興味がなければ読み飛ばして次項に飛んで頂いても構わない。
まず『ものづくり補助金』は、簡単に言うと会社向けであって個人向けとは言い難いのだ。
補助金の対象は、「革新的な製品・サービス開発」または「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資について。クリエイター系フリーランスに限って言えば、そうした投資をする機会はなかなかないだろう。
ただ補助金の上限が非常に大きいのが特徴で、「海外事業の拡大・強化等を目的」とした場合など、個人事業主の場合最大で3000万円にもなる。
だが言うまでもなく、最大限活用するには4000万円以上の経費を計上しなければならない。おまけに申請書類は面倒の一言だ。事業計画書、海外展開準備書類、その他加点のための書類数点が必要になるし、申請にはインターネットを利用した電子申請が必要となるが、そのためには事前に『GビズIDプライムアカウント』が必要となる。個人事業主の場合、印鑑登録証明書も必要だ。補助金の上限は魅力ではあるが、クリエイター系フリーランス向けとは少々言い難い。
『IT導入補助金』はいかにもクリエイター系フリーランスが好みそうな字面だが、企業ならともかく個人では大変使い辛い。
この補助金は、あらかじめ事務局が指定したITツール(ハードウェア、ソフトウェア等含む)の導入費用が補助対象となる。ただし、リース費用・レンタル費用は対象になるが、購入費は対象にならない。従業員を多数抱える企業がテレワーク環境整備のため、大量に機材をレンタルする場合など大変役立つだろうが、やはり個人での活動がメインとなるフリーランス向きとは言い難いだろう。また、『GビズIDプライムアカウント』も必要となる。
6.クリエイター系フリーランス向け補助金1:文化芸術活動の継続支援事業
クリエイター系フリーランスにオススメできる補助金の一つが、『文化芸術活動の継続支援事業』だ。
まさにこの電ファミニコゲーマーが火付け役となっていたが、先ごろこのようなニュースも話題になった。
同人ゲーム開発が文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」として認められる。イベントに参加し作品を頒布するなど、活動実績があれば認可の可能性
実は9月30日に募集が締め切られているのだが、どうも応募者が少なかったようで再び募集する旨、文化庁より発表されている。なお、実際に募集が再開された際、これまでと条件が異なる場合も考えられるのでその点はご了承頂きたい。
この補助金は、「国内で活動する文化芸術関係者が、(コロナ禍での)活動の再開・継続に向けた積極的な取組に要する費用の3分の2を国が補助」するというもの。
「活動の継続に向けた取組」が対象になるため、クリエイター系フリーランスにとっては間口がわりと広いことがご理解いただけるのではないだろうか。なお、対象経費の6分の1以上をICT=情報通信技術に充てる場合、補助率は4分の3になる。20万円の必要経費に対し、15万円が返ってくるとなれば効果は大きい。
経費対象として認められるのは、次の8項目だ。
・賃金(申請者への支払はできない)
・諸謝金
・旅費
・借損料(事業遂行に直接必要な機器・設備等のリース・レンタル料等)
・消耗品費(事業を遂行する上で必要不可欠な物品の購入費。税込10万円未満のもの)
・会議費
・通信運搬費
・雑役務費
期間は原則として令和2年2月26日以降、令和2年10月31日までの事業に発生した経費に限られる。つまり申請前に支払った経費についても戻ってくる可能性がある。
補助金の上限は活動内容によって異なるが、20万円~150万円となっている。ただ詳しくは後述するが、クリエイター系フリーランスに限っていえば、上限は20万円だと考えた方がいいだろう。
この『文化芸術活動の継続支援事業』について覚えておくべきポイントは4つだ。
ひとつめは、あなたの仕事が『文化芸術活動』に該当するかどうかである。この判別が結構難しく、申請者が少なかった大きな理由の一つと言われている。
一応、公式ホームページの応募要項や「審査等に当たってのポイントについて」にはこうある。
「不特定多数の観客に対し対価を得て公演・展示等を行う者及び当該公演・展示等の制作に携わっている者(常時雇用による収入のみを得ている者を除く)
また、応募書類として「直近3年間(2017年度以降)2回以上の活動実績が分かるチラシ等」を提出する必要もある。
つまり、過去に同人誌即売会等で同人ゲームや同人誌を出していることがこれに該当することはなんとなく分かる。
では商業ゲームは? プログラマーは? ゲームシナリオはどうだろうか?
実は質問窓口に聞いてみたところ、「商業ゲームであっても、フリーランスとして参加しているイラストレーターやシナリオライターは対象になり得る。ただしプログラマーは分からない」との回答だった。
また、「小説家やカメラマンなど、一般的に文化芸術活動と見なされる仕事であれば該当する。ただし最終的には申請して頂かないと分からない」とのことだった。
つまりあなたの仕事が文化芸術活動であると納得させることができれば、プログラマーであっても対象と成り得る可能性はある。しかしながら、最終的には実際に申請してみないと分からないということだ。
なおやはり該当しそうにないということであれば、以下は読み飛ばして頂き、より汎用的な補助金である次項『小規模事業者持続化補助金』について読んで頂いた方がいい。
さて、ふたつめの特徴は、この補助金がパソコンやスマートフォンの購入費に使える珍しい補助金だということだ。
パソコンやスマートフォンのような汎用性のあるものは、基本的に補助金の対象とならない。だが『文化芸術活動の継続支援事業』に限っては、10万円未満のパソコンに限っては対象となることが明記されている。昨今はデスクトップでもスマートフォンでも9万円あればそれなりのスペックのものが買えるだろう。しかもICTの活用に該当するので、自己負担は4分の1、つまり2万5000円以下で済む。
なお、ややこしくて恐縮だが補助金額には下限として10万円が設定されている。どういうことかというと、9万円のパソコンだけでは下限である10万円に満たないため、他にも経費を計上しなければならないということだ【※】。
※補助率4分の3だとすると、合計13.3万円の経費を計上しなければ下限に達しないことになる。
そしてみっつめの特徴は、個人事業主がこの補助金を活用する際には、次のふたつの補助形態があることだ。
活動継続・技能向上等支援A-① 標準的な取組を行う事業者向け: 上限20万円
活動継続・技能向上等支援A-② より積極的な取組を行う個人事業者向け: 上限150万円
(注:他にも共同申請というパターンもある)
ややこしい名称だが、ようするにどれだけ積極的な取組を行うかどうかで、補助金の上限額が変わるということだ。
ただし、「20万と150万なら150万の方がいいに決まってるじゃないか」と考えるのは早計だ。
補助金というものは、上限額が多いものほど審査も応募書類も複雑になる。逆に言えば、補助金の上限が少ないほど応募も簡単だ。
まさに上記ふたつの補助形態がそれに当たる。たとえば多くの補助金では、応募書類に「事業計画書」という聞き慣れない書類が必要になる。
だが補助金上限20万円の「活動継続・技能向上等支援A-①」では、要求されない限り事業計画書の提出は不要だ。確定申告書や実績証明の書類は必要だが、あとはあらかじめ用意されてある記入項目を埋めていくだけで事足りる。
事業計画書もネットで調べながら書けば決して難しいものではないのだが、「ただでさえ疲れる書類仕事を増やしたくない。経費もそんなに必要ない」といった理由があるならば、補助金20万円でも事足りるだろう。
最後に、4つめのポイントだ。『文化芸術活動の継続支援事業』を申請すると、次項の『小規模事業者持続化補助金』が申請できない。こちらもクリエイター系フリーランス向きの補助金なので、後述の解説をご一読の上、判断して欲しい。
7.クリエイター系フリーランス向け補助金2:小規模事業者持続化補助金
『小規模事業者持続化補助金』という制度がある。『持続化補助金』と呼称されることも多いが、前述の『持続化給付金』と混同されることが極めて多いため、あえて本記事では略さない(なお制度的には持続化補助金の方が古い)。
個人的に、クリエイター系フリーランスにもっともオススメなのがこの小規模事業者持続化補助金だ。
オススメの理由は次のふたつだ。
まずひとつめ。前述の『文化芸術活動の継続支援事業』は「なにをもって文化芸術活動と判断されるのか」が分かりづらく、対象外となるクリエイター系フリーランスも少なくない。
だが小規模事業者持続化補助金の場合、クリエイター系フリーランスならばほぼ対象になると考えていい。問題なのは「補助金が推奨している取組を行っているかどうか」なのだが、それについては次項で説明する。
ふたつめ。補助の対象となる経費が非常にクリエイター系フリーランス向きで幅広いという点だ。具体的には下記13項目が補助対象となる。
①機械装置等費
②広報費
③展示会等出展費
④旅費
⑤開発費
⑥資料購入費
⑦雑役務費(申請者にお金を払うようなことはできない)
⑧借料
⑨専門家謝金
⑩専門家旅費
⑪設備処分費
⑫委託費
⑬外注費
前述の『文化芸術活動の継続支援事業』と違い、消耗品費は対象外だが資料購入費や広報費が対象になっている点は見逃せない。
ただし、パソコンやスマートフォン、プリンターのような汎用性の高い機器の購入費用は対象外となる。
みっつめの重要なポイントとして、小規模事業者持続化補助金は、あなたがお住まいの地域にある商工会ないし商工会議所の指導を無料で受けながら申請できる。
逆にいうと、商工会ないし商工会議所【※】を経由しなければ申請できないのだが、この際これはプラスに考えよう。この補助金の申請には『経営計画書』の提出が必須だ。そんな見たことも聞いたこともない書類を一から作るのは非常に抵抗があるだろう。だが専門家から無料で指導を受けられるとなれば、大きく負担は軽減する。もちろん「商工会に加入するのが条件」などと言われることもない。
※なお商工会と商工会議所は別の組織となる(筆者も最近知った)。また、ややこしい話なのでスルーして頂いて構わないが、小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>については、管轄区域が商工会議所の場合、商工会議所を通さずに申請することもできる。
つまりこの補助金を利用したいと思ったら、まずお住まいの地域の管轄が商工会か商工会議所かを確認した上で(筆者はグーグルマップで調べた)、申請書類をホームページからダウンロードし、記入する必要がある。この申請書類というのがかなりの枚数があって最初は面食らうと思うが、この際重要なのはたった1ページ、『事業概要』『今回の申請計画
※おそらく<計画の内容>と題されたページのはずだ。ただし、申請時
これを分かる範囲で埋められるだけ埋めた後、地元にある商工会か商工会議所に電話し、「小規模事業者持続化補助金の相談をお願いします」と言えば、あとは指導通りに書類を修正・作成していくだけで申請できる。なおもっと詳しく知りたければ、後述の筆者の失敗談をご一読頂ければ幸いだ。
ようするに手ぶらで「相談したい」と商工会ないし商工会議所に連絡しても、向こうもアドバイスのしようがない。叩き台となるものは用意しようということだ。
8.小規模事業者持続化補助金の対象となる事業活動・取組とは?
小規模事業者持続化補助金は、『特定の取組』を行っている小規模事象社に補助金を支払うものだ。ではその取組とはどのようなものか。
まず小規模事業者持続化補助金は、<一般型>と<特別対応型>(特別型、特例型と呼ばれることも)に分類される。小難しい単語が増えてきたが、どちらもクリエイター系フリーランスには大きな武器となる補助金だ。もう少し読んでいって欲しい。
小規模事業者持続化補助金<一般型>は、「経営計画に基づく、小規模事業者の販路開拓や生産性向上の取組に要する経費の3分の2を国が補助する(上限50万円)」というものだ。
『生産性向上』はクリエイター系フリーランスに限ってはあまり縁がないだろう。狙うは『販路開拓』ということになる。
しかしこの『販路開拓』というのが面倒で、たとえばクリエイター系フリーランスがA社と仕事をしてるとしよう。だが新たにB社とも仕事したいとする。するとB社に営業するのに必要な経費──交通費や商品サンプルの制作費が補助対象になりそうなものだが、これは販路開拓とは言わないそうだ。
分かりやすいのは、クリエイター系フリーランスが自分の持つ専門知識で新たに講師業を営むときなどだ。そのとき小規模事業者持続化補助金<一般型>の申請が採択されれば、広告費や教室のレンタル費など、かなりの経費を軽減することができるだろう。筆者もいつかVTuberになるときは申請しようと思っている。
次に小規模事業者持続化補助金<特別対応型>について解説しよう。
字面だけ見ると本当に堅苦しいが、非常に興味深い制度であることは保証する。
簡単に説明すると、大きな経済被害が生じたときなどに新設されるのがこの<特別対応型>だ。たとえば昨今なら<コロナ特別対応型>、多発した豪雨災害に対応するための<豪雨対応型>というものもあった。
前述した<一般型>は、販路開拓ぐらいにしか使えないため、クリエイター系フリーランスが普段から行っている業務には使えない。だが<特別対応型>はコロナ対策や自然災害の被害から復旧するためという理由であれば、かなり広範囲の事業に適用できる。
さらに<一般型>の補助率は3分の2で上限50万円だが、<特別対応型>では条件を満たせば補助率4分の3、上限150万円になることもある【※】。133万円の支出に対し、100万円が補助されるわけだ。申請条件や採択率などでも優遇されやすい。
※なお本記事は個人事業主向けなので詳しくは触れないが、個人ではなく連名で申請することで補助金の上限額を増やすこともできる。
余談ながら<コロナ特別対応型>は10月2日に受付を締め切られたのだが、申請数があまりに膨大で、かつコロナ禍による不況が今後も予想されるためか、追加の募集発表があった。最後の募集締切は12月10日だ(<一般型>については来年も順次募集があると見られる)。
なお、本記事の最後に、実際にこの補助金を活用しようとして失敗した筆者の例を紹介してある。興味があったらご一読頂ければ幸いだ。
だがその前に、クリエイター系フリーランス向け給付金・補助金の中でも、もっとも知られていない制度について解説しておきたい。
9.最重要事項!地方自治体の小規模事業者向け給付金・補助金
さて、本項に至るまで様々な国の給付金や補助金について解説してきた。
一方で、まったく知られていない数々の給付金・補助金がある。それが都道府県や市区町村、すなわち地方自治体による給付金・補助金の制度だ。
本記事で紹介した持続化給付金、家賃支援給付金、小学校休業等対応支援金、持続化補助金……。実はこれらすべての施策について、国とは別に地方自治体が独自に行っている場合がある。
つまり家賃支援給付金ひとつとっても、国・都道府県・市区町村と、あわせて三箇所から支給される地域も実在するのだ【※】。
※なお「地方自治体の家賃支援給付金」の支給条件には、「国の家賃支援給付金を受けていること」というのが多い。面倒だが国の家賃支援給付金を申請しておくべき理由はここにある。
筆者の住む地域では、自治体独自の中小企業支援として10万円が支給されたし、中には20万円の支給がある自治体もあった。
児童支援も同様だ。我が家のケースで言うと、息子は幼稚園に通っており、負担額は月5000円ほどとなる。だが「昨年より収入が大きく減っている」等の条件を満たしている場合、令和二年度分の費用は地方自治体が負担してくれるとの発表があった。
月5000円というと微妙に見えるかもしれないが、一年6万円分となるとフリーランス一日分の報酬としては充分だろう。さらに自治体によっては入園料もこの対象になる。
小規模事業者持続化補助金ですらも例外ではない。ある自治体では、「小規模事業者持続化補助金の申請が採択された事業者向けに、さらに一定の割合で補助金を出す」という制度がある。3分の1~4分の3の補助率がさらに増えるとあれば見逃せない。その他、独自の中小企業向け補助金を行っている自治体、小規模事業者持続化補助金が採択されやすくなるための支援を行っている自治体もある。
こういった自治体の制度は、例に漏れず申請しなければ一円ももらえない。
一方でテレビCMを流して宣伝するわけにもいかないためか、これらの制度は自治体のホームページや役所の中でのみ告知されているぐらいで、普段の生活を送っているとまったく知らないまま終わってしまうことが多い。筆者も補助金申請のため商工会を訪れた際にたまたま知ることができた給付金があったほどだ。
おまけに厄介なのが、名称も自治体によって様々という点だ。中小企業向け給付金一つとっても、自治体によって「臨時給付金」「継続応援給付金」「経済対策給付金」といった名称が出てくる。
それでも、筆者はただそういった給付金の存在を知ることができたというだけで、一時間の書類仕事と引き替えに少なくない給付金を受け取ることができたのだ。繰り返すが制度はいつだって知っている人の味方にしかならない。
ただ、言うまでもなくお住まいの地方自治体によってはこういった給付金・補助金を行っていない地域もあるし、「申請期限は夏頃まで」という制度も少なくなかった(あまりに申請者が少なかったためか、申請期限を延長する地方自治体もあったが)。
もしあなたがこういった地方の給付金等の存在を知らなかったのであれば、諦め半分で今すぐお住まいの自治体のホームページを調べ、「中小企業」「給付金」「支援金」「家賃支援」「補助金」といったキーワードで検索する価値はあるだろう。
おまけ:補助金申請失敗談
小規模事業者持続化補助金については重要なポイントを解説したつもりだが、実際のところ身近な制度ではないため、分かり辛い点もあると思う。
そこで最後に、実際にこの補助金を活用しようとして思わぬ失敗をした筆者の例を紹介したい。もって他山の石としてくれれば幸いだ。
冒頭でも触れたが、筆者が行っている主な事業は、ゲームシナリオに関する業務、本の執筆・出版であり、どちらもコロナウイルスにより思わぬ被害を受けた。そこで、たとえばゲームシナリオライターの仕事を増やすため、自己アピール用に補助金を活用できないかと考えた。作品サンプル、いわゆるポートフォリオ制作だ。
だが補助金は他人を雇った際に支払う給料には使えるが、自分に支払う形にはできない(声優が自分のボイスサンプルを作るためスタジオを借りる場合の費用などは補助金の対象となり得る)。
ならば小説に補助金を適用できないだろうか? 商業小説の出版実績は、ゲームシナリオライターの採用基準としてプラスになることが多い。
幸いというべきか、8月に新作小説の出版予定(後にコロナの影響で10月に延期)があった。たとえばこの新作小説の広告に補助金を活用できれば、売り上げアップと自分の実績増加に繋げることができるかもしれない。
だが、そんな都合のいい補助金があるだろうか。あった。
それが今年限定的に新設された『小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>』である。これは次に挙げるみっつのコロナウイルス対策のいずれかを行う小規模事業者に対し、国が補助金を出してくれるというものだ。
1.サプライチェーンの毀損対応
2.非対面型ビジネスモデルへの転換
3.テレワーク環境の整備
分かりやすいのは『3.テレワーク環境の整備』だろう。コロナ禍により人と接触する機会を減らすことが推奨され、会議や打ち合わせはいわゆるテレワークによって行われるようになった。そのために必要な費用を国が補助してくれるというものだ。
しかしながら、前述の『IT導入補助金』と同じように、従業員を多数抱えているならともかく、個人レベルでのテレワーク環境整備に投資が必要なフリーランスはそういないだろう。それに補助対象となるのは機器のレンタル費等であって、購入費には適用できない。
そこで筆者が考えたのは、『1.サプライチェーンの毀損対応』である。
報道されていないためあまり知られていないが、コロナウイルスにより、一般書店や作家が受けた影響は計り知れない。緊急事態宣言中も一般書店の多くは営業が許可されていたものの、多くの読者は外出を自粛していたため、客足は減少。
書店は作家にとって販路であり、その減少は命取りである。そこで次のような事業計画を考えた。なお、「いかに自分の事業の利益を出すか」という内容になるため、我田引水的な内容になっている点はご容赦いただきたい。
「コロナ禍により書店への客足が激減し、ひいては小説の新作も売れ辛い状況が続いている。そこで書店への客足を取り戻し、自著新作の売り上げに繋げるため、書店に宣伝費を払う形で自著新刊の宣伝をしたい」
だが商工会で相談したところ、こういった経費は『サプライチェーンの毀損対応』とは言えないと指摘されてしまった(余談だが、実際のところ作家が出版社を通さず書店に宣伝費を払うこともまた至難だっただろう)。
全国商工会連合会の事例を引用すると、次のようなものが該当することになる。
・外部からの部品調達が困難であるため、内製化するための設備投資
・製品の供給を継続するための投資
・コロナの影響により、生産体制を強化するための設備投資
・他社が営業停止になったことに伴い、新たな製品の生産要請に応えるための投資
つまり失った供給ルートを別のルートに切り替えるための投資は対象になり得るが、失った販路を取り戻すような投資は対象にならないということらしい。
そこで筆者が選んだ補助形態が、『2.非対面型ビジネスモデルへの転換』である。分かりやすい例を挙げると、飲食店だ。これまでは店頭での販売しか行っていなかった飲食店が、コロナ禍対策としてテイクアウトのような新事業を行う場合、そのための設備投資や広報費に対し補助が出る。
これを小説の出版にどのように活用したのか。詳しくは、実際に筆者が書いた経営計画書の一部を見てもらうのが早いだろう。なお繰り返しになるが、経営計画書は「いかに自分の事業が素晴らしく、補助金がどれだけ有効か」を強調する必要がある。以下公開にあたっては、一部内容・表現を変更している点はご容赦頂きたい。
『新型コロナウイルス感染症による影響』
報道されていないためあまり知られていないが、コロナウイルスにより、一般書店や作家が受けた影響は計り知れない。
緊急事態宣言中も一般書店の営業は許可されていたものの、多くの読者は外出を自粛していたため、客足は減少。
結果的に、新たに通販サービスを開始した書店も多く、読者もまた自宅にいながら購入できる通販サイト、もしくは電子書籍を積極的に利用することとなった。コロナウイルス流行以前から通販サイトや電子書籍のシェアは年々増加していたが、今回のコロナ禍により、その状況に拍車がかかったことは間違いない。
一方で、通販サイトや電子書籍の市場が隆盛になるほど、新作の小説は売れ辛くなる。
代表的な理由としては、通販サイトや電子書籍市場では多くの新作が埋没してしまうからだ。
書店ならば棚に並んでいる本から気になった手に取って購入を検討することができる。そのため、表紙デザインやタイトルに人目を引く工夫をすることで売り上げに繋げることもできた。また、一部立ち読み等を行ってから購入する、ないし書店員のオススメを調べることもできる。
だが通販サイト・電子書籍サイトにおいては、読者が閲覧できる書籍量や広告スペースが限られている。無論、オススメ本の紹介や試読といった機能を付けているサイトもあるが、膨大な本の中から話題作でもない新作小説をわざわざ探し出し、購入を検討するユーザーは決して多くないのが現状だ。
結果的に、すでにヒットしているシリーズ、新人賞を取った話題作や人気作家の新作等に売り上げが集中してしまう。『今回の申請計画で取り組む内容』
前述のように、コロナウイルスの影響下でただ新作の小説を出しても、すでに膨大な数の書籍が流通している通販サイトや電子書籍市場に埋没し、また初版部数の減少による経済的苦境も免れ得ない。そして残念ながら現時点で新作小説を出す場合、その状況を受け入れざるを得ず、一般書店に加えてオンライン上でどう売るかも考えざるを得ない。
書店員を通して本を買ってもらうのではなく、オンラインでの購入。つまり作家にとっての非対面型ビジネスモデルへの転換である。
この状況下で筆者は新作小説を10月に出版する予定だが、ただ小説を出したとしても手に取ってもらえる可能性は著しく低い。
そこで小規模事業者持続化補助金を使用して新作小説のプロモーション動画を制作し、ツイッター等SNSの広告機能を利用して積極的に宣伝を行う。
つまり作家側としては書店で本を買ってもらうのが一番だが、コロナ禍にあって外出を奨励することは、下手をすれば書店側に新たなコロナウイルス対策を強要することにもなりかねない。
今新作小説を出す場合、どうしても通販サイトや電子書籍に傾注しなければならない。それは「作家にとっての非対面型ビジネスモデルへの転換」であるため、小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>の対象であると主張したのだ。
幸い商工会でこの経営計画書を専門家である三人の中小企業診断士に見てもらったところ、「事業計画に特に問題はない。また小説の宣伝に小規模事業者持続化補助金が申請された事例は日本初かもしれず【※】、そういった事業計画は承認されやすい」と心強いお言葉をいただくことができ、申請に至った。
※全国の前例をすべて知っているわけではないそうだ。
ただし、申請ができても採択されるとは限らない。
<一般型>、<特別対応型>に限らず小規模事業者持続化補助金の採択率は80~90%前後と言われている。この数字が実にクセモノで、商工会では次のような説明を受けた。
「どれほどよく書けている申請書であっても落ちるときは落ちる。そしてその理由は商工会にも分からない。たとえばふたつの似通った形式の飲食店がテイクアウト事業を始めようと小規模事業者持続化補助金を申請した場合、その経営計画書は自然と似通った内容になる。だが片方が採択され、片方が落ちることもある。その原因はやっぱり分からない」
とはいえ、採択率80%とあれば決して悪い数字ではない。もし採択されなければ中止すればいいだけの話でもある。
こうして商工会の協力を得て、申請は無事済んだ。
ところが思ってもいないアクシデントに見舞われることとなる。
<コロナ特別対応型>は複数回の募集があり、筆者が応募したのは第3回。締め切りは2020年8月7日であり、先例にならえば一月半後、つまり9月中旬には採択者が発表されるはずだった。
ところが、コロナ禍にあって応募者が急増したらしい。なんと採択者の発表が10月末に延期されるという発表があった。
筆者の本の発売予定は10月17日。10月末発表ではなにも間に合わない。
当初の予定では、小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>の適用を前提として133万円の広告予算を確保し、なおかつ自己負担分は持続化給付金から33万円を供出することでまかなう予定であった。かつ、「小説出版に日本初となる小規模事業者持続化補助金が適用されました! 日本初です!」などと話題になりそうなネタを作る予定でもあった。
ところが採択者発表が一月遅れ、すべてがパアである。
ただ不幸中の幸いというべきか、<特別対応型>は一定期間内の遡及、つまり採択された日からさかのぼって補助金の適用ができる。10月末に申請が採択されるという前提で、9月から宣伝媒体を制作することが一応は可能だった。
ところが、申請が採択されればいいが、もしされなかった場合、一切補助金は出ず、すべての経費が自腹ということになる(第5回の募集に再度申請する手はある)。
さすがに133万円の支出にはとても耐えられない。こうなったら予算を縮小することで全額自腹という不測の事態に備えつつ、予算内でできるかぎりの広告を打つしかない。幸い補助金は、申請した予算案より実際に使った額が少なくなる分には特に問題はないとされている。
こうして紆余曲折の末できあがった広告媒体のひとつがこちらだ。
広告費は縮小せざるを得ないが、クリエイターに支払うPV制作費だけは削れなかった。その甲斐のあるクオリティにはなったと思う。よければ見てほしい。
なお筆者の新刊『人生∞周目(インフィニティ)の精霊使い 無限の歴史で修行した元・凡人は世界を覆す』は10月17日(つまり本日)にファンタジア文庫より発売される。
この際、別に広く「買ってください」と申し上げるつもりはない。スマートフォンを媒介としたいわゆるリッチメディア隆盛のこの時代、小説というジャンルで張り合うのは容易ではない。
ただ「こういう物語が好き」という人にとって、小説は依然として楽しめる娯楽であることは間違いない。本書は「過去に転移する力を手に入れた主人公が、幼い頃の自分を育てることで最強の力を手に入れる。そして生まれ育った孤児院を守るため、最強の力で世界をひっくり返す」という内容であり、「そういう話が好き」という方に情報が届けばそれでよく、そのために補助金を活用して大きく宣伝する予定だった。
残念なことに、筆者の目論見は採択者発表の延期というアクシデントにより失敗しつつある。読者諸氏におかれては、もし補助金の活用を考えているのなら、こういったイレギュラーの可能性を考え、できるだけ早く申請しておくべきだ。幸い、一度採択さえされてしまえば、補助金を使用できる期間はかなり長く設定できる。
なお<コロナ特別対応型>最後の募集となる第5回受け付け分の締切りは12月10日だ。恐らく前回の例からいって応募者は殺到するだろうし、商工会・商工会議所の協力がいることを考えれば、締切り直前の応募は不可能と考えた方がいい。行動するなら今だ。
終わりに:世界的に見ても手厚い制度を知り、活用しよう
日本のコロナウイルス対策の是非について、本記事で触れるつもりはない。だがことフリーランスへの支援策という点に限っては、世界的に見ても手厚いと言われている。
もっとも、制度を知り、利用しなければどんな手厚い政策もなんの意味もない。特に国の政策はともかく、地方自治体の制度は信じられないほど知られていない。この記事が少しでもクリエイター系フリーランスの参考になれば幸いだ。
最後にまったくの余談だが、作家が自分の本を出す度に数十万円の宣伝広告費の自己負担が必要になる未来になれば、出版業界の状況は相当に危機的と言えるだろう。だが今はコロナ禍という別種の危機の最中である。作家ではなく個人事業主という観点から考えれば、今年だけは例外と考えて行動すべきだと思う。
特に、個人事業主には持続化給付金があった。その用途は一切制限されていない。生活費に充てる、仕事の損失補填、営業費用、いっそ気分転換の娯楽費に充てる、すべて個人の自由だ。
そこで今回、筆者は『持続化給付金』の一部と『小規模事業者持続化補助金<コロナウイルス対応型>』を組み合わせる方法を選択してみたというだけの話だ。
結果的に計画は大きな修正を迫られたし、宣伝効果についてはやってみないと分からない部分もある。だがPV動画製作にあたっては、同じ立場のクリエイター系フリーランスに充分な報酬を支払うこともできた。
給付金や補助金の使い方を知ってさえいえれば、このようなことも可能だということは覚えておいて損はないだろう。
本記事を執筆するにあたって、次の方々にご協力・ご監修いただきました。この場を借りて深く御礼申し上げます。
・監修:税理士 上野将史
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