2020年11月、イマジニアよりNintendo Switch向けソフト『メダロット クラシックス プラス』が発売された。
「令和のこの時代に、あの『メダロット』?」と、耳を疑う人もいたかもしれない。世代が少しズレている場合、「『メダロット』ってなに?」と思う人も多いだろう。
しかし、少年少女時代、ゲームボーイやアニメで『メダロット』に熱中した世代にとっては、随分と懐かしい思いをしたのではないだろうか?クラスメイトが『ポケモン』に熱狂する横で、『メダロット』に心惹かれた子どもたちは、少なからずいたはずだ。
独特のデザインセンスとストーリー、そしてコンセプト。キャラクターのデザインを変更できない『ポケモン』とは異なり、自分自身でキャラクターを作り上げられる『メダロット』は、一部の子どもたちの心を鷲掴みにしたのである。
当時の絶対的王者である『ポケモン』を前に、なぜ『メダロット』は独自のファンを獲得できたのか? 『メダロット』には、『ポケモン』とはまた違った、確固たる「芯」があったからだ。
そしてその背景には、長年にわたって覇権を争ってきたマンガ雑誌、『月刊コロコロコミック』vs.『コミックボンボン』の戦いがあった。
『コミックボンボン』は2007年に惜しまれつつも休刊となってしまったが、本稿では時が流れて令和となった現在から当時の状況を振り返り、『メダロット』の魅力を伝えていきたい。
文/おがた規慎
コロコロvs.ボンボン。灼熱の”タイアップ”戦史
20世紀末。『メダロット』誕生前夜ともいえる時代。全国の小学生が夢中になる“ブーム”は、月刊マンガ雑誌とのタイアップから生まれていた。
その中心として子どもたち、とくに小学生低学年の心をガッチリとつかんだのが『月刊コロコロコミック』(以下『コロコロ』)だ。ミニ四駆、ビックリマン、ハイパーヨーヨー、ビーダマン、ベイブレード……。こうした社会現象の背後には、必ずと言ってよいほど『コロコロ』の宣伝・コミカライズがあった。
ゲームにおいても『コロコロ』は抜かりなく、『星のカービィ』、『マリオ』シリーズ、さらには『イナズマイレブン』、『どうぶつの森』といった大ヒット作品を、時代に合わせて取り上げてきた。いわば、宣伝のエリートである。『ポケモン』の人気に火がついたのもコロコロがひと役買っていた、と言えばそのすごさが伝わるのではないだろうか。
しかし、『メダロット』は『コロコロ』発のゲームに名を連ねない。『メダロット』のバックボーンには、『コロコロ』のライバルである『コミックボンボン』(以下『ボンボン』)がいたのである。
さらに時は遡り、1981年。小学館が1977年に創刊した『コロコロ』から遅れること数年、講談社が『コロコロ』に対抗して創刊したのが『ボンボン』だった。
『ボンボン』はガンダム・ガンプラを主軸とした戦略を打ち出し、その後も『プラモ狂四郎』、『装甲騎兵ボトムズ』といった作品で土台を築き上げる。さらには『ロックマン』シリーズのコミカライズも連載化するなど、ロボット・メカ系の作品を軸に据えながら、順調に子どもたちの人気を集めていったのである。
その勢いはとまらず、90年代初頭にはついにライバルである『コロコロ』の発行部数で抜き去るほどだった。“ガンダム=ボンボン”という構図は強い牽引力を持ち、業界をリードしていった。
そんな状況を一変させたのは、1996年に発売されたひとつのゲームソフトだった。それが『ポケットモンスター』だ。
『ポケモン』の大ヒットに合わせ、コミカライズなどで誌面で積極的にポケモンを取り上げた『コロコロ』は発行部数が倍増。小学生にとどまらない、空前絶後の社会現象を生み出した。
『ポケモン』は、1996年2月に発売された初代『赤・緑』に続き、10月には『青』を発売。1999年にはシリーズ第2弾として『金・銀』を発売し、その人気を盤石なものとする。『コロコロ』が企画する様々なコミカライズ・イベントが、次々と小学生を夢中にした。
当時『ポケモン』が斬新だったのは、ゲームボーイというハードの強みを最大限に活かしたシステムであること。とくに友だちとの対戦・交換というシステムは目新しく、それを盛り上げるための“収集要素=多数のキャラクターの登場”という面も、人気に拍車を掛けた。
『メダロット』が発売されたのは、そうした時代の真っ只中──1997年11月28日のことだった。
『メダロット』に色濃く流れる『ボンボン』の血筋
ライバルである『コロコロ』がポケモンの大ヒットにより発行部数を伸ばしているのを、『ボンボン』側が黙って見過ごすわけもなく、すぐさま対抗IPの旗揚げを目指した。
対抗するには、『ポケモン』と似たシステム的な要素を持ちながらも、独特の魅力を持つ作品が必要だ。収集や友だち対戦といった要素の実現は比較的容易だが、作品が放つ個性・魅力というのは、いくら求められても一朝一夕でできるものではない。
そんな中、『メダロット』は、『機動戦士ガンダム』などを主軸としてきた『ボンボン』という媒体の強みを最大限に活かした形で誕生した。
神経兼骨格の基礎パーツと、筋肉および外骨格(外装)の4つの四肢パーツで構成された、メダルを装着して起動するロボット、メダロット。このメダロットの定義、パーツを組み合わせてカスタマイズを行うという要素は、ガンプラの改造を楽しんだように、子どもたちに受け入れられるとともに、子どもたちの発想力・想像力を大いにかき立てた。ほぼすべての作品で原作者、ほるまりん氏がキャラクター・メダロットデザインに関わるなど、メディアミックスを踏まえた展開も見事にはまった。
ロゴデザインなどからもわかるように、『メダロット』はプラモデルや玩具のような雰囲気を大切にしている作品だ。それはコミカライズ1巻表紙の、フィギュアのように梱包されたメタビー(主人公の持つメダロット)からも想像できる。ガンプラや『武者ガンダム風雲録』などで獲得していたノウハウ・既存のファンを大切にしながら、アレンジした結果だろう。
メダロットの頭胸部パーツ、左腕パーツ、右腕パーツ、脚部パーツを、どの組み合わせにするか。効果も違えば、見た目も違うそれぞれのパーツ。そのパーツを集め、組み立て、眺めて、戦わせる──。
そうした組み立ての試行錯誤は、ゲームやアニメ・漫画の中で工作の追体験ができるようなものであり、ガンプラに目を輝かせていた子どもたちに“未来のプラモデル”のあり方を見せたと言っても良いだろう。
その独特な雰囲気が、動物的・生き物的な要素の強い『ポケモン』とは一線を画すものであり、一部の子どもたちの心を完全につかんだのである。
『メダロット』はまさに『ボンボン』の歴史の上に成り立っている作品だ。創刊以来、試行錯誤をしながら子どもたちのために研究を重ね、積み上げられてきた『ボンボン』の強みや“らしさ”が『メダロット』には色濃く流れている。『ボンボン』の血筋を受け継いだコンテンツといっても良いだろう。自分の考えた「すごく強いロボット」が、悪だくみををカッコよく倒す……そんな普遍的に子供心をくすぐる「芯」をブレずに掲げ続けていることが、『メダロット』の魅力の源泉でもあるのだ。
確固たる「芯」と、新しく斬新だった技術の融合。どちらが欠けていても出来なかった作品だろうし、その奇跡的なバランスが独自の雰囲気を作り上げた。
たしかに、『ポケモン』と比べれば、知名度は圧倒的に劣るだろう。前述したとおり、奮戦虚しく『ボンボン』は2007年に休刊となった。『メダロット』も、6年ほど新作が発売されない時期が続いた。長年業界を引っ張ってきた『コロコロ』、『ポケモン』と比べると、マイナーと思われるのは当然かもしれない。
しかし『ボンボン』、そして『ガンダム』・ガンプラに夢中になったことがある人にとっては、心に刺さる魅力がふんだんに盛り込まれているコンテンツであることも、また間違いないのだ。
ざっくりとした歴史の振り返りとなったが、これまで『メダロット』を知らなかった人・やったことのなかった人にも、これを機にゲームでも、マンガでも、アニメでもいいので『メダロット』という作品に触れてみてほしい。
作り手の熱量──そして『ボンボン』のにおいが、懐かしく、そして色濃く感じられるはずだ。