まるでVR版『青鬼』!? 身長2メートルの怪人から逃げ回るVRホラー『Wraith: The Oblivion – Afterlife』が怖すぎてヤバい

 ホラーゲームというものは「人を遠ざけながらも人を惹きつける」という矛盾した不思議な魅力がある。ホラーゲームは不気味な雰囲気づくりや演出によってプレイヤーを追い詰めることを主軸としつつも、リソースの欠乏による切羽詰まったサバイバル体験を作ったり、あるいは恐怖の中に宿る感動的なストーリー体験を作ったりする。おおよそのホラーゲームはいずれか(もしくは両方)に分類できるだろう。

 また、VRゲームはプレイヤーの視界をまるごと強制的に覆うことでゲームの世界に引きずり込んでしまうため、ホラーゲームとすこぶる相性が良いことで知られている。特に『バイオハザード7』がVRゲーム黎明期の傑作かつVRホラーゲームの金字塔と言われており、『Layers of Fear』『Five Nights at Freddy’s』といった著名なホラーゲームのVR版も評価が高い。

 今回紹介するVR専用ゲーム『Wraith: The Oblivion – Afterlife』は少し変わったホラーゲームだ。なんと主人公が最初から死んでおり、サバイバルホラーとストーリーの読み解きをミックスした独自の恐怖体験となっている。
 本作を簡単に説明するならば、『青鬼』のようなかかくれんぼ系ホラーゲームをVR用に再構成しながら、TRPGを原作とする濃厚な世界観でストーリーを描いたというところだろうか。

 正直に言うと、「めちゃくちゃ怖い」と評判の『バイオハザード7』や『Half-Life: Alyx』ではあまり恐怖を感じなかった筆者でも、本作では心臓がバクバクするほどの恐怖に襲われた。というのも、上述の『バイオ7』や『Alyx』と違い、本作には「敵への対抗手段」がほとんどないからだ。本記事では、本作の恐怖体験がどのような構造になっているかを解き明かしたい。

こんな感じの身長2メートルぐらいの化け物が追いかけてきます

 なお、この記事の執筆にあたってOculus Quest 2版をプレイしたことを明記しておく。VRゲームはデバイスの差異によって視覚的な要素を含む体験の品質も異なる場合があるためだ。

文/渋谷宣亮
編集/実存


主人公は幽霊!?不気味な屋敷を探索して自分の死の真相を追え

 まずは本作のストーリーを紹介しよう。カメラマンである主人公はハリウッドスターの屋敷に招待されたものの、屋敷で行われた交霊会で発生した事故により死んでしまった。死んだはずの主人公は幽霊(Wraith)となり、主人公に語りかける謎の存在の指示に従って屋敷の外に脱出を試みたものの、謎の力によって屋敷の中に戻されてしまう。
 そのため、主人公は屋敷を探索することで交霊会で何があったのか、屋敷からの脱出を目指して謎の声と共に真相を突き止めなければいけない。

 本作のストーリーテリングは過去の出来事を知るために屋敷を探索して資料を集める、いわゆるウォーキングシミュレータと呼ばれるジャンルの手法である。
 屋敷のあちこちに映画の台本や手紙、新聞記事といった書類が散らばっており、主人公を含めた交霊会の参加者や屋敷の関係者に何があったのかを手に取って読むことができる(おおむね、交霊会の参加者全員が腹に一物を抱えていることが伺えて、それが交霊会の事故の原因に繋がるのだが)。

 また、写真家である主人公はカメラを使って過去に屋敷で起きた出来事を撮影することができる。屋敷の所々に写真のような透明の物体が浮かんでいるため、これを撮影すると過去にその場にいた人物たちの出来事が再現される。なお、撮影していない場合でも過去の再現が始まることがあり、不意に現れた影と音声に思わず驚いてしまうことが多々あった。

 なお、本作は欧米で著名なTRPGユニバース『World of Darkness』の派生作品『Wraith: The Oblivion』に基づいた世界やストーリーになっていることは知っておいた方がいいだろう。残念ながら日本のゲーム界隈において『World of Darkness』の認知度は高いとは言えないものの、前提知識がなくとも本作をホラーゲームとして楽しむことは可能だ。

 プレイヤーが見たり聞いたりした資料はミュージアムにアーカイブされており、セーブポイントからミュージアムにアクセスできるのでストーリーをより深く理解したい人にも納得の設計となっている。

プレイヤーを追いかけまわす「スペクター」とフラッシュライト

 一方で、プレイヤーの屋敷の探索と脱出も一筋縄ではいかない。屋敷の中には「スペクター」と呼ばれる身長が2メートル近くある人型の怪物が徘徊していて、主人公を見つけ次第追いかけてくるのだ。
 追いつかれると即ゲームオーバーとなり、最後にセーブした地点からやり直しとなる。場面によってはやり直しがしんどいところまで戻されてしまうため、見つからないように探索しなければいけない。

 基本的にはこのスペクターから逃げ回りつつゲームを進めることになるのだが、「VRで2メートル長の化け物に追いかけまわされる」というのは本当に心臓に悪い。VRホラーゲームを体験したことがない方にはこの恐怖の度合いをお伝えするのはたいへん難しいのだが、おそらくあなたが今想像した恐怖よりも何倍も怖いはずだ。

 スペクターは人型ではあるもののそれなりにおどろおどろしい造形をしているので、あれに追いかけられていると思うとかなりしんどいものがある

 それに加え、基本的にプレイヤー側はスペクターを排除することはできない。そのため、「常に安全な状況ではない」という緊張感がさらに恐怖を加速させる。とはいえ、スペクターを遠ざけるための最低限の手段はいくつか残されている。

 たとえばスペクターは音に反応しやすいので、屋敷のあちこちにあるワインのビンや小石を拾って遠くに投げることで注意をそらすことができる。ただし、床にガラスの破片が散らばっているところもあるため、足元の確認をおろそかにすると不意に音を鳴らして見つかってしまうことに気を付けたい。

 もちろん、誘導だけでない対策もある。屋敷のあちこちにプレイヤーが隠れるためのクローゼットがいくつも用意されており、中に入ることでスペクターの追跡を凌げる。
 とはいえ、焦っているときはクローゼットの取っ手を握るだけでももたつくし、スペクターに見られた状態でクローゼットに隠れても当然ながら開けられてしまう。この他にも、純粋にソファや仕切り板といった遮蔽物に隠れてやり過ごすこともできる。

 そこで、スペクターに対して有効な対抗策が「ストロボのフラッシュライト」である。ストロボのトリガーを長押しすると一瞬だけ強いフラッシュライトが焚かれ、この光を浴びたスペクターはひるんでしばらく行動できなくなるのだ。この間に逃げるなり必要な謎解きやアクションを行うとスムーズに進行しやすいだろう。

 ただし、ストロボのバッテリーは限られている上に「暗い道を照らす」「通路の障害となる植物を退ける」といった用途があるため、バッテリーの充電を切らさないようにするリソース管理が重要になる。
 バッテリーはセーブポイントで最低限の回復が可能だが、これだけでは心もとない。そのため、基本的には屋敷を探索してバッテリーの残量を増やすアイテムを探したり、新しいセーブポイントを見つけてバッテリーを満タンにさせよう
 本作をサバイバルホラーたらしめるリソース管理のキモは、ストロボのフラッシュライトに詰まっているのだ。

VRゲームとして丁寧な作りな一方で、丁寧さが裏目に出た側面も

 こうした心臓に悪いサバイバルホラー感に加え、本作は「VRゲームとしての作りが非常に丁寧」という部分もポイントだ。そう感じた根拠をいくつか述べよう。

 初めに、本作のVRゲームとしてのUIはしっかりとした作りになっており、「VR酔い」にならないよう工夫されている。
 VRゲームは「プレイヤーの移動方法」がプレイの快適さを左右しがちだが、本作では酔いにくいワープ移動とスティック操作による直感的な移動の両方をサポートしている。ダッシュ移動中は視界を狭めて酔いにくいように調整され、ワンボタンでプレイヤーの立ち・しゃがみ状態を切り替えできた。

 物を掴んで投げる時の動作も「グリップボタンで手首を軽くスナップすることでオブジェクトを引き寄せる」という、VRゲーム超ヒット作としておなじみ『Half-Life: Alyx』の動作がそのまま取り入れられているため、経験者であればすんなりと受け入れられるだろう(初めての場合は少し慣れがいるかもしれない)。

 また、VRゲームでは「プレイヤーがどこに行けばいいのか迷いやすい」というパターンもありがちなのだが、本作はコントローラのボタンを押すと主人公の腕がセンシングとなって、目的地の方向に腕を向けると血管が黄色く発光する。この機能のおかげで行先に迷うことは少なかった(とはいえ空間の上下の差異はわかりづらいのだが……)。

 次に感じたのは、ホラーゲームとしての舞台の作り込みがよくできているということだ。ホラーゲームにありがちな屋敷としてあまりに非現実的な設計ではなく、ギリギリ「こういう屋敷ならあるかもな……」と思わせるもので、約8時間におよぶ屋敷全体を行ったり来たりするゲームプレイでもダレることはなかった。
 また、本作はスペクターを除けば突然プレイヤーを怖がらせる要素(いわゆるジャンプスケア)は少ないのだが、やはり薄気味の悪い不気味な屋敷という雰囲気づくりには成功しているため、歩いているだけでもゾワゾワするような嫌悪感や心もとなを感じられた。

 とはいえ、本作にいくつか気になる点があったことを見逃すことはできない。

 一つ目の問題は、プレイヤーが初めて訪れたばかりの場所で、視界がほとんど真っ暗で空間認識がまともにできない状態でスペクターに追い回される状況があることだ。
 1メートル先が見えない状況で追い回されても「なんだか突然よくわからないうちに死んでしまった……」と感じることがない、と言えば嘘になる。VRゲームはプレイヤーの視界を勝手に動かすことができないため、「画面が突然真っ暗になったと思ったらスペクターの絶叫が聞こえ、なすすべもなく呆然と立ち尽くす」ということも何度かあった。

 二つ目の問題は、ネタバレを避けるため過度な言及は避けるが、スペクターの行動・登場パターンがかなり読みやすいという部分だ。
 そのため、ある程度ホラーゲーム慣れしている人にとっては「今はスペクターが出てこないから大丈夫だな」と割り切りやすくて緊張感が薄くなるかもしれない。とはいえ、ホラーゲームに慣れていなかったり、おいてストーリーの読解や探索を重視するプレイヤーにとっては悪いことだと限らないことは補足しておく。

 三つ目の問題は、「ストロボのフラッシュライトでスペクターを怯ませられる」ということに気づきにくいという点だ。本作で一番重要なリソースは間違いなくフラッシュライトのバッテリーなのだが、ゲーム内での導線がいまひとつ伝わりづらくなってしまっている。さらにリソース管理という点でいうと、本作プレイヤーの体力ゲージと回復アイテムも存在しているのだが、スペクターに追いつかれると基本的には即死するので、使いどころはよくわからない。

 フラッシュライトについては筆者自身もゲームプレイ中に本作の概要を見直したときに気が付いたし、メディアによるレビューでもストロボのフラッシュの効果が気づかれていないケースがいくつか見られた。
 知っていればなんてことはないのだが、気づいていないと本作は「理不尽にスペクターに追いかけまわされる上に対抗手段が何もない、いまひとつなステルスホラーゲーム」と感じてしまうこともあるだろう。もちろん、この記事を読んだ方はそうはならないはずである。

 とはいえ、スペクターから隠れるステルスとスペクターに追いかけまわされるときはVRによる臨場感のおかげで非常に高い緊張感危機感を感じられるし、本当に2メートル越えのスペクターに追いかけまわされるのは心臓に悪い。
 あなたがVRのホラーゲームに対して関心がありなががら濃い世界観のストーリーを粘り強く読み解く意欲があれば、本作は十分にプレイする価値のあるホラーゲームだと言えるだろう。

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渋谷宣亮
幼少期からビデオゲームが大好きで学生の頃からWeb系ゲームメディアの熱心な読者だったが、2016年末にVRデバイス「Oculus Rift」の購入をきっかけにVR系ゲームライターとして活動を始めた。今あるゲームをやりこむよりも先に新しいゲームに手を出してしまいがち。
編集
ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
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