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『ジャックジャンヌ』が思わず泣いてしまうほど心打つ作品だった件。テンプレキャラの恋愛シミュレーションではなく、緻密な人間描写で描く「青春ゲー」だった!

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 1周目をプレイした際、キャラクターたちが演じる歌劇、つまり劇中劇で感極まって泣いてしまった

 それは、本作の誠実なキャラクターの描き方が積み重なることで、登場人物全員が単なる消費されるキャラクターではない、人格を持った「人間」として立体感を持って私の心に訴えかけてきたからだ。

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 男装した女子生徒が、歌劇団の男子校に潜入して、さまざまな性格を持った学生たちと1年間を過ごす。そういった設定を聞くと、いわゆる乙女ゲーなどに代表される恋愛シミュレーションゲーム、その中でもツンデレやシリアス眼鏡といったテンプレート的なキャラクターやカップリング描写が楽しめる作品を想定するかもしれない。

 だが、『ジャックジャンヌ』まったく違う。本作は全てのセリフに「人間を人間として尊重する」という精神性が行き渡っており、特定の性別やセクシャリティを踏んで成り立つ「萌え」がひとつもない。キャラクターはもちろん、プレイするかもしれないすべての人の持つ何かを否定せず、フラットに我々をとらえてメッセージを伝えてくれる。

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 そうすることで物語の展開以外で心乱されることなく、安心して『ジャックジャンヌ』の世界に没頭することができるのだ。
 
 本稿では、筆者が本作から感じ取ったキャラクターへの誠実さやジェンダーに関するメッセージ性に焦点を当てつつ、『ジャックジャンヌ』を構成する魅力について余す所なく触れていきたいと思う。

文/anymo
編集/ishigenn


『ジャックジャンヌ』の世界観を支えるゲームプレイと高クオリティな楽曲の数々

 本作の舞台は、男性のみが入門を許されている劇団「玉阪座」を母体とした「ユニヴェール歌劇学校」。主人公は、とある事情からユニヴェール歌劇学校に入学し、1年生として1年間を過ごしていくこととなる。

 ゲームプレイは、レッスンやキャラクターとのコミュニケーションや学園生活を楽しむ「日常パート」と、歌劇を舞台にて披露する「公演パート」のふたつに分かれている。
 日常パートでは平日にレッスンで精神力、読解力、歌唱力、舞踏力、魅力、表現といった各パラメーターを上昇させ、休日にはさまざまなロケーションでキャラクターとコミュニケーションが取れる。

 公演パートではリズムゲームで高得点を取ることを目指し、計5回行われる各公演で金賞や個人賞を獲得することが目標だ。

 プレイヤーは公演の詳細なあらすじが本番までわからないまま、歌も本番までボーカルの入っているバージョンは聴くことができない。さらに公演中は、フィルム映画を再現したような画面で物語が進み、立ち絵もその公演ごとの衣装を着用しているほか、演目によって個別の背景やイベントイラストまで収録されている。

 この細やかな仕様によって、プレイヤーは公演を披露するユニヴェール生として、さらに観客としても公演を楽しむことができる

 これらの主なゲームプレイにくわえて、公演の楽曲やBGMもクオリティが高くどれも『ジャックジャンヌ』の世界観を支える大切な要素となっている。

 とくに公演の楽曲は、公式YouTubeチャンネル内のキャストロングインタビューでも、キャストほぼ全員が「歌の収録に苦労した」と語るほど高難度なものとなっており公演の登場人物はもちろん、演じているユニヴェール生たちの心象を非常に繊細に感じることができる。

▼『ジャックジャヌ』キャストロングインタビュー(※ネタバレ注意)

差別や偏見の存在しない世界と、徹底的に誠実に描かれるキャラクター像

 設定資料集『ジャックジャンヌ Complete Collection -sui ishida works-』にて石田スイ氏は、「前提として『ジャックジャンヌ』は男の子が女の子を演じるわけですが、何かのメタファーでもないし、一石を投じたいわけでもない。単純にそういう形のお芝居に対して全力で頑張る、爽やかなものにしたかったんです」と述べている。

 その言葉どおり、本作はジェンダーに関するメッセージをわかりやすいセリフにすることは決して多くない。キャラクターの持つ属性の誇張をしなかったり、冒頭でも述べた特定のセクシャリティや性別を踏んだ表現をしないといったような引き算的な手法を多く使って、すべての人が自然に受け取れるようジェンダーに関するメッセージを伝えている

 本作をプレイしていて最初にそのことを感じたのは、織巻寿々(おりまきすず)との最初の親愛度イベントだった。

 織巻は主人公と同じ1年生。底抜けに明るく努力を惜しまない、天性のスターの素質を持つ同級生だ。ストレートに感情を伝えてくれる彼の個別ルートはもちろん、そうではないルートでもどのキャラクターより王道な振る舞いを見せてくれる、見ていて気持ちのいいキャラクターだ。

 クラスの仲間たちと切磋琢磨し、まっすぐに目標に向かって突き進む織巻の姿勢は本作の爽やかさに大きく寄与している。

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 このイベントは、主人公が女友達である茜あお(あかねあお)と出かけているところを、偶然見かけた織巻があおを主人公の彼女と勘違いしてしまう、といったもの。誤解は解けるものの、主人公への想いに気づき始めた織巻が友情と恋愛感情の狭間で困惑し思い悩む様子が描かれる。

 織巻が危惧しているのは、主人公との関係性が壊れてしまうことだけだ。この時点では、織巻はまだ主人公が女性であることには気づいていないが、「男同士なのに変だよな」といったような、同性愛を物語を盛り上げる「超えるべき壁」の要素として描くことは一切していない

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 また、白田美ツ騎(しろたみつき)「1人の人間として向かい合ったとき性別なんて関係ないと思う」というセリフは、まさに『ジャックジャンヌ』という作品のモットーを表すセリフだろう。

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 白田は本作の攻略対象で唯一の2年生。特技である歌を活かすためユニヴェール歌劇学校に入学したため、芝居やダンスといったことにはあまり情熱がない。しかし、「トレゾール」と呼ばれるクラスで唯一の歌姫であり、歌に関しては非常にストイックだ。性格はドライで他人に興味なさげだが、舞台に関することもそうでないことにも非常に鋭く的確な指摘をしてくれる。

 白田の個別ルートでは攻略対象でないサブキャラクターが多く登場する。クラス内外のさまざまな人と関わり合い、1年を終えるころ白田はどのように変化しているのかぜひ注目していただきたい。

 また、白田を中心に据えた冬公演「オーラマ・ハヴェンナ」は官能的な雰囲気と教会や神父といったモチーフの組み合わせが類を見ない独特なものとなっているほか、公演を通して白田と主人公の関係性にも大きな変化が訪れる。本作の中でも特におすすめしたい公演だ。

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 また、主人公が3年生の睦実 介(むつみかい)とともに身寄りのない子どもたちが集まる教会でダンスを教えるイベントでは、男の子がジャンヌ(女性役)のダンスを、女の子がジャック(男性役)のダンスを教えてほしいと駆け寄るシーンが存在する。このシーンでは、性別によって選択肢が狭まることがない本作の世界を垣間見ることができる。

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 そして、本作においてジェンダーに関するメッセージ性をもっとも多く感じることができるのがサブキャラクター・忍成稀(おしなりまれ)だ。
 忍成稀はかわいらしく巻かれたおさげと、スカートのような服装のキュートな格好が特徴。女性役であるジャンヌの育成と歌唱に力を入れる「ロードナイト」の1年生で、先輩に対して砕けた態度で接したり、女子高生を思わせるような略語など男性しかいないユニヴェール歌劇学校で主人公の「女友達」のように描かれる存在だ。

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 本名の豪稀(ごうき)が設定として存在するが、作中で触れられることはほぼなく、公式サイトでも「忍成稀」と表記されている。
 さらに、あらゆる箇所で男性的な部分をギャップとして見せるようなキャラ付けが一切なされていない。例えば唐突に主人公に恋愛感情をぶつけたりはせず、初めから終わりまで主人公の良き友人として学園生活をともにすることとなる。

 また、忍成の服装について「女の子になりたいから」などの理由が、作中において語られることもない。これは憶測になるが、忍成と行動をともにしている友人・宇城由樹(うしろ ゆき)鳥牧英太(とりまき えいた)のふたりも含めて、ただ「好きだから」や「かわいいから」その服装をしているのではないだろうか。別にそこに理由も、他人に説明する必要もないのだ。

 いわゆる「女装」というキャッチーな属性は一切誇張されることなく、忍成の服装や振る舞いは「忍成稀」を構成する一部分としてのみ描くことでただキャッチーな属性を持ったキャラクターではなく「忍成稀」が主人公を通してこちらに語りかけているように感じることができるのだ。

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友情努力勝利の青春群像劇と恋愛シミュレーション、両方の要素を100%ずつ併せ持つ

 本作は公式サイトにて「物語の結果として恋に落ちることもありますが、友情努力勝利の青春群像劇なのでどなたにでもお楽しみいただける作品です」と明言されているように恋愛シミュレーションとしての側面も、青春群像劇としての側面も併せ持っている

 何度も描写される誠実さや相手への敬意、正面から向き合う真摯さというのものは、恋愛関係でも友情関係でも必要不可欠なものだ。それゆえに本作がキャラクターに対して誠実であればあるほど、恋愛シミュレーションとしても青春群像劇としても100%のクオリティで深く感情移入できる作品として成立している。

 また、筆者は時間にして80時間超え、すでに9周目をプレイしているがいまだに全てのイベントスチルを回収できていないほどに本作はボリュームたっぷり
 さらにどの個別ルートでも、攻略したキャラクター以外のサブキャラクターなどにもしっかりスポットが当たる。ひとつのルートをクリアするころには、きっとユニヴェール生全員のことが大好きになっていることと思う。ぜひ全てのルートを攻略していただきたい。

 『ジャックジャンヌ』は現在、最初の公演である新人公演までを丸ごとプレイできる無料の体験版と、体験版と同じ新人公演までを楽しめるボイスドラマを公式YouTubeチャンネルにて配信している。本作の世界観や魅力に触れることができるので、少しでも気になったのならぜひダウンロード、視聴してみてほしい。

 製品版の価格は税込8580円。きっとあなたの期待を大きく上回ってくれるであろう、自信を持って強くおすすめできる素晴らしい作品だ。

ライター
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ベヨネッタとロリポップチェーンソーでゲームに目覚めました。 3D酔いと戦いつつゲームをする傍ら、学生をしています。
Twitter:@d0ntcry4nym0re
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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