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『ペルソナ3』の巌戸台分寮っぽいレストランに行ってみたら、自分が都市伝説の当事者になってしまった話

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ペルソナシリーズと「噂」と「都市伝説」

 都市伝説の誕生を目撃する……というより私自身がその都市伝説の誕生に関わるという貴重な体験をしたので紹介させてほしい。

 今年25周年を迎える『ペルソナ』シリーズ。これまでにナンバリングタイトルは『5』までリリースされ、時代毎に新たなファンを獲得すべく、その内容を変えてきてはいるが、その根底には「噂」あるいは「都市伝説」というひとつの共通のテーマが流れている。

 初代は流行りの噂の存在『ペルソナ様』を呼び出すシーンから始まる、『2』では噂が現実になる世界が舞台となり、『3』では1日と1日の間にある影時間にまつわる事件が都市伝説のように語られる。『4』では主人公達が噂で広まっているマヨナカテレビに関する事件を究明し、『5』では主人公達自身が噂の存在として大衆に影響を及ぼす。

 どの作品でも主人公達は噂や都市伝説と、それに影響される人々に翻弄され、対峙を余儀なくされている。そのような事態はゲームの中だけで起こると思われるかもしれないが、これは現実に、しかもよりによってペルソナファンの間で起こってしまった事例なのだ。

文/ShoyoFILMS


 事の発端は些細な事だった。『ペルソナ3』には巌戸台(いわとだい)分寮という学生寮が登場する。主人公が仲間達と1年間を暮らす場所として『ペルソナ3』の象徴的な場所である。

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巌戸台分寮正門。『ペルソナ3ポータブル』より画面撮影

 ある日、私は『ペルソナ3』の舞台、東京都港区で巌戸台分寮と似た雰囲気を持つレストラン「クレッセント」を発見、ツイッターに投稿したり、食事に行ってその様子を動画にした(末尾に掲載)。

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港区にある巌戸台分寮っぽいレストラン「クレッセント」

 ここで念を押しておくが、この建物は巌戸台分寮のモデルでもなんでもない。ただ雰囲気が似ているだけなのだ。
 なぜ断言できるかというと、かつて私はアトラスの採用面接で小話としてこの話を出した際、明確に否定されたからだ。

 この情報をネットに載せた結果、そのような雰囲気が似た建物がある事はファンの中でも少し話題になり、ありがたい事に写真を撮ってくるだけでなく実際に食べに行ってくれるファンもいた。

発火

 しかしここから事態は大きく変化する。ある時「『ペルソナ5』の中で巌戸台分寮の建物モデルが発見される」というニュースが報じられる。『ペルソナ5』のデータに「ダミーフィールド」と書かれたテクスチャの貼られた巌戸台分寮のフィールドが存在する、というものだ。

 これは恐らくテスト用に作られたフィールドだと思うのだが、ファンは「『ペルソナ5』のような高精度のグラフィックで『3』のリメイクが出るのではないか」と沸き立ち、このニュースは広く知られることになる。

 その結果、推測だが「建物モデル」の「モデル」の部分と「港区に巌戸台分寮っぽい建物が実在する」という情報が混じり、「港区に巌戸台分寮のモデル(元ネタ)が実在する」という都市伝説が誕生することになってしまった。

 こうなってしまうと噂を消すのはほぼ不可能で、私もSNSでその話題を出す方に説明をして回ったが、全く無駄であった。
 『ペルソナ4』「人は見たいものを見たいように見、信じたいものを信じたいように信じる」というセリフがあるが、まさにその通りで「舞台の港区にあの巌戸台分寮のモデルがある」という魅力的な嘘は野火の如く拡散していった。

 厄介なのは、「クレッセントの建物が巌戸台分寮の元ネタだ」と言われたら信じてしまうほどに、建物の場所も建築様式も近いという点だ。例えば『ペルソナ3』のマップと実際の地図を重ねると、巌戸台分寮(マップ左上にある茶色い建物)とクレッセントの位置はほぼ同じ位置にあることがわかる。

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『ペルソナ3』のタウンマップ
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実際の港区の地図。クレッセントと巌戸台分寮の場所は見事に一致する

 また巌戸台分寮の建築様式もクレッセントと同じく後期ヴィクトリア朝風の趣のあるものであった。
 さらに偶然だが、『ペルソナ3』内で主人公達が利用する屋上へ上る階段があったり、名前がクレッセント(三日月)で月が非常に重要な意味を持つ『ペルソナ3』との関連を匂わせるなど、いかにもファンが喜びそうな要素を備えているのだ。
 こうした偶然の一致から、私自身も「もし事情を知らなければ信じてしまうだろうな」と思うほど“よくできている”噂になってしまったのである。

伝説の終わり?

 さて、そのクレッセントさんだが、建物の老朽化などの理由で残念ながら2020年10月に閉店となってしまった。本稿を執筆した2021年5月時点ではまだ建物は残っているが、取り壊しが決まっている。

 これで噂が消えることはないと思うが、これで今後はお店に余計な迷惑が掛からないことにまずは安堵している。また多くのファンが写真を撮りに行ったり、食べに行ったがクレッセントさんに迷惑をかけるような者が一切いなかった事は『ペルソナ』ファンとして誇りに思っている。

 この一件で私はペルソナシリーズの主人公達のような経験が出来て楽しくはあったのだが、同時に社会がどれだけ進歩しても噂のパワーというのは失われず、むしろより強大になって拡散されていくという恐ろしさも改めて感じた。
 今後はファンとしてより深くペルソナの物語に夢中になれると思うが、同時に物事の真偽は注意深く見極めていきたいと思う。

時は、待たない

 最後に、私が実際にクレッセントさんに伺った際に撮らせていただいた動画を紹介しよう。いただいた料理は非常にどれも美味しく、かつ自分のフレンチの認識を覆す創意に富んだものだった。これもおそらく偶然だが、『ペルソナ』シリーズを連想させる料理が幾つかあったのも嬉しかった。

 この動画を撮った後も2回ほどクレッセントさんで食べることが出来た。その時にペルソナファンが私の影響で来てくれたことなどを伺うことが出来てとても楽しい思いが出来た。料理もランチなら1万6千円程度と内容にしてはお手頃な価格だったのも嬉しい。

 クレッセントさんがなくなると聞いて、「行こうと思っていたのに」と呟いた『ペルソナ』ファンは多い。またこの記事を読んで「行きたかった」と思う方もいるだろう。
 もし足を伸ばす機会があれば、ぜひ本格的な取り壊しがはじまる前に行ってみてほしい。直接足を運ぶのが難しい方は、データが更新される前にGoogleマップのストリートビューで「東京都港区芝公園1丁目8-20」を見てほしい。

 時は、待たない。すべてを等しく、終わりへと運んでゆく(以下略)。『ペルソナ3』のオープニングで流れる言葉だ。その言葉の通り、全ての物にはいつか終わりが来るのだ。限りある時間の中で良いと思ったものに触れる機会はなるべく持ちたいと思っている。

ライター
『ペルソナ3』の巌戸台分寮っぽいレストランに行ってみたら、自分が都市伝説の当事者になってしまった話_005
元ゲームプランナー。現在はWebエンジニアをやりながらゲーム制作を勉強中。動画、イラストなど創作活動にも手を伸ばす。好きなゲームは「TOBAL2」等
Twitter:@shoyofilms

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