『FF7リメイク インターグレード』のインタラクティブミュージック事例と「かめ道楽」日英2言語対応のユニークな制作手法【CEDEC 2021レポート】

 昨年と同様、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となった「CEDEC2021」が8月24日から26日までの日程で開催された。

 2日目に行われた「コール&レスポンス!- FINAL FANTASY VII REMAKE インターグレード – 生ライブでプレイしてるかのような音楽演出と日英2言語対応プロセス」と題されたセッションには、スクウェア・エニックスのサウンド部・コンポーザーの鈴木光人氏、ミュージックディレクターの河盛慶次氏、プロジェクトマネージャーの土岐望氏の3名が登壇し、インタラクティブミュージックの事例紹介や「かめ道楽」制作のプロセス、制作に関する活用法が解説された。

取材・文:神山大輝


多彩なインタラクティブミュージック事例

 不朽の名作の完全リメイクとして発売前から多くの注目が集まっていた『FINAL FANTASY VII REMAKE インターグレード』では、BGMの現代風アレンジとともに、各シーンをシームレスにつなぐ演出的な再生方法が実装されている。

 講演は「BGM再生法の基礎知識」「楽曲制作法」「日英2言語歌唱楽曲ワークフロー」の3項目に分かれており、冒頭ではBGMの使用事例や実装のTipsについて、実際の映像に基づいた解説が行われた。

 本作で主に用いられた再生方法は「1.フィールドからカットシーンBGMへシームレスへ遷移する」「2.フィールドからバトルにシームレスに遷移し、再びフィールドBGMへ戻る」「3.ダンジョンの進行状況に応じてBGMが変化する」の3パターン。いずれもBGMが途切れることなく、ゲームの状況が変わったタイミングでリアルタイムに変化しているのが特徴となる。

 フィールドからカットシーンへの遷移事例では、フィールドBGMである「忍びの末裔」からシームレスに次のBGMへ展開する様子が紹介された。

 フィールドを探索中にエネミーと遭遇し、戦闘へ移行する場合、『FINAL FANTASY VII REMAKE インターグレード』では(近年のFFシリーズと同じように)フィールド画面にバトルUIがレイヤーされることで、特に画面が切り替わることなくシームレスにバトルシーンへ移行する。このため、BGMもいちいちバトル用のものを頭出しするのではなく、シームレスに遷移したほうがゲームへの没入感を阻害しない。

 また、ボスとの戦闘では、敵の残りHPに応じてカットシーンが挿入されるケースが多い。「ガードスコーピオン」などのボス戦闘BGMは基本的に3~4フェーズに分かれており、バトル状況に応じてシームレスにつなげて再生することでユーザーの心理的な盛り上がりを音楽演出の面からも支えている。

 シームレスに遷移するBGMが丁寧かつ違和感なく実装されているからこそ、あえてイントロから再生されるバトル曲が印象付けられることもある。従来通りシーンの切り替わりと同時に楽曲が頭から再生される手法も、演出として適していればまったく問題ないという。

 河盛氏によれば、こうした数々の再生方法を選んで実装することは「基礎知識」であり、いずれも一般的な手法とのこと。現在はゲームの状況や進行度をトリガーとしたアレンジの変化は今や特別なものではないため、どう変化させるかは作曲者の個性とスキルが問われる部分になっている。

 こうしたプレイヤーの動きに連動するBGMの制作方法について、鈴木氏からは「TRACK&シーケンス」「EXPORT」「編集&プラグイン」という3つのテーマで解説が加えられた。

 実例の題材になったのは物資輸送場や資材保管場からなる巨大な施設「ピラーダンジョン」で、開発チームからは「ジャズテイストで、どこを進んでもBGMが途切れないようにして欲しい」とオーダーされたという。デモンストレーションは、鈴木氏が普段から使用するDAWソフトウェア「Steinberg/Nuendo」上で行われた。

 フィールド、バトル、カットシーンのすべてにジャズの要素を取り入れるため、今回はBPM=135で楽曲制作を開始。上記画像の黄色いトラックは「メロディ楽器のないカラオケ」となっており、赤いトラックは「メロディ楽器も含めたフルトラック」の状態となっている。楽曲は主にドラム、アコースティックベース、クリーントーンのカッティングギター、ブラスセクションで構成されており、フルトラックで追加されるメロディ楽器として複数の管楽器群も存在する。フィールドではカラオケのみが再生され、バトルシーンに遷移するタイミングで楽曲もフルトラックに変化することで、同じ楽曲でも展開に変化をつけることができている。

 灰色のトラックは4小節単位のドラムのフィルインで、カットシーンへスムーズに繋げるために1小節なり2小節なりを使って帳尻を合わせるような用途となっている。ゲーム側がカットシーンに移行すると再生されていたBGMトラックが停止し、フィルインのみが再生される仕組み。その後にカットシーン用のBGMに切り替わることで、BGMは一切途切れることなく、まるでライブのようにスムーズに次曲へと展開していく。

 ピラーダンジョンは進行度合いに合わせて、BGMも徐々に盛り上がるよう設計されている。「ジージェが逃げ始めるシーン」、「リフト穴を降りたところ」、「メインピラーを目視したシーン」、「外に出た後」など、状況に応じてBGMが変化する。上記のBGMは、どのタイミングでどこへ切り替わったとしてもテンポを一定に保ったまま遷移できるように作られている。

 続いては「ラナラウンド」のアレンジについて紹介された。本楽曲はパートごとに4種類のステムトラックで書き出されており、それぞれオレンジ色はドラム、黄色はメロディ(サックス、トランペット)、緑色がウッドベース(MicとDIを1本化したデータ)、青はアザートラック(ギターやオルガン、シンセサイザーなどの上モノ)となっている。

 鈴木氏は楽曲の完成後に、各トラックのソロ・ミュートを繰り返しながら構成の検討へ入るという(本人いわく「遊んでいる」状態とのこと)。ドラムトラックやメロディの抜き差し、別セクションのドラムトラックを合わせてグルーヴを調整するなど試行錯誤しながら、どういった展開のアレンジを加えるかを判断している。

 例えば今回は「ドラムを単体で聴いた時のグルーヴが良かった」との理由から、リフトを起動して移動する際はドラムトラックのみが再生されているが、これはユーザーからすれば「リフトに乗った瞬間にドラムソロが始まった!」という新鮮な驚きへ繋がっている。上記のような部分も含めて「ライブのような」演出ということなのだろう。

 外に出てからの静かな展開のセクションに、あえて別セクションのドラムトラックを貼り付けるのも面白い。いずれのセクションもBPM=135で固定されているため、音階のないリズムトラックはどういった合わせ方をしても違和感が出ないようになっている。講演中、鈴木氏は手動でトラックの再生位置を変えながらグリッチのような効果を発生させるといったリミックス的なデモンストレーションも披露していた。

 以上の解説をまとめると、「BPM統一による出入り自由な楽曲構成」にした上で、ステムトラックのソロ・ミュートによるアレンジを行い、場合によってはステムを組み合わせた複合的なアレンジも実装しているとのこと。ユーザーがどのように操作しても、しっかりとBGMが追従する仕組みとなっていた。

 データの受け渡しは、全員が共通の環境で作業をすることが重要。鈴木氏側はステム+メロディのMIDIファイル+Nuendo側で設定した構成&ループマーカーによる譜面設計的なデータを用意し、互換性を保つためにHALionなどの標準プラグインのみを使用する取り決めとなっている。

「かめ道楽」シリーズの日英ローカライズ対応

 続いては土岐氏から「かめ道楽」シリーズのローカライズに関する解説が披露された。『FINAL FANTASY VII REMAKE インターグレード』に登場する「かめ道楽」には合計9曲のボーカル曲が存在し、いずれも日本語版と英語版でローカライズが加えられている。原則としてバックのカラオケは同一の素材で、歌詞とメロディの一部が異なる仕様となっている。

 ワークフローとしては、最初に開発チームが歌詞を作成し、サウンド部がオケ、譜割り、カリメロ、仮歌の作業を行う。その後、開発チームにデモ音源を渡し、OKが出れば本制作に進むという流れだ。一方、英語版に関してはローカライズチームが歌詞を英訳。サウンド部が歌詞のはまりを確認したあとに開発チームが英詞をチェックするフローとなっている。

 ローカライズチームはゲーム内容を熟知しているため、細かな説明が不要で歌詞に世界観を反映しやすい。一方でサウンド班とローカライズ班の繁忙時期は重なる場合も多く、メロディにハマらない歌詞を何度も修正するのは困難だった。そこで、開発チームが英詞を確認する前にサウンドチームで歌詞のはまりをチェックすることで、あらかじめメロディに乗らない英語表現をスクリーニングし、修正の工数を最小限にできていたという。

 日本語と英語の言語的な違いは「アクセント」と「リズム」。日本語は単語を認識する上で、音の高低差を判断基準としている。“箸”なのか“橋”なのかを判断するのは、単語のどこが高く読まれているかが重要となる。一方、英語は強弱のアクセント(強く読む部分)の場所が単語識別において重要なポイントとなる。

 もうひとつの「リズム」については、実際に声に出してみると分かりやすい。例えば「ラーメンをたべる」は一定の単調なリズム(モーラ拍リズム)で読みあげられる。しかし、英語は強勢拍が一定の間隔で繰り返されるため、例えば「I eat ramen」に「will」が入ったとしてもリズム的な変化はない。「I’ll eat ramen」のようにI側のリズムに含まれるからだ。

 上記ふたつの違いから、日本語のメロディへ英語の歌詞をそのまま当てはめただけでは音楽的なメロディ強拍・弱拍と言語的なアクセントの位置がズレてしまい、不自然になってしまうという問題が発生した。

 本件を解決するために、「歌い出しを調整してメロディの強拍・弱拍にリンクさせる」「歌いにくい箇所はメロディの高低差を意識する」「それでも歌いにくい場合は音価(音の長さのこと)も調整する」の3点を意識して、メロディ側を歌詞へ合わせることで自然な英語版のボーカルラインを作り出している。

 ここからはメロディライン変更の具体例がいくつか紹介された。実例その①として紹介された「かめ道楽の歌」の「すてきなひととき」という歌詞は、英詞にすると「Everyone loves our ambience」となる。

 しかし、メロディにそのまま当てはめただけでは、小節頭や表拍などの「音楽的な強拍」にあたる部分が「本来の英語的なアクセント」と乖離する。本来であればEv、Loves、amにアクセントを置くべきだが、そのままのメロディラインではいずれも弱拍になってしまっていた。

 そこで、歌い出しを後ろにずらして小節頭から始まるメロディに変更。その分、もともとは休符になっていた3拍目も歌詞の分メロディを追加することで、アクセントの問題を解決した。また、日本語歌詞の「ひと”と”き」は音階の跳躍があるが、そのまま当てはめた場合はAmbienceの”bi”が目立って聴こえてしまうため、am-biを順次進行とすることで特定の音節が目立たないような工夫が施されている。

 上記のような変更は、収録日の当日に実行することもあったという。「ゆっくりがっつりかめ道楽」には「ゆっくり がっつり」という歌詞が登場するが、これを英詞にすると「You n’ me, nice and easy」となる。

 そのまま当てはめても成立はするが、レコーディング当日にボーカリストが歌いにくそうにしていたため、その場でリズムを変更する運びととなった。

 当初の譜面では、英語のアクセント的にも強く読みたい「You」や「Nice」が16分音符であったが、変更後はそれぞれ8分音符となっている。英語は強く読みたい部分が長く発音される場合が多いため、音価を変更して対応したケースとなる。ボーカリストの個性なども踏まえたうえで、日本語メロディとのバランスを考えつつ、どうしても難しい部分だけを直すという思想でアレンジが加えられていたという。

 なお、このメロディの変更について、河盛氏は「ここまで細かくやっているのは初めて聞きました」と驚いた様子で、鈴木氏も「気づいたらアレンジが効いている時もあって、それがまた面白いんです。ルールはあってないようなものなので、格好良ければそれでよし、という方針で採用しました」とコメントした。


異なる環境でリモート収録されたボーカル群の編集

 続いては、鈴木氏からリモート収録時の作業手順が紹介された。「かめ道楽音頭」の曲中では多重コーラスが必要だったが、コロナ禍において大人数でスタジオに入ることは避けなければならなかった。そこで、サウンドスタッフ各自の環境で録音をしてもらったボーカルデータを集め、エディットすることで「ガヤガヤ感」を演出した。

 問題は、それぞれの自宅の録音環境が大きく異なっていたこと。最も大きな要素は「部屋鳴り」と「環境ノイズ」で、前者は部屋の広さや吸音性能に応じて反射音が収録されてしまう問題で、後者は今の季節であればセミの鳴き声などが一緒に収録されてしまう問題となっていた。

 これを解決する手段として、本制作においてはオーディオ・リペア・ツールである「iZotope/RX8」が全面的に活用された。RX8は音楽制作やポスプロの現場ではすでにデファクトスタンダードになりつつあるプラグインで、収録音から魔法のようにノイズを除去できるという。部屋鳴りの除去は「De-Reverb」、バックグラウンドのノイズ除去は「Spectral De-Noise」、PC内蔵マイクのハムノイズ除去には「De-Hum」を用いている。上記ふたつはいずれもRX8内のモジュールで、それぞれを組み合わせて使えるほか、Nuendo等のDAWソフトウェアのインサートエフェクトとして個別に使用可能となっている。

 1人3パターンほどを収録してくれたスタッフもいたことから、多重コーラスのファイルは26トラックにも及んでいた。きちんと歌ったデータもあれば裏声のようなデータもあり、それぞれが個性的な歌い方をしていたが、なかにはさまざまなノイズも内包されている。各モジュールはThresholdとReductionの2つのパラメータ設定を追い込み、1トラックずつ丁寧にノイズを取り除いていった。

 こうした流れで完成した「かめ道楽音頭」は、まさにお祭りのような賑やかなサウンドに仕上がっていた。

 リモートレコーディングのメリットは「離れた環境で時間関係なく自由に録音が可能」「立ち会いの必要がない」という点も挙げられるが、なかでも印象的だったのは「自分の想像を越えた、それぞれの想像したかめ道楽が送られてくるので、極めて楽しい!」ということ。この試みは非常にいい結果に繋がったため、かめコーラス隊の皆さんは他の楽曲も参加することになったという。

 講演のまとめとして、河盛氏は「コールに対して柔軟に音楽を変化させるインタラクティブミュージックは一般的になりました。今後はさらに自由に遷移させるためには、アドリブ感や未来志向が問われることなります。今後は偶然性も取り入れていければと思います」と総括。また、土岐氏は日英2言語対応について「言語の特徴に寄り添ったメロディメイクで違和感を取り去って、さらにノリの良い楽曲に仕上げました」とコメントした。

 最後に、鈴木氏はリモート収録事例を振り返ったのち、「まだ遊んでいない方は是非、既にプレイされている方も、今回の内容と照らし合わせて楽しんで頂けたら嬉しいです」と講演を締めくくった。

ライター
神山大輝
NINE GATES STUDIO代表。音楽・映像制作事業を軸に、雑誌や書籍、Webメディアで技術系ライターとしても活動中。2013年頃、他業界でサラリーマンとして働くかたわら、スマートフォン向けゲームのコンポーザー/サウンドデザイナーとしてゲーム開発キャリアをスタート。独立後は映像制作や大学教育にも携わるなど「なんでも屋」として活動の幅を広げている。テクノロジーと音楽、そして2D格闘やFPS/TPSなどの対人ゲームをこよなく愛する。
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