さてゲネプロ後、イシイジロウ氏と北川尚弥さんにインタビューする機会があったので、おふたりのインタビューをお届けしよう。
イシイジロウ氏インタビュー「プレイヤー同士のコミュニケーションが物語を変えていく作品」
——今回、演劇作品なのに、同時にチャットをコミュニケーションをしていく作品です。主演の北川さんのお芝居に惹きつけられるのは当然なんですが、他のプレイヤーの皆さんがチャットでどういう風に反応をするのかも気になって、これがけっこう意外な経験でした。
イシイ氏:
今回、謎解きの良さとお芝居の良さを両方とも成立させたいと思ったんですね。謎解きモードのときはお客さんが主役で、演劇のモードになると北川さんが主役。だから謎解きに集中できる部分と、芝居に集中できる部分がキャッチボールになるように作られています。
——確かにそれは鮮明に感じました。北川さんは無理に物語を進めようとする気配はなくて、あくまでプレイヤーの反応をじっと待っていましたね
イシイ氏:
皆さんが謎解きをしているときにお芝居で蓋をしないようにはこだわりましたね。謎解きに集中したいという人、役者さんを観たいという人、謎解きは疲れちゃったからやりたいくない人とか、謎を解いているものを役者さんがコミュニケーションとしてやっているものを見てて楽しいものにしたいことを目指しています。あと題材的には『囚われのパルマ』の面白さをリアルにしたような側面があるんじゃないかと
——なるほど、そこは気づかなかったです(笑)。『極限脱出 9時間9人9の扉』や『タイムトラベラーズ』の「TTフォン」を感じる部分はあったんですが。
イシイ氏:
ネタバレになるからいえませんが、『428』を感じてくれた人もいますね。『囚われのパルマ』には独自の魅力があると思うんですよね。『シークレットカジノ』に参加させていただいときに、こういう画面ごしの1対1のコミュニケーションはいくつかやり方があると思ったんですよね。
僕が作った『Little Lovers』もそうですし、90年代なら『NOëL』のような疑似テレビ電話みたいなゲームもある。そのフォーマットの中で男性の俳優さんを使うとなると、『囚われのパルマ』がイメージとして出てくるんじゃないのかと。
——本作はゲームをプレイしているような感覚がありつつ、ビデオゲームと比較にならないほどコミュニケーションの自由度の高さを感じました。「こういう可能性もあったんじゃないか」とか「違う公演だとどうなるんだろう」と想像力が膨らんでいく。
イシイ氏:
そこはやっぱり人間が演じているから強いですね。演者はもちろんのこと、プレイヤー同士も謎解きの協力をしてもいいわけですから、自由度が高く見えますね。デジタルゲームを作っている身としては、プログラムは想定の組み合わせ。そこでAIでは不可能な人間的なコミュニケーションをゲームとして実現しようというのは意識していますね。
——チャットで、謎解きに関してヒントに留めるべきなのか、それとも答えを言ってしまうべきなのか迷っている人がいたんですが、どちらを想定されていますか。僕は答えを言われても気にならないんですが、気にする人もいるのかなと。
イシイ氏:
そのとき次第とは思いますね。答えが出てしまっても「どうして?」とプレイヤー同士で聞く空気が作れればいいと思うんですよ。理由がなく、唐突に答えだけを言われてもわからないので、過程を共有していく遊んでいく謎解きにはしたいなと思っています。
過程を通らないと答えにいけないようなコミュニケーションの制御の仕方もあるんですが、そこはあえて自由にしています。過程から答えにいってもいいし、答えから過程にいってもいい。そのあたりも自由度が高く見えた要因かもしれませんね。
——ずばりエンディングは分岐するんですか?
イシイ氏:
分岐を用意しています。
——ただそうなると条件はかなり難しいんじゃないですか。まずたどり着けないと思うんですが。
イシイ氏:
この作品はリプレイ可能なところもを想定しているんですね。だから1回目の公演を楽しんだ人は、2回目の公演で違う楽しみ方をして欲しい。
——え、2周目のプレイヤーを想定済みなんですか。それはちょっと驚きました。
イシイ氏:
シナリオ上では分岐する展開が書かれています。実際にそれが行われるかは不明ですが、今回は2回しか公演がないので、好評で再演をしたら別の分岐を観られるとか、さらに違う分岐を追加していこうとかはありえるかもしれないですね。
——ただ1回目と2回目のプレイヤーの情報の齟齬があるので、2回目のプレイヤーは1回目のプレイヤーに対して、なぜ違う選択を選ぶのかそのことを説明をするコストがかかる気がします。
イシイ氏:
そこでプレイヤー同士のコミュニケーションを取れるかどうかなんですね。しっかりとコミュニケーションを取れる空気感を作れたら、チャットの中で議論が起きる。プレイヤー同士のコミュニケーションが物語を変えていくわけです。
——他のオンライン型のイマーシブ・シアターの経験が少しだけありますが、総合的に従来のものとはかなり違う作品になっている印象を受けました。
イシイ氏:
既存のものとは違うものになっていると思いますし、演劇と謎解きは組み合わせが悪いなと思っている方やゲームファンにも見に来て欲しいですね。それまでとは違うアプローチをして、満足していただけるようにがんばりました。10年、20年のデジタルゲームがどんなことが起きていくのかの一種の試金石になっている作品にもなっていると思います。
——それにしてもイシイさんのお仕事は、ゲームクリエイターの枠に収まらない形になっていると思うのですが、そのあたりはご自身でどのように考えられていますか。
イシイ氏:
ゲーム性というものを色々なメディアに持ち込んでいく仕事とすれば、広義のゲームデザイナーといえるかなと。すべてをゲームにしていく仕事ですね。少し前だと「シナリオライター」や「原作者」という肩書が前に出ていたときもあったんですが、最近は映画やアニメに関わるとしても、「ゲームデザイナー」と名乗ることが多いんですよ。
——映画をゲームデザインする、アニメをゲームデザインする、そして今回はイマーシブ・シアターをゲームデザインするという発想ですね。
イシイ氏:
まさにそのとおりですね。アニメや実写映画で40年や50年もやられている方に対して、僕が対抗できるのはゲームデザイナーとしての価値しかないのかなと。最近は「魂はゲームデザイナー」と言えるようになりました。
——それはいちゲームファンとして嬉しい言葉が聞けました。ありがとうございました。
北川尚弥さんインタビュー「役者とお客さんの会話によって成り立たさなきゃいけない」
——北川さんは体験型演劇で演じられるのは初めですか。
北川さん:
初めてなんです。これまでやったことのないコンテンツなんで、オファーをいただいたときに戸惑いもあり、嬉しさもあり、即答で「やります」と返事させていただきました。
——(笑)。即答だったんですね。
北川さん:
やります、やってみたいですと返事させていただいて、こういう形で参加させていただいています。
——体験型演劇とはどういうものなのか事前に知っていたのか、それともオファーの後に調べられたんですか。
北川さん:
オファーをもらって調べました。それまでは体験型演劇という存在すらも知らなくて、そのときに初めて知りました。最初は企画書を見させて頂いて、次に台本をいただいて、それを見ながらゲームや物語の説明を受けたんですが、その後にお客さん目線でゲームだけやってみたんです。
物語が進行しながら、ヒントを出したり、皆さんと一緒に解いていかなきゃいけないというところもあったので、普段やっている演劇と比べても二重、三重と大変なことをこれからやるんだなと感じました。
——普段の演劇と比較して、今回の作品の違いは演じるにあたってどのあたりが大きな違いでしたか。
北川さん:
一番の違いは普通の演劇だと役者と役者の会話によって成り立つものなんですが、今回は役者とお客さんの会話によって成り立たさなきゃいけない。しかも出演者が僕と大勢のお客さんとなので、そこをまとめたりするのが演劇とまったく違うものをやっているなとは思いました。
——イマーシブ・シアターでも、このフォーマットはほとんど前例のないものでしょうし。
北川さん:
そうですよね。だからどちらかというと、最新に近いのかな。皆さんのコメントを拾いながらやっていきつつ、お芝居という線路、エンドが決まっているものなので、皆さんを線路に乗せて導かなくてはいけない。言葉巧みに物語を進めていく必要があって、台本があるようでないようなものと言ったらいいんでしょうか。すごく難しいなというのは感じました。
——頭の疲労度が普通の演劇の何倍もありそうなイメージですね。
北川さん:
いや、そうなんですよ。この現場に入ってから頭を使いすぎて、夜が眠れなくて(笑)。
——エンジンが入ったままの状態になっているんですね
北川さん:
普段、やっている演劇はその通りにやればいいんですけど、今回いただいている台本を覚えても、別のことをお客さんが返してきたら、いったんそのリアクションをしてから自分の作り上げた台詞をいい形にしたうえで言わなくてはいけないんですね。お客さんとの対話によって作り上げていくものなので、公演自体は2回だけですけど、まったく違うものが出来上がるのではないかと思います。
——想像を絶する大変さですね。
北川さん:
演出の指示も入ってくることもありますので、視野を広げてやらないといけないんですね。舞台と違って、ちゃんとお客さんの皆さんにも謎が画面上でちゃんと見えるように、視覚的に上手く利用をしながら導かなくてはいけないので、本当に一言でいったら「大変」、「難しい」で終わっちゃいますね(笑)。
——逆に演技の新しい面白さを見つけることができた部分はありますか。
北川さん:
舞台と映像の両方のいいとこ取りの部分があるのがこの作品だと思うんですね。お客さんからどういう風に見えているのかを確認しながら演技をしているので。難しさもあるんですけど、視野を広げたり、表情であったりとか、そういうのを上手く理由してみなさんの心を動かせたらいいなと思います。
最初は僕に指示を出すのは戸惑うかもしれないけど、どんどん慣れていくと自分もオープンチャットで指示を出していいんだ、自分の意見も聞いてくれるんだと、お客さんも感じ取ってもらえたらより物語を一緒に作り上げてくれてる感が出ると思います。
——新しいだけにさまざまな可能性が広がっている作品ですね。
北川さん:
この作品がきっかりと終わらせることができたら、いくらでも作り上げることができると思うんですよ。オンラインという形で家からでも参加できるし、足を運ばなくても参加できるのはすごく需要があるものと思うんですね。
もっと幅広がって、クオリティがあがっていったら、VRのドラマの中に参加したみたいな素敵な世界を作ることができるなと思いますね。これがどんどん広がっていったら嬉しいですね。
——本作はいろいろと未来の想像が広がる作品になっていましたね。ありがとうございました。
■イマーシブミステリー『アウフヘーベンの牢獄』開催概要
日程 : 2021年12月4日(土) / 11(土)
公演時間 : 19:40開場 / 20:00開演
チケット代 : 前売 4,400円 / 当日 4,600円 (いずれも税込)
発売日 :2021年11月11日(木)21:00より、LivePocketにてチケット販売
特設サイト : https://yodaka.info/event/2112aufheben
公式Twitter :@ImmersiveMyst企画・製作 :「イマーシブミステリー『アウフヘーベンの牢獄』」製作委員会
原作・総合監修:イシイジロウ
ゲーム制作 :よだかのレコード(㈱stamps)
演出 :岡本貴也
脚本 :岡本貴也、イシイジロウ
配信・テクニカルプランニング :ノ―ミーツテック テクニカルディレクター 藤原遼
クトゥルフ監修 :林譲治
宣伝美術・衣装協力 :変身写真館 ミニーナ
演劇制作 :松竹㈱