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『マトリックス レザレクションズ』が新たに示した仮想現実に対する解答とは? 「ゲームデザインを導入した映画」としての『マトリックス』の先駆性に迫る

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 ※本稿では『マトリックス レザレクションズ』のネタバレを含んでいます。

『マトリックス レザレクションズ』の新たなる地平

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©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

 『マトリックス レザレクションズ』は冒頭から意外性のある展開の連続だ。謎の勢力の視点から、第1作『マトリックス』の冒頭を彷彿とさせる場面からはじまり、混乱をきたすような展開が続く。

 物語に唖然としつつ、ついにネオが満を持して登場すると、なぜかトーマス・アンダーソンとして振る舞っており、職業はプログラマーではなくゲームクリエイターになっている。しかも『マトリックス』は1999年に発売したビデオゲームなのだという。

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(画像はかまいたちの夜2〜監獄島のわらべ唄〜 | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

 「前作は実はビデオゲーム作品でした」となると、思わずサウンドノベルの『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』を彷彿とさせる。

 『マトリックス』が現代のゲームデザイン・シネマ的な要素を先取りしていたというのは前述した通りだが、こうした展開はまるでそれを自覚したうえで、自己パロディ化しているようにも見える。

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 ここで観客はいくつかの多層的な不安に陥るだろう。

 観客である我々は少なくとも1999年に映画として『マトリックス』を知っているのに劇中ではズレがあること。次に、そもそも冒頭のシーンとこのネオがどのように繋がっていくのかまったく読めないこと。最後に、本作においては『マトリックス』は本当にビデオゲームとして描いてしまうのか?という不安である。

 その真相については触れずにおくが、この序盤の一連のシークエスは目まぐるしく、メタで階層的な関係性を考察を強いられる。『マトリックス』ならではの緊張感と面白さにあふれており、第1作目とは違う実在的不安を描いた、新たなる地平といえるだろう。

『マトリックス レザレクションズ』の「ルール」とは自由を得るもの

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 ここから『マトリックス レザレクションズ』は意外にも『マトリックス』シリーズのメインテーマ、つまり「自由意志」という問題に立ち返る。

 近年、脳神経科学者のベンジャミン・リベットの実験で「自由意志は存在しない」という疑義すら出ているが、少なくとも『マトリックス』シリーズにおける「自由意志」とは、他者から信じられるという過程を踏んだうえで、自己を認識し決断することだ。

 『マトリックス』において、ネオは「あなたは救世主ではない」と予言者から告げられ、ネオも自分自身を救世主と信じていなかった。だが、モーフィアスとトリニティーは「ネオは救世主である」と最後まで信じ、結果的にネオは救世主となった。

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(画像はマインド・タイム 脳と意識の時間 | ベンジャミン・リベット, 下條 信輔 |本 | 通販 | Amazonより)

 続編の『リローデッド』では、救世主とは「想定されていたアノマリー(異常)」とされていたが、これについて『マトリックス レザレクションズ』では「アノマリーの中のアノマリー」と評されている。

 『マトリックス レザレクションズ』の冒頭シーンが象徴している通り、本作は『マトリックス』をなぞりつつも、別の視点からみた作品だ。

 本作は、「自由意志」や「サイファーの問題」が迫られるのはネオではなく違うキャラクターに対して向けられる。そうした物語の果てに、我々は本作のラストで新たな「ルールの追加」を目撃する。

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 『ウエストワールド』や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』などの「ゲームデザイン・シネマ」は、ルールとは武器であり束縛だった。そしてそのルールの綻びを見つけ、ルールから脱出することで自由を得ることが描かれていた。

 だが『マトリックス レザレクションズ』におけるルールとは、他者との信頼関係でアップデートし、さらなる自由を得るものとして描かれる。本作の最後に追加された「ルール」はとても希望に満ちており、むしろ納得感すら感じるものだ。

 良いルールは歓迎すべきものであり、世界や仮想現実をより魅力にする。本作における「サイファーの問題」への解答は、「現実と向き合う」という空虚なものではなく、むしろ「他者と向き合う」という身近なものだ。そうすることによって現実だけでなく、仮想現実もより良い世界になっていく。そのためにキャラクターたちは戦うことを選択していく。

 もはや「現実なのか、仮想現実なのか」という実在的不安、テクノロジーの発達による「現実とゲームの境目がなくなる未来」を不安に思う必要ないのかもしれない。あるのは現実であれ仮想現実であれ、良いルールと悪いルールがあるということだけだ。

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 『マトリックス レザレクションズ』は、現代のゲームデザインが組みこまれた「ゲームデザイン・シネマ」に対して、先駆者の立場から新たな価値観を提示していることに成功した。

 そして本作はコンピューターによる急速な社会の変化に対して、我々がどのように向き合えばいいのかを示唆している。疑いなく悪いルールを放置すると、その先に待っているのはディストピアだ。ゆめゆめそのことに気を付けなければいけない。


『マトリックス レザレクションズ』作品情報
12月17日(金)より大ヒット公開中!
原題:『THE MATRIX RESURRECTIONS』
監督:ラナ・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、
プリヤンカ・チョープラー・ジョナス、ニール・パトリック・ハリス、ジェシカ・ヘンウィック、ジョナサン・グロフ、クリスティーナ・リッチ
オフィシャルサイト:matrix-movie.jp  オフィシャルTwitter:@matrix_movieJP  #マトリックス
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ライター
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman

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