数多の「麻雀ゲーム」の中で「お気に入りの1本」を挙げるとしたら、いったいどのタイトルを思い浮かべるだろうか。
麻雀ゲームは数多くあれど、その中でも筆者は『セガNET麻雀 MJ』シリーズ(以下、『MJ』)を推したい。
なぜなら、『MJ』には“『MJ』にしかない良さ”があるからだ。もちろん、どの麻雀ゲームにも強みはあるのだが、「これこそ『MJ』!!」という刺激は何物にも代えがたい。
もちろん『麻雀』を打ちたいなら他のタイトルでも──というか麻雀牌さえあれば打てるわけだが、『MJ』の楽しさは『MJ』でしか味わえない。麻雀ゲームでありながら、麻雀それ自体とはまた別の楽しさを持っているのが『MJ』というゲームなのだ。
筆者は元プロ雀士なのだが、『MJ』にはアーケードの『MJ2』時代からお世話になってきた。そんな筆者が思う『MJ』のもっともいいところは、「プレイヤーの楽しさを何倍にもするために、つねに全力を出している」という点だ。
「自分の麻雀だけに集中して向き合える」という特性のあるネット麻雀でありながら、派手で刺激的な演出や実況・解説音声が搭載されており、リアル麻雀の臨場感やワクワクドキドキ感も味わえる。『MJ』には、まさにネット麻雀とリアル麻雀のいいとこどりをしたような、独自の魅力があるのだ。
ネット麻雀でも雀荘でもない、『MJ』独自の楽しさ。この魅力は、もっと巷の麻雀打ちたちにも知られてほしいと思う。というわけで、本稿では元プロ雀士としての視点も織り交ぜ、『MJ』の魅力について解説していこう。
「ネット麻雀」と「リアル麻雀」のいいとこどりをした『MJ』
そもそも、「『MJ』は他のネット麻雀とは違う」と言われたら「そりゃあそうよ」と思う人のほうが多いかもしれない。
『MJ』はゲームセンターのアーケード筐体から始まったネット麻雀だ。当時の『MJ』のライバルは「他のネット麻雀」ではなく「雀荘」だった。『MJ』が稼働開始した当時のネット麻雀は種類が少ないうえに、現在ほど洗練されておらず、プレイヤー人口の多さで有名なタイトルも2~3種類程度しかなかったのだ。
そんな折にゲーセンで稼働していた『MJ』は、リアル麻雀の再現度が群を抜いており、美麗なグラフィックとリアルなサウンドは、麻雀牌に触っていなくても「麻雀をしている」という気持ちを強く満たしてくれるものだった。
また、いまでは当たり前になったタッチパネルも当時はあまり普及していなかった時代。タッチパネルをタップすることで打牌ができるUIは、「麻雀牌に実際に触れている」感触を強くプレイヤーに残すものだった。『MJ』は、「ゲーセンに雀荘がある」と言える存在だったのだ。
そしてそのうえで、『MJ』は「ネット麻雀」「リアル麻雀」の両者のいいとこどりに成功していた。
ネット麻雀の良いところは、前述したとおり「自分の麻雀だけに集中して向き合える」ところだ。アガったあとの点数計算や点棒の授受はすべてオートで処理されるし、同卓者の小ボケやボヤキがないので静かに手牌に向き合うことができる。
一方でリアル麻雀の良いところは、なんといっても「これが出たらロン」「リーチすれば跳満までいくかも!」というワクワクドキドキ感だ。「他のネット麻雀でも同じ経験はできるだろう」と思われるかもしれないが、当時の一般的なネット麻雀は無味乾燥なUIがほとんどで、アガりが可能になっても「そのときに取れるアクションが表示される」としか表現しようがない画面だった。
その点『MJ』では、“リアル麻雀の臨場感”を味わえるよう、演出面にかなり力が入っていた。高い手をテンパれば稲妻が走り、ロン牌が出れば周囲は暗くなりその牌が光るようにピンスポットでハイライトされ、世界のすべてがその待ち望んだ「瞬間」にフォーカスされるようなニクい演出。
これは、雀荘で実際に打った経験がある人なら経験したことがある感覚だと思う。待ちに待った牌が出た瞬間、すべての景色は「その1牌」のために集約され、他のすべては存在感を失う。
そんなとき、『MJ』では「アガリ」ボタンが大きく赤く光り、大きなボタンをバチッと叩けば「ドゴオオ!」と雷がアガり牌を直撃する。プレイヤーの脳を音と光の快感が駆けめぐり、アガリの快感をさらに増加させてくれる。こうした『MJ』の刺激的な演出は明白に実際の雀荘寄りに施されており、当時のネット麻雀にとっては追随しようもない要素だった。
※実況が英語なのは「なんかEVOっぽくない?」という筆者の好み
麻雀の楽しさをさらに何倍にもしてくれる「実況・解説」機能
この時点ですでにネット麻雀と雀荘の両者のいいとこどりに成功し、「『MJ』ならではの楽しさ」は確立されていたのだが、バージョンアップを重ねた『MJ』にはさらなる要素が追加されている。
それが「実況・解説」機能である。
ゲーセンの『MJ』には大抵ライブ筐体が併設されており、現在店内のどの台が空いているのか、各台の成績はどのように推移していっているか、また、店内で連勝記録を伸ばしているプレイヤーは誰なのか、などのさまざまな情報が代わる代わる表示されていた。
当時、そのライブ筐体だけに搭載されていたのが「実況・解説」だった。全国の強豪や、連勝中の打ち手の牌譜を映像で流し、その画面でだけ「プレイヤー、リーチ!!」などの元気の良い実況と解説が聞けたのである。自分の麻雀を実況されることは、『MJ』プレイヤーにとっては誉れあることだった。
こうして実況・解説機能は好評を博し、のちにライブ筐体だけでなくすべてのプレイヤーの台に提供されることになった。
ライブ筐体から、打ち終わった牌譜にあとからのせられる実況・解説を聞くのではなく、リアルタイムで自分のために実況・解説されている音声を聞くことができる!!!
言うまでもなく、これはネット麻雀にも雀荘にもない要素だ。「『MJ』ならではの楽しさ」の次元がまたひとつ上がったのである。
強いて言えば、雀荘で仲間内で打つ時に限れば似たような体験は可能かもしれない。「追っかけリーチ!」「出してしまったー!」などのテンションの高い応酬は、仲間内でならやりとりすることも可能だろう。
しかし、これがゲーセンに行けば、ひとりでプレイしていても味わえてしまう。音と光の刺激的な演出に加え、さらに「1牌ツモるごとに楽しさを共有してくれる音声」が追加されたのである。
これは現在も『MJ』以外のネット麻雀には見られない、独自にして最高の演出だ。
『MJ』はプレイヤーの楽しさを何倍にもするためにつねに全力を出している
以上を踏まえて、『MJ』の魅力はどういったところか? という点をひと言で表そう。それは「プレイヤーの楽しさを何倍にもするためにつねに全力」ということだ。
ネット麻雀の良さ、雀荘の良さ、『MJ』ならではの良さ、それらがすべて合わさった体験は、「プレイヤーの感情と卓上をいつも全力で盛り上げる」効果を生み出している。
この「全力で盛り上げる」効果については、人によって賛否両論あるだろう。もちろん「とにかく静かに打ちたい」という人もいる。そのような人には、競技麻雀寄りの演出の静かな麻雀ゲームを選択するほうが向いているだろう。競技麻雀は黙って淡々と打つことがベースの麻雀だ。
だが、「麻雀」というゲームを単体で眺めてみれば、必ずしも黙々と淡々と打ち続けることが「至上」ではないことは確かだ。麻雀は競技である以前に「ゲーム」でもあるからだ。もっと「ゲーム」として楽しんでいいし、音や光で刺激されていいし、大きな手が入れば興奮していいし、アガれたときは全力で喜んでいいのだ。
『MJ』は麻雀という「ゲーム」と「感情」を切り離した人にこそ、「こういう楽しみ方だってある」ということを思い出させてくれる存在なのではないかと思う。感情を檻の中に閉じ込め続けることを「是」とせず、たまには麻雀が呼び起こすプリミティブな感情を解放してみてはくれないだろうか。
そのとき、1巡ごとに1牌の重みを共有してくれる実況・解説は、プレイヤーにとってかけがえのないパートナーとなり、最高のひとときを演出してくれることだろう。
『MJ』はCPUがけっこうちゃんと打つし、雀荘で遊ぶイメージトレーニングにもなる
「麻雀に興味はあるけど、ルールがよくわからないし、教えてくれる人もない……」という方にはぜひ『MJ』をおすすめしたい。
とくに新型コロナウイルスの流行以降、「大学の先輩が教えてくれた」といった対人ベースの受け継がれ方は壊滅的になっているのではないかと思う。しかし麻雀のプレイ環境は昔よりずっと遊びやすくなっており、麻雀人口は死に絶えていない。
潜在的な麻雀プレイヤーに対して、ルールの普及は追いついているのだろうか。誰がルールを教えてくれるのか?
そこでプレイヤーを導いてくれる存在が、『MJ』のトレーニングモードだ。
UIはシンプルで、最初に麻雀の解説があり、そのあとにひたすらクイズが続く。しかしこのクイズが言うまでもなく麻雀に関するマニアックなもので、これに正解し続ける実力があれば「実戦など怖くもなんともなくなる」と思える内容となっている。
すでにルールに明るい人にとってトレーニングモードは釈迦に説法となってしまうが、どこまでノーミスで解答できるか挑戦してみるのも一興だ。ぜひ一度はトレーニングモードをプレイしてみてほしい。
また『MJ』は実戦中でも、どの打牌を選択すればアガりに結びつくのか、アシスト機能が搭載されている。
オンラインで実際にプレイしながら学んでいけるので、どんな初心者でも「この牌を切ればテンパりやすい」といった初歩の牌効率が、アシスト機能を頼っていくだけで感覚的に身につく。
他にもCPU(AI)がけっこうちゃんと打つので、CPU相手に修行をするのもかなり良い。
筆者は新しく始めたアカウントでCPU相手にガチガチに修行をしすぎて、いざ実戦に臨んだ時に「オンラインもっとゆる~く突撃しても遊べるわ……」という新鮮な衝撃を受けた。
スマホ版のCPU戦はオフラインモードで遊ぶことができるので、「ちょっと牌をつまみたい」という気分のときに非常に向いている。個人的にはかなりオススメだ。
そして最後にもうひとつ、『MJ』はリアル麻雀と雰囲気が近いので「雀荘で遊ぶイメージトレーニングになる」という点だ。
「雀荘は未経験だけど、いつか経験してみたい」という方なら、一度は『MJ』をプレイしてみてほしい。たとえばリーチ者がアガったあとの裏ドラをめくる所作などは、大抵のネット麻雀ではカットされているが、現実の雀荘ではアガった人間がやらなければならない大切な行為だ。
そういった予習を抜きにして雀荘に行くと、見知らぬルールに萎縮してしまい、楽しい麻雀を経験できなくなってしまうかも。『MJ』を打つことでのびのびとイメトレし、雀荘で打つ体験をより豊かなものにしてほしいと思う。
『MJモバイル』でも『MJ』の楽しさは変わらない。JanQも新鮮
筆者はアーケード版の『MJ』をずっとプレイしていたのだが、スマホ版の『MJモバイル』には今回初めて触れた。そのうえでやはり、派手な音と光、実況・解説とともに体験できる『MJ』シリーズの楽しさは、『MJモバイル』になっても変わることがない唯一無二の楽しさだと感じた。
アガり牌が出た時にスマホ本体が「ブルッ」と振動する機能は、ゲーセンにもPC版にもないスマホ版だけの機能だが、これは新たな刺激だった。スマホの小さな画面でのプレイは、どうしても『MJ』が持つ「全力で盛り上げる」要素を縮小して見せてしまいがちだ。
しかしこれはこれで、これまでの『MJ』とはまた違う新たな興奮が得られることが今回わかった。断言しよう、『MJモバイル』は楽しい。
その他のシステムに関しては、かつての『MJ』と大きく変わる部分はなく、筆者が親しんだ『MJ』の経験がそのまま「そうそう、これが『MJ』だよ!」という気持ちで楽しく麻雀を打つことができた。『MJ』にはこれから先も、「定番のネット麻雀」として末永く続いてほしいと強く願う。
余談になるが、現在の『MJモバイル』にはシングルプレイ専用の「カジノモード」があり、スロット、ポーカー、そしてJanQを遊ぶことができる。
……JanQ???
聞き慣れないゲームに戸惑う人は多いのではないだろうか。かく言う筆者も『MJモバイル』に触れるまで存在自体を知らなかった。パチンコ玉を打ち上げ、牌をツモり、手牌をアガりに導くという、パチンコと麻雀が一体となったような遊技機だ。
雀球(JanQの元になったゲーム)はセガサミーがオリジナルではなく、少し調べたところによれば、50年ほど前に人気を集めていたそうだ。2013年に実機の設置はゼロとなっており、だからこそ『MJモバイル』で遊べるのは希少と言える。
個人的には、「JanQをやるだけでも『MJモバイル』をインストールをする価値はある」と言っていいと思う。「麻雀でもパチンコでもない謎の遊技」を、ぜひ体験してみてほしい。
※カジノモードをプレイするには、カジノコインが必要になる。カジノチップの入手にはログインボーナスや段級位のレベルアップボーナス、課金などの選択肢がある。
『カイジ』コラボが開催。カイジのアバターと実況解説を設定すれば、気分はMリーグ……?
すでに要素が盛りだくさんの『MJ』だが、2021年12月20日からはパチスロ『回胴黙示録カイジ〜沼〜』とのコラボが開催。「回胴黙示録カイジ~沼~CUP」では、「ざわざわ」の背景や卓背景を始め、アガリ点灯SEといったさまざまなコラボアイテムを入手できる。
ここでしか手に入らない『カイジ』のアバターは入手期間が限られているので、この機を逃さないようにするといい。
ところでカイジといえば、アニメのCVを俳優でプロ雀士の萩原聖人氏が担当している。そして萩原聖人氏といえば、ABEMAで放映されているプロ雀士のリーグ戦・「Mリーグ」で絶賛活躍中だ。
Mリーグは『MJ』と同様につねに実況者と解説者がおり、視聴者にプロの麻雀の機微、丁寧さ、大胆さを説明してくれることでお馴染みだが、『MJ』の「実況・解説」をMリーグ仕様にできることはご存知だろうか?
Mリーグレギュラー実況者の「小林未沙」氏、Mリーグレギュラー解説者の「土田浩翔」氏を設定画面で選択すれば、『MJ』を打ちながら誰でもMリーガー気分を味わえる。
もしこの機能を知らないMリーグ視聴者のお友達がいるようであれば、ぜひこの『MJ』の実況・解説機能を広めてほしい。
そして最後に触れておきたい要素として、『MJ』の牌譜はURLを保存しておけば「共有」が可能という点がある。
年の瀬は『MJ』で『カイジ』コラボをプレイして、萩原聖人選手に負けないくらい「おもしろいんです!」と言いたくなる麻雀をぜひSNSでシェアしてみてほしい。
おまけ:『MJ』プロ専用カード、もっと使っておけばよかった……
筆者はかつてプロ雀士だったため、セガからアーケード版『MJ』の「プロ専用カード」を支給されていたことがある。しかしそのカードを使用してどれだけ『MJ』を打ったかというと、恥ずかしいことに数え切れるほどだった。
プロ雀士には「プロ雀士専用の実況と解説」が用意されているので、「プロ」と筐体に連呼される経験をしっかりしておけばよかったと思う。残念ながらプロ雀士を辞した際にプロカードは返納しているため、いまとなっては「どんな実況が聞けたのか」と想像するだけで、みずから体験することは叶わない。
ちなみにプロカードを使用することで変化する要素としては、実況・解説の2人称(通常は「プレイヤー」)が変化するだけでなく、アバターは言うまでもなく自分の顔写真になるし、「ポン」「カン」「チー」「リーチ」「ロン」「ツモ」等のすべての発声が自分自身の音声になるというものがある。
ちなみに、カードに使用する写真や音声は大鳥居のセガ本社(当時)で収録。メイクやライティング、音響のプロフェッショナルの手によって写真撮影とレコーディングを受け、満を持して支給されたのが専用のプロカードだった。
手に取った瞬間、とてもうれしかったことはいまでも覚えている。だが同時に、ゲーセンでそれを使用するのは勇気が必要だった記憶もあり、「もっと使えばよかった」と言うのは簡単だが、実際に自分の声でしゃべる麻雀に向き合うのは残念ながら筆者には難しかった。
しかしやはり、「せめてもう少し堪能しておけばよかった」という思いは尾を引いて残っている。
ちなみにこれを紛失すると、大鳥居のセガ本社まで日本プロ麻雀協会の理事と一緒に「ごめんなさい」をしに行かなければならなかった……らしい。