突然ですがみなさん、グッドスマイルカンパニーより発売されている「MODEROID」というシリーズをご存知でしょうか?
一部彩色済みの組み立てキット……まあ要は組み立てる手間はかかるけど、組み上げてしまえばほぼフィギュアと同様の完成度となるプラモデルが「MODEROID」という訳です。
先日、ロボットやヒーローを中心にMODEROID化していくブランド「メカスマ」の新作発表会にて、ユーザーの商品化希望アンケートを大幅に反映した衝撃のラインナップが公開されたのです! 『機動警察パトレイバー』より「AV-98 イングラム リアクティブアーマー装備」や『ガン×ソード』より「ダン・オブ・サーズデイ」など、思わず「これ採算取れんのか?」と疑ってしまうような凄まじいラインナップ。
普段は中々立体化の機会に恵まれないややニッチな機体を立体化してくれるのがメカスマの凄いところだと思うのですが、にしたって今回のラインナップは特にヤバい!!
その新作スパロボでも始まってしまったんじゃないかと錯覚してしまう堂々のラインナップの中でもっとも私の目を引いた商品がこれだ。
『アイドルマスター XENOGLOSSIA』の主人公機、「インベル」。
独特なデザインの頭部。巨大な両腕。上半身と下半身を骨一本で繋げたかのような、一見異形の怪物にも見える異様なフォルム。その全てが私の心を奪ってしまった。
こいつ、めちゃくちゃカッコイイ!!!
発表と同時に私の周りのゼノグラシアファンは令和改元以来の異様な大盛り上がりを見せていました。それほどファンとしては待ちに待った立体化だったのでしょう。いやもう全話見ちゃったんで言いますけど、あの「令和四年 一月」の演出、ゼノグラシア全話見た後だとマジで泣けますね……。
閑話休題。そこで「そういや俺ゼノグラシア見てないな……インベルカッコいいし見てみるか……」と思い立ったところが今回の記事の発端です。
「いやそんな入り口からゼノグラシア見始めるのアリ!?」という声が聞こえてくるようですが……実際見始めてるんだから仕方ないだろ! 私はこのためにHulu入ったんやぞ!!
文/ジスマロック
そもそも『アイドルマスター XENOGLOSSIA』とは?
そもそも『アイドルマスター XENOGLOSSIA』とはなんぞや?という説明から入りましょう。2007年4月より放送が開始されたテレビアニメ。放送当時私は5歳なので、知る由もない……と言えばやや言い訳がましいでしょうか。
もう上記の画像で薄々察している方もいるかもしれませんが、このアニメは「原案」が『THE IDOLM@STER』となっており、要は「アイドルマスターのガワを借りたロボットアニメ」なのです!
これがまあ~~~当時は賛否両論を巻き起こしてしまったらしく、この記事は「なるべく真っ直ぐゼノグラシアの面白さを伝える」という目的の元書かれているのですが、流石にここの歴史に触れなければこの記事全部が嘘臭くなってしまうほど、当時はまあ……いろいろあったらしいです……。
確かに冷静に考えてみると、「アイドルマスターというコンテンツの最初のアニメ化作品」でロボットアニメが出てきたら流石に私も「────綺麗だったよ、何もかも」とお前と見たものひとつひとつが網膜を焼く状態に突入してしまいそうですが、これはこれ! それはそれ! 今回は『アイドルマスター XENOGLOSSIA』という作品の面白さを真っ直ぐ伝えるのが目的なんだから!
それではゼノグラシアと本家アイマスの違いから触れていきましょう。まず第一に「声優が違う」という点です。なんとゼノグラシアは驚異の声優総入れ替え!!!
天海春香:井口裕香
如月千早:清水香里
萩原雪歩:堀江由衣
水瀬伊織:田村ゆかり
菊地真:喜多村英梨
双海亜美:名塚佳織
双海真美:斎藤桃子
三浦あずさ:櫻井智
秋月律子:中原麻衣
高槻やよい:小清水亜美
どうよこの豪華声優陣!!! べ……別にアイマスの看板を使わなくてもこのままロボットアニメ1本作れちゃうんじゃないか……?よしんば今シャニマスゼノグラシアが作られたとしたら「和泉愛依(CVファイルーズあい)」とか「桑山千雪(CV茅野愛衣)」とか有り得るんじゃないでしょうか。
ここの声優変更もまあ賛否両論あったらしんですが……個人的には「これはこれでまた別の魅力が出ていて面白いんじゃないか?」と思います。
ゼノグラシアの1話は我らが主人公・天海春香が田舎から上京してくるところから始まります。天海春香は「アイドルになりたい!」という夢を持っており、東京で開かれるアイドルのオーディションに参加。ま、まるでアイマスのアニメみたいじゃないか……!
しかし春香が参加したオーディションは実はアイドルのオーディションなどではなく、ロボットのパイロット選抜試験だった!!! この「アイドルのオーディションかと思ったら実はパイロット選抜試験でした」という一連の流れが「アイドルアニメかと思ったらロボットアニメでした」と作品そのものを物語っているかのような空気を感じさせる。
ちなみに、ゼノグラシアに登場するロボットは「iDOL」と呼ばれており、iDOLに乗り込むパイロットが「master」と呼ばれます。春香はここで勘違いをしてしまったんですね。そして「アイドル」に乗り込む「マスター」は「あっ、アイドルマスターの菊地真さんよ!」と呼ばれます! うるせえな!!
春香はそんなうっかり受験から地球の命運をかけた争いに巻き込まれていくのですが……そこで765アイドルたちと運命的な出会いを果たします。
原作のおとなしい雰囲気を残しつつも薄幸な雰囲気を醸し出している萩原雪歩(CV堀江由衣)や、もうこれはこれでそういうアナザーバージョンとして本家に逆輸入してしまってもいいのではないか……?と思うほど完成度が高い水瀬伊織(CV田村ゆかり)など、声優が変わったと言ってもある程度の「原型」を感じさせるゼノグラシアのキャラ達ですが、それと同時に「同じキャラでも声優が違うだけでここまで別の側面が見えてくるのか!?」という驚きもあります。
そして私の最推しキャラクターは彼女!
「ゼノグラシアの765アイドルは声優こそ違えど原型は残っている」と言ったな。あれは嘘だ。この高槻やよいゼノグラシアver、声優が小清水亜美さんな時点で薄々察してしまうかもしれませんが、「ゼノグラシアでもっとも原作からかけ離れているキャラ」と言っても過言ではありません。
最近高槻市の観光大使にも任命されてホットな本家の高槻やよいさんと大きく違う点を挙げ始めたらもはやキリがないのですが、「CV小清水亜美方向の元気キャラ」「どちらかと言うと姉御肌」「やたらと着ぐるみを着て現れる」「まず『うっう~』とか言わない」「原作に存在しない『こんばんやよやよ~』という謎の挨拶を使っている」……ホラもうキリなくなってきたでしょう!?
「こんばんやよやよ〜。高槻やよいです。ほんとに嫌な天気が続くよね〜晴れ晴れ女の子の高槻やよいにはこの天気は堪えますなあ。でもでも、私はみんなの太陽だから!雨の日でもみんなを照らして行っちゃうぞ〜!」
ゼノグラシア本編の高槻やよいの一部セリフ引用ですが、もはやこの一節だけでどれほど原作の高槻やよいと違うのかよく分かるでしょう。
まず大前提として、ゼノグラシアの765アイドルたちはアイドル業ではなく地球を守るためiDOLに乗り込んで戦います。パイロット、メカニック、コマンダー……様々な役割はあるとは言え、大抵のキャラが戦いに参加しています。
しかし高槻やよいは唯一正真正銘の「アイドル」なのです! 「春香の親友」と説明されている通り、戦いとは関係ないながらも何かと春香を気にかけてくれるのですが、やよいは春香たちが地球の命運をかけた争いに巻き込まれていることなど微塵も知らされない! 春香がロボットに乗りながらドンパチブッピガンやってようがずっと着ぐるみ着てラジオやってる!
と同時に、ゼノグラシアの中で高槻やよいだけが唯一「アイドルマスター」をやっているという解釈もできると思います。みんなが「ゼノグラシア」の世界観で生きている中、ひとりだけトップアイドルを目指して「アイドルマスター」の世界観を突っ走っているのが高槻やよいなのではないか……? そして、「もっとも本家アイドルマスターからかけ離れているキャラ」が「もっともアイドルマスターの世界観で生きている」というメチャクチャな構図も何だか面白い。
アイマスで好きなアイドルランキングが、1位七草にちか、2位芹沢あさひ、3位高槻やよい(ゼノグラシア)になってしまったぐらい高槻やよい(ゼノグラシア)が好きです。
そもそも普通に「ロボットアニメ」として面白い
ここまでの説明で、ゼノグラシア未見の方は「ほ…本当に面白いのかこのアニメは……?コイツが適当にホラ吹いてるだけなんじゃないのか……?」と疑念を抱いているかもしれません。しかし『アイドルマスター XENOGLOSSIA』、普通に「ロボットアニメ」として面白い!
監督は『あの日見たあの花の名前を僕たちはまだ知らない』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』などを手がける長井龍雪氏、シリーズ構成は『ラブライブ!』『宇宙よりも遠い場所』『グランベルム』【※1】などでお馴染みの花田十輝氏、制作は『舞-HIME』『宇宙をかける少女』のサンライズ8スタ。そしてOPの「微熱S.O.S!!」「残酷よ希望となれ」の作詞を担当するのは畑亜貴氏という錚々たる布陣! えっ、これシリーズ構成花田十輝、OP畑亜貴、制作サンライズ8スタってラブライブプロトタイプと言っても過言ではないのでは……?
※1「グランベルム」
2019年7月に放映されたシリーズ構成と脚本を花田十輝氏が担当しているロボットアニメ。「SDロボに乗り、願いを叶えるためバトルロワイヤルを繰り広げる」という中々にエッジの効いたストーリーが魅力。ただでさえおびただしい文量の記事のこんな細かい注釈まで読んでしまうタイプの人は既に視聴済みかもしれないが、ゼノグラシア最終回のあるシーンと酷似したシーンが登場するため、ゼノグラシアファンは必見。
私の個人的な考えとして、「面白い作品は大抵視聴者の予測に先回りするか、先回りをした上で斜め上の展開に持っていくことで興味を惹き続ける」という独自の持論があるのですが、ゼノグラシアはまさにそれに当てはまる劇的かつ凄まじいドライブ感のストーリーが展開される。
まず、ゼノグラシアの765アイドルたちがiDOLに乗り込み何と戦っているのかというと、「地球に飛来する隕石を駆除する」という超事務的な仕事をしています。今すぐ悪い宇宙人が攻めてきて全面戦争が始まりそうな空気は常に流れ続けているのに、やってることは降ってくる隕石の破壊というギャップがゼノグラシア序盤の面白いところです。
しかし第6話でついに流れが変わる! こっちも流石に「えっ、これマジで宇宙怪獣も何も攻めてこないまま隕石の駆除だけして26話終わるの……?」と不安になり始めたタイミングでちゃんと流れが変わる辺り、視聴者の予測に先回りするストーリーの面白さは本当にしっかりしている!
これまでと明らかに違うパターンで降り注ぐ隕石! 未知の軌道パターンに混乱する指令室!! そして隕石駆除を阻止するべく春香の眼前に現れる如月千早!!!
あっ、そう言えば一番大切なことを説明してませんでしたね。ゼノグラシアの如月千早、ガッツリ敵です。いや何か流石に私も「まあ多分18話辺りで和解するだろうな」とは思っていたのですが、最初から最後までガッツリ敵です。
しかもその……いやなんというかですね……あのなんていうか胸部が……あ、あのですね……いやすいません、メディアという公の場で汚い言葉遣いになってしまうことをどうかお許しください。ゼノグラシアの千早の胸、なんかデカいんすよ!!!
これはゼノグラシアファンからも765ファンからも袋叩きに遭う発言なのでどうか見逃して欲しいのですが、どちらかと言うとシャニマス世代の私からすると1話の如月千早と三浦あずさが激しい格闘戦を繰り広げるシーンで「なんか千早みたいなキャラふたり居るんすけど、どっちが千早……?」と混乱してしまいました。
いや別に千早とあずさを胸で判別してるとかじゃないですよ!? でも髪が青くて胸がデカいふたりが戦ってたら初見でどっちがどっちか分かんなくないっすか!?
それもそのはず。ゼノグラシアの如月千早と三浦あずさ、実は姉妹です。
つまりゼノグラシアの千早の胸部がやたらと豊かなのは……まあそういうことなんですね。まあそういうことで納得できるか!?
そう、『アイドルマスター XENOGLOSSIA』は、視聴者の予測に先回りするロボットアニメとしての面白さと、原作の765アイドルに慣れているほど腰が抜ける斜め上の衝撃設定がバンバン飛び出します。
1話開始前の時点で消滅している双海真美、自身の機体「ネーブラ」の搭乗権限を剥奪され敵に寝返る菊地真、そもそも最初から裏切り者として組織に潜入していた萩原雪歩……。もはや765の看板なんか知ったこっちゃねえと言わんばかりの息もつかせぬ怒涛の展開が繰り出される。1期OP「微熱S.O.S!!」の最後に765アイドルたちが全員笑顔で集結している集合絵が挟まるのですが、2クール目まで来ると、あの大詐欺集合絵がじわじわ面白くなってきます。
ここまで凄まじい独自設定を展開してくるゼノグラシアですが、同時にロボットアニメとしてはむしろ王道と言えるほどロボットアニメのあるあるを抑えています。
・兄弟の片割れが死んで、残された方の兄弟が戦う(双海姉妹)
・司令官が元パイロット(三浦あずさ)
・優秀なパイロットの闇堕ち(菊地真)
・終盤付近で大量に出てくる量産機
・ロボット同士で戦ったことはあったけど、お互いの顔は知らない主人公機パイロットとライバル機パイロットの生身での邂逅(11話)
急にロボットアニメあるあるチェックリストじみた物が出てきましたが、これだけのあるあるを抑えてくるので、ロボットアニメとしての純然たる面白さは本当に織り込み済みです。特に5番目の「お互いの顔を知らない主人公機パイロットとライバル機パイロットの生身での邂逅」は最近だと『逆転世界ノ電池少女』【※2】もやっていました。
※2「逆転世界ノ電池少女」
急にロボットアニメが何本も放映された2021年秋クールのロボットアニメ大戦国時代の中、生き馬の目を抜いたダークホース的タイトル。もう注釈の欄でお前が最近面白かったアニメの話したいだけだろと言われたらなんの反論もできませんが、一定の面白さは保障しますので、ぜひ。
『アイドルマスター XENOGLOSSIA』のロボットアニメとしての面白さは、「アイマスとロボットアニメを融合させている」というより、「サンライズ産のしっかり面白いロボットアニメ」という土台があった上でアイドルマスターのキャラを乗せている形に近いと思います。
だから本当に手堅い面白さ! ロボットアニメを何本か見たことがある方であれば、すぐに「あれ……?結構ロボットアニメとしてちゃんとしてるぞ……?」と掴めてくるはずです。と言うか、ゼノグラシアは765ファンの方よりも「ロボットアニメ好き」の方にオススメのタイトルかもしれません。
そして、ゼノグラシアのロボットアニメとしての面白さにフィーチャーする以上外せないのがこのふたり。
それがこの「ジョセフ・真月」と「朔響」。ゼノグラシアを見ていない方はもう「だ、誰……?」以上の言葉が出ないでしょう。
それもそのはず、原作とキャラが違うどころかこのふたりは原作に存在しないおじさんと原作に存在しないおじさんです。ちなみに朔響は名前が同じなのでゼノグラシアの我那覇響説もあるそうです。そんな訳ないだろ!!
ジョセフ・真月はモンデンキントジャパンアイドルマスター課の課長。まあ要は春香たちの上司……なのですが、どちらかと言うと女性中心の現場におけるお父さん的な役回りが多く、急に胆石でぶっ倒れたりする。しかしその課長としての腕前は本物。
周囲から「切れすぎる刀は鞘に収めておいた方が長持ちする」とまで評される切れ者っぷりで数々の作戦を成功に導いた名指揮官。ポジションだけで言うならばパトレイバーの後藤隊長みたいな感じです。オタクが好きなアレです。
しかもなんか徒手空拳でもやたら強い。お前が戦え!
一方ゼノグラシアの我那覇響こと「朔響」。彼は第11話のアイスランドヒエムス発掘作戦にて、まるで1話から登場していたかのような面で出てくる新キャラクター。何かと怪しい立ち振る舞いが多く、視聴者の大半は「こいつ裏切り者じゃね……?」と誘導されてしまう。その正体はモンデンキント本部直轄の強襲部隊の総司令官。モンデンキント最上層部の「グランドロッジの猫」に通じており、彼らの手足となって暗躍する。
「いやもう固有名詞多すぎて分からん!!!」という方のためにめちゃくちゃ分かりやすく説明すると「ヘイトを買うような言動が多いけど大抵の汚れ仕事は担当して、偉そうな元老院のジジイ共の接待をする人」って感じのポジションの男です。
萩原雪歩の裏切りを真っ先に察知したり、敵の総司令官の「カラス(CV石田彰)」と回線越しに舌戦を繰り広げたり、お世辞にも登場人物からの好感度が高いとは言えませんがこちらもジョセフ・真月に負けず劣らずの超切れ者。特にゼノグラシア終盤においては、iDOLに乗り込まず裏で暗躍するふたりの錯綜する情報戦がかなり面白い!
いやもう原作に存在しないおじさんと原作に存在しないおじさんの政治戦・情報戦が面白いってどういうことやねんと思うかもしれませんが、面白いのは事実なので仕方ない。
ほら、段々ゼノグラシアが気になってきたでしょう……?
アイマスであり、ロボットアニメであり、恋愛モノ
もうひとつ触れずにはいられない部分、それが「意志を持ったiDOL」についてです。春香たちが乗り込むロボット「iDOL」は、月の隕石から発見された特殊シリコン構造体を中心に人間がコアを製造して生み出されたロボット。
作中で明確に「意志を持っている」とは明言されていないため、「iDOLは心を持っている」と断言できるかと言うと難しい部分ではありますが、機体によって人格のようなものを有しているのは間違いありません。
簡単に言うとエヴァとか、エウレカセブンとか、ブレンパワードに連なる系譜の、意志を持ったロボットと人間のドラマがゼノグラシアでは展開されます。
まず大前提としてこのiDOL共、「若くて可愛い女性しか乗せない」というとんでもなく贅沢なヤロー共なんですよ……。iDOLによって様々な性格の違いがあるのは明言されていますが、これに関してはiDOL全員そう。もうアイドルでもやっていけそうなぐらい顔面が良い子しか乗せない。最悪なエヴァ。
記事冒頭でも紹介した「インベル」。彼は伊織が動かそうとしても真が動かそうとしてもウンともスンとも言わないくせに、春香の元には呼んでもいないのにすっ飛んでいくゴリッゴリの春香担当Pっぷりを見せる。
特に衝撃的なシーンは、千早に奪われてしまったインベルの元に春香が駆けつける23話のあのシーン。
そもそも、元々は千早がインベルのマスターだったので、「奪われた」というよりも元の鞘に収まったと表現した方が正しいのですが……少し前の回にて「春香がやよいと共に本物のアイドル業を始めてしまい、アイドルの仕事に追われ、インベルと触れ合う時間が減ってしまった」という描写が丁寧に積み重ねられた上でインベルが千早に奪われてしまう。
つまりインベルの野郎、遊んでくれる時間が減ったから拗ねて今カノから元カノに乗り換えやがったんですよ! こ、この野郎……!!
そして仲間の助けもありつつ、なんとかインベルの元に駆けつけた春香は「好きです!」と一世一代の告白を見せる!
「いやロボットに告白って何!?」と困惑する方もいらっしゃるかもしれませんが、気になる方はゼノグラシア本編を見てください。
春香の告白に応えるかのように千早をコックピットから射出するインベル! 自分の意志で春香を手に乗せ、お互いの愛を確かめ合うように見つめ合う異種族カップル。そして千早は射出されたコックピットで死んだ顔……。という流れで23話は終了します。
つまり23話でインベルの野郎が何をやらかしたかというと、「春香がアイドル業を始めて自分に構ってくれなくなったので拗ねて元カノの千早に乗り換える。でもやっぱり春香が来てくれたので元カノをコックピットから射出して今カノとヨリを戻す」とかいう中々のクズムーブを見せている! こ、この野郎……!!!
しかしiDOL全員がこんな感じという訳ではない! 上記の「ネーブラ」は屈指のイケメンiDOLと言っても過言ではない!
そもそも、絶対に春香しか乗せないインベルと違い、適合さえあれば基本誰でも乗せてくれる時点でネーブラの人の良さがよく分かるのですが……一応「一度拒否した相手はもう二度と乗せなくなる」という少々厄介な特性を持っています。ここに関しては「あまりにも合わない相手とはもう仕事したくない」というビジネスパートナー的なノリなのでしょう。
ちなみにインベルは春香が何回やらかしても乗せてくれます。ア、アイツ…!
あずさ、真、伊織……と作中で数々のマスターを乗せるのもネーブラの特徴ですが、iDOLに意志が宿っていることを一切信用していない真からどれだけ「このポンコツ!」と罵詈雑言を浴びせられようがある程度は仕事してくれる時点でネーブラの人徳が滲み出ている。しかしまあ流石に真も降ろされ、最終的には伊織がネーブラの搭乗者となります。
特にネーブラの活躍として印象的な回は第14話「なんかうごきづらい」。実は伊織は7年前、小学生の頃に一度ネーブラと会っていたことが判明する過去の回想から始まり、モンデンキントに配属されネーブラのパイロットに選ばれたことに運命を感じる伊織の人一倍熱いネーブラに対する思いが明かされるゼノグラシア屈指の神回。
そして小学生の頃ネーブラと出会った時と同じ日付、その出会いの日にふたたびアイドルマスターとしての資格を試される伊織。しかし、そんな伊織の思いとは裏腹に、モンデンキント上層部はネーブラに「マスターユニゾン」装置を取り付けていた。
この「マスターユニゾン」、エヴァのダミープラグと同じくパイロットが操縦しなくてもCPUが勝手にiDOLを操作してくれる優れモノなのですが……まあロボットアニメで自律操縦が良い方向に作用することなど滅多にない!
マスターユニゾンの自律操縦にアレルギー反応を起こしたネーブラはコアの温度が急上昇を始める。コアの温度が1000度を超えた場合、ネーブラの記憶と個性が消滅してしまうことまで明かされた伊織は単身宇宙空間に乗り出し、ネーブラの機体からマスターユニゾンを取り外す作業に移る!
「やっとネーブラのマスターになれたのに!やっと一緒に居られるのに!お前なんかに、私たちの邪魔はさせない!!」という伊織のネーブラに対する熱い思いがこもったセリフが特に印象的。俺たちの伊織……俺たちのネーブラ……。
その甲斐もあり、ネーブラの「一度拒否した相手は二度と乗せない」という特性は伊織に限っては発動せず、何度倒されても伊織の呼びかけに応えて再起動する屈指のイケメンiDOLとして序盤のやられ役イメージを払拭するかのごとく大活躍していきます。
ネーブラに限らず、最後まで報われなかったのにも関わらず雪歩を守るために命を懸けるヌービアムや、あずさを失った真に寄り添うヒエムス、何年間もたったひとりで真美を守り続けていたテンぺスタースなど、出番の多い少ないに関わらずiDOLたちはみんな良いキャラしてます。
それに比べてインベル!!!!!(本郷猛)
……ここまで読んで薄々気付いてきている方もいるかもしれませんが、ゼノグラシアのiDOLとマスターの関係は、終盤に進むにつれ徐々に徐々に「恋愛」として描かれていくようになります。『アイドルマスター XENOGLOSSIA』は、「アイマス」であり、「ロボットアニメ」であり、「恋愛モノ」でもあるのではないか?
そう思わせる要因は、最終話「月とペンギン」に詰まっている。
そもそも、春香たちがアイドルマスターをやっていることを一切知らされていない高槻やよいとの会話でインベルを「彼氏」と比喩するシーンが何度も挟まれていたのですが、ついに最終話にて春香自身の口から「うん、私の彼氏!」と言い放たれてしまう! 言いよった!!
世界を救うため、「行こう、インベル!」のセリフと共に宇宙にかけていく春香とインベル。これはあまりにも説明が難しいので簡略化しますが、ゼノグラシア最終回は「地球を救うにはiDOL5体分の力を使う必要がある」という状況に追い込まれており、地球を救うためにiDOL5体を実質的に消滅させる必要がありました。
そこで春香は、生死を越えてインベルと共に在ることを望んだ。インベルは彼氏なので。しかしインベルは春香のトレードマークのリボンだけをほどき取り、春香の乗ったコックピットを地球に向けて射出したのです。自分ひとりになった宇宙空間で、春香のリボンを握りしめ、地球を守るために戦うインベル。
さっき散々この野郎とかクソ野郎とか言いましたが、このシーンのインベルは本当に掛け値なしにカッコいい。
そして地球に送り返された春香のアイ【※3】には、「ダイスキ」というインベルからの最後のメッセージが送り届けられていた……。
め、めちゃくちゃ恋愛モノしとる!!!
「アイマスかと思ったらロボットアニメだった」から始まり、紆余曲折を経て最終的に「iDOLと恋するアイドルマスターの話」に着地させるこの凄まじいドライブ感。アイマスなんだからアイドルの話に決まってんだよなあ!!
何気に1期OPの「微熱S.O.S!!」も全話視聴後だと思いっきり「iDOLとアイドルマスターの恋」を歌っていることが判明する。「微熱な気分はあなたのせいかもS.O.S!! 高鳴るハートはあなたのせいなのS.O.S!!」がiDOLに向けて歌ってる部分とか、普通分かるか!?
※3「アイ」
iDOLを起動するための認証キーのような物。劇中、iDOLが言葉を発するシーンはひとつもなかったのですが、最終回の「ダイスキ」だけは唯一iDOLが人間の言葉を通じて思いを伝えたシーンとなっている。
時間が経った今こそ、フラットな気持ちで楽しめるかもしれない『アイドルマスター XENOGLOSSIA』
……さて、ここまで読んできて、「ゼノグラシア見てみたくなった」「ゼノグラシア見たくなくなった」「今ならゼノグラシアを楽しめるかもしれない」「15年経ったけどやっぱ嫌いだわ」などなど、みなさん様々な感想があると思います。
私としてはとても面白いアニメでした。マジで最高でした。多分メカスマのインベル予約します。
当時ゼノグラシアがあまり好きじゃなかった方に、「そんな昔の思いは捨ててゼノグラシアともう一度向き合え」と言えるほど私は偉くありませんし、もし放送当時に私が765ファンだったとしたら流石に困惑していたと思います。
しかし、もしお時間があるのならばもう一度だけゼノグラシアを見て欲しいとも思います。今やアイドルマスターは『シンデレラガールズ』『シャイニーカラーズ』『ミリオンライブ』『SideM』と多種多様な方向に枝分かれしています。そんな今だからこそ、もしかしたら「こういう外伝作品もある」というフラットな視点で、ゼノグラシアを楽しめるかもしれません。時間が解決する問題という物は確実に存在すると思います。
まあ、それでもやっぱりゼノグラシアが楽しめなかった場合は私のアカウントかこの記事のコメント欄に「お前のせいで時間を無駄にした」と突撃してもらっても構いません。
……と、言っても現在U-NEXTとHuluとバンダイチャンネルでしか配信されてないので微妙に視聴ハードル高いんですけどね! ワハハ!
メカスマさん、ネーブラの立体化お待ちしております。