2022年が始まってから早いものでもう4ヶ月。今日もまた、どこかでインディーゲームが生まれている。今回私がレビューさせていただくゲームは『Wildcat Gun Machine』というゲーム。オーストラリアにあるインディースタジオ、「Chunkybox Games」の華々しいデビュー作である。
結論から述べさせていただくと、本作は春という季節にピッタリの、非常に爽やかなゲームであった。どれくらい爽やかかというと、今こうして記事を書いている私の自室に吹き込んでくる春風のごとく爽やかである。ちなみに、こんな書き出し方をしているが、本作には春の要素は一ミリたりとも存在しない。では、早速レビューに入っていこう。
文/植田亮平
※この記事は『Wildcat Gun Machine』の魅力をもっと知ってもらいたいDaedalic Entertainmentさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
おどろおどろしい敵とストーリーの不在
あの書き出しからいきなりこの見出しで始まることについて、まずは謝罪させてほしい。このゲームの舞台となるのは、ほのぼのとした平和な世界ではなく、地獄である。
地獄とは書いたが、実際に本編でここが地獄であると明示されているわけではない、というか、このゲームの舞台がどこであるのか私は知らない。それどころか、私は自分が操作しているキャラクターが誰なのかも、一体何のためにこんな場所でおぞましい敵と戦っているのかも分からない。クリアしたにもかかわらずだ。
ストーリーや世界観について、このゲームは私たちに何も語ってはくれないのである。一応本作のSteamストアページには、「巨大なメカロボットを悪魔のような長老神から解放しよう」とだけ書いてくれているが、私がその説明文に気づいたのはすでにゲームをクリアした後であり、「巨大なメカロボットが長老神に捕らえられている」ということはこの時初めて知った。それほどに、このゲームにはストーリー性というものが根本的に欠けている。
しかしこれは何も悪いことではない。そもそも、気持ちの悪い敵に対して銃を撃ちまくることに、何か理由が必要だろうか。
おそらく本作の世界観のモデルのひとつであろう『DOOM』も、(DOOMファンには失礼だが)ストーリーなど有って無いようなものだったのではないか。言ってしまえば、この手のゲームにストーリー性を求めるという方が些か無粋であり、ただひたすらゲームプレイの中にのみ快楽を見出すという楽しみ方もあってしかるべきだろう。本作はそんな思想の下に作られているような気がする。
「強すぎるシステム」と「弾幕の雨」で揺らぐ難易度
では、そんなゲームプレイは如何ほどものなのか。本作のジャンルはダンジョンアドベンチャーとあるが、上のゲーム画面からも分かるように、実際には見下ろし型のシューティングゲームに近いプレイ体験になっている。
迷路のようなダンジョンを探索しながら、グロテスクな敵の弾幕をかわして銃をぶっ放す。本作は簡単に言えばそんなゲームであり、これだけで説明は事足りてしまうが、しかし同時にそれがこのゲームの魅力のひとつでもある。
操作に関しても、移動、射撃、ダッシュの3つでほぼ成り立っている(実際にはほかにもいくつか操作があるが、基本的にはこの3つ)ので非常にシンプルだ。
ゲームプレイの根幹は敵の弾幕を避けることにある。実際、ほとんどの敵の攻略法は「いかに弾幕を避けるか」という一点にのみ絞られている。避けられるか、避けられないか、プレイヤーに求められる最も重要なポイントはそこにある。
銃を撃つことも大切だが、どちらかというと攻めよりも守りに比重を置いたゲームデザインになっている印象だった。
私は弾幕シューティングというものをほとんど経験したことのない人間なので、本作の難易度がどれほどのものなのか客観的に述べることは難しいが、おそらく「経験者なら難なくクリアできる難易度、未経験者ならほどほどに難しい」くらいのレベルであると思う。
思ったよりえげつない量の弾が自分に向かって飛んでくるので、最初は避けるのに手いっぱいで、敵をねらって打つなどとてもじゃないが出来ない。しかし人間というのは慣れるのが早いもので、終盤では造作もなく敵の弾をよけながら撃つということが可能になった。苦手な人ならばある程度詰まりはするが、完全に詰みはしない、という塩梅だろう。
しかし、これはあくまでも「プレイヤーの工夫無しの場合」の難易度である。実をいうと、『Wildcat Gun Machine』の難易度は工夫次第でいかようにも変化する。それをもっとも顕著に示すのが「ダッシュ」というシステムだろう。
このゲームの「ダッシュ」アクションは、ボタンを押した瞬間に、指定方向に高速で移動するというものになっている。さらに、ダッシュ中はプレイヤーが無敵になる仕様もついている。これだけでも非常に優秀なアクションだが、ダッシュの性能はそれだけには止まらない。
ダッシュはタイミングよくボタンを連打することで、クールダウン無しで連続して行うことができる。この時点で勘のいい方ならばお気づきだろうが、なんと、この「連続ダッシュ」は、前のダッシュの無敵時間中にも行うことができる。つまり、ダッシュで無敵になった後、さらにダッシュを行うことで半永久的に無敵状態になることができるというわけだ。
明らかに壊れ技としか言いようのない性能であり、極端な話をすると「ダッシュ」を連続で出しているだけで弾幕を避ける必要が一切なくなる。しかも連続ダッシュ中に射撃することも可能だ。その強さはチート級であり、ゲームの難易度を180度変えてしまうほどの強さを秘めている。
もちろん連続ダッシュはある程度のコツが必要なので100%成功するわけではなく、その結果被弾してゲームオーバーになることも多々あったが、それでも「ヤバくなったらとりあえず連続ダッシュで何とかする」という選択肢はクリアまで常に私の心強い味方となった。これが、難易度が「工夫次第でいかようにも変化する」と書いた理由である。ただし、一部のボス戦ではダッシュが使用不可になるものもいるため、完全なヌルゲーと化すこともなかった。
この「ダッシュ」というシステムには良い面と悪い面があるように感じた。まず良い面は、絵面がとてつもなく爽快でスタイリッシュになるという点、弾幕をひたすら避けるというプレイを完全に無視して、縦横無尽に飛び回りながら敵をせん滅するプレイにシフトチェンジする瞬間は、それはそれで気持ちのいいものだった。
悪い面は良い面と似た理由で、本来このゲームの目玉となるコンセプトであろう「弾幕を避ける」という部分を破綻させかねないほど、とてつもない強さを持っている点である。
より好意的に解釈するならば、『Wildcat Gun Machine』には、「弾幕パート」と「一掃パート」のような、別々のゲームパートが存在するゲームだと言えよう。というのも、爽快感を味わえるのは何もダッシュに限らないからだ。
このゲームには「ガンマシン」と呼ばれる必殺技的なアビリティが存在する。戦闘によって「ガンマシン」ゲージがMAXになれば、「F」キーで使用可能だ。「ガンマシン」を使用すると一定時間無敵になり、強力なマシンを身に纏って敵を一網打尽にすることができる。ボス戦のために温存するもよし、雑魚を一掃して快楽を得るもよしといった優れモノである。
この「ガンマシン」と先ほどの「ダッシュ」を組み合わせれば、『Wildcat Gun Machine』はまるで別ゲーのごとき姿を我々の前に表す。さっきまでの弾幕はどこへやら、今度はこちらが弾幕をお見舞いしているではないか、といった風にだ。
もしこのふたつの完全に異なるプレイフィールが意図してデザインされたものであるのなら、この「一転攻勢」というスパイスは、完ぺきとはいえないながらも非常によくできたものなのではないかと思えてくる。いずれにせよ、このゲームの難易度はかなりの振れ幅があるということだけはお伝えしたい。
カスタマイズ要素で自分なりの遊び方を。
『Wildcat Gun Machine』では、探索の道中にチェックポイントがいくつか配置されている。チェックポイントでは体力や残弾数が回復するほか、敵を倒したときに得られるお金を使って新しい装備やアビリティの強化を購入することができる。
武器には非常に多くの種類が存在し、右手と左手にそれぞれ違う武器を一丁ずつ持っていくことができる。威力の高いショットガン、グレネードを射出するランチャー、敵をまとめて焼き尽くす火炎放射器など、バラエティに富んだラインナップが売られている。
その数、なんと40種類以上。自身のお気に入りの武器を装備して、自分だけの戦い方を編み出すのも面白いだろう。ただし多くの上位互換武器が存在するので、現実的に強さを追い求めるのなら20種類前後の中から選ぶことになるだろう。
個人的に面白いと思ったのはアビリティの購入である。購入できるアビリティの中には、たとえば復活回数を増やすもの(これがゼロになるとゲームオーバーとなりチェックポイントからやり直しとなる)や、ダッシュのクールダウンを短くするもの、グレネードの種類を変更するものなどさまざまだ。
個人的に好きなのは移動速度上昇のアビリティだ。これを最大まで買うと、あり得ないスピードで主人公が移動してくれる。その速さたるや、速すぎて逆に弾幕を避けられないという弊害が生じるほどだ。
なぜこんなものが用意されているのかを考えたが、おそらくこれはRTAなどのスピードクリアを目指す玄人向けのアビリティなのだと思う。ゲームにおいて初めからタイムアタック用のアビリティが用意されているというのはあまり見ない。
初心者などは復活回数を増やしてクリアを容易にし、逆に上級者はとにかく移動速度を上げまくってタイムアタックに挑むなど、アビリティの購入によってプレイスタイルを方向づけることが可能なので、自分なりの遊び方を自由に選択することができる。本作の大きな魅力のひとつであることは間違いないだろう。
春には爽やかな地獄を味わおう
本作はなんとも不気味でグロテスクな世界観を有しているが、その実、ゲームプレイは非常に爽やかなものである。それはたとえば敵の弾をミリ単位で避ける瞬間に感じる爽快感であったり、連続ダッシュを決めて無敵の愉悦に浸るときの爽快感であったり、あるいは最強武器で敵をまとめて木っ端みじんの肉片に変えたときの爽快感であったりする。
「春にお勧めの一本」、これ以外の評価がこのゲームにはたしてつけられようか。気持ち良い夜風に当たりながら、敵の弾幕にもまれてぜひ発狂してみてほしい。『Wildcat Gun Machine』は5月5日にリリース予定だ。