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早見沙織版で初めて『ローマの休日』を見たらめっちゃ面白かった。実らない恋を描く作品ではあるけど、決して悲恋を描く作品ではない。今見ても全く色褪せない名作

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 みなさん、『シン・ウルトラマン』見ました?

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 あっ、間違えました。みなさん、『ローマの休日』って見ました?

 1953年にアメリカで公開され、映画史にその名を残す傑作。なんとその名作が5月13日の金曜ロードショーにて、早見沙織氏や浪川大輔氏などが参加した新たな吹き替え版として放送されたのです!

 ちなみに私は今作を一度も見たことがなかったので、まんまと「早見沙織」の名に釣られて今回の新吹き替え版で初めてローマの休日を見ました。「意識の低いアニオタ野郎が」と、声優に釣られる愚かな私をいくらでも罵っておいてください……。

 なので、今回の記事にあまり高尚な『ローマの休日』の批評などはあまり期待しない方がいいかと思われます。どうか、ご容赦ください。早見沙織版『ローマの休日』を見たあとに『セキレイ』を見る人間が居たっていい。自由とは、そういうことだ。

文/ジスマロック
編集/実存

※この記事には『ローマの休日』のネタバレと、ネタバレという程でもないとは思うのですが『シン・ウルトラマン』の内容に少しだけ触れています。なんでなんでしょうね? とにかくお気をつけください。


そんなにローマが好きになったのか、アン王女。

 私が『ローマの休日』で最も好きなシーン、それはやはり最後の記者会見のシーン。

 本物の王女様がこっそり公務から抜け出して、ひとりの新聞記者とローマで物見遊山へと出かける……というのはあまりにも有名なあらすじですが、結局このふたりはお互いの正体を察して、お互いの道へと戻ることになります。

 「いやいきなりラストシーンから入る記事ある!?」と思うかもしれませんが、私がこの作品で最も驚かされた点は「実らない恋を描く作品ではあるけど、決して悲恋を描く作品ではない」という点です。 

 もっと簡潔に言うならば、『ローマの休日』は「愛し合ったふたりが別れて終わる映画」なのに、「バッドエンド」ではないのです。その上視聴者側も、見ていて気持ちが良い。このふたりの別れに美しさすら感じるほど、綺麗な恋の終わりを迎える。

 「ローマです。なんと申しましても、ローマです。」

『ローマの休日』

 欧州親善大使としてロンドンやパリなどの各国を訪問していたアン王女。記者から「これまでの訪問でもっとも素晴らしかった国はどこですか?」と聞かれ、「ローマ」と答える。そんなにローマが好きになったのか、アン王女。

 アン王女が公人ではなくひとりの女性として、ひとりの人間として改めてローマを巡る楽しい休日が描かれた『ローマの休日』を踏まえた上で、最後に王女自身の口から放たれる「なんと申しましても、ローマです。」の一言。おい、この映画売れるぞ……?

 この記者会見のシーンで、最初は王女のスクープを狙っていたカメラマンのアービングから、アン王女が過ごした楽しい休日の写真を直接手渡すのが本当に良い!

 王女はこれからひとりの女性ではなく、公女の立場へと戻ってしまうけれど、王女がローマで過ごした楽しい休日の思い出は、この写真のおかげできっとなくなることはない。ライターの癖に語彙が崩壊していますが、本当に良い!!

 去り際に笑顔を見せるけど、その瞳に涙の跡を残しているアン王女。アン王女が居なくなって、ゆっくりと、その場から去って行く新聞記者のブラッドレー。

 もはや冗長と感じるほど、ふたりの別れのシーンにたっぷりと尺を割き、視聴者にもたっぷりと余韻を残す。その場の空気そのものが別れを決めたふたりの感情を現しているかのような終幕。

 ……えっ、名作すぎか?

(ジェラート)割り勘でいいか?アン王女

 ……とまあラストシーンに関しては10年前、いや20年前、いやいやもっと遡れば70年以上前の映画雑誌で様々な感想が飛び交っていたかもしれないので、ここからは今回放送された『ローマの休日』の新たな要素、「吹き替えを担当する声優陣」に触れていきましょう。

 オードリー・ヘップバーン演じる「アン王女(アーニャ・スミス)」の声優を担当するのは『十三機兵防衛圏』の東雲先輩役や『スパロボ30』のミツバ・グレイヴァレー役を演じていることでお馴染みの早見沙織氏。お前はアーニャじゃなくてヨルさんだろ!

早見沙織版で初めて『ローマの休日』を見たらめっちゃ面白かった_002
ゲームメディアの癖に1ミリもゲームの話をしていないことにたった今気が付いたので、強引にゲーム要素をねじ込んでみました。お許しください。

 まぁ~~~これがめちゃくちゃかわいい。もちろん早見沙織氏の演技力の高さもあるのですが、そもそもオードリー・ヘップバーン本人がかわいい! お恥ずかしいことに私はオードリー・ヘップバーンが出演している映画をあまり見たことがなかったので、今回の『ローマの休日』で初めて気が付いたのですが……今から約90年前に生まれた人間とは思えないほどオードリー・ヘップバーンがかわいい! みなさん知ってました? オードリー・ヘップバーンってかわいいんですよ?

 人類は90年前の時点で「愛らしさ」という進化のひとつの到達点に至っていたのかもしれない……そう思ってしまうほどオードリー・ヘップバーンがかわいい。

 さらに『ローマの休日』劇中でのアン王女の結構お茶目な立ち振る舞いも彼女の愛らしさを助長させている。ブラッドレーからお小遣いを貸してもらってローマの街に繰り出すアン王女。美容室で髪を切ってイメチェンしたり、スペイン広場でジェラートを買って食べてみたり、その一挙手一投足がとても愛らしい。お嬢様キャラが庶民的なハンバーガーを食べて喜んでいることへの「萌え」、1953年の時点で確立されていたのか……!?

 この作品は愛し合ったふたりが別れて終わる映画……ではあるのですが、それと同時にドタバタコメディとしても完成度が高いと感じました。というか私はアン王女がバイクに二人乗りして爆走したりカフェでタバコふかしてみたりギターで人をぶん殴ったりする『ローマの休日』の意外とポップな部分が大好きです。

  「バイクで爆走して未成年がタバコふかしてギターで人を殴る」ところまで『ローマの休日』なのか『フリクリ』【※1】なのか分かりません。そしてこのドタバタコメディ部分が最終的にあの記者会見のシーンへと繋がるので、決して無駄なシーンという訳ではなく、むしろ『ローマの休日』の映画としての完成度の高さが引き立ちます。

 「ドタバタコメディ」、私の好きな言葉です。

※1「フリクリ」
GAINAXとProduction I.Gにより制作されたOVA作品。『トップをねらえ!2』や「新劇場版エヴァンゲリオン」シリーズにて監督を務めた鶴巻和哉氏の監督作品。『ガン×ソード』と『キラッとプリ☆チャン』に並んで私が一番好きなアニメです。「とにかく見てくれ」としか言いようがない内容に仕上がっているので、ギターで人をぶん殴るオードリー・ヘップバーンが好きな方はぜひ。

王女と浪漫、そして休日。

 私が『ローマの休日』を見終えて真っ先に思ったこと、それは「この映画はとてもおしゃれだ」ということです。たとえ白黒でもその美しさが伝わってくるローマの街並み、王女と新聞記者の恋模様、今にも「恋とマシンガン」が流れてきそうなふたりの楽しい休日。どこのフィルムを切り取ってもおしゃれな映画。

 しかしこの映画で私が最もおしゃれだと感じた点は、「直接言葉を言わずに、遠回しに意志を伝えるシーンの多さ」です。

 『ローマの休日』は王女と新聞記者がお互いに正体を隠した上で恋に落ちるけど、最終的にはお互いの正体に気が付いてお互いの道に戻る映画。もちろんアン王女の正体は序盤であっさりバレてしまうけど、「相手はきっと自分が王女であると気付いているだろう」ということをアン王女も察しています。

 でも、この映画は決して直接「私は王女です。あなたとはこれ以上一緒に居られない。」なんて言わずに、お互いがお互いの心情と状況を察して抱き合うのです。この「奥ゆかしさ」が私は一番素敵だと感じました。

 今作の主人公でもある新聞記者のブラッドレーは当初、アン王女のスクープ記事を書いてボーナスを貰うことを狙っていました。しかし、アン王女との恋慕を経て、最終的にはあの楽しい休日の思い出を記事にしないことを約束します。王室の人間としての彼女を守るためでもあり、ふたりで恋人として過ごしたあの一日を守るためでもあり……。いや、ブラッドレー役のグレゴリー・ペックもめっちゃかっこいいんですよ、これが。

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 ここから先は私個人の勝手な話なのですが……え、ここまでも十分お前の主観だけで展開されてた? すみません。私個人の「この作品が面白いかどうか」の基準には、「この作品のようにありたいと思えるかどうか」というものがあります。

 先ほど紹介した『フリクリ』はまさにそれに該当するアニメで、初めて『フリクリ』を全話見終えた後に、私は「フリクリのようでありたい!!!」と思いました。これはもう言葉で表現できる領域の話ではないのかもしれません。だったら何で記事に書いてるんだって話なんですが。

 たとえば言葉の言い回し、キャラが着ていた服やアクセサリー、それともその作品そのものがまとっている雰囲気や空気。どこかにカッコよくて思わず真似したくなるものがある、思わずその作品の中で生きているキャラクターの生き様を現実の自分に反映したくなる。簡単に言えばこれが「この作品のようにありたいと思えるかどうか」という基準です。

 ハル子を見てベスパを買いたくなる、サメジマ・マミ美を見てタバコに「NEVER KNOWS BEST」とか書いてみたくなる、『シン・ウルトラマン』を見た後に禍特隊のバッジが欲しくなる……もっと簡単に言えばこういうことかもしれません。作品を見た後になにかが現実に還元されるかどうか、という話でもあるし、もっと概念的な話でもあるかもしれない。

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 『ローマの休日』も私の中ではまさしくそれに該当する作品です。ローマの街中で繰り広げられるめちゃくちゃなドタバタコメディ、ふたりでバイクに二人乗りするポップで楽しい休日、直接言葉を交わさずにお互いの気持ちを察する奥ゆかしさ、その全てに「こうありたい」と思わせる力がある映画だと思いました。

「永遠に続く、たった一日の恋。」私の好きな言葉です。

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映画『シン・ウルトラマン』予告

 私は『シン・ウルトラマン』を見た時、「もしかしたら1966年の当時に『ウルトラマン』をリアルタイムで見た人はこの衝撃を味わったのかもしれない」と思った。異形の地球外生命体であるようで、どこか美術的な肉体美を湛えた銀色の巨人。その巨人は突如として私たち人類の前に降り立ち、今まさに世界を滅ぼさんとする怪獣と戦い始めた。

 その動きは人間のようだけど、どこか現人神の如き神秘性を感じさせ、私たち人間を守るために戦ってくれている。お前は一体何者なのか。これは正義の英雄なのか、それとも人類を滅ぼす外星人であるようで、宇宙からやってきた神なのか。

 私が初めて見た「ウルトラマン」は『ウルトラマンマックス』だったから、物心ついた頃にはとっくに「ウルトラマンとはこういうものだ」という常識が深層心理に根付いていた。でも、『シン・ウルトラマン』を見た時、私は初めて「ウルトラマン」という存在の異様さ、美しさ、不気味さ、カッコ良さ、その存在の神々しさを再認識した。ウルトラマンとは、こんなにも美しかったのか。生まれた頃から見続けてきたヒーローは、こんなにも尋常ならざる存在だったのか。 

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映画『シン・ウルトラマン』予告

 「これはローマの休日の記事だろ!!!」と憤っているみなさま、本当に申し訳ございません。我慢できなくなっちゃった♥ 

 いや……あのアレなんですよ、ちょうど私が見に行った『シン・ウルトラマン』が公開初日5月13日のグランドシネマサンシャイン池袋BESTIAの9時55分朝イチの回で、『ローマの休日』は全国地上波で5月13日の21時から放送だったので……このふたつの映画をちょうど同じ日に見たんですよ。いやだからなんだって話ではあるんですが!

 『シン・ウルトラマン』は私にとって「『ウルトラマン』という存在の異様と同居するカッコ良さなど、色々なものをひっくるめた全てを改めて味わう作品」でした。まあ要は「シンマン兄さんのバトルがめっちゃカッコよくて最高でした」ってことです!

 もちろんそれ以外にも、『シン・ゴジラ』とはまた違った「ウルトラシリーズ」の文脈に載せたSFオムニバスチックな空気や、現在放送されているニュージェネレーションシリーズのスタイリッシュさを取り入れたようなカッコいいアイテムの描写など、ここで書き尽くせないほど好きなところは沢山あるのですが……激しいネタバレは避けます。

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映画『シン・ウルトラマン』予告

 そんな『シン・ウルトラマン』が公開された日の夜、私は『ローマの休日』を見ました。そこでも私は、「こんなにも面白い映画が70年以上も前に生まれていたのか」と感じたのです。「ウルトラマン」という存在と『ローマの休日』という映画、どちらも私が生まれる前から存在していたものなのに、2022年の今になってやっとその凄まじさを味わいました。

 かたや樋口真嗣氏、庵野秀明氏、日本を代表する最高峰の特撮スタッフと技術によって新たに作られた『シン・ウルトラマン』。かたや浪川大輔氏、早見沙織氏、関智一氏……と日本を代表する豪華声優陣によって新たな声が吹き込まれた『ローマの休日』。どちらも今だからこそ生み出された作品であり、どちらも大いなる先達から受け継がれてきた技術と歴史がある。

 だからこそ私は、「作品を見ようと決める時に、古いも新しいもない」と考えています。もちろん作品の技術や文脈を読み解くのは楽しいし、その作品の時代背景を遡る歴史学的な面白さもあるのですが、「この作品を見るかどうか」を決める時に、「古いから見ない」とか「新しすぎるものはちょっと……」とか、触れる前から忌避するのはもったいないと私は思います。

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映画『シン・ウルトラマン』予告

 これは決して読者のみなさまに「とにかく時代とか気にしないで見ろ!」と押し付けたいわけではなく、どうしても古い作品に対して二の足を踏んでしまったり、そもそもの段階であまり食指が動かない人はもう少しフラットな姿勢で臨んでみると意外と楽かも……という、ちょっとしたライフハックのようなものとして受け取っていただけるとありがたいです。私における『ローマの休日』のような、これまで自分の視界に入っていなかった作品と出会いやすくなるかもしれません。

 ここでひとつ私のおすすめ作品を挙げるとするならば、『ウルトラQ』の第24話「ゴーガの像」という回が個人的に好きなのでぜひ見て欲しいです。美術館より盗まれた「ゴーガの像」という秘宝の中から突如として「貝獣ゴーガ」が現れます。伝承に残されていた「アランカは罪とともに没し、ゴーガは火の海とともに滅びる」という一節の通り、巨大カタツムリのゴーガによって次々と燃やし尽くされていく東京! さあどうする!?

 ……という内容なのですが、大丈夫ですかね。これみなさん面白そうだと思えてますかね? 私の『ウルトラQ』の好きなところに、「これは視聴者に解釈を委ねているのか、それとも単に尺の配分に失敗したのか、それとも意図的にこういうオチにしたかったのかよく分からない衝撃のエンドがちょいちょいある」という点があるのですが……まあ私が「ゴーガの像」が好きなのもそういうことですね……。

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Amazonより

 それ以外の回だと巨大な花が登場する「マンモスフラワー」や、人口過密や食糧問題といった当時の社会問題を特撮で描いた「1/8計画」、ガチガチのホラー回「悪魔ッ子」、先ほど紹介した衝撃のエンドが極まっていると言っても過言ではない「燃えろ栄光」辺りが私の個人的なオススメ……ってこれ『ローマの休日』の記事だっつってんの!!!

 とにかく『ローマの休日』でも『シン・ウルトラマン』でも、良い作品と出会えることはとても幸せなことだと思います。そしてその中にはきっと、生きる希望や活力を貰えたり、「こうありたい」と現実に還元される素晴らしい作品があるはずです。この記事がその出会いの一助となれば、これ以上の喜びはありません。

 という訳で……早見沙織版『ローマの休日』の配信っていつですか?

ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

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