6月20日は『ファイナルファンタジータクティクス』が発売された日だ。
『ファイナルファンタジータクティクス』(以下、『FFT』)は1997年6月20日、プレイステーション(以下、PS)向けに登場したシミュレーションRPGだ。
クォータービューの画面で、20種類以上のジョブから独自のユニットを編成し、3Dの世界に時間の概念を取り入れた“4Dバトル”が堪能できる点が特徴だった。
本作は戦闘の奥深さとストーリーの重厚さから、現在も高い支持を得ている。そんな本作の内容について、あらためて振り返ってみよう。
初代『ファイナルファンタジータクティクス』の魅力的な物語と世界設定
物語は、後世の歴史家から「獅子戦争」と呼ばれる、大国イヴァリースを二分にした内戦の数年前から始まる。
名門貴族の末弟に生まれた主人公ラムザ・ベオルブは、1章を通して「正義」が決して一義的ではないことを身をもって経験する。そして自身の価値観のみならず、自分たちが属する社会の構造や階層に疑問を持つようになる。
ストーリーは全4章に渡り、歴史の波に否応なく翻弄され成長していくラムザと、様々な勢力の「正義」が交錯した結果引き起こされた戦争の、決して明るみに出ない歴史の暗部が描かれていく。
本作は従来の『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズとは異なり、戦闘がシミュレーションRPGとなっているが、その戦闘の奥深さも高い支持を集める一因となった。
ジョブごとに異なるステータスやアビリティのバランスがあり、マップクリアの戦略が何種類も考えられるため、幅広いユニットから編成を組むことができる。
そのうえで、ひたすらレベルを上げたり、とにかく強いキャラを使用してゲームバランスを破壊しながら遊べる点も、多くのプレイヤーを惹きつけた。
『FFT』は魔法、モンスター、召喚獣などの名称が過去の『FF』シリーズと共通しており、現在で言う「スピンオフ」作品であった。また、世界的ヒットとなった『ファイナルファンタジーVII』の主人公・クラウドが仲間ユニットとして登場するなど、ナンバリング作品では見られない異色のコラボも行っていた。
本作は1997年のオリジナル版発売後も、特典付きの限定版や廉価版の発売を数年に渡って展開している。根強い人気を勝ち得ていたことは想像に難くない。
スピンオフ作品として1タイトルのみで終わるかに見えた『FFT』は、2003年2月14日、ゲームボーイアドバンス向けタイトル『ファイナルファンタジータクティクス アドバンス』(以下、『FFTA』)の登場によってシリーズ化を果たす。
『FFTA』と『FFT』に、ストーリー上の繋がりはない。「イヴァリース」という世界の名称は共通するものの、その他の世界設定は独立している。
『FFTA』のストーリーは、主人公の少年・マーシュたちが、ある日突然「ファイナルファンタジーの世界」に紛れ込んでしまったという設定になっている。戦闘はクォータービューで『FFT』と同様だが、原則的にユニットの消滅(=死亡)が排除されており、通信機能を利用した対戦が可能で、対象年齢を広く捉えたタイトルであった。
『FFTA』発売当時、スクウェア(現スクウェア・エニックス)では『FF』シリーズのナンバリングタイトル『ファイナルファンタジーXII』が並行して開発されており、登場する種族や召喚獣などの世界観が『FFTA』とクロスオーバーすることが予告されていた。
『FF12』をはじめとする「イヴァリースアライアンス」の展開
そして2006年3月16日、PS2向けに『ファイナルファンタジーXII』(以下、『FFXII』)が登場。『FFTA』の作中で「主人公たちが親しんでいるファイナルファンタジー」として登場していた作品が、現実にも姿を現した形となった。
『FFXII』も、『FFT』や『FFTA』と同様に「イヴァリース」の世界で展開される物語であり、スクウェア・エニックスは同年の2006年12月、「イヴァリースアライアンス」というプロジェクトを発表している。
「イヴァリースアライアンス」は、異なるハードや異なるジャンルで展開する「イヴァリース」世界の作品群を総称したものであり、翌2007年に3作品をリリースすることが予告されていた。
その第1弾が2007年4月26日に登場したニンテンドーDS(以下、DS)向けタイトルの『ファイナルファンタジーXII レヴァナント・ウイング』である。
ストーリーは『FFXII』の数年後で、メインキャラクターも『FFXII』からヴァンとパンネロが続投している。
そして第2弾が2007年5月10日にプレイステーションポータブル(以下、PSP)に登場した『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』(以下、『FFT 獅子戦争』)であった。
『FFT 獅子戦争』は、1997年発売のオリジナル版に追加要素を加えた移植作品となっている。各チャプターの要所にプリレンダムービーが挿入されているほか、オリジナル版で描写のなかったシーンを埋めるイベントが多数追加されている。
また、新しいジョブも追加され、携帯機ならではの通信要素としてPvPの「通信対戦」とPvEの「共同戦線」も実装された。
そしてさらに、バルフレアとルッソが仲間になる新規イベントが追加されている。バルフレアは『FFXII』のメインキャラのひとりであり、ルッソは後にリリースされた『ファイナルファンタジータクティクスA2 封穴のグリモア』の主人公である。
その『ファイナルファンタジータクティクスA2 封穴のグリモア』が2007年10月25日に発売された、イヴァリースアライアンスの第3弾にあたる。
『FFTA2』のストーリーも前作『FFTA』と同様、ある日異世界「イヴァリース」に飛ばされた少年が主人公となっている。主人公・ルッソが元いた世界が、前作『FFTA』の現実世界と同じだと推測できる描写がある。
ゲーム内容は、ジャッジが戦闘中のボーナス的な存在として常駐しており、ジョブの種類やクエストが数多く追加され、戦略的な楽しさがより向上したデザインになっている。キャラクター育成やアイテム収集などの、やり込み要素も強化されている。
そしてルッソ自身が他作品に登場したように、『FFTA2』には『FFXII』からヴァンやパンネロなどが仲間ユニットとして登場している。
『FFTA』シリーズから追加されたジョブや種族は、2008年1月28日に配信されたフィーチャーフォン向けタイトル『クリスタル ガーディアンズ』では主役となって活躍している。
本作は『FFTA』シリーズに登場したユニットを配置して、押し寄せる敵を撃破していくタワーディフェンス作品だ。
その後本作は『クリスタル・ディフェンダーズ』に名前を変え、ダウンロード専売タイトルとして多機種に移植された。Microsoft Storeでは、2024年現在も購入が可能だ。
そして2009年5月13日には、iOS向けに『クリスタル・ディフェンダーズ ヴァンガード・ストーム』が配信を開始した(現在はサービス終了)。こちらは『クリスタル・ディフェンダーズ』のゲームシステムを、リアルタイムストラテジー寄りにした作品であった。
以上が、2009年までに登場した『FFT』と「イヴァリースアライアンス」の歴史である。これ以後、新たなシリーズ作品は登場していない。
ではその後、『FFT』シリーズは歴史に埋もれた作品になったのだろうか?
答えは否。
この先は、『FFT』が他作品と重ねたコラボの歴史を語ろう。
『FF14』とのコラボやハイクオリティなフィギュアなど今なお広がり続ける『FFT』
まずは『シアトリズム ファイナルファンタジー』だ。シアターリズムアクションというジャンルでニンテンドー3DS(以下、3DS)向けに登場した本作に、『FFT』は登場しない。しかし2012年に配信が始まった、iOS向けの『シアトリズム ファイナルファンタジー』には『FFT』が登場している。
iOS向けの本作は既にサービスを終了しているが、iOSからの追加要素を加えて2014年に3DSに登場した『シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール』には『FFT』のキャラクターとBGMが登場している。
そして2023年2月16日には、新たに167曲が追加され、最大4人のオンラインマルチプレイに対応した『シアトリズム ファイナルバーライン』が登場した。こちらはNintendo Switch、PlayStation4でプレイ可能となっている。
続いて『ロード オブ ヴァーミリオン III』だ。リアルタイムストラテジージャンルでアーケード向けタイトルの本作は、2014年のアップデートで『FFT』とコラボ。
『FFT』からラムザとアグリアスが参戦し、両キャラに初めて声優によるボイスが付くこととなった。現在は稼働を終了している。
続いて2014年、ピクセルアートをパズルで完成させる、パズルRPGジャンルのiOSタイトル『ピクトロジカ ファイナルファンタジー』に『FFT』が登場。同年には『FFTA2』、2015年には『FFTA』ともコラボしている。
2013年からiOS向けに配信された同作は、3DS向けに『ピクトロジカ ファイナルファンタジー≒(ニアリーイコール)』のタイトルで配信がされていた。現在はどちらもサービスを終了している。
続いて2015年にiOS/Andoroid・PS Vita向けアクションRPG『聖剣伝説 Rise of Mana』とコラボ。主人公と一緒にバトルシーンで活躍する仲間(作中での呼び名は「魔ペット」)として『FFT』のラムザらが登場していた。現在はサービスを終了している。
2015年にはiOS/Andoroid向けタクティカルRPG『ヘブンストライク ライバルズ』とコラボ。本作はキャラクターの動きを計算して敵陣最奥のターゲットを倒すという、戦略の組み立てが重要なタイトルであった。こちらも現在はサービスを終了している。
続いて2015年、iOS/Andoroid向けRPG『ファイナルファンタジー レコードキーパー』と『FFT』がコラボ。2017年には『FFTA』ともコラボしている。
本作は『FF』シリーズのクロスオーバー的作品で、歴代シリーズ作品の世界を冒険し、モンスターとの戦いを経て、失われた絵画の記憶を取り戻す内容となっている。
2016年には、対戦アクションのアーケード向けタイトル『ディシディア ファイナルファンタジー』に『FFT』からラムザが登場。
本作のラムザの中性的な容貌には、「かわいすぎて辛い」という投書が「ディシディアファイナルファンタジー公式生放送」に寄せられたことがある(ファミ通.com )。
本作は2018年に、PS4向けに『ディシディア ファイナルファンタジー NT』のタイトルで移植されている。こちらでは別途購入なしで2・3章のラムザこと「2ndフォーム 真探る傭兵」を使用することができる。
また、2018年にはPS4向けに基本プレイ無料の『ディシディア ファイナルファンタジー NT フリーエディション』が登場している。これらPS4向け両作品で利用できる有料追加DLCとして、2019年には4章のラムザこと「3rdフォーム もうひとりの英雄」が実装されている。
そして、『ディシディアファイナルファンタジー』と世界設定を共有しているiOS/Andoroid向けRPG『ディシディアファイナルファンタジー オペラオムニア』が2017年に『FFT』とコラボ。
本作も歴代『FF』シリーズキャラクターがクロスオーバーする内容で、お気に入りのキャラクターを編成してRPGを楽しめる内容となっていた。現在はサービスを終了している。
そして2017年には、数ある『FFT』コラボの中でも、最も大型なコラボが登場した。『ファイナルファンタジーXIV 紅蓮のリベレーター』のパッチ4.1・4.3・4.5で3度にわたって展開された、コラボイベント「リターン・トゥ・イヴァリース」の第1弾が配信されたのだ。
「リターン・トゥ・イヴァリース」は、PS版『FFT』でシナリオを担当した松野泰己氏自身が脚本を手掛けている。しかし内容はPS版を単純になぞるようなものではなく、「英雄王ディリータによって終結に導かれた獅子戦争の真実」を、PS版とは異なる解釈で描いた内容となっている。
以下はややネタバレを含む話となるが、『FFT』(PSP版も含む)は、エンディングの解釈がプレイヤーによって別れる終わり方をしている。
エンディング後のラムザたちがどうなったのかは、実は『ロードオブヴァーミリオンIII』のラムザのフレーバーテキストに既に書かれている。そちらが『FFT』エンディング後の「正史」として公式に扱われているのだが、初めて『FFT』のエンディングを見たときの衝撃が忘れられず、「正史」を受け入れ難いプレイヤーたちは無視できない割合で存在し続けていた。
その「正史」とは異なる解釈をしてきたプレイヤーたちの思いに応え、新たな解釈で松野氏自身がファンの思いを昇華させたものが「リターン・トゥ・イヴァリース」の一連のイベントとなっている。
第2弾は2018年、最後の第3弾は2019年に配信された。『FFT』発売20周年のメモリアルイヤーに配信が始まった「リターン・トゥ・イヴァリース」は、正史で心残りがあった『FFT』ファンから大喝采を浴びて幕を下ろしている。
『ファイナルファンタジーXIV 紅蓮のリベレーター』は現在もサービス中なので、興味を持ったプレイヤーはぜひ剣を手に取り胸に抱いてほしい。
『FFT』コラボの歴史はまだ尽きない。2019年、iOS/Andoroid向けシミュレーションRPG『WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争』(以下、『FFBE 幻影戦争』)にもコラボで登場。
本作は高低差のある3Dマップで、マス目状にユニットが移動・行動するという『FFT』に近い戦闘画面が特徴だ。戦闘シーンでは仲間ユニットの特徴を活かして配置し、戦略を組むことが勝利の鍵となっている。
2022年には、とうとうゲーム内ではなく現実に、ラムザが立体となって現れた。
『FFT』のフィギュア化は今回が初めてではないのだが、質感が前回から何倍もパワーアップしており、プレミアムなコレクターズアイテムとして嬉しい進化を遂げた再登場となっている。
「ファイナルファンタジー タクティクス BRING ARTS」は第1弾から第3弾まであり、ラムザ・ベオルブ、アグリアス・オークス、ディリータ・ハイラルの3名がフィギュア化されている。
初代PSから始まり、現在は移植版をiOS、Androidでも遊ぶことができる『FFT』。
派生タイトルやコラボタイトルの歴史から、『FFT』が長年にわたって愛されていることに、多少なりとも意識を向けていただけたなら幸いだ。
この先もコラボなどで『FFT』の新たな一面を見ることができれば、という期待を抱きつつ、今後の展開に注目していきたい。