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ただ「猫がかわいい」だけに留まらない『Stray』のすごさ。「生活感」がこれでもかと詰め込まれた近未来、アダプティブトリガーの活用、1人と1匹の世界を取り戻す物語

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 企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても、ねこやキャットが消えてなくなるほど情報化されていない近未来……。

 デカルトは5歳の時に死んだ愛娘そっくりの人形を「タマ」と名付けて溺愛した。してないかもしれない。ねこは概ね自分が思うほどに幸福でも不幸でもない。肝心なのは自分で望んだり生きたりするのに飽きないこと。シーザーを理解するためにシーザーである必要はないように、ねこを理解するためにねこである必要はない

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 ……あ、あぁ! 待ってください! ちゃんとします! ちゃんとしますから!!

  今回紹介するのは「かわいいねこがサイバーパンクワールドを旅する」という見る者を惹きつけてやまないその鮮烈なビジュアルで大きな話題を呼んだ『Stray』

 実は私、重度の猫アレルギーのクセに圧倒的に猫派なので、こういうゲームや映画やアニメなどを通ずることでしか「ねこ」を摂取できないんです……。そんな矛盾を孕んだ悲しき生命体の私が今回『Stray』の魅力をお届けしていきましょう。

 そしてなんとこちらの記事は先月の『ICO』に引き続きソニー・インタラクティブエンタテインメイントさんとの共同企画第2弾となっております。あんなにメチャクチャなこと書いたのに、本当に引き続き私で良いんでしょうか!? 後悔しても知りませんよ!?

 『Stray』はゲームサブスクリプション「PlayStation Plus エクストラ」【※1】の7月度タイトルとして追加されており、本来は税込3520円のところを「エクストラ」プランに加入してしまえば、なんと追加料金なしで遊べちゃう! お得です!!

※1「PlayStation Plus」
PlayStationの月額サービス、通称「PS Plus」は6月より新たに「エッセンシャル」「エクストラ」「プレミアム」の3つのプランが登場しており、今回紹介する『Stray』は「エクストラ」「プレミアム」プランで遊べます。「プレミアム」ではPS、PS2、PS3など世代の垣根を超えたタイトルが遊べる「クラシックスカタログ」機能も使えちゃうので、こちらもオススメ。

 既に加入済みの人は、この記事を読み終えた直後にすぐダウンロード開始できちゃいます。つまり、ここでいかに『Stray』の面白さを伝えられるか否か、『Stray』のダウンロード数が伸びるか否かは、全て私の手腕にかかっているということですね。なんでこんな自分で自分の首を絞めるようなことを書いているんでしょうか?

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(画像はPlayStation Plusより)

 すいません能書きが長くなりました! とっとと本題に入りましょう!

 ねこは永遠に幾何学する!

※この記事には、『Stray』のストーリーのネタバレが結構含まれています。かなり終盤のストーリーにまで言及しています。「何の情報も知らないまま遊びたい!」と思う方は、どうかお気をつけください。

文/ジスマロック
編集/実存

※この記事は、ソニー・インタラクティブエンタテインメントとのタイアップ企画です。


近未来と自然と野良猫ハート

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 『Stray』の始まりの地、それは大自然に囲まれた廃墟風の「インサイドウォール」。ここからアナタは一匹の野良猫を操作して、摩訶不思議な近未来ワールドを旅することとなる。野良猫、野良猫、走っていく。つぶらな瞳自慢のパートナー。名前がないの? つけてあげる!

 記事タイトルやツイートにも「ただ『ねこが可愛い』だけではない」と書いてある通り、この記事は「ねこの可愛さ」一発勝負ではない『Stray』の面白さに多角的な方向から迫っていくのですが……もちろん猫はめちゃくちゃかわいい!!

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 頬ずりをする時のあの甘えるような愛らしい動き、毛づくろいする時にお互いの身体をぺろぺろと舐め合うあの尊い生命の躍動……動作や所作、ビデオゲームで表現できる領域の全てを総動員して「ねこの愛らしさ」に対し、とにかく尋常ならざる情熱を注いでいるのがこの『Stray』。

 『ICO』が「少女の実在感」に全力を注ぐタイトルなら、『Stray』は「ねこの実在感」に全てを注ぐタイトルと言えよう。このねこの肉球を離さない。僕の魂ごと離してしまう気がするから……。

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 さらにその「ねこを操作する方法」にもねこに対するこだわりを感じる。そもそもUIがかなりスッキリしており、最低限のボタン表記くらいしか画面に表示されない『Stray』。そんな中、おそらくプレイヤーが初めて目にするシステムメッセージがこちら。

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「ニャーと鳴くには〇を押す」

 なんと『Stray』は……〇ボタンを押すと、「ニャー」と鳴けるんですね。ねこの鳴き方をゲームに指図されたのは初めてかもしれません。

 こういう表示をするということは「これからこの『ニャー』と鳴くアクションを使用する謎解きがあるんだろうな」と、察しのいいゲーマーの方はお気付きになるかと思うのですが、ゲームの進行上鳴き声アクションが必要な箇所は片手で数えられるほどなので、ほんとに半分くらいは「ただ鳴き声を上げるだけの機能」なんですね。

 だがそれがいい。ねこだって、いつでも理由があるから鳴いている訳じゃないんだ。鳴きたくなったら鳴けばいい。このつまらない世界にはそれくらい意味のない楽しいことが必要なのさ!

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 そしてこの最初のステージ、「インサイドウォール」もとても綺麗。生い茂る木々や植物により近未来でも途絶えることのない自然の雄大さを感じさせつつ、あちらこちらに配置された排水溝や水道管で人間が作り出した文明の面影も匂わせる。

 それらの科学文明が自然に侵食されているこの光景は、まさに「プレイヤーが最初に目撃する『Stray』の世界」としてドンピシャなチョイス。「この世界にはそれなりの文明が栄えていた」「だけど人間の姿は見当たらなくて、あちこちが緑に浸食されている」という世界観の情報を、テキストに頼らずとも伝えている。

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 でもまぁ、この排水溝のとこが自然に侵食されているのは私の地元の茨城県でもよく見た光景なんですが……もしかしたら『Stray』の舞台は遥か未来の荒廃した北関東なのかもしれません……。

NEKO PARADISE デッドシティ開店しました!

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 インサイドウォールから落下して仲間とはぐれてしまったねこは、「デッドシティ」という場所で目を覚ます。ここから「地上への帰還」を目指すのが『Stray』の本筋。ここは奈落の底か、「文明」という悪魔が作り出した辺獄か、それとも、地の底で栄華を極めた理想郷なのか……。

 仲間とのきらっともっとしゃいにーはっぴーでいずを取り返すために、ねこの地上までの帰還を手助けしてあげましょう。

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 この辺りから、『Stray』の「アドベンチャー」としての面白さが目を覚まします。緑生い茂るインサイドウォールから急転直下、退廃的で荒廃的なデッドシティやスラムからの脱出を目指さなければなりません。

 ジャンプやダッシュ、ネコ科ならではの機動力を駆使して、街の看板から看板に壇ノ浦の源義経のごとく飛び移り、廃屋の狭いドアをそのしなやかで小柄な体躯をもって潜り抜けてきましょう。

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また後で詳しく説明しますが、一応セリフはちゃんと表示されます。

 ここで先ほど説明した「UIの少なさ」が関わってきます。『Stray』は本当に「ここで△を押してね」くらい必要最低限のUIしか表示されず、マップや体力ゲージも画面上には存在していません。アドベンチャーだけど、これから辿り着くべき目的地もUIでは教えてくれません。

 しかし、『Stray』にはこの「ネオンや街の看板による進行方向の誘導」があるので、そこまで酷く迷うことはなく進行できる! 今作の近未来世界観を引き立てつつ、さらにプレイヤーも誘導するこの道案内が、私はかなり好きでした。

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ストーリーの進行上、「水色の看板」や「赤色の提灯」を探すパートがいくつかあるのですが、基本的に薄暗いデッドシティやスラムの中でこれらの蛍光色はよく目立つため、色覚による進行方向の誘導も見事と感じました。

 アパートからアパートに釣り下がった電球が点灯し、これから進むべき道を示す。飲食店の掲示板の交通標識の役割を果たす。液晶看板がねことプレイヤーの進行方向を誘導してくれる。

 この世界にある全てのオブジェクトは基本ねこの都合のいいように作られているため、かなり気持ちよくねこアクションを楽しむことができます。

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 そしてこのアドベンチャーパートを遊んでいる内に気付くのが、今作は「PS5の性能をかなり引き出している」という点。ちなみに私が今回『Stray』をプレイしたPS5は「編集部から借りたPS5」なので、このPS5は遊び終わったら普通に返さなくちゃいけないし、いずれいろいろなことに打ち勝って自分用PS5を手に入れなければいけません。私だって……私だってずっとソニーストアに応募してるんです……!!

 すみません、話が逸れました。PS5最大の特徴のひとつ、それが「コントローラーの振動やマイクを駆使し、ゲーム内の演出を手先の感覚に直接フィードバックする」【※2】ということ。要は、ゲーム内でダメージを受ければその手に握ったコントローラーが直接ブルブルっと振動するし、ゲーム内で鉄製の床を歩いていれば金属を踏んでいる時特有の「コツ、コツ、コツ……」というあの感覚が、直接手元のコントローラーから伝わってくる。

※2「DualSense ワイヤレスコントローラーによる、よりリアルなゲーム体験」
少し誤解を招きかねないため、ここで補足させていただくと、このDualSense ワイヤレスコントローラーの機能は「対応するタイトル」で使用できるものとなっています。『Stray』などの最新タイトルは結構その本領を発揮している作品が多いので、ぜひお試しあれ。

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こちらの画像はPS5に無料でダウンロードできる『ASTRO’s PLAYROOM』というゲームの画面。前述のDualSense ワイヤレスコントローラーの機能を最大に引き出したタイトルとなっているので、結構オススメです。

 そんな新時代の到来を感じさせるDualSense ワイヤレスコントローラーの機能の中でも、特にすごいのがこちらの「アダプティブトリガー」。簡単に言うと、「ゲーム内の場面に応じて、L2、R2ボタンの“重み”が変わる」という機能となっています。

 ちょっと架空のゲームを使った例えになってしまうのですが、たとえば「普段はR2ボタンを押し込むことでダッシュする」アクションRPGがあった場合、「ドロドロで歩きづらい沼地の上をダッシュする時はR2ボタンが重くなり、プレイヤーもいつもよりちょっと力を込めてR2を押さなければならない」……なんて演出ができちゃうんです。大丈夫ですかね、これ伝わってますかね?

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 そして今作でも、「アダプティブトリガー」機能が有効活用されています。それが発動するのが……この「爪とぎ」シーン! ドアや樹木に向かって、ねこちゃんが爪とぎをする!

 その時プレイヤーはL2ボタンとR2ボタンをねこちゃんの右前脚と左前脚に見立て、押し込まなければならない。するとどうだろう……L2とR2がいつもより重いじゃないか! 重いじゃないか!!

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 いつもより重たいDualSense ワイヤレスコントローラーのL2とR2から、ねこがいつも「爪とぎをしている時」にどんな感覚を味わっているのか、疑似的に体験できる。もしかしたら『Stray』は、「ねこが爪とぎしている感覚」を初めて人類にフィードバックすることに成功した作品なのかもしれない。

 これ、本当にボタンが重いのでずっと爪とぎしてるとちょっとだけ手が疲れてくるのもなんかすごいです。ねこちゃんも、ずっと爪ガリガリしてたら疲れるんでしょうか……。

 ちなみにこの爪とぎアクション、「ドアの先に居る住人を呼び出す時」とか、「配電盤の線を引きちぎる時」とか、結構出番が多いので割とあっちゃこっちゃで爪とぎするハメになります。今の内にL2R2を押し込む指の腹を鍛えておきましょう。

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 もちろんアダプティブトリガー以外の機能もしっかり駆使しています。そのひとつが「ハプティックフィードバック」。たとえば上記の画像のようにねこがスヤスヤ寝ている時はその鼓動やいびきが振動として伝わってくるし、鉄骨に飛び乗った時には金属に着地した時の地面の感覚、衝撃で揺れる鉄骨の「キィ……キィ……」といった感じの感覚もDualSense ワイヤレスコントローラーから手先を通して伝わってきます。

 なんというか、あんまり手放しで褒めちゃうのもあれかもしれませんが、この「ねこ」という要素を主軸にしたDualSense ワイヤレスコントローラーの活用は本当にすごいタイトルだと思います。後年から見た時、「PlayStation5」というハードの歴史において、ある種のマイルストーン的なタイトルになる予感もします。

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 そしてこの辺りから心強い相棒、「B-12」が仲間として加入します。彼(?)は長い間データの中に閉じ込められており、自分を作ってくれた「博士」の元へと行くために、ねこちゃんと共にこの奈落からの脱出を目指します。

 「B-12」の加入によって、この世界で暮らす頭部の液晶に顔文字が映し出された奇妙で愛らしいロボットたちとの交流や、この世界のあちらこちらに散らばった人類の残した文明を紐解くことも可能になります。この辺りから、徐々に徐々に『Stray』の世界観の面白さも分かってきます。

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 この閉ざされた世界の外には「アウトサイド」と呼ばれる未知の世界があること。ロボットたちはそのアウトサイドを目指す「アウトサイダー」として活動していたけど、何人もの仲間を失っていったこと。ねこちゃんを襲ってくる謎のネズミのような生命体、「ZURK」は人造のごみ処理バクテリアであったが、「人間が居なくなってから」暴走を始めたこと……。

 最初は「ねこちゃんかわい~~~♥♥♥」くらいの気持ちで始めたゲームでしたが、断片的にその世界観や歴史の背景が明かされることで、純粋にひとつの「物語」として続きが気になってくる。

未来猫オーバーラン!

 デッドシティを抜け、スラムを抜け、数多の犠牲を払いながらもアウトサイドを目指すニャンコの前に現れた奈落の歓楽街「ナイトシティ」。青空もなく、昼もなく、はっぴいにゅうにゃあを迎えることもなく、眠ることのないこの閉鎖世界において、ひとつの文明の到達点とも思える……終わらぬ夢。

 そう、ここまで忘れていましたが、やはりこのゲーム、フィールドの作り込みがとにかくすごい! 「ねこが近未来を旅する」という一発ネタのゲームかと思わせて、そんじょそこらの高グラフィック作品には負けず劣らずのレベルで作り込まれたこの世界!!

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 特にこの「ナイトシティ」は、『FF7R』「ミッドガル」に負けずとも劣らずのナイス近未来……だと私は思っています。え、まさか慎平くん『Stray』やったことない!? 世界観が好きなんですよね。発売されたんが令和やったからかな。アートも音楽もどこか退廃的なムードでね。人生の終わりについて考えさせられる。

 特に『Stray』のフィールド表現においてすごいと感じたのが、この狂った近未来における「生活感」の出し方です。創作物の中の世界おいて、いかにして「この世界は本当にある物なんだ」と空想を信じさせることができるのか、いかにして幻想を信仰させるのか、いかにして現実に架空という錨を降ろせるか、そのひとつの方法が「生活感を出すこと」だと私は思っています。

 その世界に息づく人間の日常生活の痕跡、その世界に形成されたであろう社会のシステムに思いを馳せたくなる建造物、その世界で生み出された食事・娯楽・物語などの文化……「本当は存在しない世界」がしっかり肉付けされていればいるほど、私はその世界に没入したくなります。

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特に私が好きな「アントビレッジ」のラーメン屋さんです。電源コードで作られたクソ不味いラーメンを振る舞ってくれるそうな。

 『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『機動警察パトレイバー the Movie』辺りが、私の中で「生活感」が上手いこと出ている作品だと思います。華やかさや美しさを求めている訳ではなく、漠然とした「生活の痕跡」があちこちに散りばめられているだけで、私はちょっと嬉しくなります。

 まぁなんか難しいこと言ってますけど、端的に言えば「誰も見ないような小物とか誰も気にしないような建造物にもちゃんと気合入ってると好き」ってことです。そこが『Stray』はすごい。単に綺麗で美麗な近未来を作り出すのではなく、上手い「汚し」が入っているのが好きなんです。

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こことか、本当にたまりません。何かそういう性癖なのかもしれません。
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こことか、最高です……メモ書きと言い、モニターの置き方といい、ひとつのデスクに「ちゃんと血が通っている」と思います。

 そんな生活感あふれる近未来を堪能すると同時に、だんだんとこの世界の全貌も明らかになっていきます。

 実はこの世界は「ひとつのシェルター」の中に作られた世界でしかないこと。ナイトシティにおいて、ロボットがロボットを牢屋に閉じ込め、耐用年数を迎える日までロボット同士の管理社会が敷かれていること。ずっと自分を作り出した「博士」を探していたB-12だったけど、実は自分自身こそが魂をデータ化してひとつの機械に閉じ込めた「博士」であったこと……。

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 偶然の出会いでしかなかった一匹のねこと一体のドローン。物語が終盤に進むにつれ、元居た世界に帰りたい一匹のねこと全てを失った一人の人間が、それぞれの世界を取り戻すために、この狂った未来を変えるために、天上楽土のアウトサイドを目指す物語へと変容していく。

 未来のあるアウトサイドがひとつと! シェルターに閉じ込められたロボット数千人!!
 お前はどっちを助ける!? 正義の味方ストレイーマン!

 ……ネコもいたよ。

変態博士と笑わない猫

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 デッドシティ、スラム、自然の中に佇むアントビレッジ、ナイトシティ……多種多様な「荒廃した近未来」をお出ししてきた『Stray』の、その最後に待つのが「コントロールルーム」

 丁寧に清掃されたつるっつるの床、施設を管理するタスクだけを延々とこなし続けるロボット、砂埃も綿埃もひとつ足りとも存在しない、完全に管理された終着駅。

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シェルター内の最上に位置するコントロールルームからは、これまで巡ってきた街を一望できます。ここからの眺めで、私は「光の訪れない世界」という認識が強まりました。

 かなりの熱量を持って「近未来の生活感」を描いてきた今作だからこそ、最後の清潔でありながらも生命の存在すら感じさせないこの空間が、私の目には最も不気味に映りました。

 営みが、文化が、生命の鼓動の一片も感じない世界は、ここまで空虚で怪奇に映る物なのか。このコントロールルームはある意味、この狂った理想郷において「それでも、シェルターで暮らしているここの住民の生き方そのものは否定するべきではないんだ」という、彼らが作り出した世界への肯定でもあるのかもしれません。

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 そして、コントロールルームからこのシェルターの天井を開くために、この世界に光をもたらすために、「B-12」は己の機械の肉体を犠牲に未来を切り開く。

 家族を目の前で失ったB-12。データでありながらも、「人間」としての記憶を保持しているB-12。過去の悲惨な歴史を忘れないために、人類の記憶を引き継がなければと決めていたB-12。しかし、彼はそんな人類の存続よりも……彼が愛した人々と、全ての思いよりも……ここの住民たちの未来を見てみたいと思った。

 とてもこの世界に住みたいとは思えないし、人類が『Stray』で描かれる近未来を辿ることはあってはならないのだけど、それでもこのシェルターの中に住んでいた住民たちは、どこか楽しげで、どこか愛嬌があって……少なくとも、ここに生きている彼らは悪い奴じゃなかった。だからこそ、「過去」の自分自身よりも「未来」を選択したB-12。

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 B-12、だいぶメインヒロインしてます。この記事の冒頭、「ニャーと鳴くアクションにはそんなに意味がない」と書きましたが、ごめんなさい。アレはちょっと嘘です。

 実はこのゲーム、カットシーンの最中でも〇ボタンを押せば、プレイヤーの好きなタイミングでニャーと鳴くことができます。だから、どうかアナタの友達のために、どうかアナタの最高の親友のために、ニャーと鳴いてあげてください。この世界と最高の親友にその身を捧げた一人の人間のために、どうか最後の言葉をかけてあげてください。

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 『Stray』でプレイヤーが操作するねこちゃんはねこのパブリックイメージ通りに気ままな奴(私の主観です)なのですが、そんなねこ然としたねこだからこそ、最後の最後に命を投げうった友達に寄り添うシーンが……とても……とても……。これは流石に世界一ピュアなキスなのでは……?

 そんなB-12が命がけで切り開いた世界の未来、闇に包まれた街に訪れる光、夜が終わらない都市にやってくる夜明けは……………………「PlayStation Plus」に加入して今すぐあなたの目で確かめろ!!!

猫物語(茶)

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 ……さて、この記事を通して、少しでも『Stray』を遊んでみたいと思っていただけたのであれば幸いです。今作は発売初日からねこの愛らしさや、ねこの愛らしさや、ねこの愛らしさを中心に大きく話題となっていましたが、「そこ以外のハードの機能の活用やシナリオもめっちゃ面白いよ」ということを伝えたかった記事です。ぜひ、その完成度の高さを味わってください。

 もちろんPSPlusの「エクストラ」「プレミアム」プランでは『Stray』以外にも、『FINAL FANTASY Vll REMAKE INTERGRADE』などのタイトルが追加料金なしでで遊べちゃいます!

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(画像はFINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE | PlayStationより)

 ちなみに私の個人的なオススメは、「プレミアム」プランで遊べる『ICO』です。『Stray』自体は、10時間もかからずサクッとクリアできちゃうので、その次のタイトル探しもPSPlusだと良い感じに捗っちゃうかもしれません。

 気楽に近未来を堪能できるし、一人と一匹の種族を超えた友情もある……そんなプレイ時間以上の満足度を味わえる『Stray』。そろそろ夏も終わりを迎えて寂しい頃かもしれませんが、どうかその寂しさをねこで埋めてくださいませ。

ねこって…………一番かわいいからね!

ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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