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“アイドル物の最後発”として生まれた「シャインポスト」が、実は令和史上に残るアニメであると伝えたい

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 “アイドル物の最後発”として生まれた「シャインポスト」が、実は令和史上に残るアニメであると伝えたい

 このタイトルを見て、「マジで!?」と思った方も多いと思う。そう、僕も3日前までは同じリアクションだった。

 ただ、声を大にして、表に出てハッキリと強気で言い放ちたい。

 現在、放送中のTVアニメ「シャインポスト」がメッチャクチャ面白い!!!!!

 「シャインポスト」はアイドルアニメ史上に残る超大作に仕上がっている。物語と演出、作画、楽曲のクオリティがとにかく凄まじい。毎話、毎話で涙がボロボロと溢れ出すほどに

 実際に視聴してみると、半端じゃない魅力が詰まった「シャインポスト」だが、その魅力に対して、未だ多くの方々に届ききっていない印象を受けていた。

 その大きな理由は「既視感」にあるのではないかと睨んでいる。

 これまでも数多くのアイドルアニメ作品が生まれ、放送・配信されてきた。その結果、「何か見たことあるような気がするし、まぁ(見なくても)いいか…」となりがちだ。

 この既視感が影響して、「シャインポスト」を何か見る気がしないなぁと思った結果、未視聴の方も多いのではないだろうか(僕も全く同じ理由で視聴していなかった)。

 その後、僕も編集部内で「『シャインポスト』がヤバい!」と話した時も、未視聴組からは「マジですか??」とニヤニヤされてしまった。

 勿体ない。あまりにも勿体ない。こんなに素晴らしい作品が、そんな既視感フィルターのせいでより多くの人に刺さらないのはあまりにも勿体なさすぎる。

 何か声を上げなければ、一人でも多くの人に知ってもらうために、手を上げなければと思い、現在筆を取っている(この記事の大半は第9話までを見終わった直後に執筆したものだ)。

 そんな鼻息を荒くしている感想文に少しお付き合いいただきたい。

『シャインポスト』メインビジュアル
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

※具体的なエピソード・設定などのネタバレはほぼ避けて執筆したので、未視聴者の方も安心して読み進めていただきたい

 文/川野優希


 

アイドルアニメでありヒューマンドラマ

 まず、ビジュアルの華麗さとは対照的に、「シャインポスト」はキラキラしたアイドルの大活躍をそのまま描くというよりも、登場人物たちの内面にスポットライトを当てた作品となっている。

 スポットライトを浴びるアイドルがどんな気持ちでステージに立っているのか。そんな心の機微を丁寧に描いていると言えば伝わりやすいだろうか。

 それは、自分の弱さであったり、本当の気持ちであったり、隠している事実であったりと様々だ。

 アイドルのステージは一つのゴールであり、次のスタートに向けての通過点でもある。

 そんなゴールとスタートに向けて、メンバーそれぞれが抱いている気持ちをしっかりと描いているのが、「シャインポスト」の特徴である。

 視聴者はマネージャーの視点、時にはメンバーの視点となり、なぜアイドルを目指したのか。そのためにどんな過程を経たのか、そしてアイドルになった後の葛藤を目の当たりにしていく。

『シャインポスト』第1話
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

 また、作品の中心となって活躍するアイドルユニット「TiNgS」は物語がはじまった時点ですでに結成済みであり、CDデビューこそ実現していないものの、定期的にライブを開催するレベルには活動している。

 つまり、メンバー間の人間関係がある程度成立した状態で物語は動き始めるのだ。

 表面上は上手く回っていても裏側でいろいろな感情を抱いているのが人間である。

 彼女たちはアイドルになりたいと思い、一歩踏み出し「TiNgS」のメンバーになった。だが、その先で体験したことはアイドルとして生きていくことの難しさだった。

 「シャインポスト」というタイトルに対して、影を描き続ける

『シャインポスト』第1話
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

 少しだけ具体的なエピソードに触れると、あるキャラクターが「私には何もない」と悩み、苦しんでいる。

 あくまでもキャラクターの悩みなのだが、人生を生きているとそんなことを思うことは少なくない。

 壁にぶつかったり、自分よりも優れた人に出会ってしまうと、自分には何の才能もないと思ってしまう。

 そんな経験は誰しも一度は思い当たるエピソードがあるかもしれない。

 僕もそうだ。40歳を手前にして、何かを成し遂げた実感も無ければ、何かになれた気もしない。

 運よくこうしたエンターテインメントの仕事をさせていただいているものの、誰かに憧れられるような存在でもないし、尊敬されるようなところもない。

 そんなことを夜に1人で考えたりしてしまう。

 ただ、何も無い人間なんて居ない

 何かを持って生まれてきて、何かを成すために生き続けている。

 「シャインポスト」はそんなメッセージを物語に乗せてきたのだ。

 普遍的で綺麗事かもしれない。ただ、そうでも思わなければ、生きていけない。

 きっと、僕もあなたも「持っている人間」なのだ。

 それをどこで発揮するのか。どうやって気付くのか。

 気付いた先に何が待っているのか。

 少し話が逸れてしまった。

 作中でそのキャラクターがどうなったのかは、ぜひ「シャインポスト」を見ていただきたい。

 いや、頼む見てくれ…。マジでエグいくらい泣けるので。

『シャインポスト』第2話
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

超絶作画が生み出す感情移入

 キャラクターの声帯となり、魂を宿すのが役者の仕事であるならば、キャラクターを描き、動かすアニメーターは身体を作っている仕事とも言える。

 正直に言うと、僕はアニメの作画について強い興味があったタイプではない。多少荒くても物語や演出が素晴らしければそれで十分楽しめる。そんな価値観で作品を見ていた。

 だが、アニメーターのとんでもない仕事を見てしまうと、やっぱり作画が強いのは正義なのだなと感じてしまう。

 「シャインポスト」は第1話から第9話まで非常に作画が綺麗だ。安定しているというレベルではない。とてつもなく美しい

 そして、日常のシーンはもちろん、キャラクターが細かく動くライブシーンまで徹底的にこだわって制作されているのが伝わってくる。

『シャインポスト』第1話
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

 ここからは「TiNgS」のライブシーンについて少し語りたい。

 まず、伝えておきたいのが現在のアニメ制作でトレンドとなっている3DCGのアニメーションではなく、手描きの作画でライブシーンを描いていることだ。

 キャラクターがとにかく動く。さらに感情芝居が素晴らしい。

 寄りのカットになると、目元、口元の表情の豊かさが更に際立つ。一瞬だけ首を横に振ったりする芝居も秀逸だ。

 とにかくこだわりまくっているアニメーターの仕事だが、さらに凄いのは、キャラクターに応じて実力差までをも描ききっている点にある。

 現実のアイドルを見てもパフォーマンスが上手いメンバーとまだまだ伸びしろがあるメンバーがいる。

 上手いメンバーは動きのキレや表情管理、首や手先の動きで楽曲を表現している。

 作中に登場する「TiNgS」についてもメンバー間でダンスの実力格差が存在している。あるメンバーは上手く、あるメンバーはダンスが苦手。

 仮にそうだとしても、従来のアニメでは基本的に伝わらないことの方が多かったと思う。

 というよりも、一部のメンバーの動きが他のメンバーに比べて微妙にワンテンポ遅れているなどはライブシーンであまり描かれてこなかったと思う。

 それが、「TiNgS」のライブシーンを見ると、非常に細かくパフォーマンスの格差が描かれている。通常のスピードで見ても違和感を覚えてしまう。映像の再生のスピードを下げると一目瞭然だ。

 振り付けに個性が出る以前に、手の伸ばし方や首、腰の角度、表情の豊かさがメンバーそれぞれで全く違う。レベルが違うのが映像だけでもしっかりと伝わってくる。

『シャインポスト』第4話
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

 正直、そこまでしなくても演出によってカバーできることだとは思う。露骨に失敗しているシーンを入れたり、モノローグで「あっ…」みたいなことをキャラクターに語らせればいい。

 「シャインポスト」のアニメはそういった手法を取らずに、メンバーの振り付けや表情管理、汗の表現などで視聴者に訴えかけてきた。アニメーターの実力でぶん殴りに来たのだ。

 ライブシーンの映像を繰り返し見ることはこれまでにもあったが、キャラクターの動きに秘められたメッセージを確かめるために、0.25倍速まで速度を下げ、食い入るように何度も見たのは初めての経験だった。

 また、先日「シャインポスト」公式YouTubeチャンネルのライブ配信で語られたのが、あるキャラクター歌唱シーンでは、口元の動きを役者に近づけるため、スタジオまで足を運び、実際に歌っている時の口の開け方を撮影したという。

 ダンスシーンなどでは、代役を立てて行うケースが多いと聞くロトスコープを実際に歌唱を担当している役者の口元で再現したそうだ。

『シャインポスト』第2話
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

 作品へ溢れるほどの愛がなければここまで作り込むことはないはず。そして、その仕事は視聴者側にも伝わってくる。

 僕自身、アニメを見ていて、キャラクターの表情や背景を見て、「綺麗だな…」と思うことはこれまで何度もあったが、こんなにアニメの作画について考えさせられ、その仕事に感服する日が来るとは思わなかった。

 また、ライブパートだけではなく、日常パートでも細かな演出やこの子がこんな表情するのか!?と驚く瞬間がある。そのシーンは正直、ゾクッと来た。

 アニメーター陣の圧倒的な技術と作品、キャラクターに対する愛

 アニメファンならずとも一度は目にするべき芸術だと言っても過言ではないかもしれない。

楽曲の素晴らしさは物語によって生まれる

 ここからは「シャインポスト」の楽曲の良さについてだ。

 実際のところ楽曲はいつ、どのタイミングで聴くかによってその価値が大きく変わる。

 「いい曲だね」で感想が終わることもあれば、明るい曲を聴いているはずなのに目頭と胸が熱くなってくることもある。

 実際、9話まで視聴すると明るい曲ですら涙腺に来る。ガンガン来る。これマジ

 前述したように、豪華クリエイターが制作している「シャインポスト」の楽曲は非常にクオリティが高い。普通に耳にしても一定以上の評価は得られると思う。

 ただ、物語を体感した後に、聴いてみるとその価値がストップ高になる。

 例えば、公式が配信しているYouTubeで13万再生を突破した第6話のED。※公式が配信している他の動画と比較すると約10倍近く再生されている

 非常に素晴らしい曲に仕上がっているのは「シャインポスト」を未視聴の方にも伝わることだと思う。

 ただ、この曲を聴いて、涙が止まらん….ハンカチじゃなくて、バスタオルを取ってくれ….となるのは「シャインポスト」をここまで楽しんだ人の特権だと思う。

 このエピソードにたどり着くまで、キャラクターの心情を繊細に、丁寧に描くことで、この楽曲の意味が深く理解できるようになる。特に歌詞の意味が理解できるようになる。もうとにかく心が揺れるのである。

 先にこの曲を聴いていい曲だなと思ったら1話から視聴を始めるもよし。全く情報を入れずに、1話から視聴するもよし。

 せっかくここまでこの記事を読んでいただいた読者のあなたには、ぜひこの2択から選んでいただきたい。

「既視感」ではなく、「安心感」を生むクリエイター陣

 では、そんな「シャインポスト」を手掛けているクリエイター陣について説明しよう。

 コナミデジタルエンタテインメントが手掛けるメディアミックスプロジェクトとして生まれた「シャインポスト」はクリエイター陣も凄まじい。

 原作はTVアニメも放送された「俺を好きなのはお前だけかよ」でスマッシュヒットを記録した駱駝氏。

 監督は「ウマ娘 プリティーダービー」の監督を務めた及川啓氏。音楽プロデューサーは『ラブライブ!』をプロデュースした木皿陽平氏。

 OPテーマは「μ’s」の「きっと青春が聞こえる」を作曲した高田暁氏。EDテーマはヒットメーカーのコモリタミノル氏が担当。劇中歌にはMISIAの「Everything」を手掛けた松本俊明氏も参加している。

 駱駝氏と再びタッグを組んだブリキ氏がキャラクター原案を担当。さらにアニメスタジオは超絶作画技術を持つ「スタジオKAI」

 また、リリース時期は未定だが、モバイルゲームも鋭意作成中。ゲーム版は「ラブプラス」などを手がけた石原明広氏がプロデューサーを務めるという。

 こうして並べてみると既視感を通り越して、安心感が生まれてくる気はしないだろうか。

『シャインポスト』第5話
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

ヒットアニメを生み出す難しさ

 2020年以降、オンラインが主流の時代になり、対面でのコミュニケーションや雑談が減少した結果、人から何かを勧められるという体験が乏しくなってしまった。

 そんな時代だから、SNSで話題になっているものがイイものである、と勝手に信じる様になってしまったのかもしれない。

 SNSで大きな話題になっていなければ、今ひとつ盛り上がりが足りないと判断されてしまうのである。

 つまり、一定以上のしきい値を超えなければヒットしていると判断されない。

 アニメであれば放送の度にトレンドに入る、などであろうか。

 そこまで届いてはじめて広い世界に届きはじめる。興味の対象に入り、これまで見ていなかった人の目に届き始める。

 実際のところ「このアニメが凄い!!!!!」となるのは火が点いた後だったりするのだ。

先入観という魔物

 「シャインポスト」を視聴した方の評判は悪くない。いや、とてもいい

 ただ、まだその絶対数が足りていない。話題の中心になりきれていない。

 改めてになるが、既視感の影響が大きいと思う。

 これは僕自身の反省を含めてになるのだが、年齢を重ねる内に「あれってこれのオマージュだよな?」とか「これって結局、これと一緒でしょ?」とか先入観で作品を見てしまうことがある。

 例えるならば、「このラーメン見たことあるし、どんな味かするかも想像付くから別の店にしとく?」みたいな。

 さらに積んでいるゲームや未視聴の映画、アニメ、ドラマ…など考えるととにかく時間もない。

 その結果、「まぁ、いいや…」となってしまうことが非常に増えてしまった。

 新しいモノは話題になっていたりするものだけ。それ以外は見知ったモノを中心に。

 これってとても楽なのだが、どこか刺激がないとも言える。

 新しいコンテンツへの探究心。作品をディグる遊び心。

 たまにはそんな冒険をしてみてはどうだろうか。

 既視感や先入観の影響で今一つ盛り上がりが足りていない作品を見てみっか、と。

 実際、この状況を打開し、いい流れを作るためには、草の根的に誰かがその先の誰かに「面白いから絶対見てくれ…」と伝えるしか無いのである。

 結局、これが最強なのだが、一定数以上の数が必要なのも事実としてある。

 だからこそ、僕は9話を視聴し終わった瞬間からこの記事を執筆し始めた。これが友人に布教する際のツールになればいいなと願いつつ。

『シャインポスト』第6話
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)

同時視聴というその瞬間にしかない体験

 この機会なので最後にもう一つだけ。

 毎週アニメが放送されている状況の素晴らしさについてだ。

 アニメが毎週ではなく、一気に全話配信されることも珍しくない時代になったが、やはり毎週話題になるというのは、素晴らしいことなのである。

 例えば、TVアニメ「シャインポスト」が放送終了後にじわじわと人気が出たとして、今この瞬間毎週の配信を楽しみにしているという熱狂はそこにはない。

 現在、「シャインポスト」は社会状況的な問題もあり、変則的なスケジュールで放送されている。

 第10話が放送されるのは、2022年10月4日(火)、本日なのだ。まだ、1話から見始めても最終話に間に合う。リアルタイムで感動を共有し合う体験ができるのである。

 この感想文を読んで少しでも興味が湧いたらぜひ、「シャインポスト」を一度視聴してみて欲しい。

 「シャインポスト」は「dアニメストア」「アマゾンプライム・ビデオ」「Hulu」などで絶賛配信中だ。

 正直、コンテンツが飽和している現代においては、食わず嫌いという言葉すら通用しない。アニメを見たり、ゲームをプレイするハードルもドンドン上がっている。

 ただ、そんな状況の中でも本当にイイものはイイので、ここまで紹介させていただいた。

 「シャインポスト」がヒットしないのであれば、もうアイドルアニメがブレイクするのは数年に亘って厳しいと思う(誇張なくそう思うほど最高の作品なのだ)。

「何か見る気がしないなぁ」から、「ここまで言うならいっちょ見てみるか」という気持ちが生まれることに期待しつつ、筆をおきたいと思う。

『シャインポスト』アニメビジュアル
(画像は『シャインポスト』アニメ公式サイトより)
ライター
宣伝・編集・執筆...色んな仕事をしています、川野優希です。
Twitter:@ougaan21

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