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嘘をついて人間に近づいていく「人形」の物語。完成されたソウルライクのシステムに「武器調合」という独自の要素を融合させた『Lies of P』が面白い

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退廃的な世界観と嘘が密接にかかわるストーリー

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 そして、ソウルライクゲームを愛するプレイヤーの多くが注目するであろうポイントが、ゲームの世界観でしょう。

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 本作の舞台となるのは、かつて栄華を極めていた街、クラット

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 この地では、人々の生活のサポートをするために作られた自動人形たちがある日突然凶暴化し人間たちを殺害し始めるという暴動が発生。この暴動は多くの犠牲者を出し、どうにか生き残った人々も、自動人形の恐怖などに怯えながら生きていかなければならなくなり、クラットはあっという間に人の出歩かない死の街と化してしまいます。

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 そんな人類にとって絶望的な状況の中、熟練の人形職人ゼペットが作り出したひとつの自動人形が、青い蝶の囁きによって目を覚まします。

 この人形こそが『Lies of P』の主人公。彼を操って自動人形たちとの戦いに終止符を打ち、クラットに平和を取り戻すことが、プレイヤーの使命となるのです。

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 自動人形による人間虐殺が起きた後という、退廃的な雰囲気の漂う『Lies of P』の世界観のモチーフとなっているのは、日本語にすると“良き時代/美しき時代” といった意味である “ベル・エポック” と呼ばれる、19世紀末から第一次世界大戦勃発までのフランスの華やかな時代

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 様々な分野で新たな文化が誕生し、現代生活のベースが築かれた大転換期ともされるベル・エポックは、何かしらの作品のモチーフとしては余り耳にする機会のないものである上、原作の『ピノッキオの冒険』がイタリアの物語であるということを考えると、若干ちぐはぐな感触があります。

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 しかし、自動人形の暴走によって一気に絶望のどん底に叩き落とされてしまったという世紀末感と、かつてその場に存在していたであろう美しき時代とのコントラストは、プレイヤーに対し鮮烈な印象を与えるものであり、こちらの心を捉えて離しません。

 こういった世界観がどの程度好まれるものであるのかは定かではありませんが、少なくとも私にとっては大好物。そういった意味でベル・エポックは、『Lies of P』の下敷きとするのに最適な時代であるように思います。

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 また、この表現が適切かどうかは怪しいところがありますが、退廃的な世界観の中に突如として現れる、ハイタワー三世が住んでいそうな雰囲気のある独特な建築物や、主人公の左腕に装着された機械仕掛けのリージョンアームなど、スチームパンクを思わせる要素が様々な部分で見られるということも魅力的です

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 周囲に目を向けることで様々な発見に出会えるというのは、世界観が作りこまれたゲームならではの楽しみ。骨太なアクションに疲れた時は、少し心を落ち着かせて周りを見てゲームの世界へ没入していくこともまた、攻略のための1つの布石となるのです。

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 そして、建造物や街のデザインによって構築された世界観をより一層強固なものとしているのが、ストーリーです。

 冒頭でもお話しましたように、『Lies of P』のベースとなっている『ピノッキオの冒険』では、木の人形であるピノッキオが嘘をついたことで鼻が伸びてしまうシーンが有名であり、本作でも、人形と嘘の関係性が重要な要素としてストーリーに絡んできます。

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 そして、『ピノッキオの冒険』では、生きた人形であるピノッキオが人間の子供になるためには嘘をついてはいけないという教えが語られていますが、『Lies of P』における嘘の扱いは、『ピノッキオの冒険』のそれとは大きく異なります

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 『Lies of P』に登場する多くの自動人形たちは、 “偉大なる約束” と呼ばれる、いくつかの絶対的な規則に基づいて行動しており、その “偉大なる約束” の中には、「偽りを否定するべし」という項目が存在します。

 つまり、本作の自動人形たちは「嘘をつくことができない」という逆らうことのできないプログラムに従って稼働しているということであり、このことを鑑みると、人形である主人公も嘘をつけないはずと考えるのが自然な流れです。

 しかし、本作の主人公は熟練の人形師ゼペットが作った特別な自動人形。彼は、「嘘をつくことができる」人形なのです。

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 例えば、プレイヤーの活動の拠点となるホテルの入口には、人間に敵意を剥き出しにする自動人形が侵入できないよう、これらを排除する防御システムがあるのですが、そのシステムというのが、侵入者に対して「お前は何者だ?」と聞き、「人形」と答えたものを攻撃するというあまりにも単純すぎるもの。

 しかし、こんなザルにしか見えないセキュリティであっても、嘘がつけない人形たち相手には効果てきめん。ホテルの安全はしっかりと保たれており、玄関先には大量の自動人形の残骸が転がっています。

 そして、人形に対して圧倒的な効果を持つ防御システムに「お前は何者だ?」と聞かれた主人公は、「人間」と嘘をついて防御システムを騙すことで無傷のままホテルに入り、人間の仲間と合流することができるのです。

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 こういった形で、プレイヤーには要所要所で「嘘をつく」か「正直に答える」かの選択が迫られ、この時に「嘘をつく」選択をすることで、主人公は人間性を獲得していきます。

 そして、最終的に獲得した人間性の多さによってエンディングが分岐し、NPCの運命すらも変化するんだとか。

 嘘をつくと人間になれないのではなく、嘘をつくことでこそ人間になれる。『ピノッキオの冒険』を反転させたかのような『Lies of P』のストーリーは、哲学的でもありながら不思議な魅力を放っており、プレイヤーの心を魅了します。

プレイヤーの心を惹きつけるキャラクターデザイン

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 そして、『Lies of P』独自の世界観を彩るのが、敵の存在です。
 本作に限らず、ゲームの中にどのようなデザインの敵キャラクターが登場するのかということは、作品の雰囲気や空気感の構築には必要不可欠な要素となります。

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 先程お話ししたストーリーからもお分かりいただけますように、本作で主な敵となるのは暴走した自動人形たちであり、ソウルライク、引いてはアクションゲームをプレイする者たちにとっての永遠の宿敵である犬でさえも機械仕掛け

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 これらの自動人形たちの中には、糸の切れたマリオネットかのような動きをするものがいたり、頭部が無くなっていてほぼ故障寸前の状態でも襲ってくるものがいたりと、ソウルシリーズの敵キャラクターのようなおどろおどろしい不気味さでこそないものの、狂気的な歪みを孕んでいます。

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スクラップ警備員

 そして、今回特筆しておきたいのが、ボスとして登場する巨大自動人形のデザインです。これがまた、見る者の心に突き刺さるような素晴らしいものばかり。

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パレードマスター

 例えば、上の画像のパレードマスターは、そのデザインの美しさやカッコよさもさることながら、その顔や手に見られる錆びついた風合いには時間の経過や人の手が加えられなくなったことによる劣化という儚さも同時に感じられるのですから堪りません。

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 ちなみにですが、本作で登場する敵キャラクターは自動人形ばかりではなく、時には人型のクリーチャーも登場します。そういった敵もしっかりと気持ち悪いデザインなあたり、『Lies of P』には、プレイヤーを楽しませようというおもてなしの精神が隅々にまでいきわたっていることが嫌と言うほど感じられますね。

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ゼペット

 そして、本作に登場するキャラクターには、『ピノッキオの冒険』を意識しているであろうものもたくさんいます。

 まず分かりやすいのが、こちらのゼペット。主人公のことを息子と呼ぶ彼は、主人公を作り上げた熟練の人形師であり、暴走を始めた自動人形たちの作り手でもあります。

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 続いてはジミニー
 ちょっと画像では分かりにくいのですが、主人公の腰のあたりにある緑色の光がジミニーです。『ピノッキオの冒険』でピノッキオを諭す喋るコオロギがモデルであろう彼は、案内人形と呼ばれ、物言わぬ主人公の代わりに、新しく足を踏み入れたエリアの情報や注意すべきポイントについて喋ってくれたりします。『大神』のイッスンに近いキャラクターかもしれないですね。

 ちなみにですが、ジミニーという名前は恐らく、ディズニー版の『ピノキオ』でピノキオの良心として登場するコオロギ、ジミニー・クリケットからきているものと思われます。

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ソフィア

 そして、人形と会話することができる能力を持ち、主人公のレベルを上げることができるなど、主人公をサポートし導いてくれる存在であるソフィアは、『ピノッキオの冒険』ではピノッキオがお姉さんやお母さんのように慕う導き手、瑠璃色の髪色が特徴な仙女や妖精といった名で呼ばれるキャラクターがベースなのではないかと思います。

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アカギツネとクロネコ

 更に、『ピノッキオの冒険』では、ピノッキオを騙す詐欺師としてキツネとネコが登場するのですが、『Lies of P』にもそれを意識したかのような、アカギツネとクロネコというキャラクターが登場。
 この2人は自動人形の暴動を生き延びた生存者であり、頭に動物の面をかぶっていることから、その名で呼ばれています。

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狂気のロバ

 極めつけとして、『ピノッキオの冒険』には、甘い言葉に誘われた悪い子供たちが “しあわせの国” と呼ばれる場所に連れていかれ、そこで悪逆の限りを尽くした後にロバの姿に変えられて売りさばかれてしまうという、強烈なインパクトとトラウマを残すシーンがあるのですが、『Lies of P』には、狂気のロバという名の敵が登場。

 彼は、先ほどのアカギツネとクロネコのようにロバの面をかぶった人物で、完全に狂気に陥ってしまっています。ディズニー版のピノキオではロバに変えられてしまった少年が狂ったように叫び続けるシーンが印象的でしたが、この狂気のロバも、そういった場面の再現……なのかもしれません。

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 ちなみに、狂気のロバを倒して彼の装備品を入手すれば、主人公をロバの姿にすることもできたりします。ある種の原作再現ですね。

終わりに

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P機関

 さて、ここまで本作の魅力をかいつまんでお話してきましたが、本作には他にも、P機関という主人公の潜在能力を解放することができる強力な強化手段や、

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助霊

 過酷なボス戦にたった1人で立ち向かう主人公と共闘してくれる、心強いボス戦専用の仲間 “助霊”

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過熱

 加熱・感電・腐食などの食らうとマイナスが大きすぎる状態異常といった様々な要素があり、プレイヤーを飽きさせません。

 制作チームにとってソウルライクゲームの開発は初挑戦であったことから、多くの人に馴染みのある『ピノッキオの冒険』を物語の下敷きとして制作することで注目されることを狙ったという『Lies of P』は、その設定のインパクトに負けない緻密なデザインから、濃厚かつ唯一無二の世界観が構築されており、ゆっくりと探索を進めていくだけでもワクワクが止まりません。

 しかも、本作はアクションの難易度のバランスが絶妙
 こちらのアクションが相手の攻撃と上手く嚙み合い、敵に大きなダメージを与えることができた時の爽快感は、やはり何物にも代えがたいものがあり、プレイヤーを深くゲームへと没入させてくれます。
 
 そこに加えて武器調合という楽しみがあるわけですから、その遊び方は無限大。是非多くの方にプレイして頂きたい作品です。

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ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW

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