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苦節6年をかけてでも「純度100%の硬派STG」を作りたかった。ヴァニラウェア勤続20年超のグラフィックデザイナー・シガタケ氏がたったひとりで作ったインディーゲーム『デビルブレイド リブート』ついに発売へ

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2024年5月24日、ヴァニラウェア所属のグラフィックデザイナーであるシガタケ氏が本業のかたわら、たったひとりで作り上げたシューティングゲーム『デビルブレイド リブート』がついにSteamで発売される。本作はシームレスかつ立体的な演出との組み合わせで2Dドット絵の限界に迫ったアニメーション表現や初心者から上級者まで幅広く楽しめる設計など、個人制作の作品とは思えないほどに洗練されている。

それもそのはず、シガタケ氏が今作を完成させるまでには苦節6年もの時間がかけられている。加えて、背景にはシューティングゲームの魅力にとりつかれ、90年代からゲーム制作に打ち込んできた30年分もの思いが余すことなく詰め込まれているのだ。

『デビルブレイド リブート』ついに発売。ヴァニラウェア勤続20年超のシガタケ氏がたったひとりで作ったシューティングゲーム_001
(画像はSteam『DEVIL BLADE REBOOT』より)

本稿では今作の完成に至るまでシガタケ氏がたどってきたシューティングゲームや『デビルブレイド』の歴史をまとめつつ、ひとりのゲーム開発者の情熱を伝えたいと思う。

なお、情報の集約にあたってはシガタケ氏自身から許諾をいただき、氏の公式ホームページやご本人からのヒアリングで伺った内容を掲載させていただいている。ぜひご一読いただき、もし可能なら作品の体験ともあわせてお楽しみいただければ幸いだ。


『デザエモン』との出会いがシューティングゲーム好きの少年に情熱の火をつけた

『デビルブレイド リブート』は、1996年発売のプレイステーション用シューティングゲーム制作ソフト『デザエモン+』で開発され、同ソフトの主催コンテストで入選した『デビルブレイド』を28年ぶりにフルリメイクした作品だ。作中では『デザエモン』がリリースされていない海外のユーザーに向けて、1996年版の雰囲気を再現した「レトロモード」も収録されている。

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(画像はSteam『DEVIL BLADE REBOOT』より)

開発者のシガタケ氏は2002年からヴァニラウェアで『くまたんち』『朧村正』『ユニコーンオーバーロード』などの作品に携わってきたグラフィックデザイナーである。しかし、本作はセールスのことをあまり勘定に入れず、「自分にとっての理想のSTGの実現」に重点を置いた趣味での個人制作タイトルだ。

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(画像は画展(ギャラリー)より)

1977年生のシガタケ氏は小学生の頃からファミコンの『ギャラクシアン』『ゼビウス』『グラディウス』シリーズ、『スターソルジャー』などの作品を遊んで育ち、当時からノートに「妄想のゲーム画面」を描くほどにシューティングゲームが一番好きなジャンルだったという。

中学生時代の将来の夢は「ゲーム制作者(ドッター)になって商用のシューティングゲームを作る事」。漫画家やイラストレーターになる夢も視野に入れていたが、イラストレーターとしての夢ものちに叶うこととなる。

1991年、当時13歳であったシガタケ氏は、ファミリーコンピュータ向けのシューティングゲーム制作ソフト『絵描衛門(デザエモン)』に出会う。今作『デビルブレイド リブート』が生まれるきっかけとなり、現在のシガタケ氏を作り上げた最初のターニングポイントだ。

シガタケ氏は独学でドット絵を学び、試行錯誤を重ねて1993年にオリジナル版『デビルブレイド』の原型となる作品『プロトブレイド』を完成させた。当時のゲームデータはホームページ上で公開されており、「レトロフリーク」と『絵描衛門』を持っている場合、実際に遊ぶこともできる。

続いて1994年発売のスーパーファミコン版『描いて・作って・遊べる デザエモン』で作品の制作に挑むも、こちらは紆余曲折を経てセーブデータが消失。制作ノウハウを蓄積し、1996年に登場したプレイステーション版『デザエモン+』で努力が実ることになる。

そんなプレイステーション版『デザエモン+』で制作されたのが今作のオリジナル版にあたる『デビルブレイド』だ。当時18歳のシガタケ氏がノウハウを全投入した同作はソフト公式のコンテストに応募され、入選を受賞。1998年発売の『デザエモンKids!』にも収録され、数多くのユーザーに遊んでもらうことが出来たという。

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(画像は自主制作STGの話① 「デビルブレイド」の過去と現在(無料記事)|シガタケ|pixivFANBOXより)

その後、シガタケ氏は1999年から2000年にかけて就職活動で奔走することになるが、プレイステーション2の市場投入を受けて3Dがもてはやされる時期に突入したゲーム業界ではドット絵やシューティングゲームを扱うメーカーが激減し、子どもの頃の夢を叶えることは非常に難しい状況となっていた。

また、同時期にセガサターン版『デザエモン2』で続編『デビルブレイド2』の制作も進められていたが、こちらは就職活動などの忙しさで余裕がなくなり、制作中止となった。

グラフィックデザイナーとしての夢をかなえ、シューティングゲーム制作への思いが再燃するまで

就職活動を経て、あるPCゲーム制作会社で2000年から2001年にかけて背景CGやMAPイラストを手がけるようになったシガタケ氏は、第2のターニングポイントのきっかけとなる人物と出会う。オンラインRPG『ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン』(以下、ファンタジーアース)の開発に携わり、のちにヴァニラウェアの代表取締役となった神谷盛治氏だ。

神谷氏と偶然知り合ったシガタケ氏は、当時の仕事ぶりやデザエモン作品などの要素で能力が認められ、2002年の『ファンタジーアース』立ち上げ時にグラフィックデザイナーとして参加。以降20年以上、ヴァニラウェアで勤めあげている。

そうして、ヴァニラウェアで働くようになったシガタケ氏は2003年に『デビルブレイド2』の制作を再開。完成させることで自らのなかにある“シューティングゲーム熱”を出し切り、個人制作のプロジェクトに一区切りをつけた。

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(画像は自主制作STGの話① 「デビルブレイド」の過去と現在(無料記事)|シガタケ|pixivFANBOXより)

その後、シガタケ氏は『オーディンスフィア』や『くまたんち』など数々のヴァニラウェア作品に参画。「シューティングゲームを作りたい」との気持ちはあったが、それよりもヴァニラウェアでの仕事に満足しており、個人制作のことは考えていなかったという。

2015年にはPS版『デビルブレイド』のファミコンデメイクを手がけたものの、長らくグラフィックデザイナーとしての仕事に打ち込んでいたシガタケ氏だが、2017年に新たなターニングポイントが訪れる。『デザエモン』時代の友人・Raynex氏にゲーム制作ツール「Shooting Game Builder」(以下StgBuilder)を紹介されたことである。

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(画像は自主制作STGの話① 「デビルブレイド」の過去と現在(無料記事)|シガタケ|pixivFANBOXより)

Raynex氏は実際にStgBuilder版で再現したプレイステーション版『デビルブレイド』のアレンジ移植版を制作しており、「プログラム不要で、デザエモン感覚でPC上でSTGが作れるよ」と焚きつけられたシガタケ氏の内側には、シューティングゲーム制作への思いが再燃したそうだ。

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(画像は自主制作STGの話① 「デビルブレイド」の過去と現在(無料記事)|シガタケ|pixivFANBOXより)

シガタケ氏は、プロトタイプ版を2018年7月に完成させていたそうだが、寄せられた反応のフィードバックや品質のブラッシュアップを目的に1から作り直した結果、今作『デビルブレイド リブート』の完成までには、結局6年近い歳月を要した。
ちなみに、『デビルブレイド』シリーズは基本的にひとりで制作しているが、今作では作曲を得意とするhasu氏に音楽を依頼しているという。

『デビルブレイド リブート』の制作についてシガタケ氏は、拡大・縮小やラスターなどの演出を組み合わせて映像美を生み出した『レイフォース』『ダライアス外伝』『蒼穹紅蓮隊』など、“既存の2Dドット絵表現の延長線上にある作品”として、StgBuilderでの最大限を目指して開発していたそうだ。

また、今作では作品の楽しさがゲームプレイの腕前に依存してしまうジレンマに立ち向かうべく、クリア前提のプレイを初心者向けに設計。道中でやられると復旧が難しくなるパワーアップ要素や戦闘の長期化を防ぐことで、シューティングゲーム本来の「避ける・撃つ・破壊する」面白さをシンプルに楽しめるデザインとなった。

一方、ハイスコアを目指す要素は上級者向けに制作されている。敵に近づいて破壊し続けると倍率が上昇していく「バーサクシステム」やショットの使い分け、ブースト使用のタイミングなどの要素をスコアに影響させることで、「初心者にやさしく、上級者に歯ごたえのある」作品としてのゲームデザインを成功させている。

2018年後半から携わった『十三機兵防衛圏』の「崩壊編」では、『デビルブレイド リブート』の制作でノウハウとして培った爆発やミサイル、レーザーなどの演出がバトルUIデザインに活かされているという。

開発中の2021年ごろには個人ゲーム開発者・KEIZO氏が10年以上をかけて手がけたアクションRPG『ASTLIBRA Revision』のグラフィックリファインや、オンラインRPG『ラグナロクオンライン』のイラスト業務を請け負ったため制作は遅れていた。しかし、『ASTLIBRA Revision』のパブリッシャーであるWhisper Gamesのローカライズ協力や、運にも起きたコロナ禍の影響で一時的にテレワークとなり、出勤時間を回せたことが制作の追い込みにうまく働いたようだ。

2024年4月、シガタケ氏は完成間近となっていた『デビルブレイド リブート』に、タイトルイラストが自機の擬人化イラストへと変わるエンドコンテンツ「シークレットイラスト」の実装を思いつくが、葛藤の気持ちを抱えていた。「かわいい系の絵が得意ではあるが、硬派STGは硬派要素で勝負したい」と考えていたからだ。

「シークレットイラスト」では、ゲームや漫画・イラストの各分野で活躍する絵描きの友だちにゲストイラストを依頼しており、神谷氏にも記念に描いてもらっている。思いつきで入れ込んだネタだったが、完成直前のタイミングで自分のかわいい絵の要素も少しだけ入れてしまうことにしたようだ。


プレイステーション版『デビルブレイド』から28年越しのフルリメイクを果たした『デビルブレイド リブート』。リリースの背景には、シガタケ氏のシューティングゲーム愛や苦節6年の期間を乗り切る強い信念があった。

やりがいを持って仕事をすることへの情熱と、趣味への情熱を高い水準で長いあいだ並列に保つことは決して容易なことではない。

なおかつ、2Dドット絵の新たな表現を模索しつづけ、ゲームの腕前に依存して面白さが変質してしまうジレンマにたったひとりで向き合う姿勢には尊敬の念を覚える。

『デビルブレイド リブート』には、そんなシガタケ氏が目指した「避ける・撃つ・破壊する」シューティングゲームの硬派な面白さと情熱が余すことなく詰め込まれている。

そして、特定の条件を満たせば開放される「シークレットイラスト」も気になるところ。シガタケ氏と神谷氏らゲスト陣が描く多彩な自機の擬人化イラストも見どころだ。

ライター
2019年11月に電ファミへ加入。小学生の時に『ラグナロクオンライン』に出会ったことがきっかけでオンラインゲームにのめり込む。コミュニケーション手段としてのゲームを追い続けている。好きなゲームは『アクトレイザー』『新・世界樹の迷宮2』『GTFO』など。
Twitter:@fuyunoyozakura

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