SFバーテンダーアドベンチャーゲーム『VA-11 Hall-A』の開発で知られるSukeban Gamesは、2024年7月19日から21日にかけて京都・みやこめっせで開催中の日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit Drift」(ビットサミット ドリフト)にて、新作SFRPG『.45 PARABELLUM BLOODHOUND』を出展中だ。
今回は現地にて試遊してきた本作のレポートをお送りするとともに、本作のディレクター・Kiririn氏に現地でインタビューを敢行。その内容についてもお届けしていく。
BItSummitのわずか2週間ほど前に発表され、初代PS時代の名作RPG『パラサイト・イヴ』を彷彿とさせるアクションとコマンド選択が融合したバトルや、ハードSF的な雰囲気で一気に注目を集めることとなった本作。今回は試遊を通じて明らかとなった本作のゲームシステムや、まだまだ謎に満ちた登場人物の数々についても触れていきたい。
取材・文/司破ダンプ
初代PSを思わせるグラフィックの怪しくてクールな世界を、謎の殺し屋が往く。『パラサイト・イヴ』に影響されたアクションとコマンドバトルが融合したシステムにも注目
試遊版は、本作の主人公であるレイラが自らのアジトと思しき場所でPCを使い、最新のニュースをチェックしているシーンから始まる。ニュースには「平和維持作戦のために36名死亡、暴徒リーダーは逃走」といった内容が報じられており、この時点で本作の世界が穏やかではない空気下にあることが感じ取れる。
いくつかの掲示板やメールをチェックしたあと、レイラは知人のアナから「仕事」の知らせを受ける。彼女はとある警察の出世頭となっている男を示し、「うちのお客さんがそいつにちょお~っと人生の教訓を与えてほしいそうなの」と伝えてくる。まさか文字通り「人生の教訓」を伝えるわけではないだろう。かなり含みを持った内容だ。
主人公がどういう人物なのかについてはこの段階ではほとんど不明だが、どうやら後ろ暗い仕事をしていることは明らかなようだ(出展情報によると殺し屋とのこと)。こうして新たな仕事を受けた主人公は仕事道具と共に現地へと移動、ゲーム的にも本格的な探索が開始する。
ちなみに、レイラの額にはなんと「第三の目」がある。彼女が仕事に使う銃などと同じく、仕事に役立てている道具のひとつのようで、なんらかのパワーを持っているようだ。
先述したアジトで見ることができる掲示板では詳細は不明ながら“サードアイインプラ”というワードも示されており、おそらく彼女の第三の目もインプラントされたものなのではないかと思われる。
探索の舞台となる街の中では、初代プレイステーション時代のRPGによく見られた固定カメラ視点──街中のさまざまな場所を切り取った視点にカメラが固定され、その中で主人公が探索するという表現が多用されている。
また、探索をすすめていくとチェーンで封じられた扉が出てくる。この扉を開くため、探索範囲を広げつつチェーンカッターを探していく必要があるようだ。この「鎖で封じられた扉」も、固定カメラの演出とあわせて往時のあるあるを感じさせる、ツボにグッとくる表現だ。
このほか、今回の仕事を持ってきたアナがそこら中に出没しては、ゆるめのテンションで話しかけてくるという場面もそこかしこで発生する。
探索をすすめ、街中の特定の場所に踏み込むと現地で活動する武装警官らとエンカウント。初出時の情報でも話題となっていた例のバトルが展開する。バトルシステムは、本作の開発者が『パラサイト・イヴ』の影響があると語るとおり、それに近いものとなっている。
具体的にはアクションとコマンドバトルのハイブリッドで、敵の攻撃を移動でかわしながら時間経過で上昇していくゲージを貯める、ゲージが貯まったら任意のタイミングでコマンドメニューを開いて攻撃や回復などの行動を指定……といった流れになる。攻撃には射程の概念もあるので、ポジション取りも重要だ。
また、バトル中には最大3連続で行動することが可能。攻撃やアイテム、スキルといったものを任意に組み合わせて行動を起こすことができる。
バトルを実際に遊んでみると、ゲームバランスはなかなかハードな印象だった。思いのほか敵の移動が速く、また初期体力25に対して一撃で15ダメージほども与えてくる敵が数多く存在する。あらゆる戦闘で気が抜けないが、上手く立ち回って敵を倒せたときはとても爽快だ。
ストーリーにおいては、アナがレイラにとってどういった存在なのかはまだ謎に包まれている。レイラのバックボーンが序盤では明かされないのと同様、物語の進行とともに徐々にキャラクターや世界の背景を明かしていくスタンスの作品となっているようだ。
このほか街中には倫理的に邪悪そうな雰囲気が漂うショップ施設も。自販機にて回復アイテム等を購入できるほか、不気味な獣(天使?)を連れた使用人たちに話しかけ、スキルの付け替えや装備品の強化も可能。ショップの演出もクールだ。
こうしてバトルやイベントを幾つかこなしつつ街を先へと進んでいくと、今度はある場所で3人の武装警官に囲まれるバトルに遭遇。ソード、グレネード、ライフルというそれぞれ特性の異なる武器を駆使して襲い掛かってくるトリッキーな構成の警官でこれに翻弄された結果、今回は初の戦闘不能を迎えることとなってしまった。
戦闘に失敗しても、すぐに少し前のエリアで復活できる。……のだが、その際には「ルシア」というこれまた不気味な人形のようなナニカが置かれた空間で、レイラが生み出されているかのような演出が入る。これもまた、どういった意味を持っているのかは謎となっているが、どうやら戦闘不能になるたびにレイラは実際に「死んで」いるようだ。
トリッキー警官3人との再戦はどうにか切り抜けたものの、その後の戦闘でまた2度ほど戦闘不能となり、あえなく試遊時間はタイムオーバーとなってしまった。無念……。
なお、現地ブースで2体のボスのうちいずれかを撃破した方には、記念品として本作のA3ポスターが贈呈、ボスを倒せなくとも試遊した方全員にレイラかアナのキーホルダーのいずれかひとつが贈呈されるとのこと。今回筆者はそのいずれも見ることができなかったが、現地参戦される方はぜひチャレンジしてほしい。
「あえて描かないことで雰囲気を想像させる」低解像度なビジュアルの可能性を信じて制作した南米サイバーパンクな世界。『.45 PARABELLUM BLOODHOUND』ディレクター・Kiririn氏インタビュー
──公式サイトにも書かれている通り、バトルシステムなど随所に『パラサイト・イヴ』の影響を感じますが、2024年にこういったビジュアルでサイバーパンクを描こうと思った理由があればお聞きしたいです。
Kiririn氏:
確かに『パラサイト・イヴ』は好きで参考にしていますが、それと同じものを作ろうとしたわけではありません。低解像度というビジュアルそのものの可能性を信じてこのようなスタイルを選択しました。
高解像度でゴミのひとつひとつまで描くのではなく、あえて描かないことで雰囲気を想像させる……。
かつてこのようなビジュアルのゲームを経験してきた僕たちだから想像を働かせることができるのか、それともそのような時代を体験していないプレイヤーにとってもそうなのかはわかりませんが、このスタイルこそがこのゲームにあっていると思っています。
サイバーパンクにはカッコよさだけでなく、「汚さ」や「危険」というイメージも内包しています。こういった表現を選択することで、カッコよく、うさん臭く、暗いというサイバーパンクらしさを感じてもらえるはずです。
もちろん、コストも理由のひとつではあります。私たちは決して大きなチームではないですし、綺麗なものを作ろうとすれば沢山のお金がかかります。最低限かつ出来ることを選んだ結果、このようなスタイルになりました。
──『VA-11 Hall-A』からガラリと雰囲気を変え、激しい戦闘が繰り広げられる本作ですが、アクションゲームなどに不慣れな人間でも楽しむことはできますか?
Kiririn氏:
そういった方々に楽しんでもらうのが、本作の目的のひとつでもあります。戦闘中はボタンを押せば時間が止まりますし、やられてしまってもほとんどペナルティなくやりなおせます。戦闘を難しく感じても、お金を使って武器の変更や強化をおこなっていけば、いずれは敵を倒すことができるでしょう。
その上で、本作は「あえて」少し難しくしてあります。スムーズにプレイしてクリアまで到達できるゲームよりも、いくらか苦戦してからクリアしたゲームの方がプレイヤーの記憶に残るし、達成感も味わってもらえると思うので。
とは言えプレイヤーに恨まれるのは嫌なので(笑)。ゲームバランスを調整しています。
──デモをプレイしていて、画像やPVで受けた印象よりもずっとスピーディなゲームだという印象を受けました。こちらも意図的なものですか?
Kiririn氏:
はい、スピード感も意図的なものです。スピーディになることで、敵の攻撃も避けやすくなっていると思います。
──デモをプレイしていて、主人公のレイラがどういった仕事をしているのかなどのストーリー部分をうまく掴み切れなかったのですが、キャラクターのパーソナリティはゲームを進めて行くうちに明らかになっていくんでしょうか。
Kiririn氏:
1から100までを語るつもりはないのですが、ゲームを進めるうちに徐々に「こういうことかもな」と思えるぐらいのアンサーは出す予定です。
たとえばメインキャラクターであるアナとの会話で人間性が垣間見えたり、メールのなかに母親とのやりとりがあったり、そういった情報を通してレイラの人物像も分かってくるはずです。完成を楽しみにしていてください。
──Sukeban Gamesの魅力のひとつである「可愛らしいキャラクターたち」は本作にも登場しますか?
Kiririn氏:
もちろんです。全員なにかしら怪しさを持ってはいますが(笑)。
能天気とまでは言わないまでも、可愛いキャラクターはしっかり登場します。デモ版では、赤い扉の先で「怪しいけど可愛い」キャラクターと出会えるはずです。
──本作の街並みを作っていくにあたって、参考にしたモデルはありますか?
Kiririn氏:
あります。開発者が住んでいるアルゼンチンのブエノスアイレスで撮った写真を一部テクスチャとして利用しているほか、デモ版の冒頭で描写される鉄道のシーンも同じくブエノスアイレスの地下鉄が基になっています。
全てがそう、と言うわけではありませんが「南米の荒れた街」というのはひとつの大きなイメージソースと言えます。
──サイバーパンクを扱った作品はアジア圏や北米などが舞台となることが多い印象ですが、南米をその舞台とした理由はご自身が在住されているのが大きいでしょうか。それとも、なにか狙いがあるんでしょうか。
Kiririn氏:
両方ですね。アジアを舞台にしたサイバーパンクは沢山ありますが、そのなかにはそこに住んでない人が作ったものもあります。それを否定するわけではないですが、少なくとも自分はそういった作品から離れたサイバーパンクを作りたい、そして自身のオリジンを取り込むという意味も含めて、南米を舞台としたサイバーパンクを作ることにしました。
インディーゲームにはよくあることですが、本作は開発者である自分自身を表現する作品になっています。ですので、作っていくうちに自然とベネズエラ感や南米感が作品のなかに現れていったという側面もあります。もちろん、そのなかには「『パラサイト・イヴ』好き」感もあります。
──デモの画面を見ていて、道の端に積み上げられた黄色いビールケースが非常に印象的でした。日本ではある種お馴染みの景色ではありますが、ああいったものはベネズエラや南米でもよく見られるものなんでしょうか。
Kiririn氏:
もともとは制作のなかで「日本の裏路地」アセットに入っていたものを使っただけなんですが、そのことが逆にゲームのなかで目指した「様々な文化の入り混じった“どこでもない場所”」という感じを出すのにちょうどよく、いい味を出してくれています。意図的ではないんですが、うまく調和してくれているんです。
いつか、キリンとコラボして“Kiririn”ビールを作りたいですね(笑)。
──デモの範囲ではキャラクターの移動は徒歩がメインのようですが、今後乗り物などが登場することはありますか?
Kiririn氏:
基本的には歩き回るだけです。ですが一本道をただただ歩かせたいわけではなく、ショートカットなどを利用してあちこち行き来できるようになっています。実はデモ版にも、ショートカットが用意されています。
──本作はかなり長めのタイトルとなっていますが、略称で呼ぶなら何ですか?
Kiririn氏:
じつは正式名称も最近決まったばかりなので、我々も日々考えています(笑)。ほとんどジョークとして『ぱらべら!』というタイトルの4コママンガを作って「まんがタイムきらら」に載せよう……なんて話もしていましたが、公式にこう呼んでほしいというものはまだ決まっていません。
──本作は『VA-11 Hall-A』を楽しんだ、あるいは発表済みの『N1RV Ann-A』を心待ちにしているプレイヤーへ向けた新たなるタイトルと考えてよいのでしょうか。それともSukeban Gamesの既存のファン層とはまた異なる、インディーゲームシーンやサイバーパンクジャンルのファンに向けたタイトルなのでしょうか。
Kiririn氏:
どちらかと言えば『N1RV Ann-A』を待ってくれているファンに向けて、「我々Sukeban Gamesはこういったゲームも作っているので、ぜひ遊んでほしい!」という思いで作っています。
さきほども少し触れましたが、アクションが苦手な方でも楽しめるゲームとして作っています。やられてしまっても多少お金が減る程度の軽いペナルティしかありませんし、同じ敵を倒して資金をため、武器やスキルをうまく切り替えていけばクリアできるようになるはずです。
アドベンチャーしか遊んでおらず「Sukeban Gamesに求めるのは『VA-11 Hall-A』のようなゲームだけだよ」というファンにも、遊んでもらって「面白いじゃん」と思ってもらえるものを作っているつもりですし、そういう人にこそ遊んでほしいです。もちろん、本作を作った経験は『N1RV Ann-A』の制作にも活かされます。
ただ、遊んでほしいとは言ってもデモは公開していないので……7月20日(土)と21日(日)にBitSummitのブースまで足を運んでいただければ、心より歓迎します!(了)
『VA-11 Hall-A』とはまた異なるテイストで、新たなSF世界を描いていく本作。今回はまだまだ謎が多い中での手探りでの試遊となったが、実際に遊んでみると予想を超えるハードさに良い意味で裏切られ、またしっかりとその世界に引き込まれる感覚があった。
『.45 PARABELLUM BLOODHOUND』は現在、2024年7月19日から21日にかけて開催の日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit Drift」に出展中だ。PCに向けての発売が発表されており、発売日については未定となっている。