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ゾンビに噛まれた母親が、残された時間で息子に生き残る術を教える──。設定からもう泣けそうなゾンビサバイバルゲーム『Undying』がとても“美しい”作品だった

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皆さんは、近ごろ「美しいゲーム」に出会ったことがあるだろうか。

ひと口に美しさと言っても、いろいろな美しさがある。リアルな3Dグラフィックや芸術的なドット絵といったビジュアル的な美しさはもちろん、極めて合理的に作り込まれたゲームシステムや、あるいは非常に直感的なアクションゲームの操作感に機能美的な美しさを見出す人もいるだろう。

そういった幅広い意味での美しさを考えたとき、本作『Undying』はとても「美しい構造」の作品だった。理由については順を追って説明していきたいが、先に結論だけを述べるならば、本作は「プレイヤーの動機」と「主人公の動機」がぴったりと一致し、結果として大きく心を動かされる物語体験につながっているのである。

あらためて概要から紹介していくと、『Undying』はゾンビアポカリプス世界で生き残っていく、いわゆる「サバイバル系」に分類されるアクション・アドベンチャーゲームだ。

大きな特徴として、本作では「プレイヤーの操作するキャラクターがすでにゾンビウイルスに感染した状態からゲームが始まる」。そして「残された時間で自分の息子に生き残る術を教える」という責任を背負っている。この設定の段階から、すでに感情を揺さぶられそうな気配を感じ取る方も少なくないだろう。

ゲームプレイは素材を収集し、組み合わせてクラフトして道具を作り、植物を育てたり、狩りをして食料を確保しながら生き残っていく……というサバイバル系ゲームの基本を押さえたもの。同ジャンルの魅力とも言える「限られた資源を有効活用する、悩ましくも楽しい」葛藤を味わえる内容となっている。

そういうわけで、本稿ではゲーム全体の紹介を兼ねつつ、『Undying』の「美しい構造」がどのように編み出されているのかを見ていきたい。なお、本作はPC(Steam)とNintendo Switch版がすでに発売中であり、この記事は7月25日(木)に発売を迎えたNintendo Switch版に準拠したものである点のみご留意いただけると幸いだ。

文/hardwired
編集/久田晴

※この記事は『Undying』の魅力をもっと知ってもらいたいBeep Japanさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


シビアなバランスのサバイバル要素が「悩ましくも楽しい」体験を生み出す

世の「サバイバルクラフト」と呼ばれるゲームの多くは、序盤から十分な物資を持っていたり、そうでなくとも簡単に多量の物資を手に入れる事ができるようなバランスになってるものが多い。

その理由はやはり、ゲームを始めたばかりのチュートリアル直後のような段階でよくわからず資源を浪費してしまい、ゲームの進行が困難になってしまう……いわゆる「詰み」の状況になることを防ぐ意味が大きいだろう。

しかし、本作のノーマル難度はかなりシビアなバランスに調整されている。相当ちゃんと各種のリソースを管理しなければ、容赦なく死んでしまいゲームオーバーとなる難易度である。そのぶん攻略の快感も高く、やりごたえのある難しさであるともいえる。昨今では稀に見るような、硬派な作りと言っていいだろう。

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最初は「のどか」(いわゆるEasyレベル)で始めてしまってもいいかもしれない

また、スタート地点であり数少ない安全地帯である自宅内には、作業台や台所、洗面台などの各種設備が存在し、もちろんこれらに関するシステムが存在する。

ゲーム開始時には各設備は壊れてしまっていて使えないものが多いが、これらを修理すれば可能なことが増えていき、さらにリソースを投入してアップグレードすることにより性能が増強できる。いわゆるボードゲーム的な拡大再生産要素である。

これ自体は他のサバイバルクラフト系ゲームでもおなじみの要素であるが、本作のシビアなリソース管理と相まって「設備に大きくリソースを投資するか、いま必要なものを作るか」のジレンマが度々発生し、悩ましくも楽しい。

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最初の修理はできることが増えるので基本的にはがんばって直したい

また、このシビアなリソース管理は戦闘によるゾンビからのダメージを回復するための各種アイテムについても同様のことが言える。つまり、ゾンビを無傷で撃破できたときの各種資源の節約の度合いがとても高いということだ。これが戦闘アクションをプレイする上で、うまく戦えたときに高い達成感を得られる理由となっている。

日に日に弱っていく母親と、たくましく成長していく息子という構図のエモさ

本作でプレイヤーが操作するキャラクターの母親・アンリンは日を経るごとにゾンビ禍の感染症状が進行し、各種デバフを発症してしまう。

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デバフはどれを取得するかを選択できる

ゲーム開始から初期のうちのデバフは一時的なものが多く、しかもデバフと同時にバフも得られるものが多いのだが、生存日数を経るにつれて、これらに加えて別枠で永続的なデバフも発症することになる。そして、一時的なデバフを得るときに同時に得られるバフは、本作の試行錯誤しがいのある要素のひとつである。

サバイバルを続けていくなかで、「このバフを得られるなら、このデバフは対価として安い、あるいは妥協できる」や、「この戦闘系のデバフなら、しばらく戦闘をしない現状であれば悪影響がほぼないので受け入れられる」など、ゲーマー的な有利不利の検討、損得勘定を誘発し、面白さを端的に感じられるデザインとなっているのだ。

一方でゲーム開始初期は「守る対象」以外の何者でもない息子だが、作業台でのクラフトや戦闘など、各種の経験を積むことで、だんだんと生存のための能力を身につけていくことになる。母親はだんだんと症状が進行し、同時に息子はだんだんと強くなっていく。このバランスがうまく噛み合った先に最大のエモさがある。

実際に筆者がプレイできた中盤まで程度の進行度でも、成長の結果、母親に代わって遠隔武器で頼りになる攻撃をしてくれる息子の姿には強い喜びを感じることができた。

「ゾンビ映画」っぽいストーリーが自然に展開するマップ探索

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車で移動できる先のマップには様々な拠点が存在する

車で移動することになる各マップは、リソースを確保しにいく探索先領域としての意味があり、それだけでかなりのストーリー性がある。

例えば、ゾンビに囲まれて閉じこもっているが、その場所が農場であるため、ある程度内部で生存できている農家へのコンタクトなどだ。こういったシチュエーションと、ゾンビアポカリプスで滅んだ世界という要素が合わさると、いい意味でありがちなゾンビ映画のようなストーリー性が自然と演出される。

また、そういった生存者たちと協調するか対立するかの選択肢が提示されることがあり、その選択によってかなり明確に大きくストーリー進行が変化するのも本作の特徴だ。

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どちらの言い分も理解できるのがゾンビアポカリプス“あるある”

上記のようなマップのデザインは、リソースをかき集め、装備を整えて未知の領域へアタックして活動領域を広げていく……という初代『バイオハザード』のようなサバイバル感も演出している。

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夜時間帯はゾンビ禍の症状により、眠らなければ死んでしまう

プレイヤーと母親、たがいの動機の美しい一致が生み出す感動

「プレイヤーの動機と母親の動機の美しい一致」……冒頭でも触れたように、何よりもこの要素こそが、筆者が本作についてもっとも主張したい部分である。前述した日を経るにつれて発症するデバフが積み重なることにより、プレイヤーキャラクターである母親アンリンはどんどん症状が進行し、ゾンビ化に近づいていく。

サバイバルクラフト系のゲームに限らず、普通のゲームはだんだんと強くなるデザインであることがほとんどだ。それはゲーム的に強くならなければ進行している実感が得づらく、ゲーム自体の面白さが感じられにくいという理由による。

にも関わらず、本作がこのようなデザインで作られていることにはもちろん理由がある。そして、それこそが本作を特徴づけ、本作を他の一般的なサバイバルクラフトとまったく違うものにしている大きな理由である。それは息子であるコーディの存在だ。

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息子コーディの成長要素はかなり多岐にわたる

息子は母親がクラフトや修理、採取をしているときにLボタンを押して教えたり、戦闘などで訓練を積むことにより、スキルを習得して戦闘的にもサバイバル的にもだんだんと強くなっていく。この教育を適切に行うことができ、息子が強くなっていく度合いが母親の病状進行の度合いをわずかでも超えたとき、ゲーム全体として見れば総合的に「強くなっている」と言えるはずなのだ。

そして、この要素は本作の全体のテーマと完全に噛み合っている。

息子をたくましく成長させ、ゾンビアポカリプスの中でもひとりで生きていけるようにさせる、というゲーム内の母親アンリンの動機。そして、システム的に有利に生存してゲームを攻略していく、というゲームをプレイしているプレイヤーの動機。

このふたつが自然に、そして非常に美しく一致しているのだ。母親の病状が時間で自動的に進行してしまうため、ゲーム的に有利に進めようとするなら、「息子をきちんと成長させて強くしていきたい」という動機がプレイヤー側にも自然と発生する。

そして意図的にシビアに設定されている各種資源の入手難度や厳しい戦闘、さらに母親の症状が進行していく状況設定が「息子を育てなければ」という想いをより強くさせる。コーディがサバイバルのための各種スキルを習得し、どんどん強くなっていかなければ、ゲーム的にも生き残れない。

ストーリー的にも、システム的にも、「厳しいサバイバル状況の中、ゾンビ禍に感染している母親が、それでも息子を生存させるために行動していく」という主題設定がそもそも絶妙なのである。

母親がすでに感染しており、またそれによる遠くない自身の死を自覚しているため、残された自身の時間を息子のために使う、というシチュエーション。これは死に直面した中での、それでも前向きな行動であり、しかも自分の息子に対しての行動である。そこには人ならば誰しもが多少なり共感しうる、普遍的な感動があるといってもいいのではないだろうか。

ハードなサバイバルクラフトゲームでもあり、同時に上記のようなシリアスな主題を備えたストーリー主導の側面も有している本作を、ぜひ体験してみてほしい。『Undying』はPC(Steam)とNintendo Switch向けに発売中だ。

ライター
目に入ったゲームはとりあえず食べてみる雑食系。近年の好物は推理ものアドベンチャーや格闘ゲーム。ボードゲームにも目が無く、アナログデジタル問わず多数摂取。 近年はため込んだ各種TCGカードの置き場所に困る日々。
編集者
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。

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