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リメイク版『SILENT HILL 2』のアクションは、異形の存在と対峙する恐怖と緊張感をこれでもかと感じる。肩越しの3人称視点やしっかり狙いを定める必要があるハンドガンなど、リメイクの進化を踏まえて再構築された恐怖演出

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2024年10月8日、ホラーアドベンチャーの名作『SILENT HILL 2』23年越しのリメイク作品が、ついに発売されます。
リメイク作品の常として、「どこまで原作を尊重するか」というポイントはしばしば議論になりますが、『SILENT HILL 2』でもそれは例外ではありません。

リメイク版『SILENT HILL 2』先行プレイレポート:「クリーチャーが迫り来る恐怖」を克明に描き出す_001

今回筆者はそんなリメイク版『SILENT HILL 2』の世界最速試遊会である「『SILENT HILL 2』Tokyo Media Premiere」にご招待いただき、序盤部分をプレイする機会をいただきました。
ただ筆者、原作の『SILENT HILL 2』は未プレイ。普段はホラーゲームもあまりプレイしない中、初めての『SILENT HILL』体験に臨むこととなります。

普段は「ゲームのアクション要素といえば、いかに爽快感を感じられるか」みたいな認識でゲームをプレイしていたのですが……。この試遊を通じて「ホラーゲームのアクション要素とは」ということを深く考えさせられました。

本リメイクでは、従来の見下ろし型のものから、肩越し三人称へ視点が変更されています。現代風にリブートするにあたって必然的な変更ではありますが、視点が変更されるということは、必然的にアクション要素の手触りにも影響が生じることになります。

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シンプルが故にゴリ押しの効かない近接攻撃やクリーチャーのアクション、独特のエイムシステムにより「ただのお助けアイテム」に甘んじないハンドガンの仕様──。どれもがホラーゲームの「怪異と対峙する恐怖感や緊張感」を下支えする要素になっているんです。

さらに今回の試遊会には『SILENT HILL』シリーズプロデューサーの岡本基氏(コナミデジタルエンタテインメント)、原作『SILENT HILL 2』にも参加された作曲家の山岡晃氏、コンセプトアーティストの伊藤暢達氏、それから本作の開発を担当したポーランドのデベロッパー「Bloober Team」のMateusz Lenart氏(クリエイティブディレクター)、Maciej Głomb氏(リードプロデューサー)の5名が登壇。

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試遊会では、海外メディアも数多く目にしたことから、その注目度の高さをひしひしと感じました。本作はバトル要素や露骨な恐怖描写というよりは、全体的な雰囲気やストーリーの部分が熱狂的に評価され、そして今日に至るまでこうしてファンの期待を集めているのでしょう。

そして、だからこそリメイクにあたって変更された要素が、原作のある「リメイク作品」として、その作品世界を壊さないように最大限慎重に調整されているように思えました。

本記事では実際のプレイ映像はお見せできませんが、『SILENT HILL 2』初体験の筆者が感じた「ホラーゲームのアクション」という観点から、プレイ画面の一部を交えながら試遊会の様子についてお届けしようと思います。

文/なからい
編集/anymo


シンプルが故に誤魔化しの効かない近接戦闘。「怪異と対峙すること」の恐怖感

本作の近接戦闘はシンプルながら、それゆえに誤魔化しが効かないものとなっています。
後述するガンアクションにも共通しますが、このゲームの戦闘は「クリーチャーと向き合って対峙する」雰囲気を重視して作られていると感じました。

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本作の物語は、主人公のジェイムスが亡くなったはずの妻からの手紙を受け取り、彼女を探すために「サイレントヒル」に赴くところから始まります。
異様な見た目の「クリーチャー」が徘徊する中、残されたメモや謎を追いながら、誰もいない街の探索を進めていくこととなります。

序盤でクリーチャーに対して取れる行動は、角材での殴打と、短距離のステップによる回避のたったふたつ。非常にシンプルですが、搦め手の効かない「やると決めたらやる」という緊張感があります。アイテムの類も体力回復用の薬品のみで、「細かい策を弄してごまかす」みたいな選択肢は存在しません。

今回の試遊はPS5で行われたのですが、LRトリガーの重さが変更される「アダプティブトリガー」機能によって、角材を振る手にはずっしりとした感触が伝わってきます。触覚からも「目の前のクリーチャーを殴っている感覚」が得られるので、没入感はかなりのものです。

クリーチャーの体力はやや高めの印象で、何度か攻撃を当てなければ倒せません。打撃ではほとんど怯むことがなく、無暗に殴っているだけでは手痛い反撃を受けてしまいます。しっかりとクリーチャーの動きを見て、攻撃されそうだと思ったら回避行動を取る。

そうして相手の動きを見切るためにジッと観察しているうち、ただでさえ印象的な『SILENT HILL 2』のクリーチャーの姿が脳に焼きつきます。

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かなり「ヤバいな」と思った仕様として、「倒したクリーチャーの体がその場に残り続ける」というものがあります。ただそれだけなら気味が悪いだけで済むのですが、一部のクリーチャーは「這いつくばってにじり寄ってくる」行動をしてきます。その二つが合わさることで、パッと見で「死んで倒れているのか、まだ生きていて這いつくばっているのか」が判断しづらいんです。

その結果、筆者は自然と既に倒れたクリーチャーの死骸を何度も殴るようになりました。いろいろな作品で「錯乱した人物が興奮のあまり、既に絶命した相手を殴り続ける」シーンってありますよね。あれってすごく印象的ではありますが「本当にそんなことあるんだろうか?」という気にもなります。

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ただ、少なくとも『SILENT HILL 2』の世界では、筆者はそれに近いマインドに陥っていました。
確実に倒したとは思っていても、追い打ちをかけずにはいられないんです。
そもそものグラフィックが非常に美麗なこともありますが、こういったアクションの作り方も、作品世界や主人公の視点に引きこまれる要因になっていると感じました。

引き金を絞る緊張感がある「エイム」システム。銃器がただのお助けアイテムにとどまらず、作品の雰囲気を形作っている

次なるアクション要素として、少しゲームを進めた先に手に入る「ハンドガン」があります。遠距離から攻撃できる武器を手に入れたことで、クリーチャーの対処も楽になるかと思ったのですが…… このハンドガンの仕様が筆者に「ホラーゲーム文脈のアクション要素」を特に印象づけるものでした。

ハンドガンを手に入れた後は、L2トリガーを押すことで狙いを定め、R2トリガーで発射できます。弾薬は各所で拾う事ができますが、あまり数に余裕はありません。

それでも筆者は「これでクリーチャーを遠距離から攻撃できるぞ」という安心感のようなものを覚えていました。FPSなどの銃を扱うゲームはそこそこのプレイ経験があるため、ある種自分のフィールドに来たような感覚になったんです。

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ただ、本作の「エイム」システムを体感することで「これはホラーゲームなんだ」と再認識することになります。
L2ボタンを押すことで銃を構えると、画面にはレティクル(照準)が表示されます。筆者が驚いたのは、構えた瞬間はレティクルが大きく広がっており、構え続けることで数秒かけて引き絞られていくことです。

これってFPSなどの対人シューティングではなかなかない仕様ですが、考えてみれば自然なことで、銃を構えたら狙いをつける必要があります。出会いがしらにやみくもに撃てばいいわけでなく、ここでもしっかりクリーチャーを見つめて引き金を絞る必要があるわけです。

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ハンドガン自体の威力も印象的で、やみくもに胴体を撃ったのではあまりダメージを与えられず、クリーチャーの動きも止まりません。膝関節などを良く狙って命中させたときだけ、大きく体勢を崩すことができるんです。
そうして膝をついたクリーチャーに角材でとどめを刺すといった流れで、一体一体のクリーチャーと向き合う緊張感はそれまでと変わりません。

総じてハンドガンはうまく使えば有利な状況を作れるものではあるのですが、「便利なお助けアイテム」では決してありません。
いつ飛び掛かってくるかわからない相手を照準に捉え続け、冷静に急所を狙わなければならない。
ゲームの体験としては、クリーチャーと対峙する恐怖や緊張感のバリエーションがひとつ増えたような感触がありました。

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ホラーゲームとは違いますが、ステルスアクション系のゲームで「あえて全く隠れずに敵を倒していくプレイング」が許容されている作品ってありますよね。
『SILENT HILL 2』ではそんなことはなく、例え銃を手に入れようとも、無双プレイのようなことはできません。一体一体のクリーチャーと向き合い、一歩ずつ前に歩みを進めていく。そんなプレイ感がいっそう強調されたように感じました。

「なにをしてくるかわからない」クリーチャーの挙動と、作品に溶け込むアクション要素たち

試遊の終盤では、狭いアパートの室内に「マネキン」というクリーチャーが出現。通常の殴り攻撃の他に、ジャンプして飛び掛かってくる攻撃や、ボクシングのスウェーのような動作で回避行動を取ってきます。

時には「マネキン」が複数体出現するシーンもあり、これには苦戦させられました。先述のとおり、序盤の装備では、一対一でクリーチャーとじっくり向き合うような戦闘スタイルになりがち。相手が複数になった時はちょっとした絶望感みたいなものがあります

本作のクリーチャーは原作『SILENT HILL 2』に出ているものが続投したうえで、「スパイダーマネキン」というクリーチャーが追加されたり、配置を見直したりしているとのこと。さまざまな挙動でプレイヤーをおびやかします。

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後半のインタビューでも「なにをしてくるかわからない」恐怖感を狙っているという発言がありますが、まさにそういった感情にさせられました。

その上で、ここまで紹介したアクション要素たちは、原作をプレイしていない筆者にとっても、原作の「ストーリー・雰囲気重視」といった良さを壊さないように最大限配慮されていると感じられました。

試遊会の冒頭、コンセプトアーティストの伊藤氏の「本作はバトルゲームではない」という発言が非常に印象的でした。リメイクされたアクション要素は現代風になりながらも、あくまで作品の雰囲気を構成する一要素としてゲームに溶け込んでいます。

霧の街に浮かび上がる不気味なクリーチャーのいで立ちや、クリーチャーが接近するとノイズを発する主人公の手持ちラジオ。これらも相まって、ジャンプスケア的ではない、ひたひたとした恐怖を演出しているのだと思います。

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「クリーチャーのデザインをイチから全部変える」案も。議論の中で作り上げられていった過程に迫る。『SILENT HILL 2』開発チーム質疑応答&合同インタビュー

──岡本さんは、オリジナルの『SILENT HILL 2』に関わってらっしゃった山岡さん、伊藤さんとの制作になりましたがいかがでしょうか?

岡本氏:
『SILENT HILL 2』が非常に長く愛されてきたタイトルなので、オリジナルメンバーのお二人と一緒に仕事をすることで、非常に深い洞察のもとで、設定を掘り下げて作ることができたのが非常に良かったと思います。

──リメイクにあたって新たに書き下ろされた曲はありますか?

山岡氏:
オリジナルの曲を「パーツ」で使っているところはありますが、基本的に全曲書き直しています
トータルで9時間くらいの曲数になっていて、「サウンドトラックどうするの」ということを考え中です(笑)。

もちろん、原作の音楽がすごく愛されているのも嬉しいことですが、新しい『SILENT HILL 2』を作るということで、ゲームを始めてやる人にとっての感動や興奮みたいなものを感じてほしいと思って、全曲書き直すことにしました。

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──リメイク作に登場するクリーチャーに、原作との違いはあるのでしょうか?

伊藤氏:
基本的には、バトルデザインに関係する、個体ごとの微妙な違いになります。新規で全く新しいクリーチャーは投入されていません。

ただ、原作当時、ストーリー的に「こうしたらよかったのにな」ということを反映させたクリーチャーが数体います
原作との違いを考察していただくのも、今回の楽しみの一つとして覚えておいていただければと思います。

──「Bloober Team」の皆さんは、開発会社として、特に皆さんに注目してもらいたいポイントはありますでしょうか。

Mateusz Lenart氏:
Bloober Teamは原作の『SILENT HILL 2』に対して非常に深い愛情と思い入れがあります。
今回の作品では、 ゲームプレイ全体のフローのあらゆる要素を見つめ直して、一体感のあるゲームプレイとして成立することを目指しています。

──『SILENT HILL 2』は皆さんにとても愛されているタイトルということで、信頼を寄せている開発会社でないと頼むことが難しいと思います。今回、「Bloober Team」を選んだ理由はなんだったのでしょうか?

岡本氏:
『SILENT HILL 2』をリブートするにあたって、世界中のスタジオが候補にあがりました。
その中で、『SILENT HILL 2』に対して愛情が強いチームを選びたいと思いました。

いくつかの候補の中で、実際に私が「Bloober Team」を訪ねて、非常に愛情が強いということを確信したので選びました。

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──オリジナル版と比べると、冒頭の部分など、「ちょっと移動の時間が長いな」と感じる部分が、今作ではかなりテンポがよくなっていました。こういったプレイ感に関して意識されたことはありますか。

Maciej Głomb氏:
難しい判断ではあったのですが、おっしゃる通り、原作だと序盤が間延びしている展開でした。

そこでアクションを追加したり、今どきの作品らしい盛り上がりを加える方策も検討されていたのですが、最終的には原作に極力近づけつつ、原作の状況を尊重しつつペースを変更することになりました。

──『SILENT HILL』シリーズの未来にかけて、今回の『SILENT HILL 2』リメイクはどういった存在になるのでしょうか?

岡本氏:
『SILENT HILL 2』はやはり、皆さんにとっての『SILENT HILL』のクオリティのスタンダードや思い出だと思います。

この『SILENT HILL 2』を自信をもってお届けすることによって、『SILENT HILL』ファンの皆さんに、そのほかのシリーズ作品のクオリティを保障し、「KONAMIはちゃんと自信を持って送り出していきますよ」ということを訴えていきたいと思います。

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──別のインタビューで、本作においてBloober TeamとKONAMIサイドで「変えるべきところ、変えるべきでないところについて意見を戦わせた」というお話がありました。特に印象に残っているところはありますか。

岡本氏:
本当のスタート時点で言うと、クリーチャーのデザインをイチから全部変えようという議論もしたことはありますし、サウンドに関してもさらに新しいものを作ろうとされていました。

オリジナルメンバーのお二人は非常にクリエイティビティが高いので、リメイクなんだけど完全な新作になるようなイメージで作りたいという気持ちもお持ちでした。

伊藤さんから全くデザインが違うクリーチャーのアイデアも頂いたことがありますし、そういうゼロベースの「新作としての『SILENT HILL 2』」みたいなものを議論したことがあります。

Mateusz Lenart氏:
最初は原作から一切変えないという案も出ていたのですが、さまざまな議論を重ねた結果、「現在の市場で通用する作品にしたい」という思いもあり、ある程度の変更を模索して、現在の形に落ち着きました。

──山岡さんと伊藤さんは、長い期間を経て再度『SILENT HILL 2』に関わることになりましたが、どういった経験になりましたか。

山岡氏:
「ゲームや音楽を作ること」というより、自分の25年前の生き方や、「何を考えて、どんな生活をしていたか」というところから入っていって、リメイクに挑み始めました。 「セルフカウンセリング」のような感じです。

結果として、実は思い出せなかったんですよ。自分はどういう生き方をして、どんなことを考えて、『SILENT HILL 2』に挑んだのかなっていうことが思い出せなくて。
そういった自分との問答の毎日というのは、すごい苦しかったですね。

さきほど話に出ましたが、「原作をそのままやる」のはある種簡単だなと思うんですけど。
25年経って、『SILENT HILL 2』を大好きな人たちにも、新しくこのゲームをやる人にも、作品として受け入れてもらいたい
じゃあ自分は今どういうことをやらなきゃいけないのか、この作品に対して、25年間で自分はどうなったのか、ということを考えました。

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話がずれるようですが、『SILENT HILL 2』をやってる時って、すごいお金がなかったんです。
で、ベースが買えなくてギターのチューニングを下げて弾いたんです。それで、当時の曲には、ベースが入っていないんです。

すごくギリギリな状況で、世の中に受け入れてもらいたい気持ちもあるけど、いいものを作るというか、尖ったものを作ってるんだみたいな気持ち。ベースを買えるわけでもないけど、「なんかいいもの作りたい」みたいな思いがありました。

でもそんなことなんか、忘れちゃってて。「この曲かっこいいけど、俺はどうやってたんだろう」 って。そんなようなことを、この作品を作る時には毎日やっていましたね。

伊藤氏:
僕は2019年頃に岡本さんから、「『SILENT HILL 2』のリメイクに参加してくれないか」とDMを貰いました。その時点ではオリジナルの『SILENT HILL 2』をいじる必要は全くないと思っていたので、初めは断ろうと思いました

ただ、参加しないで全く違う方向性に行ってしまうのであれば参加して、『SILENT HILL 2』のストーリーテリングや、タイトルとしてのコアパートだけは引き継いでもらうために尽力しようという思いで参加しました。

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そういった理由で参加したとしても、原作のコアの部分は変えずに「ガワ」は全く新しいものにした方が、リメイクとしての価値はあるし、新しく作る意味もあるな、と当時は思っていました。最終的にはこういった形でリリースすることになりましたが。

その段階において個人的に目指した目標というのは、『SILENT HILL 2』をまだやったことないプレーヤーに対して、「どうやったら原作のインパクトをブラッシュアップした形で伝えられるか」というところでした。

──今回印象的だったのが、マップやロケーションの追加に関してです。マップやロケーションを追加するにあたって、ゲーム的なメリットや、世界観の面で、追加する基準やコンセプトなどはあったのでしょうか?

Maciej Głomb氏:
肩越しの視点に変更するにあたって、既存のマップを再精査する必要はありました。屋外のマップについては、おおむね原作どおりになっていると思います。

ただ、屋内のマップについては、肩越し視点のプレイヤーが探索し甲斐があるように、原作から一新してマップを構築しているところがあります。

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──オリジナル版は映画的な雰囲気がありましたが、肩越し視点に変わったことで、自分視点に近い感じになりました。それに伴って演出面の変化もあったと思うのですが、その辺の苦労や見どころがあったらお聞かせください。

Mateusz Lenart氏:
肩越し視点にしたことによって、よりプレイヤーにとって身近な印象になるように変わりました。それに伴ってマップの構造などもイチから見直して、原作の印象に極力近づける必要がありました。

原作の場合はカメラが固定されていたので、何が見えるか、見えないかはゲーム側で決まっていたのですが、今回は自由に視点が変えられるため、同じ手法は取れませんでした。

そのかわり、クリーチャーの挙動などを調整して、原作と似たような印象を抱けるように工夫しています。
たとえば「マネキン」は、プレイヤーが一度視界を外すと離れて隠れるようになりました。

また、原作の場合は、扉を開くときに暗転してロードが挟まっていますが、今作はシームレスに入りますので、同じ効果は得られません。その部分を加味して、常に移動できることを恐怖の演出に繋げられるように再構築しています。

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──今回『SILENT HILL 2』を初めて遊ぶ人に対して配慮した部分はありますでしょうか?

岡本氏:
原作にもありましたが、初めて遊ぶ方向けに、難易度を3種類から選べるようにしています。
コンバット要素とパズル要素、それぞれで難易度を選択することができます
日本版に関しては吹き替えをいれることにして、字幕でゲームを遊ぶことに慣れていない方でも、広く遊んでいただけると思います。

──パズル要素に関して、難易度によってどのような違いがあるのでしょうか?

Maciej Głomb氏:
パズルの難易度については大きく2点あります。1点目は、探索中に見つかるメモの情報量が変わります。

もう1点は、探索中に周囲の環境から得られるヒントが変わってきます。総じて、探索全体で得られるヒントが難易度によって変わってくるということです。

岡本氏:
パズルに難易度選択があるのが「SILENT HILL」シリーズの伝統になっているので、開発チームには頑張ってもらいました。

──パズル自体の難易度には変更はないのでしょうか?

Maciej Głomb氏:
難易度によって、パズル自体の答えも変わってきます。

岡本氏:
周回プレイ時に、パズルの難易度も変えて遊んでみていただけると良いかと思います。

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──アクションが再構築されたという点に関して、ハンドガンのエイムが収縮するのがゆっくりだなと思いました。それがクリーチャーが寄ってくるスピード感と合っていて、迫ってくるスリルを感じました。アクション部分における、恐怖演出の狙いに関してお聞きしたいです。

Mateusz Lenart氏:
カメラ視点の変更にも関わってくることですが、原作と同じクリーチャーを今回の視点に変えることによって、どのような恐怖演出ができるか、というのは原作と変わってきます。クリーチャーのデザインや挙動を今回に合わせて変える必要があったと思います。

視点が変わったことによって、キャラクターを操作する自由度が増したので、それを相殺する形でクリーチャー側のアクションも変える必要が出てきたんです。
今回の狙いとしては、各クリーチャーに複数の挙動や、恐怖演出になりうる要素を盛り込んでいます。

「ライングフィギュア」に関しては、地上を這いまわって動くこともあれば、立ち上がって飛び道具で攻撃してくることもあります。「マネキン」の場合だと、飛びかかる攻撃もすれば、回避もするし、途中で戦闘を離脱して隠れることもあります。

そういったさまざまな挙動を盛り込むことで、「次になにをするかわからない」という不安定さを主人公に押し付ける形でデザインをしています。

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──PS2時代の『SILENT HILL 2』ですでに、グラフィックが仕上がっている印象がありました。今回のリメイクでそれを進化させるにあたって、特に注意した点を教えてください。

Mateusz Lenart氏:
グラフィックやビジュアルに関しては、かなりの研究を重ねました。
とにかく気を付けていたのは、霧の演出に力を入れること。あとは、グラフィックが向上したからといって、血の表現やゴア表現を盛り込むのは原作の趣旨からは外れているので、そういった方針は取らないように徹底しました。

今作の場合は、霧をはじめとした、雰囲気重視の演出になるように注意して開発していました。

伊藤暢達氏:
今回リメイクを作るにあたって、屋外の霧の演出については相当口酸っぱく言って(笑)。注文を多く出しました。

ただ単に街に漂う霧じゃなくて、ジェイムスのあいまいな記憶を、台詞ではなくグラフィックで表現するのが、『SILENT HILL 2』のポイントのひとつでもありました。
そういう意味では、今作のグラフィック表現で一番成功した点じゃないかな、と自信を持っています。

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──キャラクターの表情の表現レベルが、現行のAAAタイトルと比べても最高峰レベルのクオリティになっていると感じました。開発の「Bloober Team」は、これまで一人称視点の作品を多く手掛けており、三人称視点のノウハウが蓄積されていたといったこともないと思います。そんな中でどうやってこれほどまでのクオリティを実現したのでしょうか?

岡本氏:
「Bloober Team」を選んだ時に、三人称視点のゲームが少ないことはもちろん把握していました。
ただ、非常に情熱のあるチームでしたので、トライしてくれるだろうということは信じてお任せしました。

Maciej Głomb氏:
そもそもの原作の人気と、物語重視で情緒的な作品であることを踏まえると、本作のリメイクはファンからの期待が絶大なものになるのは覚悟していました。
「Bloober Team」のみならず、KONAMIとも話し合い、ットシーンやキャラクターの表情に関しては、完璧以外は許せないぐらいの気持ちで制作していました。

特に、表情や口周りの動きは、キャラクターの表現を最大限伝える上で妥協できない点です。俳優の選定に関しても、ビジュアル面のみならず、演技の面でも最適な方を選出しています。
グラフィックに関しても、優秀なパートナー企業の助力を得て、完璧なものになるように仕上げています。

岡本氏:
「Bloober Team」のパートナーに関しても、選定に関して議論させていただいて、一緒に作り上げてきたところです。

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──原作からのキャラクターデザインの変更、特にアンジェラに関しての変更の意図を教えてください。

岡本氏:
今回、キャラクターをリアルに表現するために、人間の顔をイチから作るのではなくて、俳優さんの顔をキャプチャーしなければリアリティが出ないと考えました。
ですので、アンジェラの変更に関しては「実在の俳優さんから選んだ」というのが実際のところです。

俳優さんの選定に関しては、かなり議論して進めていきました。演技力も重要視したので、顔の造形が原作とは違っていても、演技力で、彼女の魅力を表現できると考えています。

──サバイバルホラーというジャンルは歴史的名作が多いジャンルですが、その中でも『SILENT HILL 2』は伝説的なゲームのひとつです。みなさんが考える『SILENT HILL 2』ならではの特別な点があれば教えてください。

Mateusz Lenart氏:
一つ目はストーリーです。本作のストーリーは、プレイヤー自身の心に直接刻まれるような要素が盛り込まれているので、ここは外せません。

二つ目は雰囲気です。当時、さまざまな作品が出ていた中で、『SILENT HILL 2』が醸成していた雰囲気は他の作品にはみられないものでした。
この二つが、作品の根幹だと思います。

Maciej Głomb氏:
キャラクターではないかと思います。ゲームのみならず、さまざまな媒体でも、時間がたてば物語の大筋がどういったものだったか、というのはどうしても印象が薄れてしまうところがあると思います。

一方、個々の登場人物の印象は、濃ければ濃いほど心に刻まれて離れず、まるでそのキャラクターが実在していたかのように感じられると思います。
『SILENT HILL 2』のキャラクターは設定が作り込まれていて、作品の中で存在意義が実感できるくらいにはキャラクターが合っていると考えています。

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岡本氏:
『SILENT HILL 2』のストーリー、特にエンディングの苦さというか、決して安易なハッピーエンドにならないところが、作品を特別にしているところかなと思っています。

山岡晃氏:
シリーズ全体にも言えることですが、特に『SILENT HILL 2』はひとつの体験だと思っています。
発売当時の2001年に、「ここの仕組みが面白かった」とか「ここのグラフィックが良かった」という事ではなく、「独特の体験をした」というのが、25年続くシリーズになっている所以だと思います。

僕らはホラーゲームというよりは、ジェイムスの物語として作っていたので。

「こうやったら怖いものができる」とか「こうやったらゲームとして良い仕組みだ」というよりも、当時いたメンバーが、「独特なものを作りたいよね」と考えた掛け算や割り算が、『SILENT HILL 2』を体験した人の心に響くものがあった、ということだと思います。

伊藤氏:
原作の開発当時はチームにデザイナーが数人しかいなかったんです。
開発期間も決まっていたし、予算も少なかったので、ディスカッションするしかありませんでした。
その中で、バトルデザインの話が出て、ストーリーでプレイヤーがプレイする道のりに特化した作品にしようとなりました。

他社と競争するにあたって「何を僕らの特徴にしよう」となった時に、台詞じゃなくて、プレイヤーがプレイする道のりが、実は主人公が抱えた感情の反映であったり。
序盤の街中の霧であったり、クリーチャーの象徴性であったりとか。そういうものをキモとして作りました。
それが25年愛されるものとなるとは、当時は思いもよりませんでした。

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「あの頃の素敵な作品を、もう一度今の人たちに届ける」ゲーム作品のリメイクは、ファンにとって喜ばしい試みである一方、原作が偉大であればあるほど難しさも伴います。
現代的な遊びやすさを追求すれば、一歩間違えるとその作品の持ち味を損なうこともありますし、かといって全くそのままにしてしまえば、相手になるのは最新の感覚で作られたタイトルたちです。

そんな中、リメイクにあたり変更が加えられた『SILENT HILL 2』のアクション要素は、原作未経験の筆者を作品世界へ没入させる要素として大いに機能していました。

この機会がなければ、本作に触れるのはもっと先だったかもしれません。「こんな世界があったんだ」という驚きとともに、新鮮な恐怖を味わう試遊時間を過ごすことができましたし、名作を改めてプレイする体験として最善の形のリメイク作だと改めて感じました。

リメイク版『SILENT HILL 2』は、2024年10月8日発売予定。PlayStation5とPC(Steam)にて展開されます。

©Konami Digital Entertainment
※画面は開発中のものです。

ライター
スパイスからカレー作っちゃう系の元バンドマン。占いも覚えたが占いたいことがないのですぐ忘れた。思い出のゲームは『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』

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