いま読まれている記事

“ゲーム開発経験ゼロ”のイラストレーターがたった3ヵ月で短編和風ホラーゲームを開発!? 『御祝呪』のじっとりした恐怖が良い感じ。“古民家を丸ごと一軒”買って参考にするこだわりもすごい【TGS2024】

article-thumbnail-241003z

1

2

『御祝呪』は、「ホラーゲームの入門になったらいいな」で作った。プロデューサーの「さしみやま」氏インタビュー

──試遊をさせていただき、独特の雰囲気があるゲームで、とても続きが気になる作品でした。

さしみやま氏:
『御祝呪』は、ホラーゲームの入門になったらいいな、と思って作ったんです。
私自身、ホラーゲームが大好きで、『SIREN』『SILENT HILL』などの作品が大好きなんですが、当時の私には難しく、友達に手伝ってもらったりしていました。最近のホラーゲームも個人的に難易度が高いと感じてしまうものも多くて。

プレイヤーが追いかけられて、道中の要素を見落として終わってしまうよりは、「驚かす要素」はあるけど、一度立ち止まって冷静になってから文章を読めるようなゲームにしたかったんです。そうすることで、「ホラーゲームが好きだけど苦手……」という人も遊びやすくなるのかな、と思っています。

それによって、登場人物たちの意図はどういうものだったのか、主人公にとって彼らはどういう存在なのか、といった事を考察できるようなゲームになっています。

私のような、「ライト層だけど、すごくホラーが大好きな人たち」に、『御祝呪』が入り口となることで慣れてもらい、「私自身が大好きで、尊敬している名作たちにも触れてもらおう!」というようなイメージで作りました。

──本作は、「日本の古民家」の表現にもこだわっているそうですね。

さしみやま氏:
私の身の回りでも、だんだん祖父母が亡くなったりしていて。「もしかして、100年来の日本の古い家屋って、私の世代で見られなくなるんじゃないか」と思ったんです。

「若い世代の子たちは、こういった古民家を見ることができないんじゃないか」と思った時に、80年代・90年代の、私の現風景みたいなものをゲームの中に残しておこうと思ったんです。

例えば、上を見上げたら神棚がある、みたいな。地域によっても差があったりして。当時の独特なドアノブだったり、隠し扉だったり、そういった要素を入れようと思っています。このゲームを遊ぶことによって、「日本の民家」的なものを感じられるようにしました。

『御祝呪』レビュー・評価・インタビュー:TGS2024_014
体験版にあったカギのかかったドアノブのデザインは、さしみやま氏の祖父の家のものをイメージしたそう

──開発メンバーの方が、山梨の古民家を一棟まるまる購入して、作品内のモデリングの参考にされたとうかがって驚きました。

さしみやま氏:
そうなんですよ。もともと古民家が好きで、購入した方がいて。「ちょうどいいじゃん!」って、たくさん撮ってきてもらって(笑)。

私は滋賀出身富山育ちなので、「東西北を網羅できるじゃん」みたいな(笑)。コンセプトアートなどは、「誰かがうっすら知っている文化」のニュアンスを意識して作っています。

──日本の古い家の感じがかなり出ているなと思いました。

さしみやま氏:
体験版の先の範囲にも、様式は変わりますが、「日本の家」を意識した部屋を用意しています。

部屋の様子は作中の登場人物の人格を意識して、「こういう人間だったら、どう考えるかな」という視点で作っていきました。

『御祝呪』レビュー・評価・インタビュー:TGS2024_015

──確かに。そうしたモチーフはホラーと相性がいいかもしれませんね。作品全体のボリュームとしてはどれくらいになるのでしょうか。

さしみやま氏:
1周するのに2時間くらいで、その他の要素を網羅しても合計3時間くらいです。ライト層の人でも手軽に触れるようなボリューム感を意識しています。
開発としては仕上げの段階で、10月中のリリースを予定しています。

──本作は、原口沙輔氏や柊キライ氏といった、人気の音楽クリエイターの方が参加されている点も注目です。お二人はどういった関わりかたをされているのでしょうか?

さしみやま氏:
柊キライさんが3曲書き下ろしてくれていて、オープニングや、YouTubeに上げるティザー動画の楽曲として使用しています。

原口沙輔さんの楽曲は、エンディングとして使用する予定で、こちらも後ほどYouTubeで聞けるようにする予定です。

お二人とは元々親交があったので、今回楽曲制作をお願いすることができました。
音楽シーンの人たちにもホラーゲームを触ってほしくて、間口を広げたいという思いもあったんです。

──ホラーゲームで、音楽シーンの作曲家さんを起用するのは珍しいですよね。そういった方面にリーチしたいという狙いもあったんですね。

さしみやま氏:
元々私がミュージックビデオ畑の人間でもあるので、18歳から26歳くらいの方たちがコアな支持層なんですよ。そういった人たちに、一番ホラーに触れて欲しいんです。「18才からならホラーゲームをオススメできる!」と思って(笑)。

──さしみやまさん自身がゲームが大好きで、それを周りの音楽畑の人たちに広めたいんですね。
音楽シーンにいらっしゃる、周辺の方々のゲームに対するイメージってどういったものなんですか。 

さしみやま氏:
原口沙輔さんは、普段あまりゲームをされないそうなんですが、『御祝呪』の人名の画数や使っている漢字にもすべて意味があると説明をしたら、このゲームにすごく興味をもってくださって。

柊キライさんも、普段はあまりゲームをされないそうなんですが、コンセプトアートや物語の真相をお伝えしていたらすぐ作曲をしてくださり……(笑)。1曲目は打ち合わせ終了したあと、1時間とかでいただきました。

おふたりとも、私が『御祝呪』で伝えたいコンセプトや、キャラクターの人物像について説明させていただいたら、「そういうゲームだったら興味があるし、遊んでみたいな」という感じで、好感触を頂きました。

──なるほど、そういった方達にホラーゲームに入門してほしい気持ちなんですね。たしかに、そのような温度感の方たちにいきなり『SIREN』のようなタイトルを遊んでもらうのは難しいかもしれません。

さしみやま氏:
「噛めば噛むほど」な名作なんですけど、やっぱり最初のハードルが高いというか。私も中学生の頃に、ニコニコ動画のガッチマンさんの『SIREN』の実況動画をみて衝撃を受けて、コントローラーを握りましたが、警察官を目の前にして大泣きしながらプレイしたのを覚えています(笑)。

今回の出展でも、通りすがりに本作のポスターを見たとたん、「赤いだけでもう怖い!」って言ってる方もいらっしゃったりして(笑)。そういう方にも一度体験してもらったら、ホラーゲームの良さに気づいていただけるかな、と思ったんです。

──たしかに、ライトな方がホラーゲームへ入門するための作品として、短編はぴったりですね。

さしみやま氏:
ストーリーを先に進めるためには、最低限の部分を読めば大丈夫な作りにしています。
一方で、全てを読み込もうとするとボリュームがあるようにしているので、考察好きな方も喜べるような作品になっています。

──考察といえば、ボーカロイドのミュージックビデオも、考察好きなファンの方たちが多いですよね。

さしみやま氏:
私の担当したMVで、『愛して愛して愛して』という映像があるんですが、それをファンの皆さんがとても考察してくださっていて。

それが商業デビュー作だったので、「あ、私は『考察できる作品』を育てられたら、作家人生として本望なのかも」と思ったんです。

例えば映像に柘榴(ザクロ)を入れたり、暗喩を入れ込むのがそもそも好きなので、そういった要素も結構散りばめたり。

──なるほど、そういった表現をする媒体として、「自分でみつけていく」工程があるゲームはかなりマッチしていますね。

さしみやま氏:
そうなんです。それもあって「ゲームをつくりたい」って漠然と願っていたので。

──それにしても、「ホラーゲームを遊んでほしい」という理由から、実際に入門編のゲームを、それも3ヵ月で作られてしまうというのは、すさまじいエネルギーだと思います。はじめてのゲーム制作を経て、今の心境はいかがですか?

さしみやま氏:
ひたすら一緒に走ってくれたTENJO GAMESのメンバーと、関わってくださったすべての方に感謝しています。

私個人のことでいうと本来から「ゲーム大好き」「色んな作品をもっと作りたい」みたいな感じなので、『御祝呪』を作ったことで、創作意欲パワーはより増していってます(笑)。

──(笑)。「もっと作りたい」ということは、次回作の構想などはすでにあったりするのでしょうか。

さしみやま氏:
すでに3個くらい考えています。『御祝呪』の関連作だったり、ギャグ寄りのホラー作品も「ちょっといいな」とか。いろいろ考えています。


しっとりとした、不思議な恐怖感のある本作。ゲーム自体の作風とは裏腹に、開発にかけた情熱やエネルギーにはすさまじいものを感じました。

プロデューサー自身が「ホラゲーへの入門作」と断言している『御祝呪』。ホラーファンの方も、今までホラーを手に取る勇気が出なかった方も、はたまた、本作に参加している音楽クリエイターのファンの方も、気軽に手に取ってみてはいかがでしょうか。

もしかしたら本作が、ホラーゲームを大好きになる最初の一歩になるかもしれません。

『御祝呪』は、PC(Steam)でプレイ可能。近日リリース予定となっています。

1

2

ライター
スパイスからカレー作っちゃう系の元バンドマン。占いも覚えたが占いたいことがないのですぐ忘れた。思い出のゲームは『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
編集者
オーバーウォッチを遊んでいたら大学を中退しており、気づけばライターになっていました。今では格ゲーもFPSもMOBAも楽しんでいます。ブラウザはOpera

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ