人はなぜ、ゲームを作るのか? ビジネスのため、自己表現のため、はたまた単に楽しいから……。個人でもゲーム制作がしやすくなった昨今、その理由は千差万別でしょう。
ここにもひとつ、制作理由がとても気になるゲームタイトルがあります。その名も『御祝呪(おしゅくじゅ)』。一人称視点の、和風短編ホラーゲームです。
本作を制作する、TENJO GAMESを率いるプロデューサーは、イラストレーターの「さしみやま」氏。大人気ボーカロイド曲『愛して愛して愛して』のMVイラストなどを手がけている、映像クリエイターでもあります。
ほかにも本作には、『人マニア』などを作曲した原口沙輔氏・『ボッカデラベリタ』などの曲で知られる柊キライ氏と、人気ボーカロイドクリエイターの両名も楽曲提供をしているとのこと。
こう聞くと、「ホラーとボーカロイドを掛け合わせたような作品を作りたかったのかな?」という想像が働きますよね。実際に筆者もそう考え、「東京ゲームショウ2024」に出展されていた本作のブースへお邪魔して、お話をうかがってきました。
体験版の範囲を試遊させていただき、早速本作品の制作理由に関してお尋ねすると、意外な答えが。
さしみやま氏が本作を作った理由はなんと「みんなにもっとホラーゲームを遊んでもらいたかったから」。
ホラーゲームが大好きな同氏が、ハードルの高さを感じてプレイを躊躇してしまっている人のために、自分で「入門編」的な作品を作ったのが『御祝呪』だと言うのです。
本作の開発前、さしみやま氏のゲーム開発経験はゼロ。周囲の仲間たちを巻き込み、ゲームクリエイター・桜井政博氏の動画シリーズ「桜井政博のゲーム作るには」を見て励まされながら、弱冠3ヵ月で本作を形にしたというのだから、とんでもないエネルギーと情熱です。
今回は、そんな『御祝呪』の体験版試遊プレイの様子と、開発者のさしみやま氏へのショートインタビューの様子をお届けします。
純和風・不思議なオブジェクトに謎が深まる『御祝呪』体験版
主人公「道川環子」の一人称視点で進んでいく『御祝呪』。ゲームを開始するとまず目に入るのは、4枚の遺影です。並んでいるのは「おじいちゃん」「おばあちゃん」「おばちゃん」そして「わたし」。
「それでは、今プレイヤーが操作している『わたし』はどういう状態なんだろうか?」
冒頭から奇妙な違和感を覚えつつ、第一の部屋の探索をしていきます。
ゲームのシステムとしては、ポイント&クリックの脱出ゲームのような形。部屋にある物品を調べ、時にはアイテムとして獲得し、次の部屋へ向かうといった流れです。
体験版の範囲では、純和風なテイスト。記事後半のインタビューで明らかになりますが、本作はいわゆる「おじいちゃん・おばあちゃんの家」のような、日本の古民家の雰囲気づくりにもこだわっているとのこと。
配置された物品は、直接的な恐怖を煽る物というよりかは、「これはどういうことなんだろう?」という、謎めいた品が多いです。手紙の類もありますが、単体ではその意図は判然としません。
部屋を進みつつ、手に入れた情報を総合して、物語の背景を想像していくようなプレイ感となっているようです。
ホラーゲームに付き物の「音による演出」も、ジャンプスケア的に大きな音を出して驚かせるような要素はありません。
その代わりに、「壁から聞こえる、すきま風のようにも、人の声にも聞こえるような音」だったり、「ぬかるんでいる廊下の、ネチャネチャした足音」のような、じっとりとした恐怖感を煽るような演出がされています。
全体的な感触として、「不思議な物品の数々に先が気になるけど、奇妙な不安感がドアを引く手をためらわせる」ようなホラー表現となっています。
そう考えると、タイトルの『御祝呪』も、「『祝』なの?『呪』なの?」という不安定さを感じて、なんだか不気味に思えてきます。
次の部屋につくと、今度は奇妙な装置が。「金魚の死骸が浮かぶ、どす黒い水槽」「蜂の死骸の塊が入った養蜂箱のような装置」「やかんが接続された箱で腐っている、蠅帳(はいちょう)で覆われた大量のみみず」……。
理由はわかりませんが、ただならない雰囲気を発していることは間違いありません。
ちょっとした謎解きを経て、この「くさい部屋」を抜けると、そこにはなんだか「ヤバそうな祭壇」が……。
謎は深まるばかりですが、ここで体験版は終了。
実は筆者、数々のホラー作品に魅力は感じるものの、多くのホラーゲームはクリアが難易度的に難しく、悔し涙を流しています……。
しかし本作は「ホラゲーへの入門」と謳っているとおり、少なくとも体験版時点では、グロテスクな表現や、いきなり驚かすようなギミックはありません。
むしろ、先が気になるような不思議な恐怖感とともに、今回の試遊プレイを終えたのでした。