創作とは愛である。
愛とはどどめ色で、ドロっとしていて、素手で触るとちょっとばっちい感じがする。そして、そういう粘性の強い混沌の中から、時々ものすごく純粋でとんでもねえモノがぬるっと顔を出す。
『仏陀摩真』(ブッダマシーン)は、そういう感じのゲームである。
本作はスマートフォン向けアプリで、ゲームとしてはいわゆる『クッキークリッカー』系のもの。公式で謳うジャンルは「慈悲と感謝のタップアプリ」だ。
本作が出展された「東京ゲームダンジョン6」では、多くのゲーム制作者さんたちが創意工夫とパッションに溢れた作品を持ち込んでいたのだが、本作は粒ぞろいの出展作品の中でもかなり異彩を放っていたタイトルのひとつ。
なにせドでかい縦長モニターには七色の後光を放つ仏像が輝き、その眼前には謎の木魚マシーンが置かれ、イベント参加者たちが何やら神妙な顔つきでそれらを「ポクポクポク……」と叩いていくのだ。
ブース一帯に鳴り響くアンビエント念仏と木魚の音、おまけにブースの人たちは全員坊主頭で、「おれたちはどこへ迷い込んでしまったんだ……?」という感じでした。
ただ、ビジュアルやミュージックでコークスクリューばりに勢いのあるパンチを放ってくる一方で、実は並々ならぬホトケ愛に満ちたゲームでもある本タイトル。「これが存在しない世界は許せねえ」のパッションから生まれた、インパクトありまくりのゲームをご紹介します。
ネタゲー的な火力の高さとカジュアルさ。決してネタではない開発者の“ガチ仏教愛”がフュージョンした作品だ!
突然だが、みなさんは「ブッダマシーン」というものをご存じであろうか。
知らなければぜひググってみて欲しいのだが、中国や東アジアの仏教国などで展開されている「お経をひたすら流し続けてくれる」たいへんありがたい機械類だ。漢字では「念仏機」などとも記される。
お経と言っても、一般にイメージされるトラディショナルなものばかりではない。
ポップで明るい音楽に合わせて真言が読み上げられるネンブツ☆ミュージックスタイルのものや、音楽に合わせてホトケさまのお姿が七色にライトアップされたりするものなど、従来のイメージを踏まえるとかなりユル~い雰囲気のものも多い。
日本ではそこまでなじみのないものだが、その独特の怪しさや可愛らしさから、愛好している人もいるというアイテム(仏具)だ。
『仏陀摩真』はこの「ブッダマシーン」のアプリ版で、七色に光輝くホトケさまと現代アレンジされた様々なお経ソングを満喫しつつ、自らの徳を極限まで高めていくというゲームになっている。
すでに書いたように、本作はいわゆる「クッキークリッカー」系のもので、画面をタップすることで「功徳」を集めていくことが目的だ。集めた「功徳」はさらに多くの「功徳」を得るためのシステム解放に使用できる。
「なぜ功徳を集めるのか?」「集めるとどうなるのか?」そうした小難しい主題は気にしないでいいし、気にするべきでもない。カルマとか来世とかも関係ない。クッキーを焼くのに理由がいらないのと同じである。
画面上には好きな仏像と背景グラフィックを自由に設定することができ、BGMについてもガチなお経はもちろん、ゴアトランスからロックなものまで、様々なアレンジお経を再生できる。
本作に収録されているアレンジお経音楽は、AIによって生成された曲に、「生きてるだけでみんなエラい」という開発者の方の思いが込められたオリジナルの現代語訳歌詞を載せたものだとか。
もとになっているのが「ブッダマシーン」なので、正直これだけでも十分と言えば十分ではあるのだが、ゲームアプリになっていることで、本作にはこれ以外にも機能が存在する。
例えば、しばらくホトケさまをタップしていると、「マニ車」を回すこともできる。これはボーナスタイムのようなもので、なんと回せば回すだけ「功徳」が積めちゃうというめちゃくちゃお得なアイテムだ。
と、このように書くといかにもゲーム的な効果だと思われそうだが、なんと「マニ車」は現実でも本当にそういう感じの道具らしい。
実際の「マニ車」は内部に経典が収められており、お経が収められた部分を回転させることで中の経典を唱えるのと同じだけの功徳を積むことができる仕組みだという。いいのか、その仕組み……?
そんな確変ボーナスみたいなアイテム本当にあるんか……というのも筆者にとっては衝撃だが、最近ではソーラーパネルとマニ車を組み合わせた、半永久的なオートマティック功徳積みマシーンも存在するらしい。世界は広い。
ゲームの話に戻ると、ほかにも「仏カード」を入手できる「おみくじ」(ガチャ)のような機能もある。これは仏教世界に登場する「如来」や「菩薩」「観音」など、さまざまなホトケさまのカードを入手できるシステムだ。
実はこのカード、開発者の方にお話を伺ったところによると、ものすごく細かいこだわりも詰められているのだとか。何かと言えば、カードフレームの豪華さが、レアリティではなく実際のモチーフに則ったものになっているらしいのだ。
たとえば、ゲーム上のレアリティが最も高い「如来」のカードは、落飾して出家したお釈迦様がモチーフになっていることから、フレーム枠は全カード中で最も地味なものになっている。
対して、ゲーム上は2番目のレア度である「菩薩」は出家前の王族だったころのお釈迦様をモチーフとしていることから、フレーム枠は全カード中で一番豪華なものになっているそうだ。
いや細かいわ。なんでそんな細かいところに全力で拘ってんのよ、と思っていたら、だんだんその理由が分かってきた。
このゲームを作っている開発者の方、仏カードのフレームに拘るくらい、めちゃくちゃ仏さまが大好きなのである。だいたい仏カードってなんやねん!
開発者の方に伺ったお話の中で驚いたのが、本作の開発の経緯についてだ。
あまりに強過ぎるインパクトから、筆者は当然ウケを狙って作りはじめたのかと思っていた。しかし、話を伺ってみると、どうもそうではない。
むしろ、“生きている中で辛いことに出くわした人の傍にブッダマシーンがあって欲しい”という感情の方が先行してのもので、言ってみればシンプルに「作りたすぎて作ってしまった」というものらしいのだ。
伺った話の中で筆者が一番爆笑……もとい心を打たれたのが「私の生きる世界にデジタル化されたブッダマシーンが存在しない、などということはあってはならない」という言葉だ。
比較的落ち着いた口調で話して頂いたのだが、ねえんだったら俺が作ってやらあ!というクリエイター的な情熱が感じられた場面だった。
本作はスマートフォン(iOS&Android)向けアプリとしてリリースを予定しており、現在も開発は進行中。あまりに作りたい情熱が先行しすぎてしまったせいで、アプリの価格なども現在まだ未定とのことだ。
詳細が気になる方は、公式サイトやX(旧Twitter)などもあわせて続報をチェックしてみるといいだろう。