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『鉄拳8』理想を求めて「プロ格闘家の技を自ら受ける」アニメーターの熱意がすごい。アニメーションディレクターが語る“超暴力アクション”の制作過程【CEDEC+KYUSHU 2024】

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シリーズ累計5800万本以上の世界売り上げを誇る3D格闘ゲームの金字塔『鉄拳』

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バンダイナムコスタジオによって開発されている本シリーズは、1994年に初代がアーケードゲームとしてリリースされて以降、世界で最も売れている3D格闘ゲームとしても知られています。

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本シリーズの核にあるのは、ド派手で爽快感のある技たち。個性的なキャラクターたちが繰り出す技のモーションに心惹かれたプレイヤーは多く、これが現在の人気を確立した大きな理由の1つでもあります。

これらのアクション、アニメーションはどのようにして制作されたのか。その方針と具体的な手法を紹介するセッション『鉄拳アニメーションの流儀』が、九州最大級のコンピュータエンターテインメントカンファレンスである、CEDEC+KYUSHU 2024にて行われました。

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本講演にて登壇されたのは、『鉄拳8』のアニメーションディレクターである山岸剛朗氏。

山岸剛朗氏は、UFC・WWE・新日プロレスなどのゲームに携わった後にバンダイナムコに入社。『鉄拳7』では州光リロイを担当し、『鉄拳8』でもチームの運営統括をしながらアニメーション制作を続けている現役の開発者です。3Dアニメーターとして20年以上のキャリアを持っています。

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今回は本セッションで語られた、バンダイナムコスタジオでも独自のスタイルを持つという『鉄拳』のバトルアニメーション制作工程、モーションキャプチャー、アニメーターの作家性を発揮する環境作りなどをお伝えしていきたいと思います。

文/DuckHead
編集/りつこ

鉄拳世界における “リアリティ”とは。必ずしも「現実の再現」ではない

まず、講演のイントロとして、鉄拳プロジェクトのリアリティに対する考えが説明されました。

鉄拳世界におけるリアリティの具体例として、キックボクシングを主体とするファイトスタイルのキャラクター、ブライアン・フューリーの攻撃モーションの映像が流れました。

まず映像では、攻撃が当たると敵が5メートルほど吹っ飛んだり、上空に舞い上がったりする現実離れした様子が映し出されます。これを通じて、鉄拳におけるリアリティが「現実の格闘技とは乖離したもの」であることが紹介されました。

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山岸氏は「格闘ゲームにおけるリアリティとは、その尺度となる価値観によって解釈が異なる」と語り、漫画や映画のような表現をリアリティとして捉える人から、現実の格闘技の試合の動きをリアリティとして捉えている人まで、解釈がさまざまであるとしています。

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さらに山岸氏は、格闘ゲームでは“リアリティの解釈の違い”によって生じるズレが頻繁に議論されていると続けました。

そのズレの具体例として「ローキックに対するガード」の捉え方の違いが挙げられ、格闘ゲームに慣れ親しんでいるプレイヤーが、ローキックを下段攻撃と認識して自然にしゃがみガードを発動するのに対し、格闘技経験者はローキックはカットして防御するものと認識しているといいます。

プロ格闘家は「下段攻撃をしゃがみガードする発想そのものが無い」ということが、映像を交えて紹介されました。

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カットによる下段攻撃のガードは、現実の格闘技の動きに即しているという意味ではリアリティがあります。しかし、『鉄拳8』においてこの動作はモーションとして採用されていません。

カットが不採用となった理由は、カットが刀やチェーンソーも出てくる鉄拳世界の下段ガードとしては合わないため。このことからも分かるように、『鉄拳』におけるリアリティは、現実の動きの再現ではありません。

むしろ、鉄拳を構成するすべての要素を使って「鉄拳世界における独自のリアリティ」を創り上げることに重きを置いていると、山岸氏は語ります。

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『鉄拳』は現実の格闘技のリアルさを追及したゲームではなく、格闘ゲームです。そのため、多くのユーザーは漫画や映画で見るようなかっこいいポーズを求めており、このポーズは現実の動きとはギャップがあると山岸氏は言います。

その具体例として、

・現役のプロボクサーによるモーションキャプチャーから無加工で作られたボディアッパー
・鉄拳用の加工が施されたボディアッパー

の2種類のボディアッパーが、映像とともに紹介されました。

「実際のボディアッパーは、重心移動や軸がしっかりしているが、鉄拳に実装する動きとしては派手さが少なく、物足りない印象を受ける」と山岸氏はコメント。

これらの格闘家の動きを実際にゲームに実装する場合、視覚的なインパクトを持たせるための誇張表現が加えられるため、その作業はほぼ作り直しに近いものになるそうです。これこそが鉄拳世界独自のリアリティを出す作業なのだと言います。

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講演では、実際に完成したボディアッパーの映像も流れ、初段ヒットからのマシンガンのような連打や、最後の膝がヒットすると爆発のエフェクトと共に敵が燃えて上空に打ち上げられる様子が映し出され、これこそが「鉄拳世界におけるリアル」であることが紹介されました。

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そして、開発時のコンセプトである「圧倒的爽快感」を表現するため、アニメーション制作におけるテーマとして掲げられた言葉が “超暴力アクション”

鉄拳シリーズには格闘技だけでなく、バレエやダンスをモチーフにした技で闘うキャラクターもいるため、それらの動きを全て「圧倒的爽快感を目標とする暴力表現」に作り変えて表現していると、山岸氏は語ります。

『鉄拳』のモーションキャプチャー撮影

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そして、鉄拳の開発で使用されているのが、モーションキャプチャー。鉄拳のアニメーション制作では、映画・ゲーム業界の中でも先駆けて、自社スタジオによるモーションキャプチャー撮影に取り組んできたといいます。

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鉄拳シリーズが発足した90年代は、モーションキャプチャーは発展途上。

そのため、モーションキャプチャーを使ったとしてもノイズの多さから手作業での大幅な修正が必要であり、1から手作業でアニメーションを作る力、創造力が重視されていたとのこと。

その後、モーションキャプチャーの技術は発展したものの、

・格闘家の実践的な動きは鉄拳のゲームに必要な映える動きとは違う
・リアルな人間のジャンプ軌道は重力の支配が強く、ゲームに合ってない
・現実的な動きはゲームの技としては強すぎる

などといった様々な理由から、格闘ゲームの動きと格闘技の動きの間には差があります。なので、鉄拳にリアルな格闘技の動きを、そのまま取り入れることには限界があると考えられています。

アニメーターたちは、格闘技の実践的な動きをゲームシステムとの齟齬が生じない範囲で表現することになるため、1から手作業でアニメーションを作る力が現在でも重要視されていると山岸氏は語ります。

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また、鉄拳プロジェクトの核には 「アニメーションデータはゲームデザインの根幹に関わる」という哲学があります。企画職のスタッフもアニメーション制作に深く関与する体制が取られており、新人にはアニメーション研修が必須であると山岸氏は続けます。

アニメーションデータには、ヒットフレームや動作を正確に行う“厳密さ”と、組み込んだデータの再調整に迅速に対応する“柔軟さ”が求められ、モーションキャプチャーは、あればよりBetterなものという程度の認識であると山岸氏は言います。

そういった中でもモーションキャプチャーを使う理由は、 1人の人間の持つ引き出しには限界があるから。

一流のアニメーターであったとしても、同じような性能の技を作り続けていると、似たような動きになってしまうことが多々あるため、新たな引き出しとして、体を動かす専門家の力を借りるのだそう。

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次に、プロのアクション俳優によるモーションキャプチャー撮影の現場風景が映像とともに紹介されました。

アクション俳優はキャラクターに合わせた演技やアクロバティックな動きを得意としています。そのため、制作する上で1番お世話になっているのは、彼らのモーションキャプチャーだと山岸氏は言います。

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さらに、アニメーターの中に動きのイメージが明確にある場合は、アニメーター本人がスーツを着て撮影に臨むこともあるそうです。講演では山岸氏本人がアクターとなった、やられモーションの撮影の様子が紹介されました。

この撮影の際には、地面からの反発表現を優先して薄めのマットを使っていたため、倒れ込む際に結構な痛みがあったという裏話も語られました。アニメーターのモーションに対する熱意が感じられます。

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そして、アニメーターによる撮影の場合は、スタジオでの撮影だけでなく、カメラ不要のセンサー内蔵型のスーツ「MVN」を使用する場合もあることが紹介されました。

この方法は「思いついた時にすぐに撮影できる」ため、追加撮影や内容の変更に即対応が可能である上、コロナ禍での開発を余儀なくされた『鉄拳8』で非常に重宝したといいます。

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そして、MVNを活用した事例の1つとして、因縁のあるキャラクター同士の対戦で流れる専用の掛け合い“因縁演出”が紹介されました。

因縁演出はシネマティックパートからゲームへとシームレスに移行することが特徴であるため、立ち位置やフレームの細かな調整が必須となります。

なお、この際に紹介されたリリ風間飛鳥のモーションアクターを務めたのはどちらも同じアニメーターの“おじさん”だそうです。彼女たちの可愛らしい仕草も、そのおじさんによるものであるという現実も、合わせて語られました。

ちなみに、因縁演出における彼女たちの会話は、リリの喋るフランス語に対して、飛鳥が日本語で応える通訳を必要としないものになっています。こういったところからも、鉄拳独自の世界観が構築されているとのことです。

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続いて紹介されたのは、鉄拳のモーションキャプチャーの醍醐味である、本物の格闘家を起用した撮影。

ラジャダムナン・ルンピニー統一王者であるムエタイ選手、吉成名高さんによる撮影の模様が動画を交えて紹介されました。彼の動きは、『鉄拳7』のDLC追加キャラクターであるファーカムラム、『鉄拳8』のアズセナブライアンといったキャラクターたちに使用されたといいます。

技の見た目の再現から、さらに一歩踏み込んだ誇張表現。これが、鉄拳のアニメーションにおける難易度の高い部分であるとのことで、撮影の合間で格闘家の方に“身体操作のコツ”などについて話を聞いていると山岸氏は言います。

それにくわえて、山岸氏は格闘家の方と撮影をする際の注意ポイントとして、キャラクターに合わせた演技をお願いしてはいけないとコメント。これをすると、撮影現場の空気が悪くなるばかりではなく、格闘家の方の動きが崩れてしまうため、 プロの格闘家の方には普段通りの動きをしてもらうことが1番であると知見を述べました。

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名高さんの撮影に続く形で、YouTubeでも活動されている元極真空手世界王者、纐纈卓真さんによるモーション撮影の様子も紹介されました。

実際にミットをもって纐纈さんの技を受けた山岸氏の内腿は、帰宅後内出血して変色していたそうで、格闘家の技の威力の高さを感じました。こういった格闘家の方へのオファーを成立させるには、基本的にアタックあるのみだと山岸氏は語ります。

撮影前に講習などに自ら出向いて、格闘家の方と関係性を作ってから、モーションキャプチャー撮影の相談をする。そういった取り組みを経て、これらの撮影を実現させてきたと言います。

また、格闘家の方へのアプローチは、誰かの指示を受けるのではなく、アニメーターが各々の判断で自主的に進めているとのこと。山岸氏は「会社のデスクから離れたフィールドワークができることも、鉄拳アニメーション制作の良いところだ」と語ります。

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さらに「格闘家の方のモーション撮影をさせていただいた時は、実際に技を受けてみることも重要です」と山岸氏は言い、実際にアニメーターの方々が技を受けた時の映像も紹介されました。

その映像は、お世辞にも強く蹴っているようには見えない動きをしているキックを受けたアニメーターたちが、その威力の高さから驚きの声をあげているというもの。

その動きからは予測できないような威力を発揮する「蹴り」を体感することで、筋力だけでなく体重移動と跳躍動作が高い威力を生むことを、身をもって理解できたと山岸氏は言います。

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キャプチャーデータに対するまとめとして語られたのが、鉄拳のキャラには特定のアクターは存在しないということ。

そもそも、鉄拳を構成する上で必要不可欠なデータであるアニメーションを、モーションアクター1人に委ねるということはないそうです。撮影した全てのデータに対して、必ずアニメーターの手が加えられていると言います。

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モーションキャプチャーを使用するのは、作業の効率化や大量生産のためではありません。体を動かす専門家の引き出しを利用して、アイデアの幅を広げたり、アニメーターの知見を深めたりするためであると山岸氏は言います。

撮影こそしたものの、実際にはキャラと技の性能が合わずに実装を見送る場合も多々あるため、モーションキャプチャー無しの状態から全てを手で完成させられるような技量が現場では求められるとのこと。

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そして、ゲームの中の動きをアニメーターが作っている事例として、ブライアンの新技であるキャノンストレートが紹介されました。

そのモチーフはキックボクシングのスイッチストレートであり、格闘家は攻撃の直前まで予備動作が無く、相手に動きを悟られないようにして技を出します。

しかし、これをそのままゲームに取り入れた場合、プレイヤーがその動きを察知しづらくなるため、駆け引きの面白さが失われてしまうと山岸氏は言います。

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そのため、鉄拳のアニメーションでは意図的に予備動作や技を出した後の余韻部分である「フォロースルー」に相手に悟られるような動きを作り出しているそうです。これによって格闘ゲームの駆け引きが生まれ、プレイ感の良さにも影響を与えているとのこと。

このような、あえて相手に悟らせるような動きや、漫画的、映画的に映える動きは格闘家のキャプチャーからは得られないものであるため、 アニメーターが独自に生み出している表現だと山岸氏は語ります。

アニメーターの主体性を生む “アニメーターID”

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続いて紹介されたのが、鉄拳のアニメーションデータにまつわる独自の文化。

その独自の文化の1つが、「過去データは整理しない」というもの。
シリーズタイトルを多く持つ鉄拳シリーズでは、過去作の資産としてモーションデーターが数多く存在しています。にも関わらず、ファイル名も制作当時のままで残され、管理するリストも存在しないそう。

鉄拳プロジェクトに配属後に、この文化を知らされた山岸氏も「マジかよ」と感じたと語っています。

それでもこの手法が採用されているのは、鉄拳では過去のデータの整理や修正よりも、新キャラや新技などといった新要素の追加を1番に考えているから。

ユーザーに新しい遊びを提供することが第一であり、整理する時間があるなら、新しいものを生み出すために手を動かしてきたのが鉄拳の文化であると山岸氏は言います。

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そして、もう1つの鉄拳プロジェクト独自の文化が、アニメーターID。

鉄拳ではアニメーターが担当したファイル名にそれぞれの名前にちなんだIDを刻むルールがあり、 プロジェクトの全員が確認可能とのこと。

自分の作品に自分の名前が残るため、それがクオリティが高いものであればチーム内での影響力が上がり、逆にクオリティの低いものであった場合、作者の評判が悪くなる。

かと言って、クオリティを高めるために1つのモーションに時間をかけすぎていると、数をこなせずにアニメーターとしての存在感が無くなってしまう。

アニメーターIDがあることにより、クオリティという面では新人とベテランが平等になります。自身の担当データに対する責任感、質と量のバランスに対する意識が自然と生まれるだけでなく、主体的に仕事を進める人が多くなると山岸氏は言います。

こういった環境の中で、周囲の信頼を得ながら個性や味を身につけて成長していくのが『鉄拳』のアニメーター。技ごとに異なる表現をする上に、ゲームの中でも特に技数の多い本シリーズでは、アニメーターそれぞれの“作家性”がモーションに現れるようになることが、制作を進める上で非常に役立つと山岸氏は言います。

バトルアニメーションの制作

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『鉄拳』シリーズでは、新キャラクターと既存キャラクターの両方に担当のアニメーターが存在します。既存キャラクターの場合は数が多いため、1人のアニメーターが複数のキャラクターを担当する場合もあるとのことです。

いっぽうで、キャラクターごとに担当を分けることで、アニメーションのテイストに変化を生じさせるというメリットがあるそうです。このことが、同じゲームとは思えないくらいキャラクターごとに動きのテイストが異なる『鉄拳』の懐の深さにつながっていると山岸氏は言います。

そして、新たなナンバリングタイトルの制作時に鍵となるのが、新キャラクターの担当アニメーター。 キャラクターの動きや流派の提案、プロフィールを整えるのも担当アニメーターの仕事であり、一部のスタッフの間では、そのアニメーターが新キャラの作者として扱われる文化もあると言います。

良いキャラクターを作ることができれば功績として残り続けますが、その逆もまたしかり。作者として扱われるのは非常に責任の重い仕事であり、大変な分、1番面白くてやりがいのある仕事だと山岸氏は語ります。

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『鉄拳』のキャラクターは、担当アニメーターとバトル担当企画が組むことで仕上げられます。

『鉄拳』は対戦ゲームであるため、せっかくいい動きをするキャラクターを作り出したとしても、対戦環境を破壊してしまう強さは嫌われ、弱いと“空気”になってしまう。そのため、バトル担当企画が行う遊びの構築やバランス調整は非常に重要な仕事であると同時に、非常に難しい仕事であると山岸氏は言います。

なお、経験の浅いアニメーターが新キャラクターを担当することはなく、難易度の低い既存キャラを担当するなど、フォローしてくれる先輩たちがいる環境下で仕事を覚えていくそう。

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次に、シリーズ既存キャラであるポールを例に、バトルアニメーションの制作工程が説明されました。

バトルアニメーションは以下の5工程で進められます。

1.キャラクターの方向性の提示と擦り合わせ
2.新技の考案・検討
3.モーションキャプチャー撮影
4.アニメーション制作
5.バトル実装・性能調整

まず最初に行われるのが、キャラクターの方向性の提示。
ポールのような既存キャラの場合は、シリーズを重ねることで薄れてしまった個性をいかに強調するか、新たな魅力を出すには何が必要なのかについて議論が交わされたとのことです。

ポールはただのパワフルキャラではなく、ベースの柔道にパワーを載せた技が魅力の格闘家。見た目の印象で力任せな喧嘩技にするのではなく、格闘技術もしっかりと感じられるような技作りが、『鉄拳8』のポールの方向性として定められたと山岸氏は言います。

キャラクターの方向性が定まったところで進められるのが、新技のネタの考案と検討会。アニメーターとプランナーが、動きと技の性能の両方の視点からその中身を検討していきます。

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新技のネタが固まると、次に始まるのがモーションキャプチャー撮影。
ポールの右虎脚という新技の撮影の様子が動画で紹介されました。

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こうして納品されたモーションキャプチャーデータを基に、アニメーション制作の工程へ。

ポールのモーションキャプチャーはプロの格闘家ではなく、アクション俳優の方が担当。アニメーションに格闘技の身体操作のメカニズムを取り入れる形で編集を進めたと言います。

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そして、このデータをバトルモードに組み込み、リーチ、発生フレーム硬直時間の表現、やられのリアクションとの整合性を確認して調整を入れればバトルアニメーションの完成。ポールの新技である右虎脚の最終形が、動画で紹介されました。

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それに加え、技のフレームデザインに関する説明も。

鉄拳では常に構えた状態から技が出るわけではなく、移動から技が出ることもあるため、 技の初動を構えポーズからあえて飛ばし気味に制作することで、ボタンを押したらすぐ反応するレスポンスの良さを重視していると山岸氏は言います。

その他にも、鉄拳で技を制作する際に意識するポイントはもう1本別の講演ができるくらいの数があり、様々なことに気を遣いながら技を作っているとのこと。

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次に紹介されたのが、モーションキャプチャーを一切使用せずに0からアニメーターが作成した、ポールの隠れ疾風

漫画やアニメのような表現が含まれる技は、モーションキャプチャーで撮影をしても上手くいかない場合が多いため、こういった時はアニメーターが0からモーションを手作りするそう。

講演ではモーションの映像がスローで再生され、攻撃がヒットした直後に打撃を入れ込む動作がモーションに組み込まれていることが見て取れました。

この動きについて山岸氏は、ヒットフレームの絵で固めた場合、アクションの躍動感が失われて技が安っぽくなってしまうといいます。なので、『鉄拳』ではポーズの印象を余韻で残すことを優先し、ヒットの瞬間に細かい表現を取り入れていると語っていました。

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そして、0からアニメーターが作成した技も、バトルモードで確認と調整を行った後完成となります。

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最後に紹介されたのは、『鉄拳8』における必殺技である“レイジアーツ”の制作工程。こちらについても、ポールを例にその工程が説明されました。

レイジアーツは通常とは異なり、メンバーを絞った特殊な工程で進められているとのこと。まず最初に作られるのが絵コンテで、この作業はアニメーターが担当します。ポールの代名詞である崩拳(ぽんけん)をダイナミックに誇張演出したレイジアーツの絵コンテは、山岸氏自身によって作られたものであることが語られました。

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この絵コンテを基にモーションキャプチャーの撮影が行われ、限られた時間の中で撮影しきれなかった部分については、手作りでアニメーションを制作することになったと言います。

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そして、撮影されたモーションキャプチャーを基に、 アニメーターによってカメラを含めたアニメーションデータが作成されます。

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さらに、筋肉のパンプアップや、それによって袖が破ける表現などを追加し、 調整をする作業を実機上で進めることで、レイジアーツが完成。 このレイジアーツは動画で紹介され、躍動感と爽快感のある必殺技に仕上がっていることがうかがえました。

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もう1つ、最後に紹介されたのは、クマのレイジアーツ。クマの持ってる鮭がスペースメカニカルサーモンに変形し、相手に突撃した後に爆発するという衝撃的な内容のレイジアーツは、山岸氏のお気に入りであるとのこと。

こちらの場合は、絵コンテではなく開発途中に導入されたVコンテが使用されており、鮭が変形する様子が視覚的に分かりやすく表現されていました。サケがメカに変形するこのレイジアーツは、特撮『アクマイザー3』のゆうれい船がザイダベック号へ変形するワンシーンを参考としていると言います。

ちなみに、山岸氏曰く、ボツになるだろうなと思いながらこのレイジアーツを提案したところ、プロデューサーから1発オーケーが出たとのこと。更にプロデューサーからは「イクラを飛ばしてほしい」という要求も飛び出し、Vコンテの時点でイクラが大量に飛んでいます。

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当然、人間の動きで再現できないこのレイジアーツにはモーションキャプチャー撮影の工程は存在せず、Vコンテからアニメーションデータが作成されています。

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そして、実機上で調整が進められ、レイジアーツが完成となりました。クマのレイジアーツはインパクト抜群であり、映像を見ているだけでも、圧倒的な爽快感が感じられました。

ちなみに、山岸氏は本講演の発表用パワポを作る際に、クマの持つ鮭の名前が、当初のスペースメカニカルサーモンから三八式殲滅兵器・アラマキに変わっていたことに気が付いたと言います。くわえて、クマに限らず「レイジアーツ制作の時にノリで作った設定」が、そのままキャラクターの設定になっている場合が多々あると語りました。

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講演のまとめとして、山岸氏は、鉄拳アニメーターの流儀は“好き勝手にやる”ことであると語ります。

だからと言って、好き勝手に作ったものが簡単に通るという話ではないと山岸氏は語ります。

自分が作りたいものを勝手に作った場合、上手くいかなかった時に人のせいにはできないのです。 そのため、責任を持って最後までやり切ることが大切であると言います。

最近では、若手アニメーターがエンジニアと協力して全キャラクターのメインメニュー演出を実装したこともあるなど、 『鉄拳』のアニメーターが主体的にモーション制作を行っている様子をうかがえました。 これは、ユーザーに新しい遊びを提供することを優先してきた『鉄拳』プロジェクト独自の文化であると山岸氏は結びました。

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さて、本講演は、格闘ゲームである「鉄拳世界のリアリティ」を作るために、どのようにしてアニメーターたちがモーションを作成していくのか、どのようにして各々の作家性を発揮してキャラクターの個性を作り上げていくのかが語られる、非常に有意義なものでした。

登場するキャラクター達のド派手なアクションにより、ただボタンを押して対戦をしているだけでも楽しい『鉄拳8』。まるで、それぞれ別のゲームから来たかのように、個性豊かなキャラクターたちには、担当するアニメーター達の作家性が色濃く出ているように思います。

『鉄拳』の開発における取り組みや流儀が、どういった形で格闘ゲームに落とし込まれているのか。気になった方は、是非とも『鉄拳8』、引いては『鉄拳』シリーズ作品をプレイしてみてはいかがでしょうか。

ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW
編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。

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