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『怒首領蜂最大往生』最凶ボス”陰蜂”ノーコン撃破は全世界でただひとりしか達成していない不滅の大記録── 稼働開始から12年。人類には不可能とされた偉業を達成したプレイヤー(犀領さん)にクリアーまでの道のりを聞いてみた

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2024年、人類の誰ひとりとして成し得なかった大偉業が達成された。

シューティングゲーム『怒首領蜂最大往生』の隠しボス、 “陰蜂(いんばち)”がノーコンティニュー撃破されたのである。

『怒首領蜂最大往生』とは、「死ぬがよい」『怒首領蜂』シリーズを代表する名セリフ。『怒首領蜂最大往生』では陰蜂が「しぶといな……終わりだ、死ぬがよい!」と発する)のキャッチフレーズで知られる、『怒首領蜂』シリーズ屈指の高難度作品。2012年4月よりアーケードでの稼働がスタートし、2013年5月にはXbox 360に移植。そして、2024年12月19日にはLive WireよりNintendo Switch版が発売となり、稼働開始から12年以上が経過しても、変わらぬ輝きを放つ名作シューティングである。

『怒首領蜂最大往生』裏ボスノーコンティニュークリアしたプレイヤーにインタビュー_001

その難度の高さから話題にあがることが多いタイトルで、隠しボスとして現れる陰蜂は、常識外れのとんでもない攻撃性能でプレイヤーに襲いかかってくる。百聞は一見にしかず。こちらの動画を見ていただければ 陰蜂の凶悪さはわかっていただけるだろう。

そもそも陰蜂は出会うことすら条件が厳しく、稼働スタートから4ヶ月以上、その存在が判明しなかったというエピソードがあるほどで、あまりの「凶悪さ」から“シューティングゲーム史上最難関”と評され、人類に攻略は不可能と言われ続けていた。

そんな状況の中、稼働開始から約12年の月日が流れる。誰もが諦めかけていた2024年3月21日、あるプレイヤーがXbox 360版にて陰蜂のノーコンテニュークリアを達成した。

プレイヤーの名は犀領(Sairyou)

稼働から11年と336日で達成された、人類初の大偉業。この一報にシューティング界隈は大騒ぎとなり、メディアでニュースになるほどの盛り上がりを見せる。しかし、犀領氏のチャレンジはまだ終わっていなかった。Xbox 360版陰蜂撃破の様子を記録した動画のタイトルには【Not the end】と記載されており、京都のゲームセンターa-cho(アチョー)にてアーケード版をクリアすることを宣言。

そして、Xbox版での撃破からほどなくして、犀領さんはa-choにてアーケード版陰蜂ノーコンクリアを達成。2024年4月6日のことであった。

『怒首領蜂最大往生』裏ボスノーコンティニュークリアしたプレイヤーにインタビュー_002

先述したように、現在『怒首領蜂最大往生』はLive WireからNintendo Switch版が発売となっている。今回、特別に発売元のLive Wireさんの尽力をいただき、人類初となる偉業を達成した犀領さんに陰蜂ノーコンティニュークリアまでの道のりをうかがう機会を得た(オンラインにて2024年12月末に実施)。

陰蜂へ挑戦した3年間の日々。ある種の狂気に満ちた犀領さんのチャレンジから垣間見えたのは、「ゲームを楽しむ」というゲーマーのもっとも重要な素養、そして2025年1月31日での閉店が決定している老舗ゲームセンターa-choへの思いだった……。

聞き手/豊田恵吾
編集/逆道

※この記事は『怒首領蜂最大往生』の魅力をもっと知ってもらいたいLive Wireさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


「陰蜂ファンクラブ」がなければ3年でノーコンテニューは達成できなかった

── 本日は、よろしくお願いします。と、予想よりもかなりお若く見えるのですが、犀領さんはいまおいくつなんですか?

犀領さん:
今年で20歳になりました。

── ええっ! そんなに若いんですか!?

犀領さん:
いまは学生で高専に通っています。

── いやぁ、驚きました。てっきり年配のシューターが12年の年月をかけてクリアーしたのかな、と勝手に想像していたので……。ということは、『怒首領蜂最大往生』(以下、『最大往生』)陰蜂ノーコンクリア達成時は10代だったのですか?

犀領さん:
16歳から挑戦を始めていました。そこから3年をかけて、19歳のときにノーコンクリアを達成することができました。

── すごい! やっぱり若いと動体視力が強いのかもしれないですね。

犀領さん:
(笑)。

──犀領さんが陰蜂撃破を達成されたとき、リアルタイムでポストを拝見し、思わず「うおおおおっ!」と絶叫してしまって(笑)。犀領さんは『怒首領蜂大復活ブラックレーベル』のクリア報告もされていたので、以前から犀領さんの動向に注目していました。陰蜂ノーコンクリア達成に対して、当時どういった反響があったんでしょうか?

『怒首領蜂最大往生』裏ボスノーコンティニュークリアしたプレイヤーにインタビュー_003

犀領さん:
Xbox 360版をクリアしたときのリアクションでいちばん多かったのは、「本当にやったのか!?」でしたね(笑)。

── (笑)。

犀領さん:
私の攻略動画や弾避けの研究などを見ていてくださったフォロワーの皆さんは、「もしかすると、こいつだったらやれるんじゃないか?」と思っていただいたようで、「ついにやったか!」と賞賛していただきました。ただ、クリア報告が広まってから私のことを知った方々は「陰蜂ノーコンクリアは人類には不可能だったのでは!?」といった感じでした(笑)。

── 正直にお伝えすると、僕も「嘘だろ?」というリアクションでした。稼働からかなりの年月が経っていて、動向を当初から追ってきた身からすると「クリアはできないんだろうな」という、ある種諦めの感覚になっていたといいますか……。

犀領さん:
稼働から約12年ですからね。ただ、私は家庭用のクリアだけで終わる気は一切なく、絶対にa-choでアーケード版のノーコンクリアを達成したいと思っていましたので、引き続きチャレンジを続けました。

そして、Xbox 360版クリアから16日後の2024年4月6日にアーケード版のノーコンクリアを達成できまして、おかげさまでたくさんの賞賛コメントをいただきました。

── 最初にXbox 360版でノーコンクリアを達成されたときは、どのような感情が湧き上がってきたのでしょうか?

犀領さん:
クリアした瞬間のことは、いまでも鮮明に覚えています。

その日はゲーム音を消した状態でプレイをしていたので、「もしも達成できたとしたら部屋中に自分の声が響き渡るんだろうな」と思っていたんですが、実際には「えっ」と小さな声が漏れただけでした。
「え? 本当に倒したの?」と、自分でも信じられない気持ちが大きくて……。でもすぐに「まぁXbox 360版をクリアしただけだし、つぎはa-choのアーケード版だよね」という思考回路になっていました。

── なんでしょう、19歳とは思えない冷静さですよね(笑)。

犀領さん:
(笑)。そんな感じで、クリア後はすぐに気持ちの切り替えをしていたのですが、SNSでのクリア報告に対して皆さんがくださった数多くの賞賛のリプを見ていたら、メッチャ泣いちゃいました(笑)。

── a-choでアーケード版のノーコンクリアを達成された瞬間はいかがでしたか?

犀領さん:
家でひとりでプレイしているときとは違って、私のプレイを見てくださっている方が後ろに10人ほどいらっしゃったんですね。陰蜂撃破を達成した瞬間、私がこれまでa-choに行った中で、いちばん大きな歓声が聞こえたんです。本当にうれしくて、プレイ後に向かったa-choの休憩スペースですぐに泣いちゃいました(笑)。

── 歴史の証人になったわけですから、ギャラリーの方々のテンションの上がり方も納得です。

犀領さん:
「よくやった!」という言葉もかけていただいて……。そのときは「あー、ついにアーケードも達成したんだな。これで終わったんだな」っていう気持ちになりましたね。

── できることなら閉店前に、もう一度a-choさんでノーコンクリアを達成していただきたいですが……。

犀領さん:
閉店となる2025年1月31日にa-choに行くと決めてはいます。ですので、『最大往生』が置いてあれば可能性はゼロではない……ですね(笑)。

── 3年をかけて陰蜂ノーコンクリアを達成されたということですが、その3年という時間は、犀領さんにとってどんな期間だったのでしょうか。

犀領さん:
私としては、短くも長くも思わなかったというのが正直な印象です。「想定よりはちょっと早かったかな?」くらいでした。

── なるほど。犀領さんの想定では、もっと時間がかかるはずだったと。

犀領さん:
そうですね。2023年に陰蜂の体力をあと1センチ削れば撃破達成というところまで行けた神回があったんです。

傍から見ると「あと1センチ削るだけ」と思われるかもしれませんが、私はこのとき「ここからクリアまでは5年、ヘタすると10年かかるんじゃないか」と、冗談抜きで思っていました。

── 陰蜂をそこまで追い詰めたのに、なぜクリアまで5年以上かかると感じたのですか?

犀領さん:
これには明確な理由があります。

陰蜂攻略の最大の難所は最終形態なのですが、その動きはランダムで、毎回弾幕の重なり方や隙間の広さが異なるので、それによってゲームの難易度も変わってくるんです。

「ギャンブル」と私はよく言っているんですが、そのレベルで運要素が強く絡んでくる弾幕をつねに相手にしていたので、あの神回は「ただ運が良かっただけなんじゃないか」と感じてしまったんですよね。

それに、そもそも隠しボスの陰蜂を出現させること自体がものすごく難しい【※】ので、挑戦権の獲得すらできないことも多いんです。陰蜂が1日に何回もチャレンジできるような敵ではないというのも、クリアまでにまだまだ時間がかかりそうだと感じた理由のひとつですね。

※編集部注:陰蜂出現の条件は以下のとおり。
・ノーミス&ノーボム
・全ステージ蜂アイテムパーフェクト
・ランク30以上(S&L強化) / ランク15以上(EX強化)
・MaxHit数15000以上(S&L強化) / MaxHit数10000以上(EX強化)

── 陰蜂への挑戦権を獲得するうえでの鬼門はどこになるのですか?

犀領さん:
5面ボスの幸龍です。アイツがあまりにも強すぎるせいで、安定して陰蜂を出現させることができないんですよ。幸龍に到達するまでの道中よりも、ボス単体のほうが絶対に難しいと思います。

※5面ボス・幸龍戦の様子。映像はエキスパート強化(高難易度モード)のものです。

── ノーコンクリアー達成までの3年間で陰蜂と戦われた回数はどれくらいだったのですか?

犀領さん:
トレーニングモードの場合、1回のプレイが最短で30秒、最長で3分くらいなんですね。それを1日平均して2時間くらい続けていたので、1日で30〜50回くらいは挑戦していたと思います。

── 毎日その回数の挑戦を続けられていたんですか?

犀領さん:
さすがに毎日ではありませんが、疲労がたまっていなくてa-choに行かない日は、それくらいやっていました。

通しプレイになるとまた話が変わってきまして、Xbox 360版での累計の陰蜂出現回数は30回未満、アーケード版だと20回未満くらいだと思います。

家庭用はアーケード版とかなり仕様が違っていて、5面ボスの第2形態であるジェット蜂を出すことですら、かなりの難度の高さだったんです。アーケード版では、ジェット蜂の難度が少しだけ下がったり、入力遅延が変わったりするので、陰蜂を出現させた回数はちょっと少なく済みました。

── 思っていたよりも通しプレイの陰蜂挑戦回数が少なくて驚きました。

犀領さん:
トレーニングモードで下積みをしてから通しプレイをするという形で挑戦していました。トレーニングモードでの練習を続けていたからこそ、この回数でクリアできたのだと思います。

── 陰蜂ノーコンクリアについて深掘りさせていただきたいのですが、そもそもチャレンジを決意されたキッカケは何だったのでしょうか?

犀領さん:
『怒首領蜂大復活ブラックレーベル』の裏ボス”_@-zv_@”(Zatsuza)をノーミスで撃破できたことです。

これは陰蜂の前に立てていた目標だったのですが、無事に達成することができたので「つぎは何を攻略しようか?」と考えていたときに、「いまの実力で陰蜂に挑戦してみたいな」と率直に思いました。

── ちなみに、Zatsuzaの撃破にはどれくらいの時間がかかったんでしょうか?

犀領さん:
1年くらいはかかったと思います。

──早い!

犀領さん:
確かに短いですね(笑)。なんとか1年でクリアできました。

── この時点では、陰蜂もZatsuzaと同じく1年くらいで倒せるだろうという手応え、イメージだったんですか?

犀領さん:
何年かかるかとかは、まったく想定していませんでした。何年かかってもいいから、とりあえずトレーニングモードで1回だけでも勝ちたい、という気持ちだったんです。

── 挑戦を決意されたあとは、ご自宅のプレイ環境を整えるところからスタートされたんですか?

犀領さん:
そうですね。ただ、a-choで『最大往生』が稼働していたので、基板を買ったりはしていません。まずは移植版をやり込んで、ある程度攻略が進んでからa-choに行ってアーケード版での挑戦を進めていきました。

──自宅のプレイ環境をどう整えられたのですか?

犀領さん:
ゲーム環境には相当こだわりましたね。とにかく入力遅延の少ない環境を手にするために、ブラウン管テレビも買ったんです。

── なるほど。シューティングは入力遅延が命ですもんね。

犀領さん:
そうなんです。ブラウン管テレビを使用した場合のXbox 360版最大往生の最短入力遅延は4フレームらしいと聞いたのですぐに購入して、S端子で接続してちょっと画質を上げてプレイ環境を整えました。……ただ、正直「4フレームじゃ遅い」と思ってはいるんですけど(笑)。

──(笑)。

犀領さん:
アーケード版が遅延2フレームなんですね。Xbox 360版だと、Bボタンを押したのに間に合わなくて死ぬというケースがよくありますから。

あとは、コントローラーにもこだわっていまして、市販のXbox 360用コントローラーではなく、遅延の少なさからシューティング界隈で人気のUFB(ユニバーサルファイティングボード)という基板を使った自作のアケコンを使っています。

── UFBのお値段って、当時どれくらいだったんですか?

犀領さん:
私が買ったときは、10,000円くらいでした。これを買えば、USB端子でコントローラーを接続する、ほぼすべての機種で使えますから、コスパは相当いいかと思います。

── なるほど。ブラウン管テレビを購入されたとのことですが、入手するのはたいへんだったんじゃないですか?

犀領さん:
じつはすんなり購入できまして……。メルカリでブラウン管を探していたら、初代プレイステーション本体とソフトが3本、そしてブラウン管テレビのセットが、なんと1,000円というビックリするくらい安い値段で売っていたんですよ(笑)。

── えっ!?

犀領さん:
そうなんです、奇跡のようなことが起きたんです(笑)。このブラウン管テレビはパナソニック製で、2箇所ほどドット抜けはあったんですが、そんなことはどうでもよくて。私にとってはブラウン管テレビであることだけが重要だったので、すぐにそのセットを購入しました。

最終的に、この環境でXbox 360版をクリアすることができたので、出品者さんには本当に感謝しかありません(笑)。

── もしかすると、この記事の読者の中に「あれ? もしかして俺の……?」となる方がいらっしゃるかもしれないですね(笑)。環境を整えられたあとは、どのように攻略を進めていったのでしょうか?

犀領さん:
最初の1年は、陰蜂を出現させるまでの道中ステージの動きの基本形を作り上げることに費やしました。いろいろなことを試してみた結果、じつは1年目の時点で基本的な動きは完成していたんです。

── いやいや、簡単におっしゃられましたが、それはすごいことだと思います。

犀領さん:
(笑)。それに加えて、年末に初めてトレーニングモードのデフォルト設定で陰蜂を撃破することができたので、「道中と陰蜂でこのプレイがつながれば、理論上は行ける!」という手応えが1年目の時点でありました。

── いやー、聞けば聞くほどすごいといいますか……。ちなみに、a-choやほかのゲームセンターで犀領さんと同じように陰蜂に挑戦されているプレイヤーの方は当時いらっしゃったんですか?

犀領さん:
いや、自分の知る限りだとひとりもいなかったです。過去には、ニコニコ動画などでスーパープレイを公開されている方が2名ほどいらっしゃったんですが、私が挑戦しているときにはSNSでの情報公開や動画更新をほとんどされていなかったんですね。ですから、少なくともインターネット上には、私だけしかチャレンジャーがいなかったと思います。

── ということは、ほかのプレイヤーと情報交換や意見交換をすることはなく、犀領さんおひとりで孤独にチャレンジを進めていかれていたんですか?

犀領さん:
いえ、じつはそんなこともなくてですね、Discordのサーバーを作って、そこで情報の共有などをしていました。

ですので、視聴者側の目線で攻略のアドバイスや参考になる情報を提供してくださる方々がいらっしゃったんです。海外勢のシューターの方がアドバイスをくださることも多かったですね。

── なるほど。SNSもなく自分ひとりでストイックに突き詰めていた時代とは異なった進め方でクリアに近づけていったんですね。

犀領さん:
確かに、いま振り返ってみると現代ならではの攻略法という感じがしますね。ちなみに、Discordのサーバー名は「陰蜂ファンクラブ」です(笑)。

私がちょっと前まで使っていたスコアネームが “IFC” なんですが、それも「陰蜂ファンクラブ」の略でして(笑)。

── (笑)。挑戦を振り返って、Discord上の交流がなければ、陰蜂撃破はできなかったと思われますか?

犀領さん:
陰蜂ファンクラブがなければ、3年という期間でノーコンクリアは間違いなくできなかったと思います。

サーバー内では、「この弾幕の重なり方はこうすれば避けやすい気がする」「リソースの使い方はこうすればもっと良さそう」「陰蜂本体の動きはやっぱりランダムだったからそこはどうしようもないな(笑)」などといった色々なことを話し合いながら攻略を進めてきました。

結論、自分ひとりで攻略したということでは決してなく、孤独な戦いではありませんでした。

── なるほど。挑戦1年目の段階で、分析はある程度終えられていたとのことですが、その部分についてもう少し詳しく教えてください。

犀領さん:
ボスに至るまでの道中に関しては、ほぼランダム要素がないので、まずは可能な限り楽なレバー操作やボタン操作で進める、被弾しないパターンを作り上げることから始めました。

つぎにボス敵の攻略になるわけですが、「あいつら」と呼びますね(笑)。あいつらは動きや撃ってくる弾の形にランダム要素が絡んでくるんですね。一定の動きで対処することはできないので、そこを分析して研究し、なるべく楽にプレイができるようにしました。“楽をするための努力をする”。これが大切ですね。

── ランダムな動きの研究は、具体的にどのように突き詰められたのですか?

犀領さん:
ランダムとはいっても弾幕の本質そのものは変わらないので、最初は基本的な避け方を考えるところから始めます。

そこが固まると、どうすることもできないランダム要素は、無敵時間と弾消しが発生するハイパーシステムを使って「飛ばす」という考えに至るんです。

基本的な動きを作っておいてからアドリブで避けるか、ハイパーシステムを使って飛ばすか。私の場合はこのふた通りのパターンでランダムに対応していました。基本的にはその繰り返しになります。

── 攻略が先に進んでいるな、という感覚は、どのようなときに感じていらっしゃいましたか?

犀領さん:
それは、これまで “運ゲー” という言葉でごまかしていたところを、実力で突破できるようになったときですね。

何度も何度もチャレンジをしていると、弾避けのやり方がわかっていないはずなのに、たまたまうまく避けられたりすることがあるんです。そのときに「なぜあのときはうまく避けられたのか?」、録画を見返して研究するんですね。

たとえば、陰蜂のランダムって完全なランダムではなく、ある程度のパターンがあるんです。なので、以前経験したものと、まったく同じ攻撃がくることがあるんですよ。そのタイミングで今度は運ではなく、実力で狙った通りの弾避けができたときがもっとも弾避けのよろこびが大きいというか、楽しさを感じますね。

── 弾避けに再現性を持たせることが大切なんですね。

犀領さん:
そういうことですね。じつは陰蜂の発狂モード【※】の対策って、こういう再現の繰り返しなんです。とにかく、運でどうにかしていたところを形にして、実力で避けられるように変えていく。これは陰蜂に限らず、弾幕攻略をするうえで有効な考え方のひとつだと思います。

※陰蜂の発狂モード:陰蜂から無数の回転オプションが現れ、高速・中速の大型青弾を発射。さらには赤弾とふぐ刺し弾を回転射出する。とにかく画面が陰蜂の弾で覆われる。隙間はほとんどない。

『怒首領蜂最大往生』裏ボスノーコンティニュークリアしたプレイヤーにインタビュー_006

── なるほど。さきほど「楽しい」という言葉がありましたが、陰蜂に挑んでいる3年間は楽しかったのでしょうか。

犀領さん:
SNSで大々的には言っていないのですが、楽しさは3割くらいでしたね(笑)。あとは正直、しんどいが4割。残りの3割は「どうすればいいんだろう?」という思考でした。

── 陰蜂を前にして楽しさが残っている時点で、すごいことだと思います。

犀領さん:
あくまで私はエンジョイゲーマーですので、ゲームをやる楽しさだけは絶対に忘れたくありませんでした。

私にとっての弾幕シューティングの楽しさは弾避けで、これがなかったら絶対に陰蜂攻略をしていなかったと思います。

陰蜂の弾幕って、陰蜂の弾の数や速度、自機の当たり判定を考えると、人間には難しすぎるという類のもので、理論上不可能ではないんですよ。「じゃあ、自分がうまくなればいいだけだな」と思ったので、挑戦を続けていました。私としては、そういうボスを攻略しているときが楽しいんですよね。

── 陰蜂へのチャレンジは、1日に何時間くらい挑まれていたのですか?

犀領さん:
家でプレイする場合の話ですが、とりあえず1回やってみて、「今日は集中力がなさそうだから、早めに切り上げようかな」と1時間しかやらない日もあれば、撮影した動画を見返して分析する作業を繰り返して、気付いたら5〜6時間ぶっ続けでやっていた、という日もあります。

── 基本的にご自身のプレイは録画されているんですね。

犀領さん:
はい。録画して見返していますね。

── シューティングは集中力が重要だと思うのですが、集中力を切らさないための工夫があればお聞かせください。

犀領さん:
ずっとプレイを続けていると、集中力なんて本当にすぐ切れてしまうので、ある程度遊んだらいったんやめて、研究に思考回路を切り替えてリフレッシュしていました。

自宅ではプレイをつねに録画していますから、遊び終わったあとに撮影した動画を見返して、今回のプレイの何がダメだったのかを研究してからプレイに戻る。a-choではダメだったところをその場で考えて改善していく。このサイクルを繰り返して、集中力を維持していました。

── 研究のあいだは、イメージトレーニングもされていたのでしょうか?

犀領さん:
それはもうつねに頭を回してイメージトレーニングを行っていました。

弾避けの攻略では「どうしたらいいのか」ということをつねに考えていますので、イメージトレーニングは欠かせませんね。

── ちなみに、陰蜂撃破チャレンジ中は、ほかのゲームを遊ぶ機会が減ってしまうだろうなと勝手に想像していたのですが、『最大往生』以外のゲームを遊ばれることはあったのですか?

犀領さん:
あくまでもゲームですので、そのときに遊びたいと思ったタイトルをプレイしていました。

よく、“他ゲーに逃げる”という言い方をしてしまうんですが、リフレッシュになりますし、陰蜂攻略をある程度進めてからほかのゲームをやってみると、意外とそちらのプレイスキルが上達していることもあるんですね。ですので、結構意識していろいろなゲームをやっていました。

── 挑戦の1年目で基本パターンを構築されたということですが、2年目ではどのようなことをされていたのですか?

犀領さん:
ひたすら陰蜂を出現させるまでの安定化と、陰蜂のメインになる弾避けのコツをつかむことに集中していました。内訳としては、陰蜂の練習が7割くらいで、残りが道中の練習です。

トレーニングモードで陰蜂を倒すまでは、「トレーニングモードで倒せたらそこで終わりでいいや」と思っていたのですが、そこに至るまでの道中も仕上がってきたので、さきほど話したようにノーコンクリアが理論上可能であることがわかってしまったんですよね。

トレーニングで陰蜂を撃破したその日から「通しプレイも狙ってみようかな」という意識に変わったので、このことはかなり大きかったです。

── 年単位で同じ敵に挑み続けるというのは、ある種の狂気をはらんでいるようにも感じます。長期間にわたる挑戦を続けていくモチベーションは何だったのでしょうか?

犀領さん:
いちばんお世話になっているゲームセンター「a-choさんで絶対に達成したい」という気持ちですね。

初めて『最大往生』を触ったときからa-choさんでのノーコンクリアをヒッソリと夢見ていたので、このことがもっとも大きなモチベーションになっていたと思います。

あえて奇跡という言い方をさせていただきますが、陰蜂ノーコンクリアという奇跡を自分の手で成し遂げてみたかったという気持ちも、やはり大きいです。好奇心のみで足を踏み入れた攻略ですが、原点にはその気持ちがありますね。

── 途中、心が折れるようなことはなかったんですか?

犀領さん:
ぶっちゃけて言いますと、そこそこありましたね。とくに2023年は、ほとんどずっと『原神』をやっていました(笑)。

あまりにも『原神』が楽しすぎて、10ヵ月くらいは『最大往生』から離れていたと思います。
あの時期はa-choにも数えるほどしか行っていなかったですし、すごい勢いで『原神』にハマっていました。

── そこから『最大往生』に復帰するにあたり、ご自身の中で何か変化があったのですか?

犀領さん:
完全に挑戦を辞めてしまったわけではなく、ちょこちょこと続けてはいたんです。再びしっかりと向き合うことにしたキッカケは、かやる(kayar)さんという『最大往生』プレイヤーがいらっしゃるんですが、その方が2024年の3月に全一スコアを更新されたことでした。

これが『最大往生』界隈ではとんでもないニュースでして、その方に触発されて「やるならいましかない!」と、攻略を再開しました。

それがキッカケで陰蜂攻略に本格復帰したところ……まさかの2日後にXbox 360版でノーコン撃破できたんです(笑)。

── そんなことがあるんですね(笑)。

犀領さん:
あまりにも奇跡的すぎました(笑)。

── シューターは孤独だと思っていましたが、先ほどのDiscordサーバーの話もそうですし、じつはコミュニティや他者とのつながりが偉業達成に大きく関わっていたというのは驚きでした。すごくいいお話だなと思います。

犀領さん:
ひとりだけで攻略を進めていたわけではないんですよね。少なくとも私の挑戦に関しては、ほかのプレイヤーの方との交流のエピソードを絡めないと話せないものなので、コミュニティ自体の力はもちろん、そこからいい影響を受けたというのが大きかったと思います。

── 復帰から2日でクリアというのは奇跡的な出来事ですが、感覚的に何か違うものがあったんですか?

犀領さん:
正直、『原神』を始める前とそんなに変わらなかったですね。

── では、逆にブランクを感じられたりは?

犀領さん:
それが、体がめちゃくちゃ覚えていまして、当時の感覚がぜんぜん抜けていなかったんですよ。

ボスの弾避けがちょっとだけ下手になっていたりはしたんですが、数回の練習で戻ったので、復帰の弊害はなかったですね。

言ってしまえば陰蜂は運ゲーですので、「とにかく出現回数を稼いでいれば、いつかクリアできるんじゃないか」と思っていたわけです。Xbox 360版のクリアは、それらが本当に奇跡的につながったというような感覚です。

── 陰蜂も空気を読んだのかもしれませんね。「ひさしぶりに私のところに帰ってきてくれたから、お望みの動きを出してあげようかしら」と(笑)。

犀領さん:
それはちょっとあるかもしれないです(笑)。あのときの陰蜂は後半、完全にデレてました。

弾避けは二の次、とにかく敵を倒せ

──漠然とした質問となりますが、 『最大往生』に限らず、シューティングゲームの腕前を上達させるために必要なものってありますか?

犀領さん:
シューティングというよりは弾幕シューティングの話になってしまうのですが、まずは出現する敵をすぐに倒すことが大切ですね。

これは完全に私の持論ですが、敵弾っていうのは、敵を速攻で撃破できなかったことに対するペナルティなんです。

── 「やられる前にやる」ということですか?

犀領さん:
そういうことです。私は基本的にスピードの速い機体を好んで使っているのですが、その理由は敵の最速撃破にいちばん向いてるからなんです。

シューティングの楽しみ方は人それぞれですが、私はひたすら敵をなぎ倒すプレイスタイルが合っていて、そこに楽しみを感じますね。

ですので、もしも私が弾幕シューティングを始めたばかりの人にアドバイスをするとしたら、「まずは弾を避けることは考えずに、とにかく敵を倒せ」と言いますね。

──目から鱗ですね。弾幕シューティングで最初にすべきなのは、弾幕を避けることではないと。

犀領さん:
どうしても弾幕はインパクトが強いので、そこに目が行きがちですけど、弾幕なんて二の次ですね。

例外的な作品もたくさんありますが、基本的には「シューティングはシューティング」なんです。

──ケイブのゲームをプレイされたあとにそう言えるのはすごいです(笑)。

犀領さん:
そして、敵弾を避けるということになると、また別の思考回路になります。これは多くの方がおっしゃっていることですが、敵弾には固定弾とランダム弾と自機を狙ってくる弾の3種類があります。

この中で、固定弾と自機を狙ってくる弾については、決まった動きをすれば避けられるんですが、ランダム弾はそれができない。なので、結論としては、“避けなくていい弾”を見つける必要があるんです。

── どういうことでしょうか?

犀領さん:
『怒首領蜂』一面ボス、スザク08がいい例ですね。

このボスは、細いピンクの弾で自機を閉じ込めつつ、自機狙いの弾を撃ってくるという攻撃を繰り出してくるんですが、ピンクの弾は動かなければ絶対に当たりませんが、自機狙いの丸弾は動かなければ被弾してしまう。

つまり、見るべき弾は、自機狙いの丸弾だけなんです。初めて弾幕を相手にされる方って、弾幕全体を見て「避け方がわからない」と感じがちで、私もよくそういった光景を目にするんですけれど、実際に見るべき弾はそこまで多くないんですね。

また、『最大往生』の5面中ボスの災光(サイコウ)も自機を閉じ込める攻撃を仕掛けてくるので、“避けなくていい弾“を見つけるいい例ですね。

『怒首領蜂最大往生』裏ボスノーコンティニュークリアしたプレイヤーにインタビュー_007
「閉じ込め攻撃」の例。5面中ボス1体目・災光(サイコウ)戦より。画像はエキスパート強化(高難易度モード)のもの

まずは見るべき弾を理解して、つぎにその弾をどうやって避けようかという考え方をして弾幕に対処する必要があると私は思います。

── 理論はわかるのですが、いざ実践しようとしてみると、そんな余裕はなく気づいたらやられてしまう、という方が多いと思います(笑)。

犀領さん:
弾幕の対処に関しては、もう慣れですね。弾幕は組み合わせによってたくさんの種類があるので、最終的には知識や経験が重要になってくると思います。

── 犀領さんご自身が「プレイスキルが上がったな」と感じられた、具体的な事例があれば教えてください。

犀領さん:
大きくふたつあります。ひとつは、プレイステーション2版の『怒首領蜂大往生』のオリジナルモードであるボスラッシュ、デスレーベルを人類で初めて2周クリアされた方の動画を見て、自分でも同じモードをプレイし始めたことです。

当時『怒首領蜂』の1周クリアもできない程度の腕前だった私にとっては、その動画はあまりにもカッコよすぎました。その動画ではレバーを持っている手元の様子も映されていたんですが、その方がいわゆる “ワイン持ち” でレバー操作をされていたので、それに憧れて私もワイン持ちでプレイするようになったくらいです。

── すごく影響を受けていらっしゃるんですね。

犀領さん:
そうですね。デスレーベルをプレイするためにプレイステーション2を買って攻略を始めたのですが、デスレーベルではボスに対抗するための動きや弾避けの能力が必須なので、その攻略を進めているうちに、自分の地力も上がっていきました。

※編集部注:犀領さんは2024年7月に『怒首領蜂大往生』デスレーベル2周ALLクリアを達成されている。

腕前の自信についても、デスレーベルで持てるようになったんですね。それを感じた相手はデスレーベルを語るうえで外せない、3面ボス “厳武(ゲンブ)”の最終形態です。厳武はネットなどで「当時はクリア不可能と思われていたレベルの難しさ」とよく説明されていた強ボスなのですが、その弾を避けられるようになってきたときに、メチャクチャ自分の弾避けの実力に自信が持てるようになりました。

そして、もうひとつのプレイスキル向上のキッカケは、陰蜂攻略です。陰蜂攻略でもっとも難しい発狂モードは弾避けがすべてなので、自分の中ではここで弾避けの能力がさらに上がったという感覚があります。

── シューティングゲームをパターン化する攻略というのは、いわゆる覚えゲーですから再現性が高いのはわかります。一方で、ランダム攻撃への対応については、努力だけでは埋まらない才能のようなものが求められるのでしょうか?

犀領さん:
弾避けについては、プレイヤーさん個人のスキルに依存する部分はもちろんあります。ですが、弾避けが苦手な人でも、弾幕を理解して可能な限り楽な避け方を開発するという攻略法で挑戦できるので、才能というひと言で片づけることはできないと思います。

── 楽な避け方の開発というのは、何度も何度もプレイを繰り返す感覚なんでしょうか? それとも、ゲームオーバーになったときに「こうしておけば避けられたんじゃないか?」とロジックで分析されるのでしょうか?

犀領さん:
両方ですね。「なぜ死んだのか?」というところをしっかりと理解して明確にしつつ、あとは敵に何度も何度も挑戦して、「こうすればいけるんじゃないか?」と思い描いた攻略法を実際に形にして進めていく感じです。

── いまさらの質問になりますが、シューティングゲームをプレイされるときって、画面のどこを見ているのですか?

犀領さん:
ちゃんと練習してやり込んでるゲームと、初めて遊ぶゲームで見方を変えています。

どの順番でどこに敵が出てきて、どういう弾を撃ってくるのかを完全に理解している『最大往生』の場合は、基本的には構築済みの動きをすればいいので、注視すべきところは、敵が出てくる場所やつぎに通るべき弾の隙間になってきます。決まった動きをするというのは弾幕シューティングの基本になるので、画面全体を俯瞰的に見る場面はそこまではないと思います。

ただ、逆に初見のゲームの場合は、敵の出現タイミングや弾の撃たれ方がまったくわからないわけですから、画面全体を俯瞰的に見て、出てきた敵を撃ってくる弾に警戒しつつ速攻で撃破していく、という感じです。

── 「やられる前にやる」ですね(笑)。

犀領さん:
あと、例外はありますが、弾を避けるときは基本的に自機の少し上を見ています。自機の中心を見ていると、上から飛んでくる弾や、低速の弾避けしてる最中に飛んでくる高速の弾に反応できないんです。

── 自機の当たり判定もゲームによってさまざまですが、この辺も理解されていて、通ることができる隙間を見極めていらっしゃるんですよね。

犀領さん:
『最大往生』みたいにやり込んでいるゲームですと「絶対当たらないから、この隙間は通れる」という理解があるのでそういったプレイができますが、初めてやるゲームの場合は話が変わってきます。

最初は自機や敵弾の当たり判定はわからないわけですから、私にできることはいちばん広い隙間を見つけて、そこに自機の中心を持っていくことだけなんです。これをもう徹底していますね。

── なるほど。先ほど、やり込んだゲームでは決まった動きを作ることで敵に対処しているという話がありましたが、そういった動きなどについて、ご自身で攻略メモのようなものを書かれているのですか。

犀領さん:
ある程度作りはしました。その情報を陰蜂ファンクラブ内で共有したりはしましたが、そこ以外で公開することは基本的にありませんでしたね。動きは全部自分の中にインプットされている感じです。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW

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