※この記事は、『BanG Dream! Ave Mujica』#7までの内容およびネタバレを含みます。本作をご存知でない方にもぜひお読みいただきたいところなのですが、本作の魅力をお伝えするために、ある程度踏み込んだ感想となっております。未視聴の方は、本作の紹介部分からお読みいただいたうえ、ぜひ第7話までご視聴ください。
『BanG Dream! Ave Mujica』の#7に、見入っていた。
なんか、途中から気づき始めた。
「この回、ちょっとすごいんじゃないか」って。
その回の前半……いわゆる「Aパート」の段階から、ちょっと泣けてきた。バラバラになったはずのCRYCHICのメンバーが、祥子と睦のために再集結し始める。解散したけど、それでもメンバーだった。
正直、「CRYCHICの再集結」はやらないんじゃないかと思っていた。
この『Ave Mujica』というアニメの主役は、あくまで祥子たちAve Mujicaである。CRYCHICの物語は、この作品が始まる前に終焉を迎えていた。終わっていた。でも、もう一度揃った。
大前提として、この『It’s MyGO!!!!!』と『Ave Mujica』というふたつの作品を通した、かなり壮大なギミックとして、「CRYCHICの再集結」をやってのけたのが本当にすごいと思う。この時点で泣けてくる。ずっと、CRYCHICの再演を待っていた。
「このうたは、祥ちゃんのことを考えて、書いた、うた」
「でも、考えても、ぐちゃぐちゃで……、何も、見えなくて……
なのに……っ、なにも、わからない……けど……っ」「CRYCHIC……やれて、よかった……」
私たち、見たいものしか見てなかったのかな。
他にはない、特別なバンドだって思ってた。
本当に……運命だって信じちゃうくらい……。みんなと集まる毎日が楽しくて、輝いて見えた。
失ったからこそ、余計きれいに見えてたのかもね。
欲しくて、戻りたくて、たまらなかったよ。
そして、CRYCHIC最後の「春日影」が流れ始める。
「曲のイントロだけで泣く」現象、久しぶりに味わった気がする。
正直、「春日影」もやるとは思っていなかった。
やったら嬉しかったけど、本当にやるとは思わなかった。
『It’s MyGO!!!!!』の頃から、この作品の「音楽讃歌」の側面が好きだった。
何度逃げても、人生は終わらない。
永遠に迷いながら、人生という地獄を進み続けるしかない。
しかし、そんな暗闇の中でも、「音楽」は輝き続ける。
夜空に輝くきらきら星のように、音楽は人の心を照らし、音楽は人生を変える。そんな「音楽信仰」じみた実直さが好きだった。CRYCHICの春日影に、そんな音楽讃歌と音楽信仰の極地を見た気がする。
燈の歌に救われた。
あの日みたいな最高のライブが、これからもずっと続いてくんだって……
それができる無敵のバンドだって、勝手に期待してた。でも本当は、普通の私たちが、普通にバンドしてた、普通のバンドだったんだ。
そんな普通のCRYCHICが、あの時の私には必要だった。
私のままここにいていいんだって、
初めて思えた場所だったから。
『Ave Mujica』という作品は、「終わりの始まり」を描いていると思う。
Ave Mujicaというバンドが立ち上がり、破滅へと向かう「終わりの始まり」。祥子の転落っぷりをこれでもかと描く「終わりの始まり」。一度解散して、その先を描こうとする「終わりの始まり」。
だけど、CRYCHIC……#7だけは、真逆の「始まりの終わり」を描いていると思う。
燈にとっての、音楽の始まりだった。
そよにとっての、執着の始まりだった。
立希にとっての、普通の始まりだった。
祥子にとっての、青春の始まりだった。
睦にとっての、居場所の始まりだった。
だけど、そんな思い出も、居場所も、今日で終わる。
終わっていなかったすべての「始まり」に、決着をつける。
そしてようやく、「始まりの終わり」を迎えることができた。
なんだか話を広げてしまうけど、そもそも『BanG Dream!』という作品は、ずっと「日常の中にある音楽」を大切に描いている気がする。「バンド」を描くと同時に、「学生」としての側面をずっと描いている。日々の中にある音楽、生活とともにある音楽。その尊さを信じ続けている。
当たり前の景色の中に、キラキラドキドキはたくさんある。
ありふれた日常でも、見方を変えれば輝いて見える。
CRYCHICだって、そんな日々のきらめきに溢れていた。
終わってしまったあの日々は、とても楽しいもので、忘れられない時間だった。
普通のバンドだったけど、なによりも輝かしい日々だった。
そんな「日々の美しさ」を、#7は改めて強く打ち出してきた。そう感じました。
わたくしのよすがでしたわ。
目を逸らそうともがくほど、深みにはまってしまうくらい。
けれど、これで最後。CRYCHICは、もうないんですのね。「ありがとう、大好きだよ」
「今はもう、私たちの居場所じゃなくても」
「今日の演奏、きっと一生忘れませんわ」
なんか陳腐な言い方をしてしまうけど、「春日影」という曲が、「卒業ソング」になったところがすごいと思う。CRYCHICの始まりの歌が、CRYCHICの終わりの歌になった。一度はCRYCHICを引き裂いた歌が、CRYCHICを繋ぎ直す歌になった。
眩しい日々を謳った曲だった。
美しい時間を叫んだ曲だった。
あの手の温かさを忘れないための曲だった。
春日影は、「CRYCHICで活動する楽しさを歌った、現在進行形の曲」と、「あの頃の楽しさを歌った、過去形の曲」という、2通りの解釈ができる……気がする。燈の魂の叫びは、過去から現在に向かって届いていた。今も昔も、燈の歌は人を繋ぎ止めていた。
アニメを見ていて、こんなに泣いたのは久しぶりでした。
正直、もうここで『Ave Mujica』は終わってしまってもいいんじゃないかと思うくらい、壮絶で、美しくて……最高の回でした。もしかしたら、『BanG Dream! CRYCHIC』という作品の最終回が、この#7なのかもしれない。素晴らしい音楽を、青春を、ありがとうございました。
……そして『Ave Mujica』を見ていない人にはなぜ私がこんなにも感動しているのかサッパリわからないと思うので、ここから未視聴の人に向けて『Ave Mujica』の話をしましょう!
いや、ここまでOPですよ?
アニメで言ったらまだアバンだからね?
冒頭なっげ────────!!!!!!!!
氷のエージェントとスペードのエース 黒纏ったエトランジェ
自分で言い出しといてなんですけど、「『Ave Mujica』の面白さを説明する」ってかなり難しくないですか? なんて言えばいいんだろう、このアニメ? 全く知らない人にどう説明すればいいんだ?
ちょっと、順を追います。
このアニメ、その名の通り「Ave Mujica」というバンドが主人公のお話です。
一応作中では大人気のバンドで、それこそ武道館でライブをやったりします。
そんなAve Mujicaの中心的存在が、「豊川祥子」。
なんとなくお嬢様っぽいビジュアルの子ですが、本編が始まる前に「実はボロアパートに住んでいて、アル中っぽいダメ親父を養っている」という衝撃の事実が明かされました。
これ、『It’s MyGO!!!!!』【※】の最終話でいわゆる「クリフハンガー」的に明かされるのですが……正直アニメをリアタイしていた当時の自分は困惑しました。「いや、MyGO!!!!!の話がいい感じに決着ついたのに、最後にこんなキャンバスに墨汁ぶちまけるような真似してくるのか」と。
※『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』
「MyGO!!!!!」というバンドが結成するストーリーを描いた作品。『Ave Mujica』とは繋がりがあるものの、話は独立している……と言えなくもないような……そうでもないような……とにかく、最後に次作である『Ave Mujica』へのクリフハンガーが仕込まれている。
祥子の一周回って面白い気がする凄惨家庭事情を映して、クレジットに表示される「スペシャルサンクス:バンドリーマーのみなさん」。バンドリーマーのみなさんも困るだろ。
この「祥子はダメ親父とボロアパートに暮らしている」という、一体どんな気持ちにさせたいのかわからないクリフハンガーに、大体1年半くらい待たされた。そしてようやく始まった『Ave Mujica』。
とりあえず、#1で「そもそもなんで祥子はこんな没落しきってるのか」をしっかり描いてきた。まず、父親がやらかして168億円の損失を出してしまったらしい。水原一平の約2.7倍の損失。当たり前だけど、父親は家から追い出された。
しかし、祥子は諦めなかった。
腐っても、大損害を出しても、血の繋がった父親である。家を飛び出し、父親の元へ向かう。父親は、信じられないボロアパートに住んでいた。しかも酒に溺れていた。でも祥子はくじけなかった。中学生ながらに新聞配達のアルバイトを始めて、父親と生活することにした。
なんか、この時点で泣けてくる。
別に感動とかじゃなくて、もう野島伸司のドラマでも見ているかのような涙が出てくる。
必死に日々の生活費を稼ぐ祥子。
こんなことになる前、祥子は友人たちと結成した「CRYCHIC」というバンドでの活動を楽しんでいた。しかし、もう学費を払うことすら難しい。どうにかバンドのメンバーには説明する時間を確保しようとしていたものの、クソ親父は相変わらず酔い潰れて警察署に連行される始末。
もう、どうにもならなくなった。
人生、立ち往かなくなった。
CRYCHICから突然の脱退を宣言する祥子。
友人たちに、こんなこと言えるはずもない。理由は告げずにバンドを抜け、降りしきる雨の中、声をあげて泣きながら帰路を辿る豊川祥子━━と、ここまでが大体のあらすじでしょうか。なにこのアニメ? こうして整理すると改めて思いますね、なんなのこのアニメ?
それでも祥子は音楽活動を諦めずに「Ave Mujica」を結成し、なんと武道館での単独ライブを開催する大人気バンドにまで登り詰めたのだった。これが#1の内容。
なんか、結構異質だと思うのは「すでに売れているバンドの話」なところ。
まさに「大ガールズバンド時代」と言っても過言ではないくらい、さまざまなガールズバンド作品が盛り上がりを見せている昨今ですが……どの作品も、割と「バンドとしての始まり」から描かれがち。いきなり売れてるわけじゃない。結成や成長を描き、それこそ武道館なんかは最終目標くらいのノリ。
でも、『Ave Mujica』は#1で武道館ライブを達成している。
「もうとっくに売れているバンドの話」なんです。ここが違う。
そして、このバンドがいかに破滅を迎えていくのか……まさに「終わりの始まり」が描かれる作品なのです。つまるところ、「頂点からの転落」という破滅の美学をじっくりと描いている作品でもある。ヤバい、真面目に説明するほど全然楽しそうに見えない! いや面白いんだって!!
MANNEQUINS,REPLICANTS,PIMPS,PSYCHOS,TERRIBLE ANIMALS
まぁ、「波乱のドラマ」みたいなところは言わずもがなという感じなのですが……このアニメ、「ありえないこと」が起きるんですよ。もう、私の語彙では「ありえないこと」としか表現できない。
なんか、バンドメンバーの「第二の人格」が出てくるんです。
私気づいた、このアニメ知らない人に説明しようとするとシュールになるわ。
Ave Mujicaのギターを担当している、「若葉睦」という子がいるのですが……いろいろ追い詰められた結果、「モーティス」という別人格に飲み込まれてしまいます。無口でひかえめだったはずの睦ちゃんが、モーティスに入れ替わった途端、これでもかと饒舌にしゃべり、バラエティ番組でも大活躍する。
そもそも薄氷のうえでブレイクダンスするかのごとき奇跡的バランスで成り立っていたAve Mujicaは、この「モーティス」の登場によってさらにかき乱されていく。崩したやつから殺されるデスジェンガの最中に元気な子猫を投入してしまったくらいの緊迫感が流れ続ける。
そして、元の「若葉睦」の人格は引っ込んでしまった。
睦ちゃんの肉体は、完全に別人格に乗っ取られてしまったのだ。
ありえないことだよ。
もう「ありえないこと」としか表現できないだろ!!
どうしたらいい、ブシロード? 俺はどうすればいい?
ただ、『Ave Mujica』はアニメ的にも「現実」と「空想」の境界が壊れていく演出をすごく意識していると思います。これは「ありえないこと」が起きる作品である。狂っているのは現実か? それとも自分たちか? 映像から、そう感じさせてくれる。
要するにアレです、「1の世界」と「2の世界」ってやつです。
どこまでが「1の世界(現実)」で、どこからが「2の世界(空想)」なのか?
これは劇なのか? それともライブなのか?
現実侵食型ガールズバンド、Ave Mujica。
映像や演出から、「現実世界の話」という建付けを打ち破ろうとしている感覚があります。『ウテナ』や『まどマギ』を引き合いに出すと安直かもだけど、あのでたらめさをガールズバンド作品に持ち込んでいる気がします。
人気絶頂のバンドがどんどん追い詰められていく緊迫感と、各々の策謀が交錯する波乱のストーリー。現実と空想の境界が崩壊していく狂気じみた映像。このふたつが混ざり合って生まれる混沌、それが『Ave Mujica』だと思っています。……伝わってる!? ねえこれ伝わってる!?