「破天荒」のひと言で片づけられない真島の兄さんの魅力とは
さて、『龍が如く8外伝』の概要についてあらかたお話させていただいたところで、ここからは「つまり真島の兄さんってどういう人なの?」という点について話を進めていきたいと思います。
真島の兄さんが登場するシーンのすべてをご紹介できれば最高なのですが、先ほど触れたように真島の兄さんは『龍が如く』シリーズを通じての人気キャラ。そのすべてを列挙していくのは書く側も読む側も大変な作業であると推察しますので、歴代シリーズ作品をかいつまんで兄さんの人となりや魅力についてお話しさせていただければと思います。
……とは言ってみたものの、正直、真島の兄さんの魅力を言葉で言い表すのは非常に難しいものがあります。なぜなら、兄さんがあまりにもクレイジーすぎるから。
そのぶっ飛び方は並大抵ではなく、シリーズ初登場のときからフルスロットルで発揮されています。
そんな兄さんの初登場作品は、初代『龍が如く』。しかも、物語が大きく動き出す前の段階、第一章の冒頭での登場でした。
このとき真島の兄さんは、相手が桐生だと知らずに因縁をつけるも返り討ちにあった真島組の舎弟と桐生の間に割って入って登場。“ケジメ” と称し、持っていた傘でその舎弟をボッコボコにしていました。
……正直、この時点では兄さんのあまりのバイオレンスっぷりにドン引きしていました。眼帯のインパクトこそあれど、この段階では小物感がすごくて正直いい印象を持てず、「好きになれそうにないな」という感想しか湧き上がってこなかったというのが率直な感想です。
今回、真島の兄さんの魅力を再発掘するべく初代『龍が如く』のフルリメイクである『龍が如く 極』を遊んでみたのですが、何度見ても兄さんの想像の斜め上をいく言動には戸惑いを隠せません。
その後、兄さんは桐生の立ち振る舞いに腹を立て、何度も殴打して喧嘩をふっかけますが、桐生は「筋の通っていない喧嘩はしません」の一点張り。桐生と戦いたいがために、挑発を続ける兄さんと耐え続ける桐生。ここまでは桐生の大物感と真島の兄さんの小物感の対比がさらに加速している印象を個人的に受けました。
最終的に兄さんはドスを抜いて脅しをかけるも、桐生は不動。「どうなっちゃうんだ?」とハラハラしながら見守っていると、一切折れない桐生に対して真島の兄さんの態度が一変。
急に満面の笑みになり「ほな、お前のその覚悟見届けさせてもらうで! 四六時中ずーっとな!」と高らかに宣言。
先ほどまでのバイオレンスが服を着て歩いているかの如き立ち振る舞いはどこへやら、「喧嘩する理由があれば俺と喧嘩してくれるんやな? 早速作戦会議や! 楽しみにしとってや!」と、兄さんはミュージカル映画かのような小粋なステップで舎弟たちとともに夜の街に姿を消しました。
そして、桐生の周囲に残されたのは、先ほどまでの喧騒が嘘かのような静けさ。真島の兄さんは、まさに嵐のような存在なのです。
そして、この静寂に包まれた時こそが、私が真島の兄さんの虜になった瞬間でした。
暴力的な行動を取ったかと思えば、急に上機嫌になって筋が通っているんだか通っていないんだかよくわからないセリフを残して立ち去る。破天荒というひと言で片づけてしまうのはあまりにも惜しいクレイジーさに、一気に引き込まれていきました。
この訳のわからないくらいの狂気っぷり、ハチャメチャさこそが、真島の兄さんの大きな魅力です。
非常に個人的な話ではありますが、もともと真島の兄さんのようなぶっ飛んだキャラクターや、個性が強いキャラクターが大好物。真島の兄さん以外にも多くのクレイジーキャラを好きになってきましたが、兄さんはそういったキャラクターの中でも群を抜いてヤバいです。
そのぶっ飛び具合をカテゴライズして語ることは難しく、「枠にはめ込むことに意味などない」とすら感じてしまうほど。真島の兄さんは「真島の兄さん」という独自のジャンルを極めた王であり、至高にして唯一無双の男なのです。
……いろいろと言葉を尽くしてはみましたが、要するに、真島の兄さんが大好きということです。ただ、リアルにこういう人がいたら、絶対にお近づきにはなりたくないですけども。
初登場以降、桐生に固執し続ける真島の兄さんは「なんでそうなるんだよ!」と叫びたくなるような、まったく読めない動きで物語に介入し、桐生とプレイヤーを翻弄。
桐生の口癖のごとく「なに……?」と小さな声が思わず漏れてしまうような展開の連続ながらも、その行動の端々に男気や魅力、色気が感じられ、登場回数を重ねていくごとにファンを増やしていったのではないかと思います。少なくとも私は、ゲームの後半で「真島だ、真島の兄さんをだせ!」というテンションになっていました。
真島の兄さんについてもうひとつの特筆すべきポイントは、シリーズを通じて「ボス敵」として何度も桐生たちの前に立ちふさがるということ。その強さとトリッキーな戦闘スタイルはインパクト抜群で、戦うたびに強烈に印象に残ります。
「登場のシーンで小物だと思っていたのに、普通に強いのかよ! 嶋野の狂犬って言われてるのも、こういうことか!」
「あんな予測できない動きでちゃんと強いのなんなんだよ!」
これが、真島の兄さんです。
10年の刑期を終えて出所したばかりの桐生の目の前に突如として現れた真島の兄さんは、その強さで桐生とプレイヤーを圧倒し、「死ぬ気で昔のお前を、堂島の龍を取り戻してみろや!」と発破をかけて立ち去ります。これです。この男気、熱さが兄さんの魅力です。
別のシーンでは、桐生に隙があるのを見て真島の子分が刺し殺そうとするも、桐生を倒すのは俺だけだ、と言って盾になって刺されにいくなど、正々堂々とした男の勝負を求めるところなどで、兄さんの芯の強さ、男らしさにグッときて、どんどん印象が変わっていきました。
主人公が桐生一馬から春日一番にチェンジした『龍が如く7』でも現れたのは驚きました。しかも春日の物語にドップリと浸かって、兄さんの存在を忘れかけていたころに唐突に現れたのですからたまりません。
この時の兄さんは、兄弟分である冴島大河とともに春日たちの前に立ちふさがります。ちなみに、冴島大河もかなりの人気キャラ。兄弟そろって『龍が如く』シリーズを支えているといっても過言ではないかもしれません。
登場すれば必ず主人公とプレイヤーを翻弄して去っていく。それが、真島の兄さんなのです。
そんな兄さんが繰り出す掟破りの分身の術を『龍が如く8外伝』では食らう側ではなく繰り出す側になれるのですから、これはもう楽しみでしかありませんよね。
また、もうひとつ、つけ加えておきたい真島の兄さんの魅力といえば「話し方」ではないでしょうか。
行動や発言内容のエキセントリックさが目立つ兄さんですが、話し方も普通ではなく関西弁のようでありながら関西弁ではない、話者は真島の兄さんただひとりなんじゃないかと思わされるような独自の言語を操っているのです。
独自の言語形態に加えて、兄さんはセリフの言い回しにも独特の抑揚があるため、ただ話しているだけでもただ者でないことを感じさせるような異質感があり、これによってさらに真島の兄さんのクレイジーさが際立っていると感じました。
つまり真島の兄さんは、声優を担当されている宇垣秀成さんの演技が光りに光まくっているキャラでもある。
今回真島の兄さんを改めて見返してみて思ったのですが、黙っていればマジでかっこいいんですよね。色気がすごい。
しかしながらそのかっこよさは、話し出した瞬間に荒波とともにかき消され、「真島の兄さんはイケオジ」という視点も完全に失われてしまうわけです(褒めています)。
が、それは見た目的な意味でのかっこよさが失われてしまうというだけの話で、魂の部分でのかっこよさは顕在。常識では計り知れないクレイジー野郎でありながらも、それだけでは終わらず、純粋に「かっこいい……」とつぶやきが漏れてしまうようなシーンが織り交ぜられてくるというのが、真島の兄さんのズルいところです。
初代『龍が如く』でプレイヤーに強烈な印象を残した真島の兄さんは、続編の『龍が如く2』では、「真島建設」の社長として、まさかの建設現場作業員スタイルで登場。
「あ、おもしろキャラの道を進み始めた?」というこちらの思いをよそに、暴れ狂います。私個人の感覚にはなりますが、この作品あたりから、真島の兄さんはむやみやたらに喧嘩を吹っかける「暴力クレイジー」から「非暴力クレイジー」に舵を切った印象がありますね。私としては「非暴力クレイジー」な兄さんの方が好みです。
ちなみに、このときのヘルメットは『龍が如く』シリーズ20周年を記念したデザインとして実際に予約発売されたりもしています。キャラクターアイテムとしてはもちろん、防災グッズとしても使える優れもの。
そして真島の兄さんを語る上で忘れてはいけないシリーズ作品が、『龍が如く0』。これは、初代『龍が如く』よりも前の時系列を描いた作品で、いわゆる原点にあたるもの。そしてなんと、真島の兄さんはこの作品で桐生と並ぶダブル主人公となっているのです。
当時24歳の兄さんは、キャバレーの支配人を務める元極道。兄弟分である冴島大河を救うために組の命令に逆らった結果、すさまじい拷問と監禁を受けた上、極道の世界から追放され、飼い殺しにされた状態。そこに狂犬らしさは感じられません。
この作品で過去が掘り下げられたことによって、真島の兄さんのバックボーンに深みが生まれ、さらにキャラクターとしての魅力が高まったように思います。
作品内では、今の真島の人格に至る経緯が描かれているうえに、守るべく女性のために孤軍奮闘する一人の男としての魅力が存分に味わえます。なかなかに壮絶で衝撃的なストーリーであるうえ、シリーズ屈指の名エピソードですので、詳しい内容については触れませんが、真島の兄さんに興味がある方には絶対にプレイしてほしい作品です。
ちなみに、その人気とポジションを確立した真島の兄さんは『龍が如く』シリーズの人気プレイスポット、いわゆるミニゲームであるカラオケの歌唱でも強烈なインパクトを残していて、兄さんのカラオケ曲を集めたベストアルバムが発売されたりもしています。
特に「幸せならいいや」は名曲で、真島の兄さんらしいふざけて歌っているとしか思えないような信じられない歌唱でありながら、聞いているうちに真島の兄さんの本質に少し触れることができたような気がする楽曲です。
ひょっとすると、この曲を聞いていただければ、真島の兄さんの魅力が最もストレートかつ短時間で伝わるかもしれません。サブスク等でも聞くことができますので是非。……余談ですが、個人的には「真島建設社歌」も大好きです。
さて、今回は真島の兄さんとその魅力について存分に語らせていただきました。
今回発売される『龍が如く8外伝』とその本編である『龍が如く8』以外にも『龍が如く』シリーズには魅力的な作品が多数存在しています。人気キャラクターたちをモデルに舞台を幕末に移した『龍が如く 維新! 極』も名作なのでオススメ。
気になる方はぜひ関連記事も読んでみてください。
真島の兄さんが海賊で記憶喪失……。おそらく『龍が如く8外伝』は、これまで 『龍が如く』シリーズに触れてこなかった人でも楽しめる作品です。重厚なストーリーと濃厚なキャラクターが売りの『龍が如く』の世界へ、この機に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
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