迷路状のステージに置かれた「クッキー」をパクパクと食べ尽くすことでお馴染みの『パックマン』。ゲームを遊んでいない人でも名前を聞けばその姿をすぐにイメージできるのではないだろうか。
あのパックマンが、見境なく “敵を喰らう” 存在となった。しかも、これまでのイメージと異なり、やたらと闇深い。まるでパックマンが闇堕ちしたかのようなゲームになっている。
筆者は『Shadow Labyrinth』(以下、シャドウラビリンス)の先行プレイを通して、パックマンが自らの暗部にため込んでいたありとあらゆる欲求を爆発させているように感じた。いわゆる「5大欲求」である。
「空腹を満たしたい」(とにかく食べまくりたい)
「親しくありたい」(あなたに寄り添って手助けしたい)
「安全な場所に住みたい」(こんな危険な迷宮からとっとと脱出したい)
「実力を認めてもらいたい」(壁面を高速移動できる強みを実感してもらいたい)
「成長したい」(あなたが強くなるためなら、なにがなんでも)
パクパクとクッキーを食べていたあのパックマンが、45年の年月をかけてこんな姿になろうとはだれが想像できたであろうか。
しかし本作は『パックマン』の遺伝子を確かに宿している。
そこで本稿では『シャドウラビリンス』における新要素やこれまでの『パックマン』との共通点についても紹介していく。
プレイヤーが操作するのは「剣士」、ジャンプも攻撃もできる
そもそも『パックマン』とはいかなるゲームだったのか。簡単に言えば、迷路状のステージに置かれた「クッキー」を食べ尽くすゲームである。
そして、パックマン(プレイヤー)ができることも限られている。基本的には迷路の中を動き回って食べるだけ。ジャンプをしたり、パックマンを妨害する敵の「ゴースト」に攻撃をする【※】ことはできない。行動範囲も迷路だけあって狭い道がほとんどだ。
※敵の「ゴースト」に攻撃をする:迷路に置かれた「パワークッキー」を取れば攻撃可能になる。また、いわゆる変異タイプの作品だと、ジャンプや攻撃が普通に可能となっているケースも少なからずある。
『シャドウラビリンス』はどうかと言うと、「普通にジャンプできる」「敵も攻撃できる」「行動範囲も広い」と、わかりやすいほど真逆。
加えて本作でプレイヤーが操作するのは、「8番目の適合者」と称された剣士。なんと、パックマンではない。パックマンは剣士に付き添うナビゲーター「PUCK(以下、パック)」として登場。行き先や仕掛けの案内をしてくれるだけでなく、剣士と融合することで倒した敵や気絶した敵を「捕食」したり、時に青白く輝くレーン上を「移動」したり、剣士を手助けしてくれる。
剣士のアクションも豊富。移動とジャンプはもちろん、手持ちの武器による斬撃、敵の攻撃を防ぐシールドの展開、アンカーを射出&特定ポイントに引っ掛けての高速垂直移動、緊急回避、果ては敵の攻撃をはじき返してひるませる「パリィ」もできる。
また、パックと融合して捕食すると「GAIA(ガイア)エネルギー」なるものが溜まる。これが満タンに達すると異形の姿に変身でき、一定時間、その圧倒的な力を奮って戦えるようにもなる。
タイトルに「ラビリンス」が冠されているとおり、迷宮のように複雑に入り組んだマップを探索しながら展開される。邪魔する敵を斬撃で蹴散らしつつ目的地を目指したり、時に新しい能力を習得しながら突破口を切り開いていく。
剣士の扱う武器は、敵との戦闘や探索を通して手に入る「オーラ」でレベルアップを図ることも可能。主に敵との戦闘を繰り返せば、どんどん強くしていけるようにもなっている。
もはや『パックマン』から豪快に脱線しているかのごとしだが、これが紛うことなき『シャドウラビリンス』だ。『パックマン』45年の歴史のなかでやれなかった、もしくはできなかったことを「すべてやり切る」という信念を感じさせられる。
冒頭で「パックマンが欲求を爆発させている」と書いたが、本作はパックマンが欲求を爆発させることで満たされるのはユーザーの欲求だ。「もっと自由に動き回りたい」「敵を自由に倒したい」「成長して強くなっていきたい」「大規模な冒険がしたい」「刺激的でありたい」といった欲求にバッチリ応えてくれるゲームになっている。

パックマンが自らの暗部にこういった欲求をため込んでいたのかと思うと嫌でも戸惑いを誘うと同時に、強い印象を残す仕上がりだ。
「食べる」だけでなく「逃げる」ゲームとしての『パックマン』を体現している
本作は、確かに『パックマン』だと言い切れる特徴を持っている。
たとえば迷宮の探索を主としたゲーム本編。元の『パックマン』は迷路状のフィールドに置かれたクッキーを食べ尽くすゲーム。そのクッキーをすべて食べ尽くすには、迷路内の隅から隅まで動き回ることが不可欠となる。
「隅から隅まで動き回る」この遊びは探索型のアクションゲームにも存在すると同時に、核に当たる部分だ。しかも「ラビリンス」とは、乱暴に言ってしまえば、豪華になった迷路でもある。
そのため、『シャドウラビリンス』の遊びそのものは迷路ゲームの発展形も同然であり、間違いなく『パックマン』なのである。性質はまったく違えど、迷路のような地形を冒険する基本からして『パックマン』の根源が踏襲されているのだ。
加えて本作独自の要素にも『パックマン』の遺伝子が宿っている。「捕喰」や「ガイアエネルギー」は言わずもがな。前者は「食べる」ゲームとしての『パックマン』の象徴を体現している。後者は一時的にパワーアップする仕組みそのものが『パックマン』の「パワークッキー」の発展形。制限時間内しか使えないところもまんまだ。
なかでも「ミニパック」が筆者個人には最も興味深い要素に映った。これは基本的に、剣士のジャンプや垂直移動では届かない足場に到達する時に活躍する「移動」にフォーカスしたアクションである。
ところが、戦闘になると「回避」というもうひとつの機能が露わになった。壁際に追い詰められた時、ボスの強力な攻撃を受けそうになった時、その場から逃げ延びる手段として「ミニパック」を使うことになる。
つまり、「食べる」だけでなく「逃げる」ゲームとしての『パックマン』を体現しているのだ。『パックマン』は基本的に自分から敵に攻撃を仕掛けることができない。仕掛けるには「パワークッキー」の獲得が必要であり、それを手にするまでは「逃げる」が最適解になる。
そんな逃げるゲームでもある『パックマン』の特色が「ミニパック」には込められていると感じた。前述したように主に戦闘で活用するケースが大半なのだが、そのあたりが「普通に戦えないパックマンのキャラクターとしての特色」をよく体現しており、どこかパックマンならではの戦い方をしているとの実感を得られる。
そこが筆者としては非常に興味深く映ったポイントだった。一見、なんともないアクションだが、よく見てみるとすごく『パックマン』らしい。早々とレーン上を移動してその場から退散する姿も、『パックマン』で見覚えのあるシチュエーションである。
これに加え、逃げ続けるだけでなく倒さなくてはならない点で『シャドウラビリンス』ならではの遊びも確立させている。まさに「逃げ続けることはできない」だ。
今回の先行プレイでは、一部のボス戦しか体験できなかったため、ほかのボスとの戦闘でも同様の戦法が試されるのかはわからない。ただ、もしもほかのボスでもこの「逃げる」ことも混じった展開が描かれるのなら、かなりおもしろそう……となった次第だ。
ほかにも本作では、過去に発売された変異タイプの『パックマン』を思わせるような、わかる人ならニヤリとしてしまう要素もあった。
一例としては、森を始めとする自然環境が舞台として登場する、アクションの一部に「スウィングアクション」があるといったところだ。そんな知る人ぞ知る『パックマン』が脳裏を過ぎるものまで拾っているところには、どこかマニアックさすら感じさせられる。
公式でも「『パックマン』の遺伝子を宿した~」とのキャッチコピーが掲げられている本作だが、触ってみると、そのコピーは決して伊達じゃないと言い切れる。確実に本作の遊びの根幹には『パックマン』の遺伝子が宿っている。
そして、何度かゲームとしての変異をしてきた過去があるからこそ、本作のような異形が現れるのも不思議なことではない。すべては過去の「不思議なことが当たり前」(By『パックランド』)のキャッチコピーが物語るとおり。十分な納得感があるのだ。
とは言え、変異タイプの作品のプレイ経験がなかったり、その存在や歴史を存じていなかったりすると戸惑いが勝るのも事実だが。しかしながら、これだけは確実に言い切れる。
『シャドウラビリンス』は、間違いなく『パックマン』の遺伝子を宿した新作であり、新境地に挑んだ1作だ。
『シャドウラビリンス』でついにUGSF(銀河連邦宇宙軍)シリーズ入り
新境地と言えば、世界観とストーリーも『パックマン』らしからぬダークで不穏な雰囲気が漂うものになっている。過去の変異タイプの作品では、基本的に世界観とストーリーについては、従来の『パックマン』から逸脱しない傾向が見られたが、ついに本作はそこも変異させてしまった。しかも本作は、「UGSF」シリーズの1作であることが発表されている。
UGSFとは「United Galaxy Space Force(銀河連邦宇宙軍)」の略称。ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)が開発したゲームに共通して登場する架空の軍隊で、彼らが登場する作品群を総括したシリーズ作品のことだ。
筆者はUGSFシリーズと聞くと、あのみずいろの血が流れるゲームのことが脳裏を過ぎってしまって、すでに気が気でないのだが……。
その歴史は長く、古くは『ギャラクシアン』に『ギャラガ』、少し時代が進んだ後では『サンダーセプター』と『スターブレード』、意外なところでは『エースコンバット』と『ミスタードリラー』、『しんぐんデストロ~イ!』といったタイトルもUGSFシリーズの1作になっている。
詳細を解説すると長くなってしまうため、以降のことはUGSFシリーズの公式サイトを参照いただきたい(一部作品のネタバレがあるためご注意を)。
一方で『パックマン』は今までUGSFシリーズに名を連ねたことがなかった。だが、今回の『シャドウラビリンス』でついにUGSFシリーズ入り。それもあってか、ストーリーの節々でシリーズにちなんだ匂わせがある。
その一部は『シャドウラビリンス』公式サイトにも記載されており、主人公の剣士に「魂のみが召喚された」との設定がある時点で、勘のよい人は何かを察するはずである。
ストーリーに関しては、本作が発表される直前にAmazonプライム・ビデオで配信されたアンソロジーアニメシリーズ『シークレット・レベル』の「エピソード6 – パックマン ~サークル~」でも、本作の前日譚と思われるエピソードが描かれている。
こちらもよく観察してみると、主人公の「剣士」が羽織るマントに「UGSF」と描かれていたり、終盤に出てくる構造物に見覚えのある怪しげな文字が刻まれていたりする。
パックのセリフにも、本作との関連を思わせるものがいくつかあるので、興味があればチェックしてみることをオススメする。なお、16歳以上対象のレーティングが設定されている都合上、作中では過激な暴力・出血表現が多々ある。苦手な場合はご注意を。
ちなみにゲーム本編に関しては、『シークレット・レベル』ほどの過激な表現や演出はない(そもそも、ゲームのレーティングは12歳以上対象と低めになっている)ので、普通に見耐えられるはずだ。
そんなストーリー周りでも異例の試みに挑んでいる本作。じつは今回の先行プレイで、思わず声を上げた衝撃的な敵との戦闘も存在したのだが、こればかりは実際にゲームをプレイして確かめていただきたく思い、あえて本稿では伏せる。おそらく「このゲームのストーリーと世界観、どうなっているの!?」と興味が津々になるだろう。
『パックマン』じゃないのに『パックマン』の遺伝子を確かに宿し、欲求を爆発させ、世界観とストーリーの双方で不穏なムードを漂わせまくりの『シャドウラビリンス』。
『パックマン』が45年間ため込んだ欲求がどんなものか気になった方は、ぜひ食べ尽くすことをオススメしたい。だが、こちらに飛び掛かってくるものはなかなかにハードなものになっている。ストーリーともども、“食うか食われるか” の覚悟を決めよう。
『シャドウラビリンス』は7月17日に発売を予定している。
また本作に興味を持った方は、5/22(木)より東急プラザ原宿「ハラカド」4階 特設イベントスペースにて開催される「PAC-MAN 45TH ANNIVERSARY 1980↗ IN SHIBUYA-HARAJUKU」にて、国内最速で試遊台が出展されるとのことで、ぜひとも体験してみてほしい。
<開催概要>
名称:PAC-MAN 45TH ANNIVERSARY 1980↗ IN SHIBUYA-HARAJUKU
開催期間:2025年5月22日(木)~6月1日(日)
営業時間:11:00~19:00
開催場所:東急プラザ原宿「ハラカド」4階イベントスペースを中心に、各店舗でコラボを実施
パックマン 45周年記念サイト:https://45th-anniversary.pacman.com/
Shadow Labyrinth™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.