インディースタジオとのタッグで誕生した『SHINOBI 復讐の斬撃』。日本側のスタッフとして開発に携わったキーパーソンふたりにインタビュー
『SHINOBI 復讐の斬撃』は、『ベア・ナックルIV』を開発したインディーゲームスタジオ「LizardCube」(リザードキューブ)とセガがタッグを組む形で制作された新作となる。

今回の先行プレイでは、国内のセガ側でプロデューサーを務める大原徹氏と、シニアディレクターを務める寺田貴治氏へのメディア合同インタビューも開催された。最後にその模様をお届けする。
──今回の『SHINOBI 復讐の斬撃』には、大原さんと寺田さんのほかにセガさんからは何人ぐらいの方々が開発スタッフとして参加されているのでしょうか。また、御二方が参加されることになったきっかけについて、差し支えなければ教えていただければと思います。
大原徹氏(以下、大原氏):
スタッフ構成としましては我々2人のように年齢の高いメンバーと、逆にアクションゲームをするための若いメンバーが集まっている形になります。そのような年齢的なところや、過去の『忍』シリーズを知っているか、知っていないかを含めて我々2人がプロデューサー、シニアディレクターとしてアサインされたような感じですね。
寺田貴治氏(以下、寺田氏):
アートのディレクションをする者、プログラムのテクニカル面でのディレクションをするものなど、割と書くパートでディレクションをするメンバーが揃っていまして、人数自体は割とおりますね。
──おふたりは過去に発売された『忍』シリーズの開発に参加されたことはあったのでしょうか。
大原氏:
じつは私が『忍』シリーズの開発に参加するのは今回が初めてとなります。私自身はセガに企画として入社しまして、昔は寺田と一緒に『サクラ大戦2』などのコンシューマタイトルを作ってきました。コンシューマの後はアーケードの方へと移って『三国志大戦』をやっていたのですが、今回、コンシューマへと戻ってきまして、久しぶりに寺田とタッグを組んでやっております。
なので、今回の開発には新鮮な気持ちで参加できております。あと私はアクションゲームがそんなに得意でないところもありまして、「上手じゃない代表」としても開発に参加できている……と、認識しています(笑)。
寺田氏:
私は『ファンタシースターポータブル』シリーズでRPGをやったり、『サクラ大戦』シリーズやアドベンチャーゲームをやったりとか、割と多彩にディレクターをやっているんですけども、今回の『SHINOBI 復讐の斬撃』のような本格的なアクションゲームのディレクターは初めてでして。自分でも楽しみながら作らせていただきました。
過去の『忍』シリーズについては、PlayStation 2で発売された3Dアクションの『Shinobi』に少しだけ参加したことがありました。
主人公である「秀真(ほつま)」のプレイヤーアクションのアイディアを詰めるのに参加してくれと言われまして、どんな敵も一撃で倒す「殺陣」や、壁に張り付いた状態で色んな行動ができるシステムであるとか、そういうのを一緒に考えた覚えがあります。
そのあとの開発にも参加してずっと作った訳ではないんですけど、それが私と『忍』シリーズとの関わりです。なので今、こうやって新作にシニアディレクターとして参加し、本格的に作ることになって、いろんな縁があるものだなと思いました。
──参加されているスタッフの中には、30年以上前の昔の『忍』シリーズの開発に参加されたオリジナルスタッフもいらっしゃるのでしょうか。もし、いらっしゃる場合、開発中にフィードバックを受けたことがあったのでしょうか。
大原氏:
オリジナルスタッフはいなかったと思います。ただ、メガドライブで発売された『ザ・スーパー忍』をメチャクチャやり込んだというスタッフは何人かいまして、そのスタッフからフィードバックをもらったり、仕上がったものを確認してもらったりはしました。
その中でよく言われたのはやっぱり『忍』シリーズの特色でもある難易度で、「難しさの中にある気持ちよさをどのように表現するのか?」みたいなことは議論をさせてもらったところですね。
──ゲームの主要部分の開発は『ベア・ナックルIV』を手がけられたLizardCubeさんが担当されていますが、どういった経緯で今回タッグを組むことになったのでしょうか。
大原氏:
セガとしては昔のタイトルを復活させたいという思いがありまして……。すでに発表されていますが、『クレイジータクシー』に『ジェットセットラジオ』、そしてもうひとつのタイトルとして『忍』がありました。
LizardCubeさんも同じように「『ベア・ナックル』の次は『忍』を作りたい」という思いがあり、お互いに話し合ってみると気持ちが一緒だったことがわかりまして、タッグを組んで作ることになりました。
それで、LizardCubeさんと一緒に作るのであれば、前回作られた『ベア・ナックルIV』のノウハウやアートスタイルを最大限に活かすべきだとなりまして、現在の『SHINOBI 復讐の斬撃』になった感じとなります。
「プレイヤーが自由に選択できるように」とのポリシーを持って設計されたジョー・ムサシのアクションと技の数々
──2Dアクションゲームというジャンル自体は企画の立ち上げ当時から決まっていたのでしょうか。また、いわゆる “『忍』感”……「『忍』シリーズとはどういうゲームであるか?」の認識について、セガさんとLizardCubeさんとの間ですり合わせをする必要があったりはしたのでしょうか。それともお互いの持つ “『忍』感”みたいなものはだいたい同じだったのでしょうか。
大原氏:
じつを言いますと、ゲームデザインは今までの『忍』をまったく意識していないんですよ。当然、バトルがあって多彩なアクションがあって、あと手裏剣を投げるなど、そのようなところは基本の土台としてあります。
ただ、ゲームデザイン的には「今のユーザーに向けて作らなけれないけない」という思いがありました。LizardCubeさんも「自分たちが今、プレイして楽しいものを作らなくてはならない」との気持ちがありましたので、そこは1から考えられる部分でした。
逆に『忍』らしさみたいなものやこだわりについては、LizardCubeさんの方がたくさんアイディアをお持ちでしたので、「自由にやってください」と話したように記憶しています。
──今回、新たな技を覚えることで行動範囲が広がっていく要素がありますが、アクションゲームのフォーマットとしては探索型になるのでしょうか。それとも、昔ながらの1本道のステージクリア型のアクションゲームになるのでしょうか。
大原氏:
探索型ではありません。基本はステージを1個ずつクリアしていくタイプで、いわゆるマップの行動範囲を広げていく探索要素はメインの遊びではないです。
ゲームデザインは「ひとつのステージをどうやってクリアしていくのか?」というものです。ジャンプなどのアクションだったり、どうやってバトルを楽しんでもらうか、そのあたりをアピールしたものになっています。
ただ、技が増えていくことによって探索範囲が広がっていくという要素も多少入ってはいます。
寺田氏:
メインのルートのほかに難しいサブルートみたいなものも用意されているんですよ。そこには特定のアイテムを取ることによって行けるようになったりもします。
ただ、サブルートは割と難しいと言いますか(笑)、攻略しがいのあるところになっています。各ステージにより難しいルートが用意されていまして、そこにはゲームを有利に進めていけるようになるいいアイテムも置かれていますので、ぜひ探し出して挑戦してみてほしいなと思います。
開発の途中では「探索要素を強めにした方がいいのでは?」という試行錯誤がありました。その中でベストな形として、今の「ステージクリア型だけど分岐ルートを探す要素」があるスタイルに落ち着いた感じですね。
──今回の先行プレイではふたつのステージを体験できました。ふたつ目のステージではいろんなアクションができるようになっていましたが、アクションについてはどれぐらい増えるのでしょうか。また、プレイヤーが好きに組み合わせることもできるのでしょうか。
大原氏:
今回は忍術や忍法などいろいろなものがあるのですが、ショップ(お店)で購入できるものがどんどん増えていく作りになっています。詳しい数については言えないのですけど、10種類以上になる感じです。
ただ、新しい技やアクションをボタンに割り振って入れ替えるようなシステムはありません。単純に数が増えて、同時にできることも増えていく作りです。それで今までは繋がらなかった攻撃がさらに繋がるようになったり、相手を吹き飛ばした後に追い打ちをかけられるようになっていくんです。そこがこのゲームならではの新しさじゃないかなと思っています。
我々のチームの中でも、何コンボまで繋げられるのかの争いが起きたりもして。最初はカタナによる弱、強攻撃と手裏剣を投げる程度なのですが、段々と格闘ゲームみたいに必殺技を打てるような感覚になっていく。プレイヤーの選択肢がどんどん広がっていく感じで、しかもそれがすごく気持ちいいんですね。そのあたりは表に出しにくい要素ではあるんですけど、新しいポイントではないかなと私は思っています。
あと、アミュレットの付け替えみたいな要素も用意されています。そういった自分でいろんなプレイスタイルを探していく遊びも楽しめますので、いろいろと考えて試してみてほしいと思っています。
──「この技でなければこの敵は倒せない」みたいな要素はあるのでしょうか。
大原氏:
そこはLizardCubeさんのアピールポイントでもあるかと思うのですが、開発を進めていく中で「炎に対して火が効く」みたいな答えがある技の作り方って、けっこうしがちなんですね。
私も寺田もそれが好きなタイプなのですけど、LizardCubeさんは違いまして「その技はいろんな所で使えるようにしたい」「プレイヤーが自由に選択できるようにしたい」というポリシーなんです。
一応、アーマーに効くみたいなのは多少あるのですが、色んな使い方ができる自由な選択肢が設けられているのがこのゲームの技のおもしろさであり、新しさになっていると思っています。
寺田氏:
どれを選んで、どれを組み合わせるかを自由に考えられます。「答えはないけど、答えがあるように楽しめる」と言うのでしょうか。そのようなものになっているんです。
大原氏:
我々のチームにも何十時間もプレイしている上手い奴らがふたりいるのですが、同じボスと戦うときもふたりそれぞれ倒し方が違ったりするんですよ。「俺は宙に浮かせてから倒すのが好き」というように、そういったことを自由に選べるのは今回の大きな特徴だと思いますね。
『忍』とは「とにかく難しいゲーム」。しかし、今のユーザーにも楽しめるように配慮した難易度設定機能も完備
──今回プレイしてみて、とにかく操作の気持ちよさというものを触った瞬間に感じられました。特に、ヒットストップ【※】がものすごく濃いなと思ったのですが、こだわりがあるのでしょうか。
寺田氏:
そこはまさにLizardCubeさんのこだわりですね。
※ヒットストップ:
攻撃が命中したとき、プレイヤーがその効果をより強く認識できるようにする演出。
大原氏:
我々が細かく指示したというよりは、LizardCubeさんが最初からそういうものをやりたい思いがあって、今の形になっているんです。先ほど自由な選択肢がバトルの売りであり、おもしろさの核だと私は思っているのですけども、もうひとつに爽快感がありまして。とにかく、ジョー・ムサシが止まらないんですよ。
攻撃していても、移動していてもずっと動いているキャラクターになっているのですが、そこはLizardCubeさんが作っている中でものすごく求めていたことなんです。こちらからアイディアを提案しても、「それは止まるから嫌だ」「演出で止めるようなことはしない」みたいなやり取りがLizardCubeさんとあったりしたほどで。
なので、LizardCubeさんは常に止まらないように、そして止まらないけど気持ちよくするためにはどうするのかといったことをずっと考えられていたように思います。そこはもう、ひとつのポリシーですね。
寺田氏:
ただ、ヒットストップにも進化の経緯がありまして。最初の頃はそんなになかったんですけど、ときにはあまりにもかかりすぎてプレイ中に酔っちゃうみたいなこともあったんです(笑)。今のはその後の調整を経て、洗練されたものが残りました。
──その開発を進めていく中で、おふたりが「これは行ける!」と手応えを感じられたタイミングはどこでしたか?
寺田氏:
僕は「シノビ・エクスキューション」という技が入ったときです。基本的なアクションについては触っていただいたと思うのですけど、いろんなものが気持ちよくできているんです。でも、それだけではほかのアクションゲームと変わらないため、決め手にはなりにくい。
そんな中で忍者の一撃必殺みたいな部分を具現化するあのシステムが入り、ベースとしてあるバトルの気持ちよさと楽しさにこのゲームならではの特徴が生まれたんですね。そこが僕としては「あ、これ行けるんじゃない?」と思ったところでした。
大原氏:
土台として、最初からそれなりのものになる感覚はありました。やはり『ベア・ナックルIV』から培われたLizardCubeさんのモノづくりのセンスみたいなものがあるからです。例えばイメージのカットやステージ1の全体像を作るまでがすごく早くて。その絵であったり、動きを見たときに最低限に当たる土台が高い会社だと思いまして、常に期待感を持ちながら仕事ができました。
寺田氏:
「シノビ・エクスキューション」が入ったときにパッケージとして1本上に行った手ごたえはあったのですが、いちばん最初に触ったときに「なんだこれ!? 気持ちいい! これでいいじゃん!」みたいな根本的な良さは最初からありました。
──一方で『忍』シリーズと言えば非常に難易度の高いアクションゲームとして知られます。今回の難易度についてお聞きしたいのですが、『忍』シリーズの初心者に向けての措置みたいなものはあるのでしょうか。例えばメガドライブで発売された『ザ・スーパー忍』には、オプション画面でちょっとした操作をすることで、「投げられる手裏剣が無限になる」というものがありましたが。
大原氏:
難易度については「ぬるいゲームにはするべきではない」というのがありました。私もプレイヤーとして昔の『忍』シリーズをプレイしていたんですけど、「あんなに難しいゲームはないぞ!」みたいなことが言われるぐらい難しいゲームだった記憶がありまして(笑)。それが語り草になるほどなので、やはりそれなりのやり応えはなくてはならないとの考えでした。
寺田いわく「このゲームはとにかく難しいんだ」と(笑)。
寺田氏:
はい、難しいと思います(笑)。
大原氏:
なので、その土台を作るところから始めました。ただ、ジョー・ムサシがそもそも強いので、結果的にうまくバランスの取れたやり応えのあるバランスになっていると思います。LizardCubeさんともギリギリまで議論したんですけど、この難易度がベストだというものをまず作ってもらい、そこから下げる選択肢を取るか取らないかというのを悩みながら作っていきました。
ただ、もしかしたら我々と同じ50代の昔の『忍』シリーズを遊んだことのあるユーザーさんも触れるかもしれない。それを考えると、今のユーザーさんに適した難易度にする必要もあると思い、ちょっとした下げる機能が用意されています。ただ、それを使うか使わないかは自分の心に問いかけながら判断していただくことになる感じですね(笑)。
寺田氏:
本当にこのゲームはジョー・ムサシというプレイヤーキャラクターのスペックが高すぎて。上手く使いこなせれば割と自然にクリアできるようにはなっています。ただ、それでも難しいという時にはいつでも難易度を調整できる機能を使っていただければと。
敵の体力や攻撃力を半分にするとか、攻撃頻度を下げるなど、ものすごく細かく設定できますし、いついかなるときでも調整していただいても構いませんので、ストレスのないように楽しんでいただけると思います。
──逆にもっと難しいものに挑戦したいというプレイヤーに向けた要素はあるのですか?
寺田氏:
各ステージに「アーケードモード」が用意されていまして、そこではダメージを受けずにクリアするのを始め、さまざまな要素に基づくスコアアタックができるようになっています。縛りプレイのように、思い思いの華麗なプレイでハイスコアを目指すみたいな遊びを楽しめるかと思います。
──先ほど上手いプレイヤーがふたりいるとのお話がありましたが、その方々はアーケードモードをやり込んでいるのでしょうか。
寺田氏:
アーケードモードをやり込んで競っている人もいれば、メインのストーリーモードを1から最後まで何時間でクリアできるかを競っている人もいます(笑)。
大原氏:
アーケードモードの話がありましたけど、ストーリーモードにもあり得ないほど難しいエリアが用意されています。そのあたりも、難しいものに挑戦したいプレイヤーさんに楽しんでもらえるのではないかと思います。
そもそも、僕らも何十時間遊んでいながらまだ全部クリアできていないですからね(笑)。
寺田氏:
10回か20回やり直してもクリアできないものがザラにあるんですよ。先ほど、自然にクリアできるとの話をしましたけど、そうはいかない難しいエリアもあります。「こっからやり直しになるか!?」と、ちょっと泣きそうになるときもあって(笑)。
ただ、オプションで近くからやり直すようにするのもできるようになっていますので。
──ストーリーモードについて出ましたが、今回、会話イベントがけっこう用意されていて、横スクロールの『忍』シリーズでは珍しい試みだと思ったのですが、あのようなストーリー性を強化する方針というのは最初から立てられていたのでしょうか。
大原氏:
そうですね。昨今のゲームのイメージを踏まえれば、「やっぱり、会話シーンの演出もしていかないといけない」というのがあるんですね。

それにLizardCubeさんの描くキャラクターが魅力的なところもありますので、それをどのように展開していくかを考えた結果が今の形になっています。じつはストーリーは土台をLizardCubeさんが書き、寺田がその後にリライトしています。なので、楽しいシナリオになっていると思います……って、「復讐がテーマ」なのに “楽しい” は変ですかね?(笑)
──(笑)。ひとつのステージあたりにどれぐらいの会話イベントが用意されているのでしょうか。また、アーケードモードではイベントがほとんどカットされるようになっているのでしょうか。
大原氏:
ステージ1だけを見ていただければ、なんとなく感覚がつかめるかと。重厚長大という訳ではないですが、自分がジョー・ムサシになって復讐を遂げる気持ちになれるものに表現できているんじゃないのかと思います。
寺田氏:
具体的な数は言いにくいですが、始まりと終わりはあって、途中に1個、シネマティックデモが入る感じです。
復讐を遂げるメインテーマがありますので、それを実現する流れをユーザーと共感したいじゃないですか。その意味でストーリーがあります。あと、復讐がテーマだと重くて暗くなっていくところもありますので、それを緩和するために仲間たちが増えていく展開もあります。最終的に……楽しい旅とは言いませんが(笑)、復讐を遂げられる旅を楽しめるのではないかなと思います。
あと、アーケードモードではそういうのが邪魔になるところもあると思いまして、可能な限りカットしています。ちょっとだけ再生されるところもあるんですけどね。
──全体的なボリュームはどれくらいになるのでしょうか。
寺田氏:
ざっくり15~20時間ぐらいは遊べるんじゃないのかと思います。ストーリーモードだけだと、10時間ぐらいでクリアする人もいるかもしれません。その後のアーケードモードを楽しんだりすると増える感じですね。
ただ、人にもよると思います。上手ければもっと早いかもしれませんし、手こずったりするかと思いますので。なので、時間の中間地としてはそれぐらいになる気がしますね。
LizardCubeの妥協なきモノ作りへの情熱。だが、逆に熱すぎて困ったことも!?
──今回、セガさんとLizardCubeさんが組むことによって生まれた『忍』シリーズの価値というものはありましたか?
大原氏:
これは皆さんに注目して欲しいポイントなんですが、ひとつに彼らが作るアートスタイルですね。これは今までの『忍』シリーズにはなかった表現だと思いますし、新しい命を吹き込んでいただいたと思います。そこはLizardCubeさんとやって良かったところですね。
もうひとつがゲームデザイン、バトルに関するポリシーです。先ほど、技に答えを作ってしまうとの話をしましたが、そのあたりの自由な選択肢と操作感みたいな部分は彼らと一緒じゃないとできなかったことだと思っていまして。いいものを生み出すための仲間としてやれたように思います。
寺田氏:
LizardCubeさんのゲームセンスは本当に素晴らしいものでして、それだけで確実にゲームとして成立するんです。ただ、コンシューマのタイトルとして発売していくことに関しては、こういうシステムを入れた方がいいとか、この仕組みの方が長く楽しんでもらえるといった提案を我々からもしていて。そういうのが混ざり合って、今回のような総合力の高いゲームになったんじゃないかなと個人的に思っております。
──開発中のやり取りの中で、印象に残っている出来事はありますか? 例えばすごくマニアックなものや新しいものを提案してきたとか、こんな部分にこだわったなどです。
大原氏:
彼らはモノ作りへの熱がものすごくて。「もう終わりですよ」「あとはチェックに回すだけですよ」となってから、普通に絵が差し変わっていたり、絵のクオリティが上がっていたり、キャラクターの新しいカットが増えていたりするんです(笑)。
それで「すみません、もう入れないでください……」ということを改めてお願いすることもあって。それぐらい熱い気持ちを持って作られている方々で、そこは我々としてもたいへん驚きましたし、ちょっと困ったりもしました。でも、それ以上に嬉しいことがたくさんありました。
寺田氏:
あるシーンをチェックしていたらバグが起きて、「なにも変えていないはずなのに、なんでバグが起こっているんですかね?」と聞いたんですよ。そしたら「確かにそこは変えていないな。でも、後ろの家の屋根を見てくれよ。そこは俺がカッコよく描き直したんだよ」と返ってきて、「そこを直したんだ!?」と(笑)。
本当にクオリティに関しては妥協しないと言いますか、そういう姿勢の結果が今の凄味のある緻密さの誕生に繋がっているのかなと思いますね。
──逆にLizardCubeさんから出たアイディアで、製品版ではカットされたものもあったりしたのでしょうか?
寺田氏:
割と提案されてきたものは入れてきたので、極端なものはなかったです。
大原氏:
これは結果的に入れることのできたものなのですけど、「ネオシティ」というサイバーパンクな街の中には、セガのロゴ以外にドリームキャストのマークやセガサターンのマークとかがいっぱい仕込まれているんですよ(笑)。
ただ、ドリームキャストのロゴもさまざまな権利の確認があるのでやり取りをけっこう長い時間やった覚えがあります(笑)。いわゆるインディーズ感覚みたいなものですけど、それが先ほど言った困ったことになったりもしましたね。
──そのようなやり取りがある中で、「LizardCubeさんに任せて大丈夫」という手ごたえを感じた瞬間と言いますか、信頼度がより上がった瞬間はどんなものが出てきた時だったのでしょうか。
寺田氏:
僕個人としては2段階あって、ひとつは最初のロムが出てきたときです。基本的なアクションは触れられたかと思いますが、動かしていて楽しいんですね。よくアクションゲームで「動かすだけで楽しい」みたいなことが言われたりしますけど、僕は「そんなゲームあるワケないだろ」みたいに思っていて(笑)。ただ、それを実感することができて、「あ、これはすごい人たちなんだ」と思いました。
もうひとつは「シノビ・エクスキューション」が入ったときです。忍者ならではの一撃性のあるアクションが気持ちよく搭載されたところを見て、「こういう新しいことにも挑戦していける方々なんだ」と、手応えを感じましたね。
大原氏:
一時期、そんなに敵と戦わなくてもよい感じになっていたり、「探索要素を楽しくしようか?」みたいなところがあったんです。それで、「でもこのゲーム、戦うゲームだよね?」と話を合わせたとき気持ちよく戦いながら前へ進んでいけるロムがあがってきたんです。そこが行けると思った瞬間と言いますか、分岐点であったように思います。
寺田氏:
本当に戦って気持ちいいものを作れる、できるようでできない基本のことと言いますか。それを実現できる非常にレアな方々なのだなというのは、その段階で実感しました。
過去作を知っている人も知らない人も楽しめる新しい『忍』が誕生
──セガさんの新作タイトルで3,300円というのは珍しいことだと思うのですが、この価格にした戦略的な狙いはどういうところなのでしょうか。差し支えなければ教えていただければと思います。
寺田氏:
これね……僕も安いと思うんですよ。どうなんですかね?(笑)。
大原氏:
(笑)。これからプロモーションをしていくのですが、単純にチャレンジのひとつでもあると思っています。LizardCubeさんというインディースタジオの方々と組んで『忍』シリーズを蘇らせることもそうですし、であれば売り方でそのような見せ方をするのもどうかなと。「どうやって皆さんに触ってもらおうか?」というところがあるかなと思っております。
寺田氏:
そうですね。2Dアクションゲームを今の時代、どれだけ触ってもらえるのかとの気持ちもなくはないので、そういう意味では価格も売りのひとつとして使っていくところもあるのかなと感じます。真意はちょっと分からないんですけど、個人的にはそういう気もしています。
大原氏:
先ほどから聞かせていただいた中で本当にありがたいのが「触ったらすごく気持ちよかった」というお話で。我々もそこはストロングポイントだと思っているのですが、それでも直接触ってみないとわからない部分が多分にあるんですね。
おそらく動画を見たときはぜんぜん違った感覚を得られると思いますので、それをできれば、多くの人により体験してもらいたいですし、「おもしろかったよ」と言ってもらってすぐ手に取りやすくあってほしい気持ちもあります。
──体験版を出したりなど幅広いユーザーさんが触れる機会を設けるみたいなことは考えられているのでしょうか。
大原氏:
それについては今、準備をしているところですので、楽しみにお待ちいただければと思います。
寺田氏:
絶賛、「スケジュールはどうなっているんだ?」と言われている最中です(笑)。
──プレイヤーの方々にここを見てほしいというアピールポイントなどがありましたらお願いできますでしょうか。
寺田氏:
割とアピールポイントみたいなところは各ステージにありまして。僕が知らないような過去の『忍』シリーズのオマージュみたいなものもあるんですよ。なので、本当に各ステージごとに見所がありますので「期待してね」といった感じです。
あと、過去の『忍』シリーズも現代兵器と戦ったりしましたけど、今回は割とそこを伸ばしちゃうみたいな感じになっています。ネオシティと呼ばれるサイバーパンクな街並の中でなぜか忍者が暴れまわるみたいなのがあったり、ヘリコプターから飛び降りてきて、サーフボードで水の上を走ったりとか(笑)。そういういい意味で遊んでいる部分がたくさんあって、独特の世界観を作っているんです。
「山岳地方に忍び込みに行くぞ!」となって、山岳ステージの入口に行ったら巨大な仏像が建っていたりもして、「LizardCubeさんの考える山岳は仏像があるんだな」と(笑)。そんな想像できないような地形が次々と出てきますので、本当に飽きない作りになっていると思います。
大原氏:
アメリカの方と話をすると、サーフボードで海を駆けるシーンとか喜んでくださったりしまして。「あのシーンは『忍』シリーズ、特に『ザ・スーパー忍』の特徴になっているんだな」と思いますね。
それと1ステージって大体、世界観的にひとつのステージとして描かれがちなんですが、その中に色んなシーンがあるんですね。例えば最初の「朧の里」なら雪のステージがあったり、竹林のステージがあったり、屋敷のステージがあったりとか。
これは他のステージもそうなのですが、相当数の絵があって、パワーポイントのスライド1枚に収まらないぐらい場面転換する感じになっているんです(笑)。そういう飽きさせない、変化を見せるところもひとつのポイントだったりするのではないかという風には思いますね。
大原氏:
『忍』シリーズを知っている人には気づいてもらえて、知らない人でもまったく問題なく楽しめるように作られています。アートスタイルも現代に合わせた作り方をしていますし、アクション性についても昔っぽい動きではなく、今の2Dアクションゲームを楽しめられている方々に向けて作っているつもりです。
逆に出てきた敵が実は過去作の敵であるとか、「このシーンは『ザ・スーパー忍』のあのシーンだ!」みたいなものもありますが、基本的にはどちらの方に対しても楽しめるように作っているつもりです。
寺田氏:
ストーリーも「朧の里にムサシたちが住んでいた」というのが最初にわかれば「あとはわかるよね?」みたいな。そんな話で、だれが見てもわかるようにかみ砕いておりますので、昔のこの設定がわからないと置いていかれてしまうことはないはずです。
──ありがとうございます。ちなみに『ザ・スーパー忍』の時は『ベア・ナックル』シリーズや『世界樹の迷宮』シリーズなどで知られる古代祐三さんが音楽を担当されていましたが、今回の音楽はどなたが担当されているのでしょうか。
大原氏:
そこについては今の時点ではまだ言えません。今後の発表を楽しみにしていてください……!
寺田氏:
期待は裏切りませんよ(笑)。
──続報を楽しみにしています。ありがとうございました。(了)
なお、前作『Shinobi 3D』は『メタルギア ソリッド』シリーズ、『ベヨネッタ』シリーズなどで知られる日比野則彦氏が音楽を担当されていた。
今回の『SHINOBI 復讐の斬撃』でも、プレイ中にヘッドホンを通してノリノリで耳に残る楽曲を聴けたのだが、一体、誰が担当しているのか? 今後の発表が待たれる。