25日目:食べられるところが見たい
繁殖が安定すると、邪(よこしま)な心が宿る。たまごっちがたまごっちに食べられるところが見たい。
まさか自分がこんな思考になるとは思っていなかった。きっとマッドサイエンティストも最初は清らかな志を持っていたに違いない。人はこうして堕ちていく。
しかし、どうやったらたまごっちがたまごっちを食べるのだろう。これまで、対面するとすぐに仲良くなり、子どもが生まれていた。仲良く “させない” ためにはどうしたらいいのか。
そこで私は「なぜ人間は争うのか」ということを考えてみることにした。
空腹で機嫌が悪いと争いが起こる
これが私の出した答えだ。上記はたまごっちにも当てはまるのではないだろうか。しかし仮にそうだったとしたら、これまで常に満たしてきた「おなか」と「ごきげん」のステータスをあえて下げる必要がある。つまり、1日目に感じた下記の感情に背かなければならない。
おなかいっぱいごはんを食べて、清潔な環境で健やかに、不自由なく長生きしてほしい
小さな生きものを前に、私は葛藤した。
26日目:極限状態にしてみる
たまごっちたちをいったん極限状態にしてみようと思う。これはたまごっちの生態を知るためにも必要な検証だ。
そこで「おなか」と「ごきげん」のステータスを下げてみることにした。ステータスを下げるには、ごはんやおやつを与えず、あそびもしなければいい。しかし、これが、本当に、しんどい。
なぜならステータスが下がると、たまごっちは涙を浮かべるからだ。
これは偽善者ぶっているわけではなく、40歳にもなるとたまごっちに限らず目の前の生きものはだいたい尊い。おそらく加齢に伴う感情の変化で、昔に比べてより深く感情移入をしてしまうようになったからだ。
昔は笑いながら見ていた『はじめてのおつかい』が、いまでは涙腺が崩壊してまともに見られなくなってしまうのもおそらく同じ現象で加齢が要因のひとつだろう。
とはいえ、それはそれとしてたまごっちが食べられるところは見たい。そこでいったん心を鬼にして、ごはん・おやつ・あそびを完全に止めてみることにした。
ところが、いざ意図的にステータスを下げようとするとこれがなかなか下がらない。基本的にただ待つことしかできないため、翌日へ持ち越しとなった。
27日目:あと1メモリが難しい
今回の「食べられるところが見たい計画」はこうだ。まずどちらのたまごっちも「おなか」と「ごきげん」のステータスをゼロにする。そしてその状態で対面させる。

機嫌が悪ければ、喧嘩のひとつも起こるだろう。さらに空腹なら、相手のことを食べてしまうかもしれない。これが私の立てた計画だ。
前日からステータスがゼロになるようひたすら待っていたところ、ひとつの問題が発生。「おなか」は比較的すぐにゼロになるものの、「ごきげん」がなかなかゼロにならない。下記の悪循環が起こっていた。
ごはん・おやつ・あそびを止める
↓
ステータスが下がると病気になりやすい
↓
病気のままでは対面することができない
↓
病気を治す(病原菌を撃退する)
↓
病気を治すと「ごきげん」が少し上がる
1体がゼロになってももう1体がそのタイミングで病気になり、治したことで上がってしまうステータスが下がるまで待っているあいだにもう1体が病気になってしまう。
理想はどちらのたまごっちも「おなか」と「ごきげん」のステータスをゼロにすること。どうせなら極限状態で対面させたい。
そこで「空腹が続くことで病気になりやすい」という仮説を立て、完全な空腹にはせず「おなか」と「ごきげん」が同じくらいのタイミングにゼロになるよう、ごはんを少しだけ与えて調整してみることにした。
こうなってくると罪悪感もひとしお。「ここまでやる必要があるのか?」という問いしか出てこない。
しかし、この「ごはんを少しだけ与える」というやり方が功を奏して、ついに2体とも「おなか」と「ごきげん」をゼロにすることに成功した。急いで対面を試みる。


喧嘩だった!!!
なんということだ。ステータスをゼロにして対面させても、喧嘩をするだけで食べられることはなかった。ほかにも満たさなければいけない条件があるのか、はたまたランダムに発生するものなのか、この検証では判断がつけられない。
このあと試しに片方だけステータスをMAXにした状態で対面させたところ、普通に仲良くなってしまった。
食べられる条件についてもう少し検証したい気持ちもあるものの、再びたまごっちを極限状態にすることに強い抵抗があり、この計画はいったん打ち切りとする。
「30日間のお世話」とあらかじめ決めて起動したため、残りの3日間はおなかいっぱいごはんを食べて、清潔な環境で健やかに、不自由なく過ごしてほしい。
30日目:リセットボタンを押す
いま、どちらの本体にも5世代のたまごっちたちがひとりも死ぬことなく暮らしている。しかし、この『Tamagotchi Paradise』は発売前に特別にお借りしたもの。そろそろお別れをしなければならない。
たまごっちは起きていると笑顔でこちらを見てくるため、寝ているあいだにリセットして電池を抜くことにする。第5世代の「はっちっち」と「ぐそくっち」には私の邪な計画のせいで苦労をかけてしまった。
『Tamagotchi Paradise』には宣誓書がついている。私はこの宣誓書に背いてしまったかもしれない。しかしそこも含めて、この記録が、だれかの参考になれば幸いだ。
たくさんの愛情をそそぎ、たくさんのたまごっちを大切に育て、にゅーたまごっち星を楽しくにぎやかなパラダイスにすることを誓います!

以上が30日間の記録です。約30年ぶりにたまごっちたちのお世話をしました。まず驚いたのは本体の大きさ。しかしそのあとさらに驚いたのは、操作感が初代と変わっていなかったこと。
・たまご型のデバイス
・左のボタンは「選択」
・真ん中のボタンは「決定」
・右のボタンは「キャンセル」
この30年間のあいだにさまざまな『たまごっち』が発売されていますが、上記のように初代が踏襲されていることは筆者にとっては熱いポイントのひとつ。
というのも、本体が届いたとき、まるで小学生に戻ったかのようにときめいてしまいました。PCやスマホを買い替えたときも同様のときめきはあるものの、筆者の場合はそこに利便性への期待などが混ざっていることが多いです。
しかし『Tamagotchi Paradise』は、たまごっちを育てることのみを目的とした純粋な “おもちゃ” で、純度100パーセントのおもちゃに対して40歳の自分がこんなにも興奮するとは思っていませんでした。
もちろん、たまごっちの育成そのものもめちゃくちゃ楽しいです。だけど、おもちゃを目の前にしたときの “あの興奮” を『Tamagotchi Paradise』は筆者に思い出させてくれました。筆者のような大人たちにこの記事が届いたらうれしいです。
『Tamagotchi Paradise』は7月12日から発売しているので、食べられる瞬間を目撃した方はその方法を筆者に教えてもらえませんか?