旅行中にかわいらしいヒロインとも出会える
『風雨来記』シリーズは「恋愛ADV」としての側面も持った作品。本作でも、それぞれの想いを胸に三重県にやってきた三人のヒロインたちと仲を深めることが可能です。
筆者も、何度か接するうちに純粋に彼女たちのことが気になって、女の子たちを追っかけて三重県を旅するようになっていました。

たとえば、ヒロインのひとりである「鹿間茜(しかまあかね)」は、三重県由来の戦国武将「九鬼嘉隆」の足跡をテーマに記事を書いて、ルポライターの主人公と同じようにコンペに臨んでいるのですが、どうもただの取材対象以上のなにかを抱えていることがうかがえます。
筆者がそもそも歴史に詳しくないというのもあるのですが、「九鬼嘉隆」って一般的な知名度はけっして高くはない武将ですよね。そんな人物に対して、同じルポライターの主人公をして「触れたらやけどするほどの熱」を持つ茜。
その情熱の源泉はどこにあるのか、なんだかとっても気になってくるわけです。
ちなみに、主人公はコンペの説明会で彼女に助けてもらうかたちで出会うことになるのですが、そのときのやりとりというのがなんともあざとかわいい。


主人公は主人公で、コンペが始まるとさっそく彼女が書いた記事をチェックし、お礼にかこつけて会いに行くことを考え出します。きみ、意外と積極的だねぇ。
そして彼女の目的地である「九鬼」へ向かうと取材に同行することになるのですが、どう見てもデートです、ありがとうございました。

しかも主人公くん、その日の夜に彼女が投稿した記事を読むと、そこに書かれていた彼女の次なる目的地、「大王崎灯台」に狙いを定めます。主人公くん、もう完全に惚れてない……?
ただ、この「大王崎灯台」というのがなんとも絶妙な位置にあって、先ほどまでデートをしていた「九鬼」から向かおうと思うと、ちょっと遠い。

結局のところ、「距離が遠くて億劫」という理由で、茜を追うのは後日にした筆者。無意識に「三重県の観光」を優先してしまっていたのかもしれません。
その結果、茜との繋がりは消えてしまいます。後日、「大杉谷」近辺の大冒険から戻って、「大王崎灯台」に立ち寄ったところ、そこには誰もいなかったのでした。トホホ……。
とはいえ、仮に私が現実で旅行をして、熊野方面に行くつもりで立ち寄った「九鬼」で出会った人が次に大王崎灯台に行くと聞いても同じ選択をしたと思います。
まぁ見事にフラグをへし折ってしまったのも確かなのですが……。しかーーし、これはゲームなわけで……。
私は、何のためらいもなくメニュー画面を開き、「ロード」を選択しました。
ワーープ!

なんてこともできちゃいます。そう、ルポライターとしての仕事を忘れ、恋愛に没頭する。そんな非日常的な旅の形も、このゲームなら許されてしまうのです。 筆者は三重県を優先しましたけど。
ひと通り本作を堪能して感じる「主人公、じつはタダモノではない」説
最後に、旅行とは直接関係ないのですが、本作をプレイしてみて、個人的に一番興味深かったのは「主人公という存在そのもの」だったりします。
説明すると、主人公は出版社に勤める新人のルポライター。ただ、就活に失敗し、コネで入社したこともあってか今ひとつ仕事に対する情熱が持てず、自分の目標がないことに悩んでいる。
……という設定なのですが、プレイヤーの選択によっては、1日に観光地を10箇所以上巡り、谷だろうが峠だろうが踏破する。そしてちょっとでも美味そうと思ったら一日に何度でも食い、ときには三重県のあちこちを巡りヒロインを追いかけるバイタリティの持ち主になるわけです。

ゲームシステムの都合と言えばそうなんですが、さっきたらふく食べたにも関わらず、ごはん屋さんと見るやいなや向かっていき「けっして食欲に負けたわけではない」などとつぶやく主人公の姿はなかなかにシュール。やっぱり彼、タダモノではない気がします。



しかも、観光地には立派な旅館があるはずなのに、なぜか1日の最後にはキャンプ場のテントで就寝する謎のこだわり。
さらには、濃密なキャンプ飯の描写でプレイヤーに飯テロを行い、食うだけ食ったかと思いきや、急にセンチメンタルな内面描写で1日を締める。
日によっては一日の終りに濃厚なキャンプ飯の描写が挟まったりもします。画像がない分、文章表現に力が入りまくっていて、初日のシーンでは、なんと約3,000文字に渡る調理描写が繰り広げられました。ちょっとした短編小説かよ……。
ある程度はプレイヤーである筆者が一緒に作り上げてしまった人物像とはいえ、この「ちょっと(?)変な人」っぷりがまた笑いを誘います。
これは筆者の勝手なイメージですが、彼はどうも自分の中にある情熱に対して気付いていない、あるいは気づかないふりをしているような印象を受けました。そんな彼が秘めた情熱を旅の中で見つけられるのか。また、どのような形で物語の結末を迎えるのか。純粋に楽しみです。
そもそも、学生のうちに普通自動二輪車免許を取り、イギリス製MT(マニュアルトランスミッション)バイクを乗り回している時点で、かなりガッツのある人間だよアンタ!

これはちょっと余談になりますが、「普通自動二輪車免許」って、車の免許を持っていても約10万円はかかるんです。ちなみに車の免許がない場合は15万円近くだとか。
しかも主人公が乗っている「トライアンフ」の「SPEED 400」は車体価格約70万に加え、もろもろの費用、さらに車検代もかかるし、ハイオク指定のバイクのはず。なかなかの金食い虫なんですよね。
今さらではありますが、本作はそんな相棒に乗って、実在する道路を走り回れるのも特徴のひとつ。
バイクの移動については、実際の道路を撮影した映像の中を進んでいきます。分岐点で進む方向を任意で選べるし、Uターンもできるのは新鮮でした。ついでに言うと走行中の写真撮影も可能、現実なら超危険なこともできてしまいます。
危険と言えば、「自分だったらぜったい通りたくないな」と思うような狭い山道や、舗装すらされていない、いわゆる「酷道」(こくどう、文字通りひどい道)だろうが問答無用で連れて行ってくれるんです。こういうのもゲームならではでおもしろいところ。
カーブも自然な映像で描写されていて、とくに、三重県のリアス式海岸沿いのようなカーブの多い道だとわかりやすいですね。
映像自体は、目的地から目的地までひとつの映像を流し続けるのではなく、ある程度走行するごとに次の道路に画面が切り替わる仕組み。
最初は途切れ途切れの映像に少し戸惑ったんですが、「パールロード」のような長距離のツーリングスポットでは、風を切って走るような没入感を味わえたのでした。

今回、『風雨来記5』をプレイするにあたって、前作『風雨来記4』のインタビューを拝見したのですが、このシリーズは一貫して「旅に出たくなるゲーム」を目指して作られているそうです。
プレイする前は、「ゲームで旅をする」ことに対してあまり楽しいイメージを持っていなかったのですが、思うままにバイクを走らせ、風景を写真に収め、好きなものを食べて巡る。そんな最高の体験をした今なら、その言葉の意味がわかる気がします。
というのも、どれだけゲームの中でリアルな観光スポットを巡っても、そこの空気や匂いを感じることはできない。登場する食事も、実際に食べたわけではない。だから、「こんなに楽しい旅行体験をしているのに、自分だけがそこにはいない」という、“歯がゆさ”が残るんですよね。
そして、この歯がゆさを解消する方法は、たったひとつ。自分が、実際にそこへ行くしかない。
私もいつか、三重県を旅行して、このゲームで巡った道をなぞる「リアル『風雨来記』」をしてみたいと思っています。そのときは、できれば相棒の「SPEED 400」と一緒に行けたら最高だな……なんて思ったのでした。
今さらではありますが『風雨来記』シリーズは、初代から3作目まで制作したFOGから、日本一ソフトウェアにバトンが引き継がれた作品。時代が変わり、制作する会社が変わろうとも、その熱い志は強く根付いている。そんなふうにも感じました。
そんな『風雨来記5』は2025年7月31日にNintendo Switch、PlayStation5、PlayStation4向けに発売。また、今回の記事で紹介した「パールロード」や「伊勢海老の天丼」の食レポも楽しめる体験版も配信されているので、まずはそちらからプレイしてみてくださいね。
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