ユーザーを恐怖のどん底に陥れるホラーゲーム『バイオハザード』シリーズ。
その最新作である『バイオハザード レクイエム』の先行プレイ版を遊ぶため、筆者はドイツで開催中の特大ゲームイベント「gamescom2025」」へと訪れていた。
序盤から、グレースという女性が大量に血液を抜かれた状態からスタート。クリスやレオンなどの頼もしい存在はいない中、ひとりで謎のクリーチャーが徘徊する廃病院のような施設からの脱出を目指すこととなる。
道中で手に入るアイテムと言えば、瓶ふたつとライターくらい……なんて心もとないんだ!
拳銃は?ナイフは?ハーブは?(回復アンプルはあったが)
貧血ぎみの女の子の命を、俺の手に委ねないでくれよ!!!
今回は、そんな怖さマックスな『バイオハザード レクイエム』のディレクターとして活躍する中西晃史さんと、プロデューサーの熊澤雅登さんに、本作のこだわりポイントについてお話を伺うことができた。
また、SNSで話題になっている「クリーチャーの声が過去作のリサと酷似している」という噂についても、ぶっちゃけた真相を聞いてみた。
『バイオハザード レクイエム』を楽しみにしているユーザーのみなさまにとって、参考になれば幸いだ。
開発人数はたくさんいる
──本日はよろしくお願いします。
まず、中西氏と言えば、『バイオハザード7』や『リベレーションズ』のディレクターとしても活躍されていましたが、最新作である『レクイエム』では、ディレクターとしてどのようなお仕事をされているのか、あらためて読者の皆さまにご紹介いただけますと幸いです。
中西氏:
私の役割は開発の舵取りをすることです。『バイオハザード』はたくさんの人数で作るので、それぞれに「〇〇ディレクター」という役職があります。私はそれを全体としてまとめて、意思決定をしています。
──たくさんの人数というと、開発人数って何人ぐらい居るのでしょうか。
中西氏:
開発の時間軸でどんどん増えていきます。
レクイエムに関しては発売時期も発表させてもらってるように、大量に量産してるような時期ではあるので今が1番多い。内部だけでも150~200人は超えていると思います。
……というか、はっきり覚えてないぐらい(笑)
うちの場合は開発チームとチーム外でも、例えばR&D(※)の部隊とか、テクニカルアート(※)の部隊とか。開発に携わっている人間がたくさんいるんです。だから、結論を言うと「いっぱいいるよ」ということになりますね。
※R&D「Research and Development」の略称で、「研究開発」の意味。
※テクニカルアート。ゲームやCG、映像制作業界でデザイナーとエンジニア(プログラマー)の間に立って両者の橋渡しをする。
過去作からの大きな変更点は、“視点変更”
──本作の開発にあたり、 過去作の『バイオハザード』から大きく変更した点をご紹介いただけないでしょうか。
中西氏:
まずは、これはもう発表してることなんですけど、1つ目はカメラを変更できるようにしてる点ですね。
従来ですと、大体は主観視点のバイオ、3人称視点のバイオが出ていたのですが、今回はどちらの視点でもプレイできるというのは、大きく変えたところではあります。
──それこそ、一人称視点では自分の目線で肝試し系のリアル脱出ゲームをプレイしている感覚になり、3人称視点だと、恐怖に怯える主人公の姿が見れたりして、二通りの楽しみ方ができました。この視点変更システムは特にこだわって作っている部分なのでしょうか。
中西氏:
やっぱり、過去の『バイオハザード』で7、8と主観視点にしたときに、そのおかげで怖くはなったのですが「主観視点は苦手」という人も一定数はいます。それこそ、「バイオハザードはサードパーソンの方が良い」という人もいます。
より多くのお客さんに遊んでいただきたいな、という意味では「もう選んだらええやないか」という理由で二通りにしました。
もうひとつの理由は、主観視点にすると怖くは出来る反面「怖すぎる」部分もありました。実際に、手前にキャラクターがいると若干の安心感があるじゃないですか。そこで、サードパーソンにして怖さを緩和しました。
──僕もホラーゲームを怖がっちゃうタイプなので、3人称視点があってめちゃくちゃ救われた気持ちになりました。
中西氏:
(笑)。 そう言っていただければ、やって良かったなと思います。
今回、初登場する武器もある
──次は戦闘面についてなのですが、クリーチャーへの対抗手段が隠れる、瓶を投げるといったアクションに限られていたのですが、今後、主人公が武器の入手以外で強くなる要素はあるのでしょうか。
中西氏:
今回、先行プレイしていただいた場面は、グレース(主人公)が初めてクリーチャーに直面するという怖さにフォーカスした部分になります。なので、グレースには戦闘手段を与えていません。
ゲームを通して、ずっとそうかというとそういうことはなくて、武器を入手することもあります。バイオハザードのコアな要素って、ホラーが軸にある中で、戦闘、探索、それからリソースマネジメントなど、さまざまな要素が絡み合っています。
敵を退けながら、物資を集めて戦う手段を見つけていくと。このコアとなる部分はレクイエムのベースにもなっています。そのうえで、『レクイエム』ならではの新しい要素を入れようとしています。
──本編では、どのような武器が登場するのでしょうか。
中西氏:
具体的には言えないんですけど、今回、初登場するようなものもあります。
──大きさだけでも教えていただけないでしょうか。
中西氏:
大きさを聞かれるのは意外だったな(笑)。
それなりのものです!
──どれくらいのサイズ感の物をかつぐのか気になりまして……(笑)。
熊澤氏:
なるほど、グレースがかつげるのかどうか、ですね。
中西氏:
やっぱり、グレースも重いものを持つと、重そうになります。
──なるほど。ありがとうございます。もしかしたら、「重たいもの」が登場するのかな、という期待感が出てきました。
中西氏:
(笑)
熊澤氏:
モンハンのハンマーみたいなね(笑)。
──戦闘で言うともう一つお聞きしたいことがありまして、『7』 と 『8』 にあったガード操作が今回の先行プレイでは存在しなかったのですが、今後、ゲームを進めていくにつれて主人公のアクションが増えることはあるんでしょうか?
中西氏:
これから先に増えないとは言い切れないですね。
おぞましいクリーチャーの「声」の正体は?
──先行プレイでグレースが遭遇したクリーチャーについてお聞きしたいのですが、一目見るだけで「絶対に近づいちゃだめ」というデザインじゃないですか。どのようなインスピレーションを得て、あの造形に仕上がっているのでしょうか。
中西氏:
まず、「近づいたらアカン」と思ってもらえたのであれば、僕らの狙いとしては大成功していると思います。 ありがとうございます。まさに、目指したのはそれですね。「見ただけでアカンやつ」という風貌です。
着想のベースは、もう覚えてないんですけど……モチーフは、いわゆるバイオの追跡系キャラクターです。『バイオハザード7』のジャック・ベイカーとか、タイラントですね。
今回は、「レクイエムならではの追跡系をやろう」というのがスタートでした。
──実は先日、SNSで話題になっていたことなのですが、先行プレイで遭遇したクリーチャーの鳴き声が初代バイオハザードのリメイク版に登場していた「リサ(※)」によく似ていると。そこの真相をお聞きしてもよろしいでしょうか。
中西氏:
僕もそれ、見ました。
実は、現バージョンのクリーチャーの声はまだ決定版のものじゃないんですよ。で、ぶっちゃけて言っちゃうとリサの声をベースにしたものを仮の音で当てているんです。
──あ、そうなんですか!
中西氏:
はい。声だけではないんですけど、当然ながら開発中のものもありますので、各所にアップデートをしています。ユーザーの皆さまには誤解を与えてしまって申し訳ないんですけど……
あ、記事の見出しでいいですよ。「実はリサじゃなかった」って(笑)。
※リサ・トレヴァー
初代『バイオハザード』のリメイク版に登場する不死身のクリーチャー。悲しい過去を持つ。
今後、ホラーゲームはどのように発展するのか
──『バイオハザード』は、もはや日本のホラーゲームを代表するビッグタイトルだと思うのですが、今後、日本のホラーゲームはどのように発展していくと思われますか。
中西氏:
そういう意味で言うと、ホラーゲームが出始めた頃から比べると、今やものすごい数のホラーゲームが作られていると思います。それはインディーゲームも含めて、ですね。
怖さの原点って、人間の感情じゃないですか。 それ自体はずっと変わってないと思ってます。
──なるほど。
中西氏:
ホラーゲームのブレイクスルーの変化って、テクノロジーの変化で今まで保ってきたと思っているんですよ。
怖さの本質って、キモいものが怖い、とか黒いものが怖い、とか、死ぬのが怖い、とか。それ自体は変わっていないのにこれだけホラーゲームが多いのは、テクノロジーの影響なんじゃないかと。
──テクノロジーの進歩がホラーゲームの発展につながっている、ということでしょうか。
中西氏:
そうですね。わかりやすく言うと、初代『バイオハザード』から『バイオハザード2』はプレイステーションがアップデートされて、より質感や陰影を表現できるようになりました。『7』でいうと、VRでもできるようになりましたよね。
最近で言うと、マルチプレイ・オンラインもそうなんですよ。誰かと一緒に恐怖の館に入れる。その恐怖体験を共有できる。これも、新しいホラーだと思っています。
映画も一緒なんですよね。テクノロジーの進化で、表現できる幅が広がるんです。
表現を変えれば、魅せ方や怖さが変わっていきます。そういう意味では、人間が進化し続ける限り、新しいホラーゲームは生まれると思います。
──最後に、お二人にお聞きしたいのですが、本作で力を入れている点と、日本で『バイオハザードレクエム』を楽しみにしているユーザーの皆様にコメントひとついただけますと嬉しいです。
中西氏:
力を入れてるという意味で言いますと、ナンバリングタイトルの新作で、本当に多くの方に期待して貰っていることと、期待に少しでも応えたいというところに一番力を入れてますね。「怖くて面白いバイオを作る」と。それのみです。
熊澤氏:
『バイオハザードレクイエム』については、シリーズでいうところの9作目、ナンバリングの最新作ということもあるので、「新しい挑戦をしよう」とこのプロジェクトが立ち上がりました。
その中で力を入れている部分でいうと、先ほどのカメラ視点の変更や、パストレーシング(※)にも挑戦もしています。
あとは、ゲームとして何が面白くなっているのかというと、プレイヤーの気持ちとか感情に高低差をつけようしています。その差分を最大化させようっていうところが1番強調してるところですね。是非、発売後に楽しんでいただけると嬉しいです。
※光が光源から出た後の全ての経路(パス)をシミュレーションし、現実世界のような光の挙動を再現する高度なレンダリング技術。
──本日はお忙しい中、ありがとうございました。(了)
『バイオハザード』の最新作。プレイすると、「先に進みたくない」と思わせる恐怖演出。でも、先に進まないと主人公の安全が確保できないから、やるしかない。
先行プレイの時点でも、プレイヤーを誘導するバランス感覚が神がかっているように思えた。
廃病棟のような場所に囚われたグレースは、無事に脱出できるのだろうか?
今作で登場する新たな武器とはいったい何なのか。気になることは後を尽きない。
『バイオハザード レクイエム』はPS5、Xbox Series X/S、PCに向けて2026年2月27日に発売される予定。発売日を、恐怖しながらも楽しみにしてしまう。