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『怪獣8号』にドハマりした話。漫画もアニメもあまりによすぎるので布教させてほしい。夢破れた35歳おっさんが、アニメのエンディングを聴くたびに泣かされている

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海外のトップアーティストの楽曲が熱すぎる

いよいよ楽曲の話をさせていただきたいのだが、『怪獣8号』で個人的には一番刺さっているのがこれだ。

『怪獣8号』のテーマは冒頭に述べたように、自分は普遍的なものだと思っている。だから、曲だけ聴いても、なにか感じられるものがあるかもしれない。

アニメ第1期のオープニング「Abyss」は、Imagine Dragonsのダン・レイノルズとYUNGBLUDの共作だ。嘘のような本当の話でビビる。Imagine Dragonsは『League of Legends』の大会テーマも歌っていたりするので、知っているゲーマーは多いだろう。

YUNGBLUDが歌うこの曲はとにかくかっこいい。それなのに、暗くて冷たくて悲痛な雰囲気が終始漂う。そこに普通のアニメでは考えられないようなグロテスクな映像が組み合わさって、独特の絶望感を生み出している。

タイトルは「深淵」を意味する。曲中では、何度も震えるような途切れるような声で、「救ってくれないか 誰か……」と叫ぶように歌われる。

これは、あくまで自分が「Abyss」を聴いて勝手にそう思ってイメージを重ねているだけだが、この歌は本作で繰り広げられる絶望的な戦いだけを歌ったものではないと自分は思っている

本作冒頭の、あるいはそれよりも前の、カフカの極めて個人的な、挫折して絶望に沈んだ人間としての声にならない叫びを歌ったもののように感じていて、それでものすごく「救われた気持ち」になっている。

はじめは普通に作品中の絶望的な戦いのことを歌っているのだと思っていた。ただ、オープニングムービーと組み合わせたときの異質さがどうしても気になった。

結局のところ、ムービーでは一度として本編中の強敵が出てこないのだ。大怪獣の一切が登場せず、人々の日常を脅かすあくまで一般的な怪獣たちが、3DCGで子供が泣きそうなくらいグロテスクに描かれている。

『怪獣8号』レビュー・感想・評価:漫画もアニメもあまりによすぎるので布教させてほしい_008

そして、そこで登場するのが「亜白ミナと並び立ち怪獣に立ち向かう自分」という明確なカフカの心象風景だ。最後に、『怪獣8号』の1巻のビジュアルが登場する。

私はこれで心が「ブワッ」となる。防衛隊になれず過ごしていた、カフカの失意の日々や絶望だけでなく、意図せずも怪獣8号になったことでうまれた、自身の正体を隠さないといけない新たな悩みや、待ち受ける怪獣との戦いへの覚悟や想いが歌に詰まっている気がするのだ。そう思うと、気持ちが自然と高まってしまう。

よくよく考えると、これOP? と最初に思ってしまったくらい異様な出来だったのだが、これほどふさわしいテーマはないと思う。

個人のこんなグズグズした、みんな上手く処理できず困ってる、日常に潜むしんどさをよくここまで歌ってくれた。ありがとう。と、あくまで“勝手に”テーマの裏とかを考察や妄想したうえで思っている。

そして、アニメ第1期のエンディングテーマの「Nobody」だ。オープニングテーマとは打って変わって曲調はとても明るい、踊れる曲になっている。それは本作の美しい側面を描いた楽曲だからなのだと勝手に思っている。

「Nobody」の意味は「誰でもない」「才能のない人」「取るに足りない人」とさまざまなものが内包されているが、曲の中では「僕は誰よりも理解している」などの文脈の中で登場する。「誰よりも」という意味だ。

この曲からは、心の支えもなく重圧と戦い続ける幼なじみの亜白ミナを隣で支えたい日比野カフカという情景が浮かんでくる。

ただ、物語全体を俯瞰したときに、この曲は全ての登場人物に当てはまってしまうと考えて、そうなるともうダメだった。『怪獣8号』を読んでいて泣かされたシーンが全部蘇ってきて、正直なところ本稿を書いている最中でもしんどくなる。

そもそも防衛隊自体が誰かのための組織だ。命を賭けて、人々を守るというとんでもないことをやっている。そんな彼らがお互いを信頼し、命を賭けて戦うといったけなげさ、儚さがある。彼らの姿勢は徹底した「献身」にあるのだ。

そして、「Nobody」は「本当の自分のキモチからのメッセージ」といったところまで矮小化することができてしまう。どこまで意図されているかはわからないけど、『怪獣8号』が持つポジティブなメッセージの全てをこの曲から受け取ってしまってダメになるのだ。

エンディングムービーでは、本作の戦いを陰から支えるオペレーターの小此木このみの視点を通して、防衛隊の活動記録をのぞき見るという内容になっている。楽しい日常の様子や倒した怪獣の姿など、さまざまな写真が映し出される。一方で、カフカがとくにフィーチャーされているわけではない。

つまるところ、自分は楽曲単体ではなく、ムービーもあわせて気持ちを揺さぶられた。みんながフィーチャーされてるから、「Nobody」はあらゆる献身を歌った歌だという風に捉えてしまった。

一方で、エンディングムービーが記録の形をとっているというのもニクい。いつの時系列かもわからないし、どんな状況かもわからない。ただわかるのは、小此木オペレーターが記録を振り返りながら仕事をしているということだけだ。戦いは続いているのか、終わっているのかもわからない。

防衛隊の任務はいつ何が起こるかわからない。作中でもカフカは副隊長の保科宗四郎から「あまり隊員と仲良くしすぎるな」と警告されることがある。

誰かが倒れたとしても何が起こったとしても、記録は必ず残る。だから楽しげであり、優しくもあって、不穏さが拭い去れない内容になっている。しかし、それが『怪獣8号』の世界の日常なのだ。そして、いつどんな困難にぶつかるかわからない、我々の人生そのものなのだと思う。

正直、今まで生きてきて、こんな短いムービーでこれほど心を動かされたことはない。これは、映像クリエイターも一丸となって、『怪獣8号』が持つテーマを丁寧に描いてくれたからに他ならない。やられたと言うしかない。

ギャップだらけで魅力しかないキャラクターたちが全員推せる

作品としての『怪獣8号』の一番の推しどころは、やはりキャラクターだ。本作は日比野カフカという、最強の怪獣の力を手にしてしまっただけのいわば圧倒的な凡人が主人公になっている。

一方で、同じような凡人もそうだし、対極にあるような天才たちも多数登場する。彼らこそが、自分が『怪獣8号』を最後まで読み進める動機だった。

たくさん登場人物がいる中でカフカが最強の力を発揮してみんな救われてハッピー、みたいなわかりやすいストーリーラインになってないのがとにかくいい。登場人物全員が色々な背景を持っていて、それぞれがさまざまな困難にぶち当たって成長していく姿が描かれているのが「群像劇」として熱いのだ。

『怪獣8号』レビュー・感想・評価:漫画もアニメもあまりによすぎるので布教させてほしい_009

そして、カフカに関しては、最初は人生上手くいっていないおっさんとしての「共感」があったが、今では「憧れ」を抱いている。

彼は強い。どちらかといえば、自分が現在進行形で共感を抱くのは糸目で飄々としていて関西弁を喋る最強という属性てんこ盛りな保科宗四郎のほうだった。

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なんかもうめちゃくちゃ含みありそうな出で立ちで、カフカの一挙手一投足に爆笑するような彼だが、隊長・亜白ミナに対する熱い忠義心がある。銃を使った怪獣討伐が主流になって行くなかで価値を軽んじられていた剣術のスペシャリストである宗四郎に、ミナがポジションを用意してくれたことが理由だ。

自分語りで申し訳ないのだが、私は会社というものにあまり馴染めずフリーランスという業態で生きている。

つまり“得意”だけで生活しているのだが、それは誰かに価値を見いだしてもらえなければ成り立たない不安定な生活でもある。そんな自分の生き方と宗四郎の境遇がどこか重なってしまうのだ。彼が感じる「痛み」もなんとなくわかるし、彼の「献身」の理由もなんとなくわかる。

だからどうしても注目して追ってしまう。とはいえ、読者目線で共感を抱かなくても、単純に超魅力的なキャラクター造形になっていると思う。

彼は、ミナの隣に立ちたいカフカとはポジションを奪い合うライバルになるわけだが、その一方でカフカを気にかけてくれる優しさを持っていたりする。

第1部隊隊長の鳴海弦とは犬猿の仲と言われ、なにかと絡んでくる鳴海を挑発しながらいなしたり……じつのところ物語の進行に合わせていろいろなキャラクター性を見せてくれる。個人的には終盤の宗四郎が魅せるさらなる意外性が好きだ

それについて語りたい!!……ところだが激しくネタバレになってしまうので、本稿では言わないようにしておく。

とにかく本作ではみんなが色々なギャップで魅せてくれる。自分の場合は登場する全てのキャラクターに何かしら自分を重ねられる部分が存在した。なので、誰しもが強い思い入れを感じることができるキャラクターを見つけられるはずだ。

『怪獣8号』レビュー・感想・評価:漫画もアニメもあまりによすぎるので布教させてほしい_011

そして、作中に登場するキャラクターの中で、純粋にキャラクターとして誰かひとりを推すのであれば、四ノ宮キコルは外せない。好き、応援したい、活躍してほしいと純粋に感じさせてくれる存在で、本作を象徴するヒーローのうちのひとりだ。

なにより大事なのは、彼女が国宝級の「ツン」であることだ。第一印象の悪さは正直に言ってダントツだ。

初対面でカフカ(自分としてはおじさんではないつもり)を平然と「おじさん」呼ばわりし、社用車を投げ飛ばすし、とにかく不遜な態度でことあるごとにいびりちらかしてくる。

それが、怪獣討伐において史上最高の逸材と謳われる「天才少女・四ノ宮キコル」の振る舞いなのである。だが、彼女の背景を知れば知るほど、それは強い痛みを伴うがゆえの強がりなのだということがわかってくる。これがたまらなく尊い。

彼女は日本防衛隊長官・四ノ宮功の娘として常に高い要求を突きつけられ、これまでずっとそれに応え続けてきたという背景がある。自分はそれを成し遂げられる人間であるという矜持がある。天才と評されてはいるものの、その裏では並ならぬ努力を重ねている。

そういった裏の努力が褒められたり認められなくても、常に完璧を目指すという針山の上を歩き続けるような人生を送っている人物なのだ。

キコルが「私のいる戦場で、犠牲者(リタイア)なんて出させない」というセリフを放ったときは惚れた。個人的な『怪獣8号』最高のシーンだ。

いろいろ知ったあとでよく吟味すると、キコルのセリフは「犠牲者は出さない」という完璧さの追求じゃなくて、「犠牲者“なんて”出させない」という悲劇的な結末の一切をはねのけてやるという気持ちの表れになっている。彼女の根っこは優しいのだ(と思いたい)。

でもキコルは生半可な「ツン」じゃない。でも、魅力たっぷりの「ツン」だ。読み終わってキコル好きにならない人はいないんじゃないかな……。


先も述べた通り、本作における「怪獣」という脅威は人生における「困難」のメタファーだと自分は考えている。避けられない悲劇、理不尽な絶望。本作は、それらに人間がどう立ち向かうかが全体を貫く真のテーマだと思っている。
しかし、まずは立ち向かうことだ。災害はどうすることもできない。しかし、個人的な体験としての絶望や悲哀には、立ち向かうことができる

だから「怪獣」という形が本作では与えられていて、でも容易には倒せない強大な存在として描かれている。そして、カフカはヒーローではなく困難の象徴とも取れる「怪獣8号」に変身する。

この作品の完結を通して自分は「折れずに戦え」というメッセージを強く受け取った。そして、カフカが作中で抗い続けるように、「実力不足は戦わない理由にはならない」とも。

原作漫画『怪獣8号』は完結してしまったが、個人的にはテーマに寄り添った終わりを迎えてくれたと思う。アニメのこの先もこれから登場するゲームも仕上がりが非常に楽しみだ。そして、みなさんがどういった感想を抱くのかも楽しみにしている。

自分は『怪獣8号』はいいぞ、と言い続けるつもりだ。『怪獣8号』はいいぞ

©防衛隊第3部隊 ©松本直也/集英社
©Akatsuki Games Inc./TOHO CO., LTD./Production I.G

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ライター
ストア派とシカゴ学派の観点から人生をゲームとして生きている。ライターとしてはクラス選択したばかり。esportsは嗜む程度で、ほとんど追う専・観る専。好きなゲームジャンルは、ハクスラ・放置ゲー・宇宙ゲー・工業ゲー。特に、『Factorio』には無上の喜びを感じ、クリアまでに1000時間かかるMODを完遂することが夢。趣味は漫画を読むことと、書籍とゲームを積むこと。3度の飯ほど『弐瓶勉』作品が好き。
Twitter:@abaranche
編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

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