まさか、アニメのエンディングテーマを聴くたびに泣かされる日が来るとは思ってもいなかった。
35歳のおっさん(筆者)の涙腺は、アニメ『怪獣8号』の映像と音楽によって、いとも簡単に破壊されている。
きっと、多くの方はこう思うだろう。「たかがアニメのエンディングで、そこまで?」と。もちろん、この感動はアニメ単体で完結するものではない。その根底には、原作漫画を読破した際に心に刻まれた感動が前提にある。
『怪獣8号』の物語は、自然災害のように日常的に怪獣が襲い来る日本を舞台に、夢破れたおっさん(主人公)日比野カフカの「再起」と「挑戦」が主軸となっている。
筆者は漫画で初めて本作に触れたが、壮絶な世界観と「夢破れたおっさん描写」からの奮起と衝撃展開でいきなり引き込まれた記憶がある。
夢破れたことないおっさんなどこの世にいない(はず)ので、はじめのうちはカフカに強く感情移入したし、熱い気持ちになった。
ただ、本作の本質は魅力的なキャラクターが多数登場する「群像劇」だとも自分は捉えている。主人公のカフカよりも、戦いのセンスや経験のずば抜けたキャラクターが数多く登場するのだが、彼らからも痛み、悩み、挫折、そして成長がうかがえる。これがとにかく熱い。
そして、アニメもいい。楽曲がとくにいい。「OneRepublic」がアニメ第1期のために書き下ろした「Nobody」とエンディングムービーの合わせ技がすごく好きだ。
そんな『怪獣8号』は、アニメ第2期が絶賛放送中で、しかも、8月31日にはゲーム(『怪獣8号 THE GAME』)のリリースが発表されている。
まだ『怪獣8号』の漫画を読んだり、アニメを観たことがない人がいたら、この機会にぜひ『怪獣8号』の世界に飛び込んでほしい。原作は最終回を迎えたが、今からでも遅くない。
アニメがまさにそうなのだが、漫画とは異なる媒体で触れることで、さらに味に深みが増していくのだ。『怪獣8号』って作品は。
※この記事は『怪獣8号 THE GAME』の魅力をもっと知ってもらいたいアカツキさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
夢破れたおっさんだけどかっこよくて、夢破れたおっさんだからかっこいい日比野カフカという主人公の物語
本作を語るうえで、主人公の日比野カフカ(32歳おっさん)の存在に触れないわけにはいかない。彼の人生からはものすごい「痛み」を感じる。
まず、作中冒頭のあらすじをかいつまんで紹介するとこうだ。
日常的に怪獣が襲いくる世界、怪獣襲来は自然災害のような扱いがされており、その危機から人々を守る組織として防衛隊が存在している。
主人公の日比野カフカは、幼なじみの亜白ミナと共に「怪獣の絶滅」を誓って日本防衛隊への入隊を目指す。しかし、何度挑戦しても試験に受かることができず、夢をあきらめ怪獣専門の清掃業者として日々を送っている。
一方で、亜白ミナは防衛隊の英雄になっていた。暗い部屋で、カフカはミナの凱旋する姿をテレビで眺めて酒を飲みながら「なんでこっち側にいるんだろ俺…」とひとり言を言う。
この序盤の描写が本当に痛々しい。夢破れたおっさんの現実を容赦なく開幕に突き付けてくるのが『怪獣8号』であり、「怪獣バトル漫画」としては衝撃のスタートだった。
しかし、カフカは裏では腐っていても、やることはやる。内心に抱えた鬱屈した思いを誰かに吐くこともなく、清掃の仕事にも真摯に向き合い、後輩思いな一面を見せる。めちゃくちゃいいやつなのだ。
そんなカフカだが、とある怪獣に寄生されてしまい史上最強クラスの怪獣、「怪獣8号」になってしまう……というところから物語がスタートする。序盤の展開はとにかくスピード感があり、どんどん引き込まれる。
いわゆる「変身ヒーローもの」とも捉えることができるが、本作はひと味違う。変身するのが「怪獣」のため、バレると防衛隊に討伐されてしまうのだ。そのため、カフカは生身での戦いを強いられることもある。
しかし、変身していない状態のカフカは32歳の腹ぽちゃのおっさんだ。素の能力は半人前で防衛隊の特殊スーツや武器を使いこなすことができない。
防衛隊の特殊スーツは怪獣の組織をもとに開発されており、解放戦力が100%に近ければ近いほどスーツの力を最大限発揮できているという設定なのだが、試験を受けた時のカフカは脅威の0%! 戦力としても限りなくゼロ。厳しい現実がのしかかってくる。
しかし、カフカは、これまで清掃業で培ってきた怪獣の身体構造に関する知見を活かして、怪獣討伐に臨んでいくことになる。
この、才能ではないこれまでの積み重ねや努力が花開くのはまさにあらゆる世界に通じるものがある。なんてことはない日常が、辛かった挫折の日々が、何かの形として昇華されるわけだ。
アニメ第1期で楽曲を提供しているYUNGBLUDもOneRepublicもインタビューでカフカへの共感を示している。アーティストはとくに苦しい経験などを表現に昇華することが求められるので「確かに」と自分としては納得する部分がある。
自分にも似たような経験がある。それゆえに、「実力不足は戦わない理由にはならない」という、作品から伝わってくるメッセージには、かなり喰らわされてしまった。
本作は、そんなカフカが苦境に立ち向かっていく生き様と、彼の人のよさが、周囲のさまざまな人間に影響を与えていく「群像劇」なのだ。
そして、カフカが「怪獣8号」に変身したからといって、無双できるわけじゃないくらいに、ちゃんと世界が絶望的だということも重要なポイントだ。だから「いい」し、だから「しんどい」とも言える。
正直、今まで自分が読んできたバトル漫画の中で一番「ムリじゃね?」と思わされた気がしている。だからカフカは、人間としても、怪獣としても、成長し続けなければならなかったのかもしれない。
主人公の成長物語、つまるところおっさんの逆転ストーリーと群像劇の両輪がうまく回っているから本作はおもしろい。
そして、これほど苦しい世界でカフカは気丈に振る舞い、幾度と笑顔を見せる。
本作では他にも強いおっさんがたくさん登場する。ただ、カフカ以外のおっさんたちは誰も彼も表情は険しい(いろいろな理由があって、それもまた味わいがあるのだが)。個人的に笑顔のイメージがあるのはやはりカフカだけだ。
誰よりも弱いけど、誰よりも強い。力だけじゃない強さと魅力を持っている。ただ人に優しくするだけでなく、自分に余裕がないときでも誰かに対して優しくあろうとする。
誰かの不安に寄り添ってあげようとする本質的な強さを持っているのが、本作の主人公である日比野カフカのかっこよさなんだと思う。
怪獣の登場シーンを丁寧に描く「怪獣フェチ」な癖を感じるアニメ
本作のアニメは、第1期が2024年4月~6月にかけて、第2期が2025年7月から放送されている。
物語としての魅力は『怪獣8号』の原作漫画だけでも十分に味わうことができるのだが、アニメはアニメのよさがある。自分はアニメ(楽曲含む)のおかげで『怪獣8号』を一段と好きになることができた。
『怪獣8号』はハイテンポな展開が魅力の作品で、漫画でしか表現できないようなスピード感がある。
漫画はページを進むも戻るも自由なので、ある程度は読者に進行スピードを委ねて急展開を作ることもできるし、高速戦闘の中に説明を入れて時間を無視することもできる。
しかし、アニメは違う。再生ボタンを押したら誰しも平等な速度でアニメーションが流れ、物語が進む。その制約によって、漫画のテンポを再現するのが難しい部分がある。
その影響があるかはわからないが、アニメ『怪獣8号』では、原作を膨らませるようなオリジナルシーンが挿入されている。漫画を読んでいた自分にとってはこれがシンプルに一粒で二度おいしい。
加えて、とくに怪獣に対してめちゃくちゃ力が入っている。怪獣に脅かされ続けている不穏な日常風景をこれでもかと描く。重苦しくて恐ろしい。それでいて「怪獣特撮」っぽいお約束もうかがえる。
さらに、演出に関しては「怪獣フェチ」な癖も入っている気がする。漫画だと引いたアングルで怪獣が現れるのに対して、アニメだと寄っていて圧迫感があったり、市民を襲う描写も漫画よりも多くのカットを割いて濃密だ。大の大人が普通にゾワッとするくらい恐ろしく仕上がっている。
本作における「怪獣」は、日々我々が遭遇する「困難」のメタファーだと自分は勝手に解釈している。すでに作品に触れられている方はご存じの通り、本作冒頭で日本は「怪獣大国」という冠が付くが、これは「災害大国」と呼ばれていることが下地になっている。
幸いなことに防衛隊やカフカは怪獣を打ち倒すことができる。しかし、その場所で日々を過ごす人にとって怪獣はまさに災害のように抗うことのできない対象だ。
それがより詳しく描かれていることで元々のビターな味わいがもっと濃くなっている。おかげでさらに防衛隊がかっこよく見える。