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『崩壊:スターレイル』が1年かけて展開した、尋常じゃないストーリー「オンパロス編」について語りたい。ソシャゲの禁じ手だけど、ソシャゲだから描く価値がある物語

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コイツ、オンパロス編で一番好きなキャラなんですが……

『崩壊:スターレイル』の尋常じゃないストーリー「オンパロス編」について語りたい。ソシャゲの禁じ手だけど、だからこそ価値のある物語_017

みなさん、「オンパロス編で一番好きなキャラ」って誰ですか?

まあ黄金裔だけでも結構多いので、人それぞれだと思うんですが……私は、「ザンダー」ですね。そう、あんなにキュレネにどうこう言っておきながら、なんか最後の最後にザンダー・ワン・クワバラが一番好きになってました。

時には、神礼の観衆「ライコス」として。
またある時は、天才クラブ#1の「ザンダー」として。

オンパロス編を通して、悪役として大暴れしていた彼ですが……なんか、どうにも彼の泥臭い人間味と研究者気質が合わさって、ラスト付近で一気に「名悪役」になった気がしています。ということで、「ザンダー」と「リュクルゴス」の話をします。

『崩壊:スターレイル』の尋常じゃないストーリー「オンパロス編」について語りたい。ソシャゲの禁じ手だけど、だからこそ価値のある物語_018

そもそも、オンパロス編のすべての元凶でもある、「ザンダーの行動原理」が結構好きなんです。

ザンダーは天才クラブの創設者であり、この銀河において史上初の天才。あまりにも頭がよすぎて、「星神」である、「知恵」のヌースすら作り上げてしまった。そんなヌースも頭がよすぎて、この銀河の未来をほぼ完璧に予測してしまったり……とにかく、人の手で「全知全能の神」を生み出してしまった。

だが、ザンダーはそれにキレた!
自分で作ったくせに!

ヌースが未来を計算したせいで、「人間の知性」の限界が勝手に定義されてしまった! あらゆる学術も、発見も、ヌースの前では「すでにヌースが計算したこと」になってしまう! 知識も、学問も、もはや神様のご機嫌取りにしかならない! ふ、ふざけんじゃねェーッ!!

……って、生みの親がキレてるんですよ。
天才って怖いですよね。ヌースは泣いていいと思う。
そんなこんなで、ザンダーはヌースを滅ぼそうとしている。

この「最強のコンピューターを作ったら、逆に人間の知識の限界を定義して、未来の可能性を奪うようになった」という設定が、なんか寓話的で好きなんです。

ザンダー自身はそれを許せない。神が人の知性の限界を定義するなら、その神を否定して、再び知識や学問の価値を取り戻す。「ひねくれた人間讃歌」って感じがします。

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ザンダーの一番驚異的なところが……とにかく「粘り強い」ところだと思う。コイツ、全然諦めないのだ。どんなにファイノンに一杯食わされようと、どれだけ袋叩きにされても、全然心が折れる気配がない。「諦めない悪役」って一番強いですからね。

その理由が、「失敗というものについて、このザンダー以上に深く理解している者は他にいないでしょう。私はすでに幾度となく苦杯を喫してきました。それが1つ増えたところで、何が変わるというのでしょう」なのも、なんか妙にカッコいい。究極の開き直り。

失敗がなければ、研究は成り立たない。あらゆる知識や学問は、「失敗」という屍を積み上げることで、解へと到達する。だから、ザンダーは失敗を苦としない。負けても、別にそんなの関係ない。それが研究だから。それが学問だから。ザンダーって……カッコよくないですか?

彼の魅力って、こういう「なにか悪意や敵意を持っているというより、純粋な研究者気質の果てに敵対している」ところに詰まっていると思います。ただ、ザンダーは「好奇心」に突き動かされている。どんな学者よりも純粋で、どんな犯罪者よりも真摯。本人にとっては「悪」ですらない。

ザンダーにとっての「正義」があまりにも明確で、純粋で、それでいて気持ちいい。まあ、やったことが許されるかって言ったらだいぶ怪しいですが……私はそういう悪役が大好きです。

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ただ、そのザンダーから切り離される形で生まれた「リュクルゴス」も、なかなかにいいキャラクターをしている。本来は、分割されたザンダーの思考をコピーしただけの存在。だが、そのコピー先に「リュクルゴス」という自我が生まれた。

自らの意志で「ザンダー」との接続を切断し、「リュクルゴス」という個人として行動を始める……って、これ完全に「心が存在しないはずのデミウルゴスが、キュレネになった」と同じ現象なんですよ。敵も味方も、心を育んでるんですよ!

つまり、ザンダーは結果として、自らの手で「生命の第一原因」の別解を生み出してしまったという……もう、どこから切っても美味い汁しか出ない男だと思います。コピーから生まれたリュクルゴスすら美味しいキャラ。ザンダー実装まだですか? サンデーが行けたならザンダーも行けますよね?

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「ですが、認めましょう───あの12の原石は磨かれてこそいませんが、どんな彫像よりも千倍は美しかったと。」

「まるで私を、この失敗した彫刻家をあざ笑うかのようでした。あれらが生まれ持った美しさは、私自身の手によって必ず損なわれ、最後には跡形もなく消えてしまうのですから。」

で、リュクルゴスのこのセリフがもう「味」しかなくて……これは要するに、彼が「データとして扱っていた黄金裔も、美しかった」と、認めた瞬間でもある。そんなリュクルゴス自身もザンダーの生み出した「彫像」にすぎない。だけど、そんな彫像にも心が芽生え、意志を持って動き始めた。

彼には彼の誇りと信念があって、それに基づいて動いている。
彼の生み出したデータ(黄金裔)を「美しい」と認めたその瞬間に、ザンダー(リュクルゴス)の人間性の面白さが詰まっているんじゃないかと思います。彫像や芸術品を「美しい」と感じられるのは、知恵と意志を持つ人間の特権ですから。

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ザンダー(学生時代)の話、よすぎ

運営型タイトルとして、ちょっと尋常じゃない

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私は、定期的に思うことがある。
『崩壊:スターレイル』は、異常なゲームだと。

全体的なスケール感とか、仕掛けの手の込みようだとか、なんかもう「異常」としか言いようのない気合いをぶつけてくるゲームだと思う。ずっとそんな感じだったけど、オンパロス編は特にそうだった。

大前提として、運営型タイトルで「1年かけて、1本のシナリオを展開する」ことがすさまじい。まあ、これは全く前例がないわけではないと思うけど……にしても、定期的な周期でアップデートをするホヨバ式のシステムで、本当にほぼ休みなしで1年間オンパロスで走り切ってしまった。

ピノコニー編をプレイしている時に、「あぁ、これ以上のリアルタイムの盛り上がりは味わえないのかもしれない……」と思っていた自分はただの杞憂で、今度は1年間ずっと燃料が投下され続けるオンパロスが待ち構えていた。シンプルに「ピノコニーの期待を超えてきた」ところがすごい。

なんか、素朴に「よくやりきったな」と思ってしまいます。
これを計画して、破綻せず走りきったこと自体が偉業だと思う。

シンプルに、「展開したスケールの大きさ」で言えば、2025年のゲーム業界でも一番なのでは……? いや、褒めすぎか!? また私スタレに甘くなってますか!?

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かつ、各バージョンごとの実装キャラを全員活躍させ、黄金裔みんなが好きになれるように作る。で、この1年間でピックアップされたオンパロスのキャラ全員が壮絶な最後を迎える。オンパロス編のラストも、救いは感じつつ、正直「それやっていいんだ……」とは思うんですよ。

全く希望がないわけじゃない。いずれ新生を迎えるはず。
だが、事実としてオンパロスは滅んだ。黄金裔はデータにしか残っていない。

ガチャの存在するゲームにおいて、「ピックアップキャラクター」というのは、イコールで「対価を払って得た商品」になる。だから、ガチャで引いたキャラが死んだり消滅してしまうことに賛否があるのは、人間の心理として当然だと思う。「お金を払って買ったおもちゃが壊れた」と同義だ。

つまりオンパロスは……まあ、この1年間販売され続けた商品が、最後の最後に大花火を打ち上げて全部大爆発したようなものだと思う。クラウド上に保存されてるけど、物理的に壊れたのは事実。これって、本当にリスキーなんですよ。ゲームの良し悪し以前に、人間の心理が耐えられないんです。私だって悲しいよ!!

だから、オンパロスのラストに賛否があるのは当たり前だと思います。
でも、私はそこに納得感を持たせようとしている気概が好きだ。「運営型でこういう話をやりたい」と思ってしまった好奇心が好きだ。それを実行してしまった心意気が好きだ!

運営型だから見せられる……いや、これは運営型だからこそ描ける。
1年かけて魅力的なキャラを出して、ユーザーのみんなにはその子たちを好きになってもらって、1年後のラストにみんな消える! いいじゃないか! そうじゃなきゃ面白くない! 見たことがないから、やる意味がある!!

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そこが、運営型タイトルとして、ちょっと尋常じゃないと思うんです。
誰しも、「これをやったら面白い」ことはわかっている。だけど、ガチャで引いたキャラは「商品」であり、プレイヤーのみんなが心を捧げる対象。日々の労働の対価や、学校で頑張った自分へのご褒美として、私たちの手元にキャストリスやファイノンがやってくる。それを消すなんて……ちょっとできない!

だから、ほとんどのゲームはやらない。
それは禁じ手だから。でも、オンパロスはやってしまった。

オンパロスのオチを見た時、『FGO』でサーヴァントがデータロストした時と同じ衝撃があったんですよ。「え、これやっていいんだ?」って。運営型タイトルとしてやっちゃいけないはずのことだから、感動する。そこの一線を踏み越えなければ描けないストーリーだから、価値があるんだと思います。

そしてオンパロスの物語は、私たちが愛した黄金裔を忘れないことで、生き残り続けていく。ガチャで引いたあの子を、ご褒美でゲットしたあの人を、忘れないでね。記憶していれば、彼ら・彼女らは、ずっと生きているから。そうやって、いつの間にか現実の自分がオンパロスのストーリーに巻き込まれている。

オンパロスの物語に触れた私たちが、「愛」を知り、彼らを覚えておくことで、明日へと向かっていける──キャラクターに支払った対価は、リアルの自分が、明日を生きるための「記憶」に変換される。そう考えると、非常にロマンチックではないでしょうか。

現実は非情だから、物語くらいはどれだけいいように解釈しても、自分だけの夢を見たっていいと思います。どんな形であれ、いずれは自分のためになる。

だから、できる限り幸せなことを記憶して、明日へと歩いていきたい。オンパロス編は、その一歩を踏み出すためにあるんじゃないかなと……私なりに、ロマンチックに解釈している次第です。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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