マンガやアニメを活用した武蔵野市の地域振興プロジェクト「アニメノマンガノムサシノ」。その第4回イベントとして2月14日に開催されたのが、「機動警察パトレイバー EZY&SELECTIONSアニメ上映会&トークライブ」だ。
今回は、2026年5月15日から劇場公開が始まる最新作『機動警察パトレイバー EZY』の先行上映に加え、監督や出演声優陣によるトークライブが実施された。

ちなみに『機動警察パトレイバー EZY』は、全8話を分割して劇場公開するというユニークなスタイルを採用している。2026年5月15日公開の「File 1」では、第1話「トレンドは#第二小隊」を含む計3話を上映。続く8月14日公開の「File 2」でも独立したストーリー3話が上映され、2027年3月公開予定の「File 3」は、前後編の2本立てとなる完結編「おもちゃの国」が予定されている。
今回の上映会では「File 1」の第1話が初披露されたほか、出渕裕監督のセレクトとして『機動警察パトレイバー NEW OVA』第12話「二人の軽井沢」も上映。新旧の『パトレイバー』が交差する、ファン垂涎の時間となった。
メディアの取材が行われたのは、当日2回目となる上映終了後のトークライブだ。登壇したのは、出渕裕監督、J.C.STAFF取締役プロデューサーの松倉友二氏、久我十和役の上坂すみれさん、天鳥桔平役の戸谷菊之介さんの4名。それぞれが作品や収録にまつわる貴重な裏話を披露した本イベントの模様をレポートする。
監督セレクト作品に「二人の軽井沢」を選んだ理由は「好きだから」
長い歴史を誇る『パトレイバー』シリーズ。トークではまず、キャスト陣の作品に対する想いが語られた。
戸谷さんが好きな作品として挙げたのは、初期OVAシリーズ(アーリーデイズ)と劇場版の2作品だ。独特の間(ま)の取り方にセンスを感じ、「すごい」と圧倒されたという。一方、上坂さんはオーディションを受ける以前からの熱心なシリーズファン。なかでもイングラムの「大きすぎないサイズ感」が、ロボット好きとしての琴線に触れるポイントだと熱弁した。
「二人の軽井沢」の上映中、客席の良席を陣取って鑑賞していたという上坂さん。改めて作品を見直したことで、後藤と南雲が乗っていたのがイタリア車だったことに気付いたと、ファンならではの視点を披露した。

「二人の軽井沢」は、登場人物がわずか二人という、シリーズでも異色のエピソードだ。本作をセレクトした出渕監督は、その理由を問われると「好きだから(笑)」と即答し、会場の笑いを誘った。
アクション要素の強い他エピソードとは一線を画す本作は、『パトレイバー』だからこそ実現できた空気感といえる。ちなみに他の候補は、第9話「VS(バーサス)」や第14話「雪のロンド」も挙がっていたが、「雪のロンド」は自身が脚本・コンテを担当しており「身内すぎる」と除外。最終的に「VS」との二択から、「二人の軽井沢」が選ばれたという。
さらに、上映では第13話「ダンジョン再び」の次回予告まで流されるサービスもあり、それを見た出渕監督が「ダンジョン再びでも良かったな……!」と本音を漏らすと、会場は再び笑いに包まれた。

また、本作がプレスコ方式(先に声を収録して作画する手法)で作られた点にも言及。声の裏返りやセリフの重なりなど、プレスコでなければ成立しない生々しい芝居が、二人きりのドラマを支えていると解説した。これを聞いた戸谷さんは、特に大林隆介さんが演じる後藤隊長の芝居が、改めてお気に入りになったと明かした。

『パトレイバー』はゆうきまさみ氏のノートから始まった
パトレイバーの原作を手掛けるユニット「ヘッドギア」の結成秘話も披露された。もともとは、ゆうきまさみ氏がノートに描いていたアイデアを出渕監督が見て、「これは面白い、アニメになるといいよね」と感じたことが企画の出発点だったという。
そして最初はサンライズへ、ドラマ企画として持ち込んだが、買い取りではなく「権利を自分たちに戻す」形を模索していた。また、その時点では押井 守氏や伊藤和典氏はまだ参加しておらず、後年、伊藤氏や高田明美氏と親交を深めた際に「こんな企画があるんだけど」と相談を持ちかけ、バンダイビジュアルへのプレゼンに至ったという。
この当時、バンダイビジュアルはOVAが好調だった。30分のVHSが1万円した時代に、パトレイバーは4000円台という破格の安さで発売されたことで人気に火が付き、現在のシリーズへと繋がっているという。
ステージでは、脚本・シリーズ構成の伊藤氏と、押井氏からのメッセージも紹介された。伊藤氏のコメントは戸谷さんが読み上げ、押井氏のコメントは同氏の別名とも噂されることがある上坂さんが読み上げていた。
・伊藤氏からのメッセージ:
「『パトレイバー EZY』はTVシリーズからNEW OVAへの時間線上にある話です。30年の時を経て、あいかわらずドタバタしている隊員たちに懐かしさや親しみ、あらたな面白みなどを感じていただければ幸いです。私としては、アーリーデイズから劇場版へと流れる別の時間線を統合できないものか、という想いもあったりするのですが……そういうの、いかがですか?」
・押井氏からのメッセージ:
「だいたい想像がつくような気がするんだけど……ちょっとだけ期待しています。ブッちゃん頑張れ! 以上です(笑)」
なお、世間では出渕監督と押井守氏の不仲説が囁かれることもあるが、出渕監督は「昔の話だ(笑)」と笑い飛ばし、一昨年に再会した際も楽しく会話を交わしたことを明かした。
『EZY』制作は“難産”──監督が2度降板
『機動警察パトレイバー EZY』のキービジュアルをスマホのロック画面に設定し、各所の飲み屋で見せびらかしては布教活動に励んでいるという上坂さん。実は、出渕監督との初対面も「飲み屋」だったという。
まだコロナ禍前のこと、偶然の出会いだったが、当時は上坂さんのことをよく知らなかったという出渕監督。「これが噂のミリタリー好きな女の子か」と思い、試しにミリタリーの話題を振ってみたところ、予想以上の食いつきを見せたそうだ。その際、上坂さんから「おじさん、ミリタリー詳しいですよね」と言われたエピソードを明かし、会場の笑いを誘った。
一方、戸谷さんが出渕監督と初めて会ったのはアフレコ現場。その際は、親しみやすく柔らかな印象を抱いたと語った。
『機動警察パトレイバー EZY』始動のきっかけは、数年前に遡る。当時はまだ具体的な企画こそなかったものの、その時点で出渕氏が監督を務め、J.C.STAFFがアニメーション制作を担当する予定になっていた。その後、実写版の公開を経て、関係者一同のパトレイバー魂に火が付き、改めてJ.C.STAFFによる制作が正式に決定したという経緯がある。
出渕監督が「難産だった」と振り返る通り、2017年のプロジェクト発表から今日に至るまでには紆余曲折があった。この間、実は監督が2度降板している。一人目は、コロナ禍を題材に据えるというプロットの方向性が(作品の目指すものと)異なっていたことから降板。二人目は体調不良などの理由によるものだ。
こうした状況下で、松倉氏から「これはもう、出渕さんがやるしかないですよ」と説得され、監督就任を決意したという。歴史ある『パトレイバー』という作品をまとめるには、やはりキーマンの存在が不可欠であることから、出渕氏に白羽の矢が立ったと松倉氏は語る。

少しネタバレになってしまうが、今回上映された第1話についても興味深い裏話が明かされた。当初のシナリオは主役二人の「入隊編」から始まる構想で、尺や形式も現在とは異なっていた。しかし、物語の途中からスタートする構成へと変更した結果、脚本の伊藤和典氏から「(この構成は)つらい」と漏らされたという。
そこで出渕監督が「30分モノならできますか?」と打診したところ、伊藤氏から「(合計で)8本くらいならできるかも」との返答があり、現在の全話構成や上映スタイルが定まった。2度の監督交代を含め、発表から歳月を要した背景には、制作方針が劇的に変化し続けたという事情も影響していたようだ。
キャラクターは『REBOOT』を踏襲
『機動警察パトレイバー EZY』のオーディション時には、キャラクターの詳細な設定資料が用意されていたという。舞台は2033年だが、戸谷さんが演じる天鳥桔平についても、オーディションを受けた2020年時点の状況から詳細な履歴が記されていたそうだ。
上坂さんがオーディション時に受け取った資料にも、第二小隊への配属経緯などが具体的にイメージできるよう書かれていたそうだ。ただし、実際のオーディション原稿自体はオリジナルだったため、当時はどの場面のセリフなのかまでは不明だったと振り返る。
久我十和というキャラクターについて、上坂さんは当初「泉 野明の後継者」的な役割を想像していた。しかし資料を読み進めると、性格的にはむしろ太田 功に近い側面があることに気づいたという。また、第1話の収録では、採用されるか不明ながらもアドリブで「こっちは警察だ! 警察!」というセリフを入れたところ、本編でしっかりと使われていたことに喜びを語った。
『機動警察パトレイバー EZY』のキャラクター造形は、2016年に公開された『機動警察パトレイバーREBOOT』の流れを汲んでいる。『REBOOT』では林原めぐみさんが複数の役を演じていたが、その中には今回の十和の原型となるポニーテールの少女も含まれていた。
実は当初、桔平がイングラムを操縦し、十和が指揮を執るという案も検討されていた。しかし、脚本上の動かしやすさを考慮した結果、かつての野明と遊馬の立ち位置を継承する形に落ち着いたのだという。
また、各キャラクターが身に付けている制服は、ゆうきまさみ氏がキャラクター設定とあわせて描き下ろしたものだ。旧シリーズの特車二課は当時の警察制服をモチーフにしていたが、本作では階級章の配置など、現代の警察組織の規定に合わせたアップデートが施されている。
パトレイバーらしい“読み切り感”を重視
先行上映された第1話を観た戸谷さんは、「第二小隊らしさは変わらず健在だった」と率直な感想を述べた。なかでも、主役である十和と桔平のバディ感が表現されていた点に手応えを感じたという。上坂さんも、過度なキャラクター紹介から入るのではなく、第二小隊の面々が日常のなかで働いている姿から物語が始まる構成を高く評価した。
また、「『パトレイバー』といえばおばあちゃんが登場するイメージがある」という上坂さんは、第1話の幕開けからおばあちゃんが登場したことに喜びを感じたという。さらに、第1話の舞台は本イベントの会場でもある吉祥寺だが、2033年という近未来を描きつつも「1980年代から地続きで働き続けてきた結果の姿」として描かれている点に、シリーズ特有のリアリティを感じたと語った。
ちなみに、劇中でレイバーが暴走するシーンでは、モニターに表示される文字列に「BABEL」の文字が含まれていないか、上坂さんは思わず探してしまったというファンならではの秘話も明かされた。

長らく本作に携わってきた松倉氏は、完成した映像について「いい意味での既視感がある」と評した。そこには、時代が変わっても揺るがない『パトレイバー』の空気感があったという。これを受けて出渕監督は、「今の時代のパトレイバーならもっとリアルな方向があるのでは」と様々な案を検討したものの、それが作品の面白さに繋がるか疑問に感じたと告白。結果として、シリーズの原点である『アーリーデイズ』に近い形式を採用し、スタンダードで「読み切り感」のある楽しさを追求したと語った。
なお、当初はイングラムに搭乗する予定だった桔平だが、本作では指揮担当に回っている。初期シナリオでは「本当は操縦したかった」という彼の葛藤も描かれていた。出渕監督は「いずれは桔平を搭乗させたい」との意欲も覗かせており、現時点で決定事項ではないものの、今後のシリーズ展開に期待が膨らむ一幕となった。
デッキアップシーンとリアルな記憶がクロスオーバー
前述の通り、第1話は吉祥寺が舞台に選ばれている。出渕監督は、かつて脚本の伊藤氏が近隣に住んでおり、土地勘があったことが選定理由ではないかと推察する。作中の吉祥寺の街並みは、J.C.STAFFのチームが本作のために構築した3Dモデルだ。細部まで徹底的に作り込まれており、他作品にも転用可能なほどの完成度を誇る。
一見、CGゆえに派手なカメラワークも可能に思えるが、実際には背景レイアウト用として制作されているため、モデル自体を可動させることはできないという制作上の裏話も明かされた。
劇中ではイングラムがデッキアップするシーンが登場するが、現実の世界でも、2014年に吉祥寺でデッキアップイベントが実施されている。まさに現実の記憶と作中のシーンがクロスオーバーするような感覚だ。
当時のイベント現場には、事故防止のために本物のパトカーも出動していた。出渕監督は知人から聞いた話として、デッキアップの最中に通りすがりの年配女性が「こんなものに税金使いやがって」と言い捨てていったというエピソードを披露。これには会場からも大きな笑いが沸き起こった。
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、トークライブは終了の時刻を迎えた。最後に出渕監督は「パトレイバーらしさとは何かを考えたとき、初心に帰って『楽しさ』を主軸に置きつつ、常に10年後を描く意識で制作しています。旧シリーズのキャラクターたちも、リアルタイムと同じだけ歳を重ねていると思ってください。それ以上は言いませんが、『あれ、出るのかな?』という展開も……あるかもしれません。期待を裏切らないよう作っていますので、劇場へ足を運んでいただければ幸いです」と語り、イベントを締めくくった。











