厭(いや)な空間を作るには、厭なものを蓄積せよ──ホラーゲームの作りかたを『零』シリーズの開発者が語る【『零』全作品解説付き】

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ホラーゲームを作るなら、日常で「やべえ」と思った瞬間をメモするといい

司会:
 ここからはあらかじめ募った皆さんの質問に答えていただきたいと思います。

司会:
 あのような3D空間をゼロから作り上げ、話も作るためには、「いろいろなことを知っていないとできないのでは?」と思うのですが。

柴田:
 実家やおばあちゃん家が和風建築だという方はいらっしゃいますか? そういう方は、実家に帰るのがいちばんいい(笑)。怖い状況を思いつきやすいのは、たぶん和風建築の中にいるときなんじゃないかと思います。実家がそうでない人は、和風の建物を展示している江戸東京たてもの園などのテーマパークもあるので、和風とはどういうものなのか、一回グルっと見てくるといいかと思います。

 そのとき、頭の中で「こういうところに行くのは厭だな」、「この場所にこういう風に立っていてほしくないな」など、いろいろ想像しながらだと、自然といろいろな演出ができ上がると思います。まずはそうした「マップにどういったものがあれば怖いのか」、「そもそもどういうものに想像が働くのか」というようなことを考えながら、ネタを集めるのが、いちばん手っ取り早いですね。つまり実家が怖い、親戚の家が怖い。そこへ行く。これがベストですね(笑)。

司会:
 (笑)。柴田さんは、いろいろなところに行ってネタを集めたのでしょうか?

柴田:
 そうですね。たとえば恐山に行ったときに……。恐山の話はちょっと長い話になるので止めときます。

司会:
 ではそれは講演の後の懇親会で(笑)。

柴田:
 はい(笑)。霊体験の話は長くなるので、後ほど。

柴田:
 電ファミニコゲーマーさんの記事で、『サイレントヒル』や『SIREN』を作った外山圭一郎さんと対談したときに、ふたりで一致したのは“空間を表現できる”ところという意見です。空間描写は小説や映画にももちろんありますが、細かなテキスト描写などなく空間を説明できたり、歩いているだけで空間そのものを感じられたりするのは、いまはゲームだけだと思います。

 さらに言うなら、プレイヤーが操作するため、ホラーの演出のタイミングをプレイヤーの行動に応じて出していく“ペーシング”という対応ができるんです。テーブルトークゲームのマスターのように、相手の行動に合わせ、「プレイヤーがこっちへ行ったら、ここでもう1回驚かす」など最適なタイミングで演出を仕込めるのが、なかなか映画や小説にはない、とても大きな利点です。プレイヤーの行動へのリアクションが出せるので、プレイヤーの皆さんがよりゲームの中に入り込めると思います。

司会:
 先ほどの“なりきり感”の強さになるのでしょうか。

柴田:
 ゲームは、その世界に入った瞬間に受け手が自分で操作せざるを得ないので、空間の体験や、自分の行動に対するリアクションがある。ですから、なりきり感、没入感はかなり大きいと思います。ところがこれが諸刃の剣で、没入感があるのでよけいに「怖いからやりたくない」という方も出てくるんですよね。「ホラーゲームに興味があるけど、そこまで怖いものに本気で没入したくない」、「誰かが遊んでいるのをちょっと見たいだけ」、「誰かといっしょだったらできるかも」という層です。こういう方々がけっこうな数いらっしゃるというのが、プレイ実況の多さや視聴数から感じられます。

司会:
 ニコニコのプレイ実況でも、女の子が「怖くてできないから実況を観る」と言っているのをよく聞きますね。

柴田:
 これは目的が違うので、たぶん使えないと思います。ホラーゲームは、プレイヤーの感情をコントロールするようなノウハウの集成だと思いますが、3Dと2Dのゲームではそもそもプレイヤーの受け取りかたがぜんぜん違うので、感情のコントロールには違う作法が必要です。2Dだと上からなどの視点で、ある程度は視界が保証されているし、キャラクターとプレイヤーのあいだに距離があるんです。それが利点となるときもある。ですから3Dとまったく同じネタをやっても同じ効果は出ないと思います。2Dに特化した手法をぜひ模索してください。それは、やはり3Dとは違った別の味わいの怖さだと思います。

司会:
 たとえば『クロックタワー』などは2Dと3Dでは、まったく怖さの違うゲームですね。

柴田:
 そうですね。スーパーファミコンで発売された最初の『クロックタワー』は、紙芝居やおとぎ話を見ているような距離感で、プレイヤーがキャラクターを完全にコントロールしづらいから怖いんです。一方、3Dのゲームは、自分がキャラクターになりきるように距離感が近く、臨場感があるように作れるので、それが怖さに繋がります。スーパーファミコン版の当時はアニメーションもいまほど滑らかでないため、逆に怖い絵本をめくるような感覚があったんですよね。だからシザーマンの手に落ちると、「自分がやられた」というよりも、「悪い結末を見てしまった」という感じを受けていたかと思います。それは3Dの『サイレントヒル』や『サイレン』、そして『零』とは違う怖さ。ちょっと和風の『ゴーストヘッド』は、スーパーファミコン版と同じ文法でしたが、移動してカメラが回り込んだときに何かが見えてくるなど、「同じ系統のシステムとは言え、3Dならではの怖さも入ってきている」と思いましたね。

 かつては2Dのホラーゲームを考えたこともあります。2Dだと客観的になるので、その「客観的な視点での怖さをどうするか」、「どうしたらその怖さを持続させられるか」で悩みました。「最初を怖くする必要はなくて、プレイヤーがある程度ゲームに慣れて入り込むまでは怖さを出さず、後から怖くしたほうがいいのか」など、いろいろ考えましたね。当時は3Dという選択肢がなかったからそんな感じでしたが、ポリゴンゲームの登場以降は、新しかったこともあってそれ以降は誰もが3Dに流れました。でも、「2Dと3Dのどちらを選んでもいい」となったら、空間が打ち出せる3Dを選んだと思いますね。

司会:
 スマートフォンの小さな画面で怖いゲームを作るときは、2Dと3Dのどちらがいいと思いますか?

柴田:
 難しいですね。たぶん2Dのほうがいいんじゃないかな……。3Dで作ってみたい気もありますが、デバイスの大きさを考えると、あまり本気で空間を表現する3Dじゃないほうがいいと思いました。でも2Dの心理的ホラーは、怖くなるのにそれなりに時間がかかるんです。「ここはこういう世界だ」、「ここでこういうことがあった」、「こういうキャラクターが登場する」など、積み重ねていくことで想像する怖さがにじみ出ていくものですし。そうなると、空いた時間で遊ぶようなスマホゲームのユーザー向けではないし……。いえ、短くてシチュエーションやゲーム性を特化したものにすれば、3Dのほうが合うかもしれません。

司会:
 スマホでホラーゲームの決定版がたぶん出ていないので、そこには可能性がありそうですね。

柴田:
 スマホでもよくできた怖いゲームや力作は出ていますよ。でも、スマホじゃなくてPCで遊びたいゲームが多い気がします。あのハードならではのホラーゲームは、まだ可能性があると思いますね。

司会:
 つぎは先ほどの“慣れると怖くないよ”問題です。

柴田:
 想像力に訴えかけるホラーは、敵が出た瞬間が恐怖のピークになりますね。これはなかなか解決できないです。『零』でもちゃんと解決できていません。プレイ序盤は怖いんですが、中盤以降は慣れてくると怖さは減っていきます。ほかのいろいろなホラーゲームでも解決できていないと思います。解決する方法はいくつかあると思うんですけども……。

司会:
 たとえば逃げるだけのものとかですね?

柴田:
 逃げるしかできないゲームというのも解決法のひとつですね。追われているところを怖くする。あとはすぐ敵に殺されるけど、その瞬間を怖くする。これはグロテスクな方が合うでしょう。それからバトルの結果がより酷い結末を生むことになるもの。戦う、戦わないはプレイヤーの自由ですが、戦ったことで、より自分のステータスが悪くなる。勝てるんだけど、勝つことでもっと酷い目に繋がってしまうっていうデザインです。ギリギリのストレスと怖さを混同させる。でも、短いスパンのゲームだけで成立するんじゃないでしょうか。人間は十時間も解決のないギリギリのストレスを感じたくはないと思います。

 その前提としてパッケージゲームのプレイ時間の話をしなければなりません。『零』は映画3本を観に行くような価格なので、作ったときは、買っていただいた方に6時間以上は楽しんでいただけるボリュームやバリューが必要だと思っていました。ほかのアクションアドベンチャー系のホラーゲームも、だいたい8時間から10時間くらいがプレイ時間になっていると思います。でも、その価格ありきで考えないなら、もっと短いスパンで考えられますし、敵を倒す解決感を入れて繋ぐ必要がないゲームデザインもできます。インディーズやフリーのゲームでしたら、私が囚われているパッケージのホラーゲームのデザインとは違うアプローチも考えられます。

司会:
 『零』からは離れますが、柴田さんがいまシナリオを手がけられているRPG『よるのないくに2 新月の花嫁』などでは、ゲームシステムとシナリオの、どちらから先に形作られたのでしょうか?

柴田:
 作りかたは人それぞれだと思いますが、私の場合、同時に考えていますね。まずテーマや方向性、このゲームが達成すべき目標を決めると、それに必要な事柄をどんどんメモしていきます。それはゲームのシステムだったり、世界の設定だったり、セリフの一部だったり、感情の断片だったり。解決しなければならない課題のときもありますし、画像や音のときもありますね。ひとつのゲームでだいたい4000から8000文字くらいのリストにしていきます。後から見直すと、当然ガチャガチャになっているので、つぎにそれを整理していくんです。シナリオで伝えなければならないことや、ゲームシステムで伝えなければならないことなどに分類し、その中でも重要度を決めていきます。それにも階層があって、ちゃんと順序立てて伝えないといけないものや、ひと言触れていればいいものなど重要度を振っていきます。

 『零』シリーズを例に取ると、そのタイトルの世界でやらなければならないことを列挙したメモがあるのですが、どこまで明確に語るかということを割り振っていきます。まあ、想像力に訴えかけるホラーなので、すべてを順序立てて明確に語らないほうがいいので、それをどう表現するかが問題なんです。霊がぼそっと言うような一部としてあるもの、ちゃんとキャラクターのセリフで言わなきゃならないもの、キャラクターの設定として書かれたものなど、テキストで言ったほうがいいもの、いろいろなものに対して重要度と伝えかたを決めていくんです。それを整理していくと、ゲームにおけるシナリオの概要がある程度見えてくるので、そこからようやくいわゆるシナリオを書き始めます。書き始めるというか、間を埋めたり、過剰なものを間引いたりする整理も兼ねていますね。また、予算の都合などから、「コストが高いから削ろう」だとか「もっと安い伝えかたでも出さなければ」だとか、「これとこれは合体できるんじゃない?」などとやっていくことで、だんだんシナリオが煮詰まって完成するという仕組みです。

 シナリオを担当している『よるのないくに2』でもだいたい同じことをしています。1作目の世界設定やプロットなどの資料をまず読み込んで、「つぎはどうすべきか」、「どこを受け継ぐべきか」などたくさんメモをしています。それらをキャラクターのメモ、システムのメモ、シナリオのメモなどに分け、シナリオ周辺のところを抜き出して煮詰めていく感じです。メモの要素を割り振っているときに気づいたのですが、全体のディレクターであれば、いろいろなところに割り振れるのですが、今回はシナリオ担当なのでシナリオ周辺にしか割り振れないことに気づきました。

 私はシナリオを専門に学んでいないので、シナリオのみの書きかたを知らなかったことに気づきましたね。皆さんはシナリオを作るとき、どういった感じなんでしょうか。

柴田:
 この複数案というのは、ジャンルを変えようとか、目的そのものを変えようということなのか、目的は決まっていて、どう実現しようかという案なのか……あ、後者ですか。後者の場合、先ほどのメモの話に戻りますが、メモを整理すると、もう優先度がだいたい決まっているんです。ほかの要素を鑑みながら選択されて煮詰まった段階ですでにリストが膨大なので、作りながらそれを削っているだけなんですよ。どれだけ削るかは、予算と時間で決まる感じです。選択を迷わないということではなく、選択は終わっているので、削るかどうかしか判断してませんね。

 「面白いゲームと面白くないゲーム」については、ご自身の中に「面白いゲームとはこういうものだ」という定義があるといいですね。何に価値を置くかはさまざま。価値基準を作らないとわからなくなってしまいます。払ったお金のぶん遊べたかどうかという価値基準もあるでしょうし、レベルアップやパラメーターなどのバランスがしっかりしていて不快な思いをしないゲームかどうか、とか。バランスはメチャクチャでもいいから、とことん個性的なゲームがいいとか。いろいろな価値観があると思います。

 あ、今日は私がホラーという少し特殊なジャンルのゲームの話をしているので、「なかなか一般化しづらい話になっていませんでしょうか。ホラーは不快感も出しますし、何もないところをわざと作ったりもしますので、ほかのジャンルに転用しようとすると難しいんです。とくにアクションゲームやシューティングゲームとは基準が違うかもしれません。参考になるかどうか……。

司会:
 一般的な話をするより、ひとつのテーマに絞り込んだ話のほうが得るものがあると思うので、今回のようなお願いをしています。今日はお話をお伺いしながら、“空間の作りかた”ということをとても意識されてるんだなと思いました。

柴田:
 「ホラー映画やマンガと違い、ゲームでは空間を味わえる」という話をしましたが、では「どういう空間を味わってもらいたいか」、「表現したいか」という話が続くと思います。ホラーゲームは、ゲームとは言っていますが、ゲーム性は低いものが多いです。ものすごく大きなくくりにするとアクション・アドベンチャーなんですが、できることはそんなに多くない。移動して、アイテムを取って、攻撃して、と基本的な設計は似ています。ゲームの文法がだいたい決まってるなら、「その上にどういうものを乗せてサービスするか?」、「その伝統的な形式の中にどれくらい先鋭化したものを入れ込めるか」と考えていました。

 ちょっと年配のゲーマーにしかわからない例かもしれませんが、1991年にリリースされたタイトーのアーケードゲームで『メタルブラック』という横スクロールシューティングゲームがありました。当時のゲームセンターは対戦格闘が主流になっていて、シューティングゲームが下火の時期です。シューティングゲームのフォーマットもだいたい固まっていました。そんなときに発売された『メタルブラック』は、ゲーム自体はそこまで新しいものではないのですが、音楽や演出が徹頭徹尾1フレーム単位で作り込まれていたんです。シューティングというジャンルがすでに膠着してしまったんだとしたら、「そこに乗せる演出や音楽、プレイヤーが遊んだ後の読後感みたいなところも突き詰めたものを載せることで、もっとすごいサービスにできる」ということに挑戦していました。確か『メタルブラック』のディレクターの仙波(隆綱)さんが、インタビューでそのようなことを言っていたんです。このことは私がホラーゲームを作るうえで少し励みになっていますね。

厭な場所を作るには、厭なものを蓄積する

司会:
 それではここで、来場者から集めた質問を読み上げます。気になったものにお答えください。

・作った後で、「こうしたかった」と思うことはありますか?
・方向性が途中で変わりそうになることはありますか? そういうときはどうバランスを取りますか?
・作ってるあいだに「面白くないんじゃないか」とか、「受け入れられないんじゃないか」など、不安になることはありますか?
・ホラーゲームの面白さはどんなところにあるのでしょうか?
・ゲームを作っている途中で、「あれをやろう、これをやろう」となるときがあると思いますが、ふと思いついたものを入れたりしますか?
・プレイヤー参加型のゲームを面白くするにはどうしたらいいですか?
・『零』シリーズの中でご自身がいちばん完成度が高いと考える作品や理由を教えてください。
・いままでもっとも怖かった体験はなんですか?
・『零』の主人公が女性なのはなぜですか?
・シリーズものの場合、各タイトルにどこで差をつけますか?

柴田:
 主人公が女性なのは、敵が霊なので物理的な攻撃で解決するようなイメージをなるべく排除したかったんです。また女性に「霊感が強い」とか「視える」という方も多いので。『零』シリーズのいわゆるラスボスも怖い女性なんですが、主人公とだいたい境遇が似ているんですよ。主人公がその境遇を追体験していき、その境遇に共感するところもあるというようなストーリーですので、女性でなければならなかったという理由もあります。

司会:
 企画書の段階でも最初から「銃ではなくカメラ」など、女性のことをかなり意識されてましたよね。

柴田:
 主人公を男にすると、力で解決する感じになっちゃいますからね。

司会:
 霊を殴る(笑)。

柴田:
 女性にしたほうが、いろいろな悲劇に直面しながらも、力づくの解決以外の方法を探さなきゃと感じてもらえるかと思いました。男性だと、襲われても「なんだコラ!」という感じになるんですが、女性だと怖がったり襲われたりするのが絵になるというのもあります。

司会:
 「プレイヤー参加型で面白くする方法」という質問はいかがですか?

柴田:
 基本的にひとりプレイ用のゲームを作ってきたので、難しい質問ですね。ホラーゲームで考えると、先ほどお話をした「興味はあるんだけど自分でやるのはちょっと」という層も参加して楽しめるゲームを作りたいと思っているんです。「好きなんだけど……」という方々に、「どうしたらホラーゲームを楽しんでもらえるか」というのは課題なんです。

司会:
 では、質問の続きを読み上げます。

・ストーリーの量が多いと読んでいられないというプレイヤーもいると思うのですが、量のバランスはどうやって取りますか?
・『零』は2作目以降、怖さを減らしたとの話でしたが、“怖くないホラーゲーム”は矛盾になりませんか?
・やりたいことリストを書いたけど、予算でできない部分はありますか?
・なぜ数あるジャンルの中でホラーゲームを選んだのですか?
・フリーゲームの文化を、プロのクリエイターとしてどのようにみていますか?
・『零』は難しいゲームだと認識していますが、ターゲットはどのように考えていましたか?
・ゲーム中のプレイヤーのテンションなどのペース配分はどのようにされてますか?
・ホラーゲームは違和感が大事なときがあると思いますが、どういう工夫をしていますか?
・ホラーやシリアスをメインにしたシナリオに、明るいシナリオやギャグシーンを入れるのは有効ですか?
・キャラクターデザインをするときに気をつけていることや、心がけていることは何ですか? それによって初めてできるホラー的なテクニックはどんなものでしょうか?
・ゲーム作りの中で好きな『零』を意識しているのですが、敵が出てこないときの怖さの出しかたが知りたいです。

司会:
 「ホラーゲームでは違和感が大事なときがある」というのはいががでしょう?

柴田:
 違和感をどう作るかという事ですかね……。先ほどのメモリストの話を絡めますと、整理した後は、世界設定の最初に根本となる架空の宗教観、土地、宗教の機能みたいなことが描いてあり、その根本で問題が起きて最初の惨劇が発生するとなっている。それが原因で次の惨劇が発生し、さらにそれが原因で別の惨劇が……という感じで少しずつずらしながらコピーしていきます。プレイヤーが最初に目にするのは最新の惨劇ですので、なぜこんなことが起こるのかよくわからない。何かを暗示しているような理不尽なことが起きている。それが違和感を作ることになるのかな。『零』シリーズは、だいたい元凶の惨劇とプレイヤーが最初に見る惨劇を相似させるように作ってます。結末と最初を繋げて、2周目に発見してもらうというようなことを考えていました。何度もプレイすることで違和感を回収するというのが面白いと思ったんです。

司会:
 空間から感じる違和感はどうやって作られていますか? マップが切り替わった瞬間に厭な感じがすることってありますよね。

柴田:
 空間のほうですか。それも先ほどのメモに繋がりますが、自分が厭だと思った空間を、どんどんメモしていくといいんです。たとえば、ある工場の入り口は、資材を通すための通路をくぐるため、一旦階段で降りて建物をくぐってから上がらないと中に入れない構造になっています。この階段を降りたところにも扉があったので、作りとしては違和感があるし、一旦くらいところを通るのが厭なんですよ。上の通路に誰がいて、見られていても厭だし、階段を下りた瞬間に横の扉が開くのも厭だし。こういう空間に出くわしたときメモしておいたりするんです。「この配置はここが厭だな」など、日々の中で厭な空間集めをするといいですね。

司会:
 なるほど。それは蓄積がないと作れませんね。

柴田:
 そのためには、いろいろなところに行ったほうがいいんです。今日この部屋に来るときにビルのエレベーターで上がってきたんですが、どうも人間用のエレベーター以外に資材搬入などに使われるエレベーターもあるみたいで、先ほど一度外に出ようとそのエレベーターに乗ってしまったみたいなんですね。エレベーターのボタンを押して扉が開いたら、暗い廃墟みたいなところが現れたんです。「綺麗なエントランスから入ってきたのに、これは……」と(笑)。「どこかで使えそうだ」とこのことを先ほどメモしました。ホラーゲームのメモなら、このように「やべえ」と思った瞬間などをいろいろメモしておくといいですね。私はメモの代わりに自分自身にメールを送っています。朝、出社すると「エレベーターが」なんて変なメールが届いていたりして、忘れていると少し驚きます(笑)。それを溜め、後で整理するようなことをしていますね。

 あとは夢を見たあと、起きたあとに憶えていたものを書いておくのも有効です。夢の中って、悪い夢だとたいてい状況は厭な方向に流れていくんですよね。厭なことが厭なタイミングで起きる。しかもいちばん生理的に厭なタイミングなんですよね。おそらく、「こういうことが起こると厭だな」と思った瞬間に夢のほうが実現してくれるんでしょう。場所でも、「こういうところに入りたくないな」と思いつつ入った場所というものを憶えており、それをマップにしていました。それは架空のものに反映させても、いちばん厭なところになるんですよ。そういう場所の集合体でマップを作るといいと思います。

司会:
 最後になりますが、「怖くないホラーゲーム」という質問と「ターゲット層をどのように考えていたか」という質問はいかがでしょう。クリエイターであれば、「自分の面白いと思ったものは誰に届くんだろう? これは正しいのだろうか?」という疑問をどなたでも持っていると思うんですよね。自分の考えた面白さがウケるかどうかは、リリースするまで当然わかりません。どうやってターゲットを見定めて届けているんでしょうか。

柴田:
 “怖いけど怖くないホラー”というのは『紅い蝶』のときの話ですよね。想像力に訴えかけるホラーを作れるので、興味深く面白いストーリーを付ければ、より広いお客さんに届くと思いました。だから、ターゲットを絞ってから制作に入らなかったんですね。『紅い蝶』のストーリーは一夜に見た夢の話なんですが、「これが面白い」と思ったので「このストーリーに怖さを入れればいい」と思ったんです。序盤は怖さを抑え、だんだん怖くなるようにすると、「最初はストーリーとキャラクターを楽しんでいたら、ストーリーの続きが気になってくるくらいのタイミングで、怖さに切り替わっていくというのができるのでは」と思っていましたね。

司会:
 コアの部分は怖さだけど、いきなり激辛カレーを出すと食べてもらえないので、中辛からだんだん辛くしていって、最後は激辛になったと。

柴田:
 そうです。ルーが2層構造になっているんですね。

司会:
 それだと広いお客さまに伝えられるわけですね。


 講演後はワークショップを経て、続く懇親会でも柴田氏に制作の秘訣が聞けるなど、ホラーゲームを自作しようとしている人には、たまらない内容となった。

 記事の最終ページでは、講演の冒頭で語られた、柴田氏による『零』全作品解説をお届けしよう。

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