名作アドベンチャーゲームの構造はこうなっている──『428』イシイジロウ氏によるアドベンチャーゲーム制作のヒント解説 “ニコニコ自作ゲームフェスMV作~る放送”第一回

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 2016年10月5日に催された、“ニコニコ自作ゲームフェスMV作~る放送”第一回の中から、クリエイターのイシイジロウ氏によるゲーム制作のノウハウ解説部分を抜粋してお届けしよう。『428~封鎖された渋谷で~』などを制作し、近年ではゲームにアニメに、原作から脚本まで手がける氏から、アドベンチャーゲーム制作のヒントが明かされたのだ。物語を演出するときに重要になる“残像”とは? 名作と呼ばれるアドベンチャーゲームそれぞれの構造は? ノベルゲーム制作で腕の見せどころになる“ループ”の使われ方は? など、自作を楽しんでいる人も実況を楽しんでいる人も、グッと惹かれる内容となった。

イシイ氏が影響を受けたゲームや作品は?

イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
 よろしくお願いします。イシイジロウです。

MC:
 イシイさんの解説をしますと、ゲームクリエイターにして原作家、脚本家の方です。現在ですと『モンスターストライク』アニメのストーリー・プロジェクト構成、そして手がけたニンテンドー3DS版の『モンスト』も今度出るという。

イシイ氏:
 3DS版はもう出ていますよ。

MC:
 失礼しました! ほかのコンシューマーですと、『428 ~封鎖された渋谷で~』、『タイムトラベラーズ』、『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』などを作られています。「あ、「金八の監督だったのかー」」というコメントが来ていますね。

イシイ氏:
 直近ですと、11月1日にリリースされるDMMさんのブラウザゲーム『文豪とアルケミスト』に、世界観の監修として参加しています。

MC:
 『文豪とアルケミスト』は、先日、ニコニコ本社でもイベントをさせていただきました。ごめんなさい、コメントにて『428』は「「ヨンニーハチ」と読みなさい」と指摘されました。失礼しました。その『428』ですがノベル型のアドベンチャーゲームです。今回は「サウンドノベルの作り方」と題してお送りしますが、より広い意味でアドベンチャーゲームの作り方をお伺いできたらと思っています。お、「『428』は「神ゲー」」というコメントも来ていますね。

イシイ氏:
 ありがとうございます。

MC:
 今回はアドベンチャーゲームの作り方を、かなりコアに作っている人向けに伺えればと思います。通常の放送であれば「買ってください」ですとか、「おもしろいですよ」というお話になることが多いと思いますが、“ニコニコ自作ゲームフェス”というのは、自作クリエイターを応援するコンテストなので、今日は「どうやって作っているんですか?」、「どうやったらおもしろくできるんですか?」などのお話になると思います。では順番に質問をさせてください。

イシイ氏:
 どうぞ。よろしくお願いします。

MC:
 まずは、イシイさんが過去にいちばん影響を受けたゲームなどの作品について教えていただけませんか?

イシイ氏:
 インタビューでよく答えていますが、表向きは『かまいたちの夜』です。チュンソフトに入って、『かまいたちの夜』を移植したときに、「このゲームはスゴい」ってわかったんです。外にいてプレイしているときは気づかなかったことがたくさんあって。

MC:
 表向き(笑)。何に気づいたんでしょう。

イシイ氏:
 フラグの管理の仕方などですね。外からじゃわからないんですが、中からあらためて見て、「スゴいな」と思ったんです。予想はしていたんですが「ここまでか!」と驚いた。それがいちばんかな。

MC:
 イシイさんは、もともとアニメなどの脚本をされていて、『かまいたちの夜』をプレイしてゲームに目覚めた、というインタビューを読んだ気がします。

イシイ氏:
 少し違いますね。映画やアニメーションを作りたいと思っていたんですが、サウンドノベルというゲームシステムに出会い、「これは映画やアニメを作っている場合じゃない」と思ったんですよ。

MC:
 それはどういう意味でしょう?

イシイ氏:
 1995年か96年ごろの話ですが、「いまは映画やアニメではなく、ゲームを作らなければ、物語を作りたいと思ってる人間として時代遅れになってしまう」と切実に思ったんです。その体験をしたのが『弟切草』であり、『かまいたちの夜』であると。

MC:
 なるほど。

イシイ氏:
 もうひとつ、大きな声では言えませんが、じつは『ときめきメモリアル』にすごく影響を受けています。『ときめきメモリアル』のようなシミュレーションゲームは、ギャルゲーということでいまやノベルゲームに埋もれて消えてしまいました。ですが、物語を語る手段としてはアドベンチャーゲームよりシミュレーションゲームの方が、じつは可能性があると当時は思っていたんですね。ただ、それはやっぱり難しすぎて、淘汰されてしまい、いまはあまり残っていませんよね。『ファイアーエムブレム』もそういうシステムだったと思いますが。

MC:
 「難しい」というのは、作るのが難しいんですか?

イシイ氏:
 お客さんにとって負荷が高いんですね。少しおもしろい話をしましょう。いま僕は映画なども作っているんですが、これは映画に喩えられます。フィルムの映画は、コマとコマのあいだがじつはシャッターのようなもので一瞬隠されるんです。1枚1枚絵が変わるとき、そのあいだはシャッターで黒くなり、次の絵が出て、また黒くなる。その結果、映画というものは、じつは観ている9分の4の時間は黒いんです。つまりその時間は、人は暗闇を、残像を観ているんです。残像があるからこそ映画というものは、現実の世界とは違うように見える。これが映画で物語を演出するとき、とても重要になるところなんです。

MC:
 素人目には「周囲が暗いのがいいのかな?」ですとか、「画面が大きいのがいいのかな?」などと思ってしまうところですが、そこではないんですね。

イシイ氏:
 残像なんです。つまり、見えていないものを観ていることが大事なんです。ゲームに話を戻すと、アドベンチャーゲームは物語をすべて出してしまうんですね。ところがシミュレーションゲーム、たとえば『ときめきメモリアル』や『ダービースタリオン』などは、物語が全部“点”なんですね。つまり、なんというか物語と、闇……想像する瞬間の連続体なんです。想像しているときに物語が膨らむんですね。これこそがシミュレーションゲームが持っている本当の可能性で、映画やアニメーションではなかなかできない、じつはまだゲームに残されているフロンティアなんですよね。

MC:
 『ときメモ』ですと、イベントがあって、次に電話するまでのあいだなどに、ちょっと物語を想像するわけですね。

イシイ氏:
 そう。だから「このパラメーターがこう動いたからこういう結果になった」というのは、すべて藪の中であり、ユーザーの心の中にあるものなんです。そこがキャラクターに対する恋を生むんですね。

MC:
 メインヒロインの藤崎詩織は、プレイヤーキャラクターのパラメーターがとても高くないと落とせないというところから、「あいつは、なんか理想が高えなぁ」と想像が膨らむわけですね。

イシイ氏:
 そうです。その結果、藤崎詩織に会って会って会って、デートをしてデートをしてデートをして、「絶対この子は僕のことを好きだろう。僕にこの子は「好きだ」って言う」と確信しても、告白スポットである伝説の樹の下には来ないんですよね(笑)。

MC:
 なるほど(笑)。

イシイ氏:
 このプロセスを経て作られる物語というのは、それぞれのユーザーだけの物語。これは映画の闇といっしょで、じつはゲームの中の残像だと思っています。このゲームの残像を活かした物語のシステムが、じつは2000年代ではそんなに使われておらず、たいへん残念だと思っています。……って皆さんの反応はどうなんだろう?

MC:
 皆さんこの濃度で進行しますからね。大丈夫ですかね?

自身の作品で、もっとも成功したものは?

MC:
 続いてはユーザーから募った質問です。イシイさんご自身が制作されたゲームの中で、いちばん成功したと思われるものは何でしょう? その理由も知りたいです。

イシイ氏:
 もっとも成功したのは、『428』ですね。なぜ成功したかには、いくつか要因があります。ひとつは、『忌火起草』や『3年B組金八先生』などで行ったゲームデザイン上の実験や、プログラム上の実験を経て『428』は作られたので、それらがたいへんうまく行ったということが挙げられます。それからじつは『かまいたちの夜2』のときに発明された、あまり皆さんに知られていないセーブデータの構造の技術があるんですね。過去にも対談などで語っていますが、チュンソフトのサウンドノベルというのは、じつは“未来も”セーブしているんですよ。

MC:
 未来をセーブ?

イシイ氏:
 皆さんもサウンドノベルやアドベンチャーゲームを作られると思いますが、そのときセーブデータを管理するというのは、とても重要なポイントになるんですね。たとえば“スキップ”という機能がありますよね。セーブ後に再開したとき、テキストをスキップすると、頭からスキップしていかないと目的の画面にたどり着かないなどの現象が起こるのは、じつは未来をセーブしていないからなんです。

MC:
 セーブするとどうなるんですか?

イシイ氏:
 それをしていないと、システムが過去のフラグをもう一度追いかけ直さなきゃならないんです。でも『かまいたちの夜2』は、一度プレイされると、「プレイヤーがこの選択肢を選べば、未来はここに決定する」というデータをゲームが想定してキープするんですね。それによって細かいシーンごとにジャンプできるような仕組みができた。このシステムが『街』ではまだ発明されていなかったのですが、発明後、これをマルチキャラクターシステムに転用したのが『428』で、それによって新たにシステムの分厚さが生まれたんです。これが『428』の隠れたスゴいところなんですね。

MC:
 『428』のそのシステムを継ぐものってあるんですか?

イシイ氏:
 『タイムトラベラーズ』はそうですね。『428』の未来をセーブするシステムは、『タイムトラベラーズ』のシステムに似ているんですね。ほとんどのゲームは過去をセーブしてロードするということを“タイムトラベル”という概念で捉えていますが、ループするワールドにおいては、未来さえもセーブされているんですよ。その概念を実現しようと思って特化して作ったのが『タイムトラベラーズ』なんですね。それ以外には『428』の後継者というものがいないのは残念ですね。

MC:
 そうすると『428』の成功というのは、これまでのアドベンチャーゲームの中でいちばん文法の良いものを選って成功に導いた、というのがいちばんのポイントなんでしょうか?

イシイ氏:
 あとは当時のチュンソフトのスタッフに、すごく脂が乗っていたという点がありますね。それまでの『弟切草』型、『かまいたちの夜』型、『街』型というすべてのノウハウを蓄積し、「どう組み合わせたらいいか」をすごく試行錯誤したんです。プログラム的なリソースも組み合わせ、「使えるものは使う」、「古いものは使わない」みたいなことをしていたから、というのはあるかもしれませんね。

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