ロンドンの小児病院Great Ormond Street Hospital(以下、GOSH)はさまざまな業界、産業と協力し、人工知能やバーチャルリアリティをも利用する最先端のユニット「DRIVE」(Digital Research, Informatics and Virtual Environments)を発表した。
マイクロソフト初め、さまざまな企業が参加する巨大プロジェクトだが、その中でも目を引くのが『マインクラフト』の医療利用だ。
「DRIVE」のプロモーションビデオの後半に『マインクラフト』が登場するが、これはマイクロソフトのエンジニアたちが制作したGOSHを再現したマップになっている。外観だけでなく、診療室や病室、カフェやチャペル、小児集中治療室に至るまで院内のさまざまな施設が作られており、病院を訪れる子どもや家族は『Minecraft』内でGOSHがどのような場所なのかを自由に歩き回って確認することができる。
子どもにも人気の『マインクラフト』で病院がどんな場所であるかを見るのは、知らない場所への不安を取り除く手助けになるだろう。
このマップの制作にあたったマイクロソフトUKのシニアソフトウェアエンジニア、Lee Stott氏が海外メディアEurogamerのインタビューに答えており、それによれば『マインクラフト』でトラファルガー広場やフィレンツェ、シカゴなどを再現したプロのビルドチームShapescapeも制作に協力し、制作には2か月を要したという。
『マインクラフト』のブロックは1メートルの立方体であり、病院をそのまま再現することは難しく、最終的に各階を別々に作り、エレベーターをテレポーターにして各フロアをつなげることになった。ただあるき回るだけでなく、他の子どもや医療スタッフ、家族と一緒に遊ぶこともできる。
また『マインクラフト』は病院の紹介や社交の場だけでなく、Project Fizzyoの一環として研究され、実際の医療にも利用されている。Project Fizzyoとは、「嚢胞性線維症」【※】患者の支援と治療を目的としたプロジェクトだ。患者は、1日に40分のクリアランス運動が必要となる。気道クリアランス装置をゲームコントローラーに置き換え、クリアランス運動の練習に利用されている。
※嚢胞性線維症:遺伝的に生まれて間もない頃から、気管支、消化管などが粘り気の強い分泌液で詰まりやすくなる難病。日本にも2018年5月時点で40名の患者が把握されている。
医療へのゲームの利用はさまざまな学術をもとに研究されているが、以前より肯定的な関係にあるという結論は少なくなく、すでに90年代には医療の現場でゲームを利用することのメリットが報告されている。
Wiredの2004年の報道では、運転を怖がる患者にドライブゲームを、高所が怖い患者には特別にカスタマイズした『Unreal Tournament』をプレイさせる恐怖症の治療や、喘息や糖尿病の子どもに上手な自己管理の方法を教えるゲームを作り、実際に回復した例も挙げられている。
また、日本でも2017年にゲーム開発者向けカンファレンスCEDECで「診察室でゲームが「処方」される未来へ -医師の視点からみる『ヘルスケア × ゲーム』の先進事例紹介と展望」という公演も行われ、今なお研究が続いている。
大人であっても辛い病院は、子どもにはさらに辛い場所だ。病気に苦しむ子どもたちにとって、ゲームは治療や社交の手助けとして生活の潤いになるはずだ。困難な時間を過ごす子どもや家族の苦痛を少しでも軽減させるため、これからもゲームが大いに利用されることを願うばかりだ。
文/古嶋誉幸